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山縣良和×松下徹 異なる価値観が共存し交わる理想の共同体を描く

山縣良和×松下徹 異なる価値観が共存し交わる理想の共同体を描く

GAKU
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:豊島望 編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

いちばん大事にしてる心地よさは、いろんな人たちの価値観がぐちゃぐちゃに交わること。(山縣)

―山縣さんが「ここのがっこう」を始めたのはどんな理由でしょうか?

山縣:僕がイギリスから帰国したのが2000年代の中頃で、服飾の専門学校や大学に呼ばれて講義する機会が何度かあったんですよ。そのときに、自分が考えてきたことが通じる一部の学生と、通じない大半の学生がいて、そこに重要なものがあると感じたんですよね。

教育的な場以外でも、すでにある考え方の延長線上でプロジェクトを立ち上げようとすることに限界が見えてきたこともあって、だったら一から始めてみようと2008年に「ここのがっこう」を始めたんです。

山縣良和

―限界とか伝わらなさというのは、具体的にどんなものですか?

山縣:「表現」としてファッションを学ぶ意識ですね。とくに日本のファッション教育というのは技術習得中心の歴史を持っていて、学生のなかには「表現しなくていい」と考える学生も相当数いるんですよ。

業界自体の構造が強固に完成されているから、学校としても業界が求める人材を育てて派遣することを主な目的にしている。いや、もちろん就職したっていいんですけど、もうちょっとファッションの本質的な表現が学べる場所が日本にあってもいいだろう、と考えたんです。

松下:「表現」って難しくないですか。というのはストリートカルチャーにも似たところがあるんです。表現するためには目的やコンセプト、自己言及性を意識する必要があると思うんですけど、それはあくまでアート側の考えであって、サブカルチャーには合わない感じもある。

ルール自体が違って、例えばグラフィティなら街にいちばん自分の名前を多く描いた奴が偉いとか、いちばん悪い奴が偉いとか(笑)。グラフィティはスポーツだ、って考える人もいて、「競争」の性質が強い。でも、表現っていうのは、枠組みが明確ではないことをあえてやろうとすることでもある。

山縣:渡英する前、日本でもファッションの教育は少しだけ受けましたけど、日本の学校には「正解はある」って感覚がとても強いんです。それに対して、イギリスの学校(セントラル・セント・マーチンズ。ロンドン芸術大学の中のカレッジの一つ)はすっごいゆるくて、正解って意識がないんです。

極端に言うと、先生が積極的になにかを教えようとして、教わった記憶はほとんどありませんし、先生も教えようとしてない(笑)。だけど、暗黙知の部分でファッションの重要なものは学内に漂っていて、それがファッションを好きな人にとって心地よい空間を作り出す力になっている。「ここのがっこう」で作りたかったのはそういう雰囲気。

ここのがっこうの様子 / courtesy of coconogacco
ここのがっこうの様子(サイトを見る) / courtesy of coconogacco

松下:なるほど。現代アートにおける学びの違和感って話で言うと、いちばん気になるのは、アーティストが連れてくるアシスタントの存在です。関係者にはほとんど紹介されない無名の人として現場にいて、先輩作家は「俺の背中を見とけよ」みたいな空気がありますよね。

―ありますね。アートに限らず、デザイナーとかカメラマンなどの職人気質の強い職業はその気風が色濃いと思います。

松下:工芸的な徒弟制度のように、上下関係をはっきりさせることの利点もわかるんですけど、それを見て、自分たちは「一緒にやる」ってことをやりたいと思ったんですよ。お互いがお互い自身のなかで新鮮さを味わって、関係性を一緒に作るってことが大事。

だから、SIDE COREでアシスタントとして来てもらう人には、いつか一緒に展覧会をできる人に声をかけるようにしています。その機会がいつやってくるかはわからないけれど、双方のコミュニケーションでどんどん関係性を作っていく、割とそれに関しては成果を出してきた自負があります。

松下徹

―それがSIDE COREの学校的な性質の理由かな、とも思います。

松下:教える / 教わる的な関係ですね。SIDE COREが始まったばかりの頃は年上の人と付き合うことが多かったんですよ。アートのキャンバスの作り方を僕が教えるかわりに、ストリートの先輩たちから昔の伝説的なエピソードを聞いて「すげえ!」ってなる、みたいな。

でも最近は、若い人たちとの付き合いが増えてきて、自分のモチベーションも、20代の連中がどんな風景をいま見てるのか、どんな感覚で生きてるのかを知ることにシフトしています。「俺らの時代はな~」みたいに偉そうなことを言う自分もいるんですけど、それと同時に若い人たちの感覚を盗みたい、って気持ちも正直に言えばある(笑)。

EVERDAY HOLIDAY SQUAD『RODE WORK』 / 道路使用許可を申請し、スケーターと協力して「夜間工事に扮したスケートパーク」を作り出すプロジェクト
EVERDAY HOLIDAY SQUAD『RODE WORK』 / 道路使用許可を申請し、スケーターと協力して「夜間工事に扮したスケートパーク」を作り出すプロジェクト

