
山田智和が語る、変貌する世界への視線 映像作家が見た2020年
山田智和- インタビュー・テキスト
- 麦倉正樹
- 撮影:山本華 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)
『東京マラソン』やスーパームーン、大晦日の年をまたぐ瞬間といったものに目を向けてきた、山田智和自身の物語――「仕事じゃなくても、常に記録したいものがある」
―実際、何かを撮ったりしていたのですか?
山田:それこそ、緊急事態宣言が出された翌日の4月8日が「スーパームーン」っていう月が地球に最も近づく日だったんですけど、知り合いのビデオグラファーたちに声をかけて、世界各地から見たスーパームーンの映像を送ってもらって。それを僕が編集してアップロードしたりしていました。
―そんなことをされていたんですね。
山田:視聴数2000もいってない、謎の動画なんですけど(笑)。
山田:ただ、そういうことは、もともとやっていたんですよね。2014年の東京マラソンのとき、誰に頼まれたわけでもないのに、友だち10人ぐらいにカメラを渡して当日のマラソン風景を撮ってもらって、それを編集したものをアップロードしたり。あと、大晦日の夜の日付が変わる瞬間の映像をみんなに撮ってもらって、それを僕が急いで編集して元旦に公開したり。そういう遊びは以前からやっていたので、結果的にやることは変わらなかったというか。
―それは仕事とは関係なく?
山田:自分は仕事じゃなくても撮りたいものがあるというか、常に記録したいものがあるんですよね。2014年に東京マラソンを撮ったのも、その年でコスプレが終わりになるって聞いたからで(テロ対策のため、翌年の東京マラソンから、仮装しての走行は禁止になった)。世界的に見てもこんなに面白いイベントが、その年で終わるなんてもったいないし、これは記録しなきゃっていう。今年、スーパームーンをみんなで撮ったのも、そういうことなのかなって思います。
あいみょん“裸の心”のMVが捉えたもの。自粛期間中、最も制約の多い状況で作られたからこその意味
―とはいえ、5月の終わりには緊急事態宣言も解除され、徐々に仕事のほうも動きはじめていったのでは?
山田:そうですね。結構久々の現場になったのは、あいみょんの“裸の心”の現場だったかな。それは事前にものすごくいろんな企画を出しましたね。ただ「じゃあ、家でリモートで撮る?」とかいろいろ考えていたんですけど、その頃って、そういう映像ばっかり見させてられていたじゃないですか。
―そうですね。
山田:それは別に僕らはやらなくていいんじゃないかっていう。みんながそうしているからって、自分たちもそうする必要は全然ないなって思ったんですよね。それで、少人数の撮影が許されるまで待とうってことにして、スタッフの人数も最小限に絞って。あと、都内からは出ないでくれっていうのも言われていたんですよね。だから、条件的にはいろいろ厳しいところがあったんですけど。
―それが結果的に、こういう形になったと。
山田:だったらもう、ゼロでやろうよって。曲のタイトルも「裸の心」だし。で、そういう形でやりはじめて、そこに自分の好みとか、自分のテーマである「光と闇」、あるいは「水」といったニュアンスを後から足していきました。
あと、この作品は、僕が自分でカメラもやっているんですけど、あいみょんの表情とかに呼応して、思わず寄ってしまっているんですよね。でもそれがすごくいいなって。最後も、本人に近づき過ぎてシャワーの湯気でレンズが曇り出しているんですけど、そういう偶然性を取り込めたのもいいなって思うんです。やっぱり月じゃなくて、人の顔が撮りたいなって(笑)。
―(笑)。長回しのワンカットで撮っているし、ある種のドキュメンタリーですよね。ただ、その生々しさが、この曲の歌詞の世界と相まって、親しい人にも気軽に会えなかった、あの頃の記憶を呼び起こすような気もしました。
山田:あのときの感じをどこか肯定したいというか、ちゃんとポジティブな感じで残しておきたかったんです。だから、あいみょんがこのMVで賞を獲った(『MTV Video Music Award Japan 2020』で、最優秀女性アーティストビデオ賞を受賞した)のは、ひとつの象徴みたいなものだったのかなって思っています。美術とセットが綺麗で、すごく作り込まれた世界のもの、あるいはロケーションがすごいものではなく、こういうシンプルなものを選んでもらえたっていうのは、すごく2020年として意味があったというか。
どれだけの犠牲の上に、いまがあるのだろうかーー死生観を表現した、米津玄師“カムパネルラ”
―そして8月には、あいみょんと並んでもうひとり山田監督にとって重要なアーティストである米津玄師さんの“カムパネルラ”のMVが公開されましたが、これは先ほどのあいみょんのMVとは打って変わって、とても「抜け」のいい映像になりましたね。
山田:撮影したのは、夏とかでロケ撮影も許されはじめた時期だったんですけど、これは楽曲自体が宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』をモチーフにしているので、その「死生観」を全面に出したいと考えていました。その境界線の曖昧さというか、身近にある死や病を、美しさの中でうまく表現できないかなと思って。
―このタイミングで「死生観」というのも、大胆と言えば大胆ですよね。
山田:そうですね。ただ、米津さんの場合は、アルバムのレコーディングにも行かせてもらって、そこでコロナの状況下についてとか、いろいろ話すことができたんですよね。それがこのMVには反映されているかもしれないです。
―ちなみに、どんなことを話したんですか?
山田:やっぱりいまは、いろんなことを振り返る時間があって……いろんな人の思いとか、自分の大事なものとか、そういうものをどれだけ犠牲にしてきたうえで、いまの自分があるんだろうってことを話して。それこそ『銀河鉄道の夜』にもあるような、人の犠牲の上に成り立つ何かとか。そういうモチーフは、その会話の中から生まれてきたものかもしれないです。
書籍情報

- 『虹の刻』
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2020年12月24日(木)発売
著者:村上虹郎、山田智和
価格:3,080円(税込)
発行:CCCメディアハウス
プロフィール
- 山田智和(やまだ ともかず)
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映画監督、映像作家。東京都出身。クリエイティブチームTokyo Filmを主宰、2015年よりCAVIARに所属。2013年、『WIRED Creative Huck Award』にてグランプリ受賞、2014年、『ニューヨークフェスティバル』にて銀賞受賞。水曜日のカンパネラやサカナクションのミュージックビデオを手がけ、徐々に頭角を表していく。2018年にはヒップホップシーンのみならず幅広い世代に衝撃を与えたKID FRESINOの“Coincidence”や、YouTube再生回数が6億回以上を記録した米津玄師の“Lemon”、あいみょんの“マリーゴールド”、星野源“Same Thing (feat. Superorganism)”など、数々の話題となったミュージックビデオを演出する。また、NIKE、SUNTORY、GMOクリック証券、TOD'S、PRADA、GIVENCHY、Valentino × undercover等の広告映像や、ファッション誌のビジュアル撮影も行うなど、その活動は多岐に渡る。渋谷駅で行われたエキシビション『SHIBUYA / 森山大道 / NEXT GEN』にて「Beyond The City」を発表。伊勢丹にて初の写真展『都市の記憶』開催。