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暮らしと仕事と遊びとアート。すべてを越えて繋がる東東京の生活

暮らしと仕事と遊びとアート。すべてを越えて繋がる東東京の生活

『隅田川 森羅万象 墨に夢』(通称『すみゆめ))
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:江森康之 編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

「アート」「仕事」「遊び」「暮らし」という要素は、結局、すべてつながっている。(北條)

―今日の取材場所である「喫茶野ざらし」も、アーティストやキュレーターが運営する喫茶店で、表現活動とまちをめぐる実験の場として興味深いスペースです。

隅田公園から徒歩で2~3分。東京スカイツリーからも10分程度の場所に位置する「喫茶野ざらし」に到着
隅田公園から徒歩で2~3分。東京スカイツリーからも10分程度の場所に位置する「喫茶野ざらし」に到着

―運営メンバーの青木さんと中島さんにも話を聞きたいのですが、なぜ吾妻橋だったんですか?

中島:アート関連だと、墨田にはオルタナティブスペースが多くて、5年くらい前から友人の展示を見に行ったり、(青木)彬くんの長屋を改装したアトリエに遊びに行ったり、よく訪れる地域だったんです。親しみもあったし、スペースを作るなら東京の東側が面白いんじゃないかと。一方で、中目黒でやるという案もあったんですけど(笑)。

喫茶野ざらしの共同ディレクター、アーティストとして活動する中島晴矢
喫茶野ざらしの共同ディレクター、アーティストとして活動する中島晴矢

―ぜんぜん性格が違う場所じゃないですか(笑)。

中島:予算的にも意味的にも違うなと……。結局、東側で探した結果、条件的に吾妻橋がよかった。TAROさんが言ったように、ここは観光地の浅草とスカイツリーに挟まれ、人の流れはあるんだけど滞留する人は少ない場所。だから、家賃も少し安いんですよね。

青木:僕は2016年から晴矢(中島)さんも触れた住居兼アトリエに住み、2018年から『ファンタジア!ファンタジア! —生き方がかたちになったまち—』というアートプロジェクトをこの界隈でやっているので、付き合いがありすぎて、最初はほかの場所がいいと考えていたんです。でも、この場所の空白感は面白いし、吾妻橋付近はアサヒ・アート・フェスティバルの活動の影響で小規模なアートプロジェクトが集まる場所でもある。ここなら面白いことができそうだと思いました。

喫茶野ざらしの共同ディレクター、インディペンデントキュレーターとして活動する、青木彬
喫茶野ざらしの共同ディレクター、インディペンデントキュレーターとして活動する、青木彬

―今年2020年1月にオープンして以降、実際に喫茶店をやられてみていかがですか?

中島: 生まれて初めてこんなに地域とコミットしている感じはありましたね。日々、めちゃくちゃ「ソーシャリーエンゲイジド」してましたよ(笑)。

アートやカルチャーに全然興味がない人、地元のおじいちゃんおばあちゃんが普通にふらっと入ってきて、よく話していました。地方の芸術祭で地域に滞在することはいままでもあったんですけど、飲食店を経営すると地域の裾野の広さをすごく感じるんです。

人との距離の近さは、この地域ならではのものもありますね。吾妻橋に70年以上住んでいるおばあちゃんが来て、ここの物件は昔、誰々さんのものだったんだよと教えてくれたりもしました。僕はニュータウン出身なので、そうした交流自体がすごい新鮮です。

青木:僕たちは喫茶店のかたちをとることで、「地域アート」と言われているものとはまた別の方法で、社会のなかでアート活動を継続させていく方法を探っているんです。

左から:中島晴矢、青木彬
左から:中島晴矢、青木彬

―制作と仕事と地域活動の一体化ということで思い出すのは、北條さんが「BUGHAUS宣言(サイトを見る)」という文章のなかで、アートと仕事と遊びと暮らしなど、現在では分けられて語られがちな生活の側面を、もう一度、総合的に捉え直すべきだと書かれていたことです。

