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君島大空、苦闘の第二作。狂騒と覚醒の狭間で、ひっつかんだ実感

君島大空、苦闘の第二作。狂騒と覚醒の狭間で、ひっつかんだ実感

君島大空『縫層』
インタビュー・テキスト
天野史彬
撮影:松永つぐみ 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)
2020/11/13

『縫層』という作品は、君島大空にとってどうしようもなく作らなければならないものだった

―崎山蒼志さんとの対談のときも、「“午後の反射光”は本来、16分くらいあった」とおっしゃっていましたね(関連記事:崎山蒼志と君島大空、2人の謎を相互に解体。しかし謎は謎のまま)。

君島:そう。なので、“午後の反射光”の、あの先にある景色というのも、確実にあるんです。でも、その手前にどうしてもやっつけておかなければいけないものがあった。それがこのEPであり、「縫層」という言葉だったんだと思います。なので、このEPに関しては「自分らしくないな」と思う部分も多いんです。

本当はもっと優しい気持ちで作品を作れればよかったんですけど……。後悔はないんですけどね、仕方がなかったんだと思うから。マスタリングを終えて改めて聴いてみたとき、これが今の自分にとっては自然なものだったんだし、出しておかなければいけない膿のようなものだったんだとも思いました。

君島大空
君島大空“午後の反射光”を聴く(Apple Musicはこちら

―『午後の反射光』、そして今回の『縫層』。こうして2作が並んだときに感じるのは、君島大空という音楽家は、その時代、その瞬間の、人間としての実感、自分がどういうことに苦しみ、どういうことに喜びながら生きているのか……そういうことが、その時々の作品によってリアルに表出される作家なんだ、ということでした。

君島:そうですね、その地点その地点のものが出てくる。そうでないと、体も気持ち悪くなってしまう。そういうところは、今回のEPを作ったことですごく生々しく、自分で自分が見えた感じがしました。自分はそういうタイプではないと思っていたんですけどね(笑)。

本当はローレン・コナーズのような、気まぐれに、誰にも見えない様に、宝箱のモノローグの様な音楽を録音しては出して、をしながら生きていくような人に憧れてきたはずなのに、なんだか歌を歌い出してしまって、そうしたら言葉がどうしても難しくて、それでも、なにかを言いたい気がしていて……。

「すべて、自分を救うためにやっている気がします。救われなくてもいいときは、作らなくてもいいんです」

―「なにかを言いたい」というのは、やはりありますか?

君島:無差別に人に伝えたいことは、ないんです。それは、この作品を作ってわかりました。いや、そんなことはないのかもしれないけど……。

―どちらとも言い切れない?

君島:強要したり、縛りつけたりするようなことは嫌いだし、そういう歌も嫌なんです。もちろん、ときにはそれを心地よく感じるとは思うんですけど。

僕は、言いたいことは結構、ハッキリしていると思います。それをいろんな角度から言うことで、絶対に誰にも解けないものにしようとしている、そういう感じかもしれないです。「あなたが好きだ」という言葉の周りに、違う言葉で核の周りに塀を作っていくようなイメージというか。

「あなたが好きだ」「あなたが綺麗」「うわあ、この瞬間が、僕は幸せだ」……そういうことを、取り囲んでいく。絶対にそこからその感覚の手触り、景色の体温が逃げないために、どういう言葉で、それを言っていこうか? そういうことを自分はずっと考えているし、このEPに入っている曲も、そういうものなんだと思います。

君島大空

君島:「俺っぽくないな」と思う曲もあるけど、それでもやっぱり、言いたいことはひとつしかなくて。自分が見せたい、見たい景色が、音と言葉によって、どんどんと明瞭になればいいなと思っているんです。そのために、言葉をどうにか搾り出している。その感じは前からあったんですけど、今回は、すごく自覚的にそれをやったような気もします。ちょっと、考えすぎたEPかもしれない(笑)。

―しかし、こうしてアウトプットするからこそ見えてくる自分自身というものがあるということですよね。

君島:すべて、自分を救うためにやっている気がします。救われなくてもいいときは、作らなくてもいいんです。聴いているほうが楽しい。このEPは、気持ちがいろんな寄り道をしているなと思うんですよね。「なにがやりたいんだろう?」と思うくらい自分を混乱させてしまったとも言えるし、自らそうしようとした、とも言えるし。

