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再考迫られる国際芸術祭。劇場から放たれた舞台芸術が果たす役割

再考迫られる国際芸術祭。劇場から放たれた舞台芸術が果たす役割

『フェスティバル/トーキョー20』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:豊島望 編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

現代に受け継がれているマンチェスターの実験精神

長島:イギリスの都市、マンチェスターのジョン・E・マグラーさんを推薦したのは私からでした。彼は来日経験もあって、翻訳者として現場をご一緒したこともあるのですが、とてもユニークな人です。

2009年にウェールズ地方でナショナル・シアター・ウェールズという国立劇場を立ち上げた人物ですが、彼は「建物を持たない国立劇場」というコンセプトを打ち出しました。というのも、同地にはすでにウェールズ語に特化したシアター・ゲンドラトゥル・カムリュという国立劇場があり、また地元の人たちが中央集権型の政治を嫌うマインドが非常に強くあるので、立派な劇場をどーんと建てても人は寄りつかないだろうと考えたんです。野外劇や野外音楽の伝統もウェールズにありましたから、そこでマグラーさんは建築に無駄遣いするならば、(建築=ハードウェアの対比として)全部ソフトウェアと人件費に回して、実験的で面白いことをやろうと決めたんです。

―国のプロジェクトでそれをやれるのがすごいですね。

長島:じゃあどうするかというと、根幹になるのはデジタルプラットフォーム。そして初年度は月替わりで「今月はこの町のここが国立劇場」「来月は山の中が国立劇場」と、国内十数か所の場所を転々として上演を行ったんです。

横山:すごい。

長島:クレイジーですよね(笑)。さすがに2年目からはペースを落として年間5、6作品ぐらいにしたようですが、そうやって地元のコミュニティーと関係を結びながら、移動可能でサイトスペシフィックな国立劇場を立ち上げた仕掛け人なんです。

2013年に日本の新国立劇場が招聘したときは、彼らのホームページで「現在のナショナル・シアター・ウェールズはこちら」と、東京の初台がちゃっかりジャックされてました。

長島確

長島:そういうチャーミングな人でもあるので次の動向が楽しみなのですが、彼はいま『マンチェスター国際フェスティバル』(以下、『MIF』)を取り仕切り、『MIF』と連動して「ザ・ファクトリー」という名の新たな文化複合施設を作ろうとしています。マンチェスターでファクトリーと言えば、音楽ファンならJoy DivisionやNew Orderを輩出したマンチェスタームーブメントを思い出すと思います。

―1980年代に大活躍したファクトリー・レコードですね。

長島:さらにファクトリー・レコードのレーベルを立ち上げたトニー・ウィルソンという人は、グラナダTV(イギリスの地方テレビ局)の音楽担当者でもありました。グラナダは『シャーロック・ホームズの冒険』や『名探偵ポワロ』といった名作探偵ドラマで有名ですが、その撮影スタジオの跡地に、「ザ・ファクトリー」を建てようとしてるんですね。

当時のマンチェスターの状況を綴った『24アワー・パーティー・ピープル』。2003年には同タイトルの映画としても公開された
当時のマンチェスターの状況を綴った『24アワー・パーティー・ピープル』。2003年には同タイトルの映画としても公開された(Amazonで見る

長島:ファクトリー・レコードはアーティスト主義で倒産してしまいましたが、経営よりも表現を優先する熱いスピリットを持っていた。そのマインドと、地元の文化的アイデンティティーを全部背負ったうえで、マグラーさんが関わって新しい創造拠点がスタートしようとしているんだから、これが面白くならないわけがない。

「舞台芸術」という言葉の弊害。劇場から解き放たれることの可能性

―チュニスやマンチェスターの例を聞くと、ある種のアナーキーな精神があるように思います。シンガポールは繊細な政治感覚が求められる国ですが、そのなかで新しいことをしようという気概を感じました。それらが『F/T』にも影響してくると面白いですよね。

長島:『F/T』の拠点である豊島区、池袋、大塚って、アーティストではなくとも、びっくりするぐらい実験精神旺盛な人たちがたくさんいる街です。それこそ都市計画というものを本気で考えて、実践している。そういう人たちと出会うために僕らもアーティストもどんどん外に出ていくべきだと思うんですね。

例えば「トランパル大塚」という駅前広場は、行政によるトップダウンではなく、市民のボトムアップで再開発された場所です。20年くらいかけて、駅前ロータリーの抱えていた問題を解消するために議論して、音楽祭や阿波踊りといった地元主導のイベントを行うための機能をバッチリ盛り込んで2017年に完成したんです。

トランパル大塚にて実施された、セノ派『移動祝祭商店街』(『フェスティバル/トーキョー19』)
トランパル大塚にて実施された、セノ派『移動祝祭商店街』(『フェスティバル/トーキョー19』)

長島:近くに都電荒川線(東京さくらトラム)が走ってるんですけど、ここの踏切には遮断機がないんです。自分の安全は自分で守るものという考えのもと、都電側と相談して設置させなかったという。徹底的な自治の理念があるんです。