山縣:「ここのがっこう」で僕がいちばん大事にしてる心地よさっていうのは、いろんな人たちが来て価値観がぐちゃぐちゃに交わるなかでコミュニケーションが行われてることなんですよ。もちろんこれまでのファッションの歴史的な文脈を伝えはするけれど、これまでその文脈でやって来た人がそこから離れていくのも全然いいと思っていて。

関心があるのは、異なる価値観をどう共存させるか。個々人がまず「その人である」ってことを本人も僕らも認めることができるか、なんです。

もともとファッションって階級闘争的な部分があるし、コミュニティー間の闘争も発生しやすい、好き嫌いの世界。でも、何かを通り越してルーツみたいなものを共有できるようになると、まったく違う価値観の人とも話し合える時間がやってくる。そこが面白いんです。

松下:面白いですね。そういう経験のなかで、教師であるはずの山縣さんの表現や心がかき乱されたことってありますか?

山縣:うーん。一回だけ、本当にぐちゃぐちゃのファッションショーをやったことがあります。国立新美術館のエントランスホールでやったんですけど、同時多発的に5つの場所からいろんなモデルさんが登場するっていう内容で、デザイナーも学生からプロまでごちゃ混ぜだし、モデルも子供、おじいさん、宇宙人、インド人とさらにごちゃ混ぜになって、すごかったんですよ。

ここのがっこうの様子 / courtesy of coconogacco
ここのがっこうの様子 / courtesy of coconogacco

山縣:そのときは感動しましたね。「ファッションの面白さってこれだな!」と。

やっぱりファッションって、究極的には人間に向かっていくところがあるので、いろんな人間像がぶわーっと湧き出てきたことにやられたし、すごく感動したのを覚えてます。あれはなかなか実現できないことだし、奇跡でしたね。

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施設情報

GAKU
GAKU

10代の若者たちが、クリエイティブの原点に出会うことができる「学び」の集積地。アート、映像、音楽、建築、料理など、幅広い領域で、社会の第一線で活躍するアーティストやデザイナー、先進的な教育機関が、10代の若者に対して、本質的なクリエイティブ教育を実施する。10代の若者が、本物のクリエイターと実際に出会い、時間を過ごし、ともに考え、試行錯誤をしながらクリエイションに向き合うことで、まだ見ぬ新しい自分や世界、すなわち、原点のカオスに出会うことを目指す。ディレクターには、writtenafterwards(リトゥンアフターワーズ)のデザイナー山縣良和を迎え、世界的評価を受けるファッション・スクール「ここのがっこう」、カルチャーWEBメディアCINRAによるオンラインラーニングコミュニティ「Inspire High(インスパイア・ハイ)」などが集まり、感性、本質的な知識、自己と他者の原点を理解する精神を育むプログラムを構成する。

ここのがっこう
ここのがっこう

2008年にwrittenafterwardsのデザイナーである山縣良和が立ち上げた学校です。 「ここ」とは場所を表す「ここ」であると同時に、多数の中の1人1人を表す「個々」を意味しています。ここのがっこうでは「ファッションの本質を伝え、教育・社会・文化・環境的視点を持ったコミュニケーションツールとしてファッションの役割を提案していく環境や交流の場を構築しています。
GAKUで開講するcoconogacco foundationでは、山縣良和をはじめとしたcoconogaccoの講師と現役の生徒を交え、展開していきます。

プロフィール

松下徹(まつした とおる)

1984年神奈川県生まれ、東京藝術大学先端芸術専攻修了。身近な化学実験や工業生産の技術によって絵画作品を制作。高電圧の電流によるドローイング、塗料の科学変化を用いたペインティングなど、システムがオートマチックにつくり出す図柄を観測・操作・編集するプロセスにより絵画作品を制作。またグラフィティ等のストリートカルチャーに関する企画を行うアートチームSIDE COREのディレクターの一人でもあり、国内外のストリートカルチャーに関する執筆をおこなっている。個人の活動としては2019年SNOW CONTEMPORARYにて個展『CUTTER』を開催。SIDE COREとしては2013年のTerratoriaでの『SIDECORE 身体/媒体/グラフィティ』を始めとし、2018年市原湖畔美術館にて『そとのあそび展』を同館と共同企画。2017年と2019年には宮城県石巻市で開催されている『Reborn-Art Festival』に参加している。

山縣良和(やまがた よしかず)

2005年セントラル・セント・マーチンズ美術大学を卒業。在学中にジョン・ガリアーノのデザインアシスタントを務める。2007年にリトゥンアフターワーズを設立。2008年より東京コレクションに参加。2014年に毎日ファッション大賞特別賞を受賞。2015年には日本人として初めてLVMHプライズのセミファイナリストにも選出された。またファッション表現の研究、学びの場として、2008年より「ここのがっこう」を主宰。「GAKU」のディレクター。

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