北條:いまおっしゃった「アート」「仕事」「遊び」「暮らし」という要素は、結局、すべてつながっていると思うんですよ。作家はみんなそうだと思うんだけど、オンとオフの切り替えは一応あっても、寝ていても起きていても意識はつながっていて、何かを作るきっかけというのは生活のほかの要素から区別して取り出すことはできない。もともと、一体的なものだと思います。

BUGHAUSのメンバー 撮影:住中浩史
BUGHAUSのメンバー 撮影:住中浩史

北條:とくにこのエリアは家屋の構造としてもそれが体現されてきた場所で、工業的に発達していたときは家の1階に機械を入れて仕事をして、上の階で生活するという家庭も多かったんです。そういう総合的な意識のありようは、あらためて振り返るべきではないかな、と。

野木:わかります。変な言い方ですが、私も実際に演奏しているときだけが演奏だとは思っていなくて、起きてから寝るまでがつねに修行というか、次に誰かの前で演奏するときに向けて日々暮らしている感覚があります。

音楽を純粋に届けるうえで、自分自身がまず純粋でいたいんです。普段の生活で見たものや意識したことすべてが、音につながっていると思います。

野木青依
野木青依

中島:「喫茶野ざらし」を一緒にやっているもうひとりのメンバーに建築家の佐藤研吾がいるんですが、彼はいま福島県の大玉村に移住しているんです。それは彼が生活と制作を密接に考えているからで、地域に深く関わりながら建築を考えたい、と。

佐藤がデザインしたこの空間も、じつは大玉村の素材をたくさん使っているんです。壁に使われている籾殻(米の外皮)や、照明に使っている藍染も佐藤が大玉村で栽培した藍で染めている。

地域と不可分に生まれたそうした素材をあえて違う場所に移動させて、福島と墨田を行き来させている。そのことで、また面白い渦が生まれるんじゃないかと思っています。

取材時、喫茶野ざらしの店内では、写真家コムラマイの展覧会が開催されていた
取材時、喫茶野ざらしの店内では、写真家コムラマイの展覧会が開催されていた

―一見、普通の喫茶店である野ざらしが、福島への通路にもなっているんですね。それでいうと、これまでの会話では表現者がまちに入ることの面白さの話題が多かったですが、反対にまちや地域にとってアーティストと関わりを持つことの意味については、どう感じますか?

TARO:僕は墨田に限らずいろんな地域で活動させてもらっているんですが、ひとつ大きいことだと思うのは、住んでいる人たちが「変わった人」に「慣れる」んですよ。それはすごく大事なことで、自分たちとは一見異なる存在に対して耐性が生まれるんです。

昔なら、近隣に外国の人がいるだけで慌てていたかもしれないけど、いまはわりと動揺しないで受け入れられていると思うんです。それは、この20年ほどアートプロジェクトがさまざまに行われたことで、獲得してきた面が大きいんじゃないかな。

EAT&ART TARO
EAT&ART TARO

―先日、演出家の高山明さんに取材したんですが、芸能の民とは古くから「まれびと」として都市にやってきて、外部の空気を感じさせる存在だったと話されていました(参考記事:高山明×海法圭 不寛容な街でいかに「遊ぶ」か。設計と演出の余地)。そうした存在は都市の維持にとって必要だから、昔の都市住民は外部から来る人にも寛容だったのだ、と。一方、その寛容さは現代では失われつつあるとも指摘されていました。

TARO: たしかに、不寛容さは大きくなっていますよね。だからこそ、いまの社会でアーティストが果たすべき役割のひとつは、異なる存在への慣れを育てることだと思う。

青木:野ざらしが「喫茶店」の皮を被っているのもそこにつながっています。僕は普段キュレーターとして展覧会やプロジェクトを作るわけですが、芸術や文化って人が安心して変容できる技術だと思うんです。

美術館というのはまさにそれを空間で体現していて、この場所ではどんな過激さや異質さもある程度受け入れることになっている。アートプロジェクトが盛んになったこの数十年は、それが地域に染み出していく過程だったわけですが、耐性のできる地域もある一方、政治的な背景などで批判を浴びるようにもなった。

