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相馬千秋×石倉敏明 いま芸術に必要な「集まる」ことの新しい定義

相馬千秋×石倉敏明 いま芸術に必要な「集まる」ことの新しい定義

EPAD
インタビュー・テキスト
島貫泰介
編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

テクノロジーと学術的な叡智を結集し、演者やアーティストと一緒に作り上げていくのが、これからのアーカイブなのではないか。(石倉)

―アーカイブについても