特集 PR

相馬千秋×石倉敏明 いま芸術に必要な「集まる」ことの新しい定義

相馬千秋×石倉敏明 いま芸術に必要な「集まる」ことの新しい定義

EPAD
インタビュー・テキスト
島貫泰介
編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

演劇やダンスあるいは落語や漫才など。これらは演者と観客が同じ空間と時間を共有するライブ性を一つの軸として発展してきた文化だ。新型コロナウイルスの流行によって、その軸が地球規模で大きく揺らいでいるのが現在だが、同時にパフォーミングアーツの可能性や定義を再検討し、定義し直す好機でもあるかもしれない。例えば記録に残しづらいこれらの表現形態を「アーカイブ」するにはどのようにすればいいのだろうか?

それを実践的に考える試みが、「緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業(略称:EPAD)」だ。各ジャンルの団体や学術機関が連携し、舞台芸術のアーカイブ化を促進し、映像配信などを通じて作品へのアクセシビリティを高めていくという。

そういったアーカイブと活用の可能性を考えるために今回話を聞くのが、アートプロデューサーの相馬千秋と人類学者の石倉敏明だ。コロナ禍に先行して早くからVRを演劇に持ち込んだ相馬と、芸術や芸能が持つアーカイブ性、伝承性を研究する石倉に、アーカイブ構築が向かっていく未来を尋ねた。

相馬千秋(そうま ちあき)<br>NPO法人芸術公社 代表理事 / アートプロデューサー。2017年より『シアターコモンズ』実行委員長兼ディレクターを務めるなど、演劇、美術、社会関与型アートなどを横断するプロジェクトのプロデュース、キュレーションを国内外で多数手掛けている。『あいちトリエンナーレ2019』のキュレーター(舞台芸術)も務めた。
相馬千秋(そうま ちあき)
NPO法人芸術公社 代表理事 / アートプロデューサー。2017年より『シアターコモンズ』実行委員長兼ディレクターを務めるなど、演劇、美術、社会関与型アートなどを横断するプロジェクトのプロデュース、キュレーションを国内外で多数手掛けている。『あいちトリエンナーレ2019』のキュレーター(舞台芸術)も務めた。
石倉敏明(いしくら としあき)<br>1974年生まれ。人類学者。秋田公立美術大学美術学部准教授。神話や宗教を専門とし、アーティストとの協働制作を行うなど、人類学と現代芸術を結ぶ独自の活動を展開している。
石倉敏明(いしくら としあき)
1974年生まれ。人類学者。秋田公立美術大学美術学部准教授。神話や宗教を専門とし、アーティストとの協働制作を行うなど、人類学と現代芸術を結ぶ独自の活動を展開している。

「集まる」ことの定義を変える、再設定するようなものを発明しなければならない。(相馬)

―コロナ禍が舞台芸術に与えた影響はさまざまにありますが、密集や接触を避ける方法としてVRは有効な対応の一つだと思います。相馬千秋さんは日本国内では、早くからVRを用いたパフォーマンスをプロデュースしてきましたね。

相馬:最初にVRを使ったのは『あいちトリエンナーレ2019』での小泉明郎作品『縛られたプロメテウス』ですから、コロナ前のことでした。演劇は、複数の人間がわざわざ集まって何かを見るという特殊な振る舞いの芸術ですから、物理的に集まることができなくなったコロナ以後、私自身も様々な葛藤を抱えました。なんとかこの逆境から「集まる」ことの定義を変える、再設定するようなものを発明しなければならない。その一つの、私なりの回答がVRだったんです。

小泉明郎『解放されたプロメテウス』 ©シアターコモンズ’21 / Photo by Shun Sato
小泉明郎『解放されたプロメテウス』 ©シアターコモンズ’21 / Photo by Shun Sato(サイトを見る

―たしかに相馬さんがディレクターをされていて、現在開催中の『シアターコモンズ’21』でも、4つのVR作品がラインナップされています。

相馬:VRというとテクノロジーの新規性やバーチャルなイメージだけが一人歩きしがちですよね。でも、演劇の原初的な本質とVR(仮想現実)は非常に密接に関わっていると私は考えています。

古代ギリシャ演劇も日本の能楽も古来の劇場は屋外にあって、観客が暮らす都市や共同体の現実を前提に、リアルな俳優の身体が関与し、虚構を二重写しにすることで演劇的なるものが立ち上がっていた。そう考えると、演劇というのは人類が発明した最古にして最強のVR装置とも言えるのではないか。いま『シアターコモンズ』でやろうとしてるのは、演劇が本来持っていたVR性を、テクノロジーの力を借りて再設定することだと思っています。

ツァイ・ミンリャン『蘭若寺の住人』台湾を代表する巨匠映画監督ツァイ・ミンリャンによる、初のVR映画上映の様子 / 『シアターコモンズ’21』 / Photo by Shun Sato
ツァイ・ミンリャン『蘭若寺の住人』台湾を代表する巨匠映画監督ツァイ・ミンリャンによる、初のVR映画上映の様子 / 『シアターコモンズ’21』 / Photo by Shun Sato(サイトを見る

石倉:僕が関心を持っている地域の祭りや芸能にも、目の前の現実を巧みに変形させる様々な仕掛けが伝えられています。特殊なヘッドセットこそありませんが、例えば精霊・祖霊を迎えるお盆やお正月の時期には、目に見えない領域と、ある種のバーチャルな回路を開いていく民俗的な技法がある。演劇の起源が芸能や儀礼と深くつながっているという説は腑に落ちます。

相馬さんが「集まること」の困難を感じていらっしゃったように、僕もこの一年は芸能や祭事といった「集まり」に参加できないもどかしさを感じていました。旧暦の小正月の頃や夏のお盆は、東北ではいちばん祭りが集中している時期で、例年どこかの行事に参加していたんです。

象潟の盆小屋行事(秋田県にかほ市、2018年)撮影:石倉敏明
象潟の盆小屋行事(秋田県にかほ市、2018年)撮影:石倉敏明

石倉:どんな小さな祭りも人間だけのものではなく、共同体のなかに、マレビトや死者、精霊といった存在と接触する回路を開く、重要な機会を提供してくれています。そういうハイブリッドな「集まり」に立ち会うことができないもどかしさは、僕にとって切実なものでした。だからこそ、目に見えない回路を再構築する技術としてのアートやVR体験への期待はすごく大きいです。

相馬:コロナになって前景化したことの一つに「Tele(遠隔)」の概念がありますよね。テレ・ワークとかテレ・カンファレンスとか、日常の営みの多くが急激なテレ化=遠隔化を迫られた結果、時間や距離の感覚が乱調してしまう。

その失調がきつかった時期には、いっそのことテレパシーで誰かと情動を交換したり、テレポーテーション(瞬間移動)して会いたい人に会いに行きたいと妄想しました(笑)。科学的には無理でも、芸術や芸能はそうした飛躍を想像力によって可能にする力がある。

石倉:ソーシャルディスタンスというと、「物理的に保つべき距離」に話が還元されがちですけれど、「距離」が持つ意味は身体の範囲だけじゃないですよね。生者と死者、星と暦、季節の運行や気象の移り変わり、生物種間の関係、家族や対人関係も。時間感覚も含めたいろんなものの距離を縮めたり広げたりすることで、人間は世界のなかにどのようにして自分の居場所を確保するかという問いを引き受け続けてきたのだと思います。

その距離感が大きく変わりつつあるのが現在であって、この危機を次の時代への大きな変革としてとらえることも可能でしょう。だから相馬さんが新しいかたちの演劇やアートのプラットホームを作ろうとしていることに興味がありますし、そういった試みから世代を超えて技術や情報を伝える発明が生まれることを期待しています。

Page 1
次へ

ウェブサイト情報

緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業(EPAD)
緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業(EPAD)

文化庁より令和2年度戦略的芸術文化創造推進事業「文化芸術収益力強化事業」として採択された「緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業」。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い困難に陥っている舞台芸術等を支援、収益強化に寄与することを目的に設置され、新旧の公演映像や舞台芸術資料などの収集、配信整備、権利処理のサポートを行います。

Japan Digital Theatre Archives

EPADの事業の一環として、早稲田大学演劇博物館が監修・運営を務める特設サイト。EPADに収蔵された1960年代から現在に至る公演映像の情報が検索できます。

プロフィール

相馬千秋(そうま ちあき)

アートプロデューサー / NPO法人芸術公社代表理事。横浜の舞台芸術創造拠点「急な坂スタジオ」初代ディレクター(2006~2010年)、国際舞台芸術祭『フェスティバル/トーキョー』初代プログラム・ディレクター(2009~2013年)等を経て、2014年にNPO法人芸術公社を設立。国内外で舞台芸術、現代美術、社会関与型芸術を横断するプロデュースやキュレーションを多数行う。2015年フランス共和国芸術文化勲章シュヴァリエ受章。立教大学現代心理学部映像身体学科特任准教授(2016~2021年)。『あいちトリエンナーレ2019』パフォーミングアーツ部門キュレーター。2017年に東京都港区にて『シアターコモンズ』を創設、現在まで実行委員長兼ディレクターを努めている。

石倉敏明(いしくら としあき)

1974年東京都生まれ。人類学者。秋田公立美術大学アーツ&ルーツ専攻准教授。シッキム、ダージリン丘陵、カトマンドゥ盆地、東北日本等でフィールド調査を行ったあと、環太平洋地域の比較神話学や非人間種のイメージをめぐる芸術人類学的研究を行う。美術作家、音楽家らとの共同制作活動も行ってきた。2019年、『第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際芸術祭』の日本館展示『Cosmo-Eggs 宇宙の卵』に参加。共著に『野生めぐり 列島神話をめぐる12の旅』『Lexicon 現代人類学』など。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

あらかじめ決められた恋人たちへ“日々feat.アフロ”

何かを我慢することに慣れすぎて忘れてしまいそうになっている「感情」を、たった10分でこじ開けてしまう魔法のようなミュージックビデオ。現在地を確かめながらも、徐々に感情を回転させていくアフロの言葉とあら恋の音。人を傷つけるのではなく、慈しみ輝かせるためのエモーションが天井知らずの勢いで駆け上がっていった先に待ち構えている景色が、普段とは違ったものに見える。これが芸術の力だと言わんばかりに、潔く堂々と振り切っていて気持ちがいい。柴田剛監督のもと、タイコウクニヨシの写真と佐伯龍蔵の映像にも注目。(柏井)

  1. アイナ・ジ・エンドの心の内を込めた『THE END』 亀田誠治と語る 1

    アイナ・ジ・エンドの心の内を込めた『THE END』 亀田誠治と語る

  2. 佐藤健がギャツビー新イメージキャラクターに起用、ブランドムービー公開 2

    佐藤健がギャツビー新イメージキャラクターに起用、ブランドムービー公開

  3. 広瀬すずがワンカット撮影にチャレンジ AGCの新テレビCMオンエア 3

    広瀬すずがワンカット撮影にチャレンジ AGCの新テレビCMオンエア

  4. 『鬼滅の刃』をイメージした眼鏡コレクションに煉獄杏寿郎モデルが追加 4

    『鬼滅の刃』をイメージした眼鏡コレクションに煉獄杏寿郎モデルが追加

  5. 隈研吾が内装デザイン 「イッタラ表参道 ストア&カフェ」2月19日オープン 5

    隈研吾が内装デザイン 「イッタラ表参道 ストア&カフェ」2月19日オープン

  6. 青葉市子『アダンの風』全曲解説。作曲家・梅林太郎と共に語る 6

    青葉市子『アダンの風』全曲解説。作曲家・梅林太郎と共に語る

  7. 片岡愛之助がイヤミ役 ワイモバイル新CMで芦田愛菜、出川哲朗と共演 7

    片岡愛之助がイヤミ役 ワイモバイル新CMで芦田愛菜、出川哲朗と共演

  8. 水原希子×さとうほなみ Netflix『彼女』に真木よう子、鈴木杏、南沙良ら 8

    水原希子×さとうほなみ Netflix『彼女』に真木よう子、鈴木杏、南沙良ら

  9. King & Prince平野紫耀と杉咲花がウサギ姿で一悶着 Huluの新CM 9

    King & Prince平野紫耀と杉咲花がウサギ姿で一悶着 Huluの新CM

  10. Netflixドラマ『ブリジャートン家』、時代劇ロマンスが大ヒット 10

    Netflixドラマ『ブリジャートン家』、時代劇ロマンスが大ヒット