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暮らしと仕事と遊びとアート。すべてを越えて繋がる東東京の生活

暮らしと仕事と遊びとアート。すべてを越えて繋がる東東京の生活

『隅田川 森羅万象 墨に夢』(通称『すみゆめ))
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:江森康之 編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

自分がよいと思うものを肯定する経験を、音楽を通して共有してみたい。(野木)

―『すみゆめ』の参加企画についても聞かせてください。野木さんはまさに、いまお話しされたような音集めのワークショップを子供向けに行うんですよね?

野木:そうです。今日も歩いたすみだリバーウォークのあたりを歩き、スマホのボイスメモ機能で少しでも自分がいいなと思う音があったら録音しよう、と。そのあとは墨田区役所に行って、見てきた風景を思い出しながら、みんなでマリンバを即興演奏します。

「音集め」と「演奏」どちらの場合も重要なのは、「親がこう言うから」とか、世間的な正解とか、そういうことを考えないで音に触れることだと思っています。いま、親御さんのなかには、音楽は音楽教室に通ってないとできないと考える方も多くて、子供も正解があると思っている。

でも、何かを表現しようと思って出した一音なら、それは本来素晴らしい音なんです。自分がよいと思うものを肯定する経験を、音楽を通して共有してみたいと思っています。

TARO:僕は野菜の砂糖漬けを作るイベントを企画しています。最近、個人的に砂糖の研究をしていまして。

砂糖って、現代だと「身体に悪い」と嫌われがちじゃないですか。でも、白い砂糖の作り方は意外と複雑で、自分でいろいろ試していたんです。その過程で、江戸時代には砂糖は薬の扱いだったことを知ったんですね。たぶん、いまでいうエナジードリンク的なものだと思うんですけど。

それで、江戸のお薬セットみたいな感じで、江戸からこのエリアにあったお野菜を砂糖漬けにして、それにまつわるトークを先日行いました。本当はそれをみんなで一緒に食べたいんですが、いまは集まれないので「江戸野菜のくすり箱」を作って、みなさんのもとに届けて、オンラインで食べる会を今度やろうと思っています。

左から:中島晴矢、青木彬、野木青依、EAT&ART TARO、北條元康

―そして北條さんは、堤防を使って川沿いに仮設のバーを作る、と。

北條:いまも隅田川沿いに残っている、一枚の壁で川との間を仕切る「カミソリ堤防」という一昔前の堤防があるんです。おそらく、将来的には無くなる予定なんですが、僕はカミソリ堤防で仕切られた川しか見たことはなかったので、無くなるのが少し忍びないんですね。

なので、それを利用して、隅田川を見ながらお酒が飲める場所を作ろう、と。そこには先ほども言った、昔、あの堤防に寄りかかってお酒を飲んでいた人たちの記憶があります。いまは、堤防に寄りかかるなんて汚いと思う人も多いでしょう。だから、誰もあそこで立ち止まって川を見ない。そこにもう一回、どう意識を向けるかということなんです。

北條元康

―そういう風景はもしかしたら開発で失われるかもしれないけれど、だからこそ、そうした記憶を持っている北條さんのような人がつないでいくものが重要になりますね。

北條:僕は以前、ある企画で隅田川に飛び込むことになってしまって(笑)。実際、数日間匂いが取れなくなったのですが、思い返すと、カミソリ堤防ができる前、人は川ともっと近い関係にあったんですよ。

たとえば、みんなで川に飛び込んで、宮司(神社で祭事をする神職)の乗る船に御幣という竹にヒラヒラが付いたものを受け取りにいくという神事があったんです。もう30~40年は行われていませんが、なにか、そういう記憶も思い出せる場所が作れればと思います。