窮屈で煩わしい世の中で探った、狂騒と覚醒の狭間のグラデーション

―『午後の反射光』のあと、本作にも収録される“散瞳”と“花曇”の2曲がシングルとしてリリースされました。この2曲は、君島さんにとってはどのような位置づけの曲ですか? 僕はこのEPを聴いて、“花曇”はこの作品を締めくくるために生まれた曲だったんじゃないか、くらいの感覚を抱きました。

君島:“花曇”のためにこのEPを作った、という感じもします。というのも“散瞳”と“花曇”の間の景色を見ることができないと次に行けない感じもしていて。この2曲は、音像としては対極だけど、同じ人の見ている景色なんです。でも、それを描くところで去年は止まってしまった。その間にある、いろんな断片が見えてきてはいたんですけど……。この2曲をどうにか成仏させなければいけないという気持ちは、強くありました。だから、“花曇”を最後に持ってくることは最初に決めていましたね。

君島大空“花曇”を聴く(Apple Musicはこちら

君島:“散瞳”は、精神的な興奮状態を迎えてしまって、自分がどこに立っているのかわかっていない状態の人の音楽なんですよね。2曲目の“傘の中の手”も、わりと“散瞳”と繫がっているような感覚があります。高揚していて、浮足立っている。それは僕自身のことなのかもしれないけど、めちゃくちゃ嬉しいのか、めちゃくちゃ悲しいのかもわからず、ひたすら高揚している。

だから、そいつを落ち着かせてやらないといけない。多分自分のことだとも思うんだけど、そいつの過ごす世界の一日の前後をちゃんと作ってやらないと、こいつには立つ場所がないんじゃないか? という感覚があった。なので、“散瞳”でめちゃくちゃ気持ちが舞い上がって、踊り狂って暴れまわった人が、寝て起きて冷静になったときに、起きる手前に見る夢のような……。起きる直前に見る夢ってありますよね? 寝ているときに見る夢じゃなくて、意識が覚醒しはじめるときに見る景色のような。

―ありますね。

君島:その景色が、“花曇”のようなイメージなんです。なので、ひとりの人間の起伏のようなものを出したかったんですよね、このEPは。ひとりの人が見ている景色のようなものを作ったつもりはあります。

君島大空

―先ほど、「自分らしくない」とおっしゃっていましたけど、具体的にはどういった部分が、このEPのなかで「自分らしくない」と思う部分ですか?

君島:たとえば、3曲目の“笑止”ですかね。ある意味、すごく自分らしいんですけど、コンプレックスを解消しようとして作った感じがすごくします。

この曲は、「ギターをたくさん弾こう」と単純に思ったし、サウンド面でも、自分以外の人と録っていて。合奏形態も一緒にやっている西田(修大)と曲を作っていったので、いい意味で自分らしくない曲だなと思います。自分らしくないというのも別に悪い意味ではなくて、どこかで「笑って聴いてほしい」みたいなことでもあるんです。特にこのEPは、「ふざけたい」って気持ちもあったから。

君島大空“笑止”を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

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リリース情報

君島大空『縫層』
君島大空
『縫層』(CD)

2020年11月11日(水)発売
価格:2,200円(税込)
APLS-2010

1. 旅
2. 傘の中の手
3. 笑止
4. 散瞳
5. 火傷に雨
6. 縫層
7. 花曇

プロフィール

君島大空(きみしま おおぞら)

1995年生まれ、日本の音楽家。2014年から活動をはじめる。同年からSoundCloudに自身で作詞 / 作曲 / 編曲 / 演奏 / 歌唱をし、多重録音で制作した音源の公開をはじめる。2019年3月13日、1st EP『午後の反射光』を発表。4月には初の合奏形態でのライブを敢行。2019年7月5日、1stシングル『散瞳/花曇』を発表。2019年7月27日、『FUJI ROCK FESTIVAL'19』 ROOKIE A GO-GOに合奏形態で出演。同年11月には合奏形態で初のツアーを敢行。2020年1月、Eテレ・NHKドキュメンタリー『no art, no life』の主題曲に起用。2020年7月24日、2ndシングル『火傷に雨』を、同年11月11日にはEP『縫層』を発表。ギタリストとして、高井息吹、坂口喜咲、婦人倶楽部、吉澤嘉代子、adieu(上白石萌歌)などのアーティストのライブや録音に参加する一方、劇伴、楽曲提供など様々な分野で活動中。

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