河合:2018年からのこの体制が始まる前ですが、劇場機能を有していた「にしすがも創造舎」を手放すことになったことは、『F/T』にとってとても大きな転換点だったんです(2016年12月に全事業を終了)。ディレクターに就任する前に長島がウェールズの事例を持ち出して「劇場を持ってなくたってできるんだ!」と言い切ったんです。そのことを思い出しました。

にしすがも創造舎 / 2004~2016年にかけて、アーティストに創作の場を提供し、廃校の空間を活かしたアートプロジェクトを多数展開した
にしすがも創造舎 / 2004~2016年にかけて、アーティストに創作の場を提供し、廃校の空間を活かしたアートプロジェクトを多数展開した

―そもそも現在の『F/T』の参照例が、ナショナル・シアター・ウェールズだったんですね。

河合:もちろん劇場があることのよさは間違いなくあります。でも拠点が劇場ではないことは本当にマイナスなことなのか。それを考えるきっかけになりましたね。

河合千佳

横山:冒頭でモノカルチャーについて話しましたが、このコロナ禍で世界中の舞台芸術が一斉にダメージを受けた原因の1つが、スタンダード化した劇場文化だと思っています。この視点で日本の状況を改めて捉えると、英語の「performing arts」を「舞台芸術」と訳してしまったことの問題も見えてきます。

つまり、必要なのはパフォーマンスではなく舞台なんだという思い込みを植え付けてしまったのではないか。本来、大事なのは歌ったり踊ったり演じたりすることであって、劇場はそれを支える要素の1つでしかないんです。

もちろん劇場で磨き上げられてきた技術に、私たちは大きな恩恵を受けています。どんな天候でも上演できて、昼でも夜のシーンを演じられる。興行面から見てもすごく効率的です。

『ファーム』演出:キム・ジョン 作:松井周(『フェスティバル/トーキョー19』) Photo: Alloposidae
『ファーム』演出:キム・ジョン 作:松井周(『フェスティバル/トーキョー19』) Photo: Alloposidae

横山:でも効率性で比較するならば、19世紀末以降に現れた映画、テレビ、ラジオのほうが、劇場よりもはるかに効率的です。その事実をふまえて、なお舞台芸術というものが意味を持つとしたらそれは何なのか? それを考えるうえでも今回のシンポジウム『なぜ舞台芸術をまちなかで?』は大事なテーマを扱っていると思います。

―逆の発想も可能ですよね。劇場に集約された舞台芸術の発想をフィードバックさせれば、先程のトランパル大塚のように、あらゆる場所を劇場としてとらえるためのアイデアも浮かんできますし、さらに言えば、建築家や演劇の専門家でなくとも、誰だって劇場を作る主体になれるという言い方も可能です。

河合:それに関連することとして、今年の『F/T』はメイン会場として「F/T remote」と表記しています。つまりオンラインを正式な会場として位置付けているんです。

長島:いろんな場所が劇場になりうるならば、オンラインも劇場でしょう。アウグスト・ボアールの「演劇はどこでだってできる。劇場でだってできる」って言葉を思い出します。

河合:「でだって」(笑)。

長島:誰でも何処でもできる演劇やダンスの可能性をもっともっと掘り進めるべきですし、その過程ではアーティストだけじゃない、街の人たちとの協働・学びを生む出会いがうじゃうじゃしている。その可能性を探り当てていきたいですね。

左から:河合千佳、長島確、横山義志
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イベント情報

『フェスティバル/トーキョー20』
『フェスティバル/トーキョー20』

会場:東京都 池袋 東京芸術劇場、あうるすぽっと、トランパル大塚、豊島区内商店街、オンライン会場ほかで開催

『シンポジウム フェスティバル・アップデート「なぜ舞台芸術祭をまちなかで?(そしていかにしてこの感染症の時代にさえも開催するのか)」』

10月21日(水)19:00~21:30
会場:F/T remote(オンライン配信)
金額:500円

プロフィール

長島確(ながしま かく)

1969年東京生まれ。立教大学文学部フランス文学科卒。大学院在学中、ベケットの後期散文作品を研究・翻訳するかたわら、字幕オペレーター、上演台本の翻訳者として演劇に関わる。その後、日本におけるドラマトゥルクの草分けとして、さまざまな演出家や振付家の作品に参加。近年はアートプロジェクトにも積極的に関わる。東京藝術大学音楽環境創造科特別招聘教授。

河合知佳(かわい ちか)

2012年、フェスティバル/トーキョー実行委員会事務局に配属。日本を含むアジアの若手アーティストを対象とした公募プログラムや、海外共同製作作品を担当。また公演制作に加え、事務局運営担当として、行政および協力企業とのパートナーシップ構築、ファンドレイズ業務にも従事。2015年度より副ディレクター。2018年度より共同ディレクター。日本大学芸術学部演劇学科非常勤講師(2017年~)。

横山義志(よこやま よしじ)

1977年千葉市生まれ。東京芸術祭国際事業ディレクター、SPAC-静岡県舞台芸術センター文芸部。演劇学博士(パリ第10大学)、学習院大学非常勤講師。専門は西洋演技理論史。論文に「アリストテレスの演技論 非音楽劇の理論的起源」、訳書にジョエル・ポムラ『時の商人』など。舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)理事、政策提言調査室担当。

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