そのとき、文化の持つ変容の技術をかなり高めていかないと、本当に伝えたいことが伝えられないんじゃないかな、と感じています。だから、むしろ振り切って、「喫茶店でありアートである」という姿を取ることで、可能性が開けるんじゃないかと思っているんです。たとえば普通に喫茶店として利用するんだけど、その場に居合わせた人と話すなかでアート的なものを感じたり。

―お茶をするつもりで入ったのに、出るときには少し考え方がずらされているような。

青木:そうですね。そういう高度な技術が求められていると思います。

野木:私は環境音を集めるワークショップを音楽レーベルのVegetable Recordとよく行うんですが、環境音をノイズと捉えるか音楽と捉えるかで、視野ってだいぶ変わると思うんです。一般にノイズと呼ばれていたものを音楽と感じられたら、心のフィールドが大きくなる感覚があって。でも、普段から景色を楽しむことはあっても、音の楽しみを広げる機会はあまりないですよね。

だからこそ、それを参加者と一緒に体験したい。電車のガタンゴトンという音に耳を塞いでしまうより、よい音として聞き入れられた方が面白い。音楽を通して獲得したその異質なものに対する寛容さは、翻って、音楽以外のことにもつながると思っているんです。

左から:野木青依、EAT&ART TARO、北條元康
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イベント情報

『隅田川 森羅万象 墨に夢』
『隅田川 森羅万象 墨に夢』

2020年8月9日(日)~2021年2月7日(日)
会場:隅田川テラス、隅田公園、すみだ生涯学習センター(ユートリヤ)、YKK60ビルAZ1ホール、両国門天ホール、すみだパークギャラリーささや、sheepstudio、Token Art Centerほか区内各所

隅田川を眺めるプロジェクト

BUGHAUS

隅田川の音あつめワークショップ~Song for 隅田川をつくろう~

野木青依×Vegetable Record×工藤葵

『すみゆめの七夕』
EAT&ART TARO「江戸野菜のくすり箱」

「くすり箱」のお味や効能はいかに?Zoomで開く「TAROさんのおやつの時間」
2020年9月12日(土)15:00~16:00

プロジェクト情報

喫茶野ざらし

キュレーターの青木彬、建築家の佐藤研吾、アーティストの中島晴矢による現代生活と表現の在り方を考えるアートプロジェクト

プロフィール

北條元康(ほうじょう もとやす)

東京都墨田区向島で工務店を経営。幼少の頃より職人に囲まれて育ち、モノ作りが好きになり、自身も大工として施工を熟す。2001年頃より、向島でのアーティスト活動に従事し、以後アート制作の為各地を巡る。2011年次世代の工務店のあり方を模索する為に、ポスト工務店BUGHAUSを立ち上げる。2019年より、工務店の隣の廃工場を利用し、イベントや制作物を作る。

EAT&ART TARO(いーとあんどあーと たろう)

調理師学校卒業後、飲食店勤務を経てギャラリーや美術館などでケータリングや食のワークショップ、カフェプロデュースなどを行っている。これまでに、自分で購入したものが次の人のものになってしまう、おごることしかできないお店「おごりカフェ」や、瀬戸内海の島々で作った「島スープ」、昭和の料理本を調査収集し、レシピ再現などを行う「レトロクッキング」、美味しいおにぎりを食べるためだけに参加者と共に運動会をする「おにぎりのための、毎週運動会」など食をテーマにした作品を多数発表している。

野木青依(のぎ あおい)

桐朋学園大学音楽学部卒業。2018年8月オーストラリア・メルボルンにて開催された「第5回全豪マリンバコンクール」第3位並びに新曲課題における最優秀演奏賞受賞。自粛期間中に制作した、自身のマリンバ演奏・歌唱による2ndアルバム『踊りにおいでよ』を5月に配信リリース。その他、音楽を通して生活を祝福するインスタレーション『Celebration at home』を写真家、工藤葵と発表。モデルとしても活動。『URBAN SENTO』メインビジュアルモデル『HOUGA Short Movie』出演他。

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