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再考迫られる国際芸術祭。劇場から放たれた舞台芸術が果たす役割

再考迫られる国際芸術祭。劇場から放たれた舞台芸術が果たす役割

『フェスティバル/トーキョー20』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:豊島望 編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

シンガポールとチュニジア。シンポジウムに招聘されるユニークな演劇祭ディレクター

―それを踏まえつつ、今年の『F/T』に話を移していきましょう。10月21日に行われるオンラインシンポジウム『なぜ舞台芸術をまちなかで?(そしていかにしてこの感染症の時代にさえも開催するのか)』では、シンガポール、北アフリカのチュニジア、英国のマンチェスターで活動するディレクターたちが登壇します。

長島:タイトルの『なぜ舞台芸術をまちなかで?』は、この数年の『F/T』の方向性が関係しています。単に演目を屋外に出すだけではない方法を探って、劇場から街へと向かっていこうという考えにリンクしているんです。

東京は巨大すぎて足元にあるローカルが見えなくなっているのではないか? そこで生活しているいろいろな人たちとも一緒にできることがあるのではないか? とずっと考えてきたんです。そこで、海外に目を移すとどんな事例があるだろう……ということで、横山さんにこのシンポジウムのコーディネイターをお願いしたんです。

10月21日(水)19:00~21:30ライブ配信『シンポジウム フェスティバル・アップデート「なぜ舞台芸術祭をまちなかで?(そしていかにしてこの感染症の時代にさえも開催するのか)」』
10月21日(水)19:00~21:30ライブ配信『シンポジウム フェスティバル・アップデート「なぜ舞台芸術祭をまちなかで?(そしていかにしてこの感染症の時代にさえも開催するのか)」』(サイトを見る

横山:嬉しいご依頼でした。まず声がけしたのが、『シンガポール国際芸術祭』で次期ディレクターになるナタリー・ヘンディッジさんです。

シンガポールは文化的に複雑な街なんですよね。東京くらいの規模感の国で、大まかに言えば華人系の商人たちが作った、ヨーロッパとアジアを結ぶ商業都市です。英語が公用語だし、世界中の文化が入り混じってあらゆる物が手に入るショッピングモールみたいな都市国家。でも、シンガポールのローカリティーとは何か? と問われると、かなり意識的に探さないと見えてこない。

『シンガポール国際芸術祭2019』ダイジェスト映像

河合:ショッピングモール的な点、ローカリティーが見つけづらい点では、いまの東京と似たところがありますね。

横山:共通点もあると思います。だからこそ、コマーシャルな文化だけでは満足できない人もいて、アートの分野でもローカリティーとはなにか、深く考えている人も多い。

―昨年の『あいちトリエンナーレ2019』で話題になったホー・ツーニェンもシンガポール人でしたね。日本の近代哲学の暗部を通して、アジアのアイデンティティーを問い直すような作品を発表していました。

横山:そういった流れのなかで、ディレクターに就任するのがナタリーさんなんです。同芸術祭の史上初の女性ディレクターということもあって、きっと新しいビジョンがおありだろうと思い、お誘いしました。

そしてチュニジア共和国の首都チュニスからは、ソフィヤーン・ウィーシーとセルマ・ウィーシーのディレクター兄妹に参加していただきます。2人は『ドリーム・シティ』というフェスティバルを運営してますが、チュニジアで開催されている世界的にも有名な『カルタゴ国際演劇祭』に対して、こちらはかなりインディペンデントな取り組みです。

横山:アフリカの舞台芸術界って想像しにくいかもしれませんが、サハラ砂漠以南のいわゆるブラック・アフリカと北アフリカの間にはあまり交流がなくて、チュニジアを含めた北部はアラビア語圏なのでムスリムの人が多いんです。宗教的な理由もあって、身体をさらすようなダンスよりも演劇が盛んなのですが、そんな街で、ウィーシー兄妹は、ダンサーとしての視点も活かしてブラック・アフリカの文化も大きく取り込んだプログラムを展開しています。

さらに『ドリーム・シティ』という名前の由来も面白くて、フェスティバルを通して、街自体を変えてやるぞ、というのが目的なんですよ。

横山義志

横山:チュニスのメディナっていう旧市街に、新しい夢の都市を作ろうという構想なんです。しかもアーティストの力で。

ここに招聘される作家には、企画書は持ってくるな、ということが厳命されています(笑)。まずはとにかく街にきてもらう。そしてメディナの人たちに出会ってもらって、そこから考え始めてもらうわけです。

チュニジアは2010年に起きた反政府デモ「アラブの春」が始まった国ですから、街の人もインディペンデントな気風があるんでしょうね。かなり独特なフェスティバルだと思います。

長島:ここ数年の『F/T』の隠れたテーマが「パフォーミングアーツによる都市計画」なんですよ。都市計画ってどうしてもハードウェアとしての建物を配置することから始まりますが、それを身体が起こす出来事から始めることはできないか、とずっと考えています。ですから『ドリーム・シティ』の話は興味深いですね。

長島確
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イベント情報

『フェスティバル/トーキョー20』
『フェスティバル/トーキョー20』

会場:東京都 池袋 東京芸術劇場、あうるすぽっと、トランパル大塚、豊島区内商店街、オンライン会場ほかで開催

『シンポジウム フェスティバル・アップデート「なぜ舞台芸術祭をまちなかで?(そしていかにしてこの感染症の時代にさえも開催するのか)」』

10月21日(水)19:00~21:30
会場:F/T remote(オンライン配信)
金額:500円

プロフィール

長島確(ながしま かく)

1969年東京生まれ。立教大学文学部フランス文学科卒。大学院在学中、ベケットの後期散文作品を研究・翻訳するかたわら、字幕オペレーター、上演台本の翻訳者として演劇に関わる。その後、日本におけるドラマトゥルクの草分けとして、さまざまな演出家や振付家の作品に参加。近年はアートプロジェクトにも積極的に関わる。東京藝術大学音楽環境創造科特別招聘教授。

河合知佳(かわい ちか)

2012年、フェスティバル/トーキョー実行委員会事務局に配属。日本を含むアジアの若手アーティストを対象とした公募プログラムや、海外共同製作作品を担当。また公演制作に加え、事務局運営担当として、行政および協力企業とのパートナーシップ構築、ファンドレイズ業務にも従事。2015年度より副ディレクター。2018年度より共同ディレクター。日本大学芸術学部演劇学科非常勤講師(2017年~)。

横山義志(よこやま よしじ)

1977年千葉市生まれ。東京芸術祭国際事業ディレクター、SPAC-静岡県舞台芸術センター文芸部。演劇学博士(パリ第10大学)、学習院大学非常勤講師。専門は西洋演技理論史。論文に「アリストテレスの演技論 非音楽劇の理論的起源」、訳書にジョエル・ポムラ『時の商人』など。舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)理事、政策提言調査室担当。

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