インタビュー

入江陽×柴田聡子 配信のドラマから感じる、フィクションの功罪

入江陽×柴田聡子 配信のドラマから感じる、フィクションの功罪

インタビュー・テキスト
松井友里
撮影:上澤友香 編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

ドキュメンタリーよりショックが大きいときがある。フィクションの危ういエネルギー

―ドラマに限らず、力のある芸術は受け取ることで自分が変わってしまうような感覚がありますね。

柴田:自分のマインドや人生が変わるようなものを、芸術には求めてしまいますね。

入江:うちのめされたり、自分を壊してもらえたりする快感って確かにあります。俺って影響されたかったんだなって、いま話しながら自分でちょっとびっくりしました(笑)。

柴田:私はどちらかというとドキュメンタリーの方が圧倒的に見ているので、今回は入江さんからおすすめしてもらった作品が中心になっちゃいました。

左から:柴田聡子、入江陽

入江:ドキュメンタリーって、作品によってはすごく自分の心に負担になるときがありませんか? 最近、『未解決ミステリー』という『ストレンジャー・シングス 未知の世界』の製作陣が関わっている実際の未解決殺人事件の話を取り上げたNetflixのドキュメンタリーを見始めたんですけど、「なんで自分はこれを見て面白いと思っているんだろう?」とだんだん思ってくるんですよね。

未解決事件についての番組って、口実として「未解決だから情報を集めるために番組を作っている」ということにしている感じがして。ドキュメンタリーを見ているときって、題材によっては、すごく不謹慎なものを楽しんでいるんじゃないかという葛藤があります。

『未解決ミステリー』予告編
殺人事件や超常体験、謎の失踪など、実際に起こった未解決の事件や不可解な現象を探求するドキュメンタリー。

―現実の事件をどこかエンターテイメント的に消費してしまっていることに対する罪悪感ということですよね。

柴田:私は、ドキュメンタリーよりもフィクション作品のほうが、見た後に再浮上してこられないくらい、ひどく落ち込んでしまったりするんですよ。だからこそ、「フィクションだから」と言ってどんな表現もオッケーということにしてしまうと、とんでもない表現が横行してしまうんじゃないかと、最近考えていたんです。

画的にもお話的にも、フィクションの中で、どんどんリアルを追求できるようになって、どんなフェイクも作れるようになっていることに、なんとなくどきどきする。フィクションと現実は、はっきりと別れていない危うさがあるということを心していないと、やがて怖いことになりそうだなって。

入江:それは相当鋭い指摘かもしれない。フィクションを見てショックを受けたときに、嘘だとしても、ショックを受けたこと自体は変わらないから。そこで受けたショックって、数値化できない分、別の形で出てきそうですよね。

柴田:現代はそのショックに一つひとつ対応する時間もないから、見過ごされていったときに、溜まって溜まって、どうしようもない膿みたいなものができてしまいそうで。作品を作るうえで超えてはいけない危うい線を踏み越えようとしていく感じが、最近のエンターテイメントの面白さではあるかもしれないし、自分も楽しいと思う部分があるんですが、同時に葛藤を感じます。

柴田聡子

―歌の言葉も、ときには祝福や呪いのように強い力を持ってしまうことがあるからこそ、作り手の立場として感じる直感的な危惧のように思いました。

入江:呪いっぽい言葉のほうが面白いから広まると思うんですよ。「絶対にこうだ」って決めつけたり、敵を作ったり。でも自分は、忍ばせるような形でも、呪いになってしまいそうな言葉は広めたくないなと思います。それをしない自制心や、品のようなものは持っていたいです。

柴田:ナイフのように刺せる言葉はいくらでも持っていると思うからこそ、踏みとどまりたいと思います。でも、それをやってしまう快感があるのもわかる。人にこんな風に伝わるんだろうなって想像したものが、実際に思った通りに伝わって、人がその言葉に熱狂したり、夢中になったりすることって結構な快感だと思うから。

入江:フィクションの場合、「作り話なんで」って、てへぺろできるからこそ、本気の悪意を込められる怖さはある気がしますよね。表現者の立場からすると、昔は規制と言うと、たとえば映倫(映画倫理機構)みたいな存在って、敵のようなイメージがあったじゃないですか。でも、ああいうものがあることで、「誰かが止めてくれるだろうから、思い切りバットを振ろう」とかえってのびのび作れる側面もあるのかもしれない。たとえば配信サービスのオリジナル作品で、スポンサーなどによる規制もなく自由に作られたものが、これだけ大人数に見られちゃう状況を実際に目の当たりにするとそんな風にも思います。