「隅田川を眺めるプロジェクト」カミソリ堤防BARの設計図
「隅田川を眺めるプロジェクト」カミソリ堤防BARの設計図

―最後に、今後、このエリアでどんな活動をしていきたいか、どんなことを考えていきたいか、それぞれに聞かせてください。

青木:野ざらしは、本来志向のぜんぜん違う3人によるプロジェクトで、そのなかで奇跡的に重なる部分で活動ができています。お互いの要素を持ち込んで、今後はもっとつなげていけたら面白い。住むところも違う3人なので、「野ざらし」という名前にあるように、今後は場所にこだわらない可能性も模索することで、今日話したようなアートと社会の関係に関心のあるアーティストの生態系をさまざまなところに作れるんじゃないかとも思っています。

―東東京の広域なエリアのアート的なハブに、この場所がなる可能性もありますよね。

青木:そうですね。あと、さきほどもあったように、ここは福島との関連も深くて、福島では「大玉村カフェ」として紹介されているんです(笑)。そのお陰で、福島の安達太良山という場所の巨大なコミュニティの関東支部の人がよく来たり。

ある種、僕らは今は墨田区で活動してるんだけど、そこに福島レイヤーの人や、アートレイヤーの人たちが重なっている。それがきちんと維持して広げていけたら面白いと思います。

中島:僕は、アーティストとしては東京や都市、公共のことをよく考えるんですが、そのときに足場というか、具体的に掘り下げられる地域があるのは強みだと思うんです。それが、今回このスペースに携わって得た経験でした。

自分たちのプロジェクトがあると、ただ抽象的に考えるのとはリアリティーがまったく違ってきます。東東京や墨田といった具体性を通して、都市やアートのあり方を考えられたらいいですね。このプロジェクトを、そんな具体性と抽象性を行き来するきっかけにしていけたらいいなと思っています。

左から:中島晴矢、青木彬

TARO:今日、あらためて思い出して面白いと感じたのは、このエリアに若い人が集まってソーホーみたいになるかなと思ったけれどならなかったことや、開発でイメージが変わるかなと思ったけれどそうでもなかったこと。

僕は、この界隈にアートプロジェクトが増えてそれに参加していた10年くらい前、正直に言うと、墨田でアートプロジェクトがどのように終わっていくのかを見ていくつもりだったんだけど、意外とそれがいまも続いているんです。

それはたぶん、北條さんみたいな人がいるからなんですよね。だからいまは、北條さんがどんどん歳を取って、地元の長老みたいになったら面白いと思っていて、そこで起こる展開に興味を持っています。僕も歳をとりながら、それを見ていきたいです(笑)。

―まちづくりの人に話を聞くと、重要なのは「面白い人がいるかどうか」だと言いますが、このエリアでは間違いなく北條さんがその一人なんでしょうね。

北條:じつはうちの親父も町会長をやっていて、街のプレイヤーとして40年、50年いろいろやってきたんですよ。この親をして僕なんだな、というのは感じます。

僕は地元は大好きですけど、同時にここだけに収まるのは嫌だと思っていて、さっきから話している外との関係も作っていきたい。あと、僕がいないと物事が回らないような街にはしたくない。

北條元康

北條:僕がいなくても勝手に誰かが何かをできる環境にできたらいいと思います。だから、自分のエリア以外のお祭りやイベントには、極力、本当に客として参加するようにしていて、自分でやるならこうやるなと思いながら帰ってくるようにしています。

―散策中に隅田川にビオトープがあると聞きましたが、まさに、 人の手が入ることで生まれた生態系でも、生態系が生まれたらそれ自体で回るのが理想ですよね。

北條:そうですね。このエリアでは長年『アサヒ・アート・フェスティバル』があって、全国の活動とも交流したわけだけど(2002年に始まり、2016年度で終了)、よかったのは、けっこう放任主義だったこと。

そのお陰で、いろんな人がイベントに個人的な思い入れを持つことができたし、終わったあともさまざまなかたちでつながっている。誰かの強い主導がなかったから、生態系が生まれたんだと思う。

そうしていろんな人たちが集まってきているいまの墨田の状況は、何かを起こすにはとても恵まれた環境だと思います。何かをやりたい仲間が点在しているのは、とてもよいですよ。

喫茶野ざらし店内。カウンターの奥に積まれた書籍
喫茶野ざらし店内。カウンターの奥に積まれた書籍

野木:若い人だけでなく地元の人もお祭り好きというか、協力的だと感じます。私は、活動をするうえで「未知との遭遇」を大事にしたいと思っていて。たとえば、子供と音楽ということを考えると、音楽ホールで音楽を聴く経験ができるかどうかは親次第。でも、隅田公園の芝生の上とか銭湯で演奏会をしていたら、音楽に関心のなかった親子にも、こんな世界があるんだと知ってもらえるかもしれない。

野木:だから、なるべくオープンな空間で演奏したいんですが、『すみゆめ』に参加して感じるのは、墨田では区役所も地元の人も、「自由にやって」という空気があるんですよね。

私にとっては、そういう相談を安心してできる人がいることや、理解のあるものづくりの先輩がたくさんいることは重要で。そんな場所が徒歩圏内にあるのは、すごく嬉しいですね。

左から:北條元康、野木青依、EAT&ART TARO、青木彬、中島晴矢
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イベント情報

『隅田川 森羅万象 墨に夢』
『隅田川 森羅万象 墨に夢』

2020年8月9日(日)~2021年2月7日(日)
会場:隅田川テラス、隅田公園、すみだ生涯学習センター(ユートリヤ)、YKK60ビルAZ1ホール、両国門天ホール、すみだパークギャラリーささや、sheepstudio、Token Art Centerほか区内各所

隅田川を眺めるプロジェクト

BUGHAUS

隅田川の音あつめワークショップ~Song for 隅田川をつくろう~

野木青依×Vegetable Record×工藤葵

『すみゆめの七夕』
EAT&ART TARO「江戸野菜のくすり箱」

「くすり箱」のお味や効能はいかに?Zoomで開く「TAROさんのおやつの時間」
2020年9月12日(土)15:00~16:00

プロジェクト情報

喫茶野ざらし

キュレーターの青木彬、建築家の佐藤研吾、アーティストの中島晴矢による現代生活と表現の在り方を考えるアートプロジェクト

プロフィール

北條元康(ほうじょう もとやす)

東京都墨田区向島で工務店を経営。幼少の頃より職人に囲まれて育ち、モノ作りが好きになり、自身も大工として施工を熟す。2001年頃より、向島でのアーティスト活動に従事し、以後アート制作の為各地を巡る。2011年次世代の工務店のあり方を模索する為に、ポスト工務店BUGHAUSを立ち上げる。2019年より、工務店の隣の廃工場を利用し、イベントや制作物を作る。

EAT&ART TARO(いーとあんどあーと たろう)

調理師学校卒業後、飲食店勤務を経てギャラリーや美術館などでケータリングや食のワークショップ、カフェプロデュースなどを行っている。これまでに、自分で購入したものが次の人のものになってしまう、おごることしかできないお店「おごりカフェ」や、瀬戸内海の島々で作った「島スープ」、昭和の料理本を調査収集し、レシピ再現などを行う「レトロクッキング」、美味しいおにぎりを食べるためだけに参加者と共に運動会をする「おにぎりのための、毎週運動会」など食をテーマにした作品を多数発表している。

野木青依(のぎ あおい)

桐朋学園大学音楽学部卒業。2018年8月オーストラリア・メルボルンにて開催された「第5回全豪マリンバコンクール」第3位並びに新曲課題における最優秀演奏賞受賞。自粛期間中に制作した、自身のマリンバ演奏・歌唱による2ndアルバム『踊りにおいでよ』を5月に配信リリース。その他、音楽を通して生活を祝福するインスタレーション『Celebration at home』を写真家、工藤葵と発表。モデルとしても活動。『URBAN SENTO』メインビジュアルモデル『HOUGA Short Movie』出演他。

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