柴田:視聴者側は、見たものをつい無防備に受け入れてしまうじゃないですか。自分もいち視聴者として、フィクションを受け取るほうも、踏み込んではいけないところに行く前に、踏みとどまるためにはどうしたらいいんだろうと思うんですけどね。

入江:自分もかなり無防備に色々な作品を見ているかも、と思って怖くなりました。

柴田:その無防備さによって、いい方向に影響を受けたりもするから、すべてはバランスだと思うんですけどね。面白いコンテンツがたくさんあるこの時代に生まれて最高! という気持ちもあるし。

入江:いくら消費しても終わらない、浴びまくる快感はありますよね。

柴田:伝説的に語られるようなアディクティックな偉人が現代に生きていたら、きっと配信作品を見まくって死んじゃうだろうな、と思うくらいには最近の作品って魅力的。身を滅ぼしかねないほど、まじで面白い。でも、昔の時代を覚えている立場からすると、いまの時代の危うさも感じるから、そういう意味で、入江さん言うところの「映倫」みたいな古臭いと思われる部分も必要だったりするのかなと思う。

入江:口うるさい立場と自由に作りたい立場の対立が常に必要なのかもしれないですね。コンテンツをすべて検閲する国みたいになるのはだめだし、引っ張り合いがある状態が大切だと思います。

入江陽

柴田:人間の性質として、口うるさい存在がなくてもよくなっていけるほど賢くもなくて、要所要所で引っ張り合いがないと、うまいこといい方向に進まない生きものなんだと思う。だから「自分はなんか胸糞悪かったんです、これって多くの人が見るのはどうかと思う」くらいの素朴な感想を、みんながもっと言っていったほうがいいと思うんですよね。

入江:最近、シンプルに感想を言いづらくないですか。「こんな風に言うと、逆張りだと思われそうだな」とか、つい思ってしまって。

柴田:すべてにおいて、「その心は?」が、ないといけない感じはしますよね。でも「なんか嫌だ」っていうのは、なにも考えていないこととは違うと思う。だってその「なんか嫌」は、一発で核心にジャンプする感覚かもしれないじゃないですか。だからそのためにも、純度の高い自分の感覚を覚えておかないといけないなと思います。

入江:直感的な違和感って、結構重要ですよね。柴田さんの予感は15年後くらいにもっと表面化してくる問題を予言しているような気がします。

柴田:節度とか品って、もはや古臭い感覚なのかもしれないですけどね。

入江:『THIS IS US/ディス・イズ・アス』は、そういうご時世へのカウンターとしてもいい作品なのかもしれないと思います。じわじわとすごく愛があって。

柴田:恥ずかしい話だけど、当たり前の愛みたいなものを疑い始めるといけない気がしていて。だから『THIS IS US/ディス・イズ・アス』や『After Life/アフター・ライフ』みたいなドラマが、いまは胸に迫るのかな。

「2人は配信ヘッズ」第2回で話題にあがった配信作品

『THIS IS US/ディス・イズ・アス 36歳、これから』(Amazon Prime Video)
『After Life/アフター・ライフ』(Netflix)
『デレク』(Netflix)
『ジ・オフィス』(Amazon Prime Video)
『未解決ミステリー』(Netflix)

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連載情報

『2人は配信ヘッズ』

シンガーソングライターの入江陽と柴田聡子が、自身の気になる配信動画サービスの作品を語り合う。話題が逸れたり、膨らんだりするのも自由きままな、読むラジオのような放談企画。

プロフィール

入江陽(いりえ よう)

1987年、東京都新宿区生まれ。現在は千葉市在住。シンガーソングライター、映画音楽家、文筆家、プロデューサー、他。今泉力哉監督『街の上で』(2021年春公開予定)では音楽を担当。『装苑』で「はいしん狂日記」、『ミュージック・マガジン』で「ふたりのプレイリスト」という連載を持つ。最新曲は“週末[202009]”。

柴田聡子(しばた さとこ)

1986年札幌市生まれ。恩師の助言により2010年より音楽活動を開始。最新作『がんばれ!メロディー』まで、5枚のオリジナルアルバムをリリースしている。また、2016年に上梓した初の詩集『さばーく』では現代詩の新人賞を受賞。雑誌『文學界』でコラムを連載しており、歌詞にとどまらない独特な言葉の力が注目を集めている。2017年にはNHKのドラマ『許さないという暴力について考えろ』に主人公の姉役として出演するなど、その表現は形態を選ばない。2020年7月3日、4曲入りEP『スロー・イン』をリリース。2021年3月24日、『がんばれ!メロディー』アナログ盤の発売が決定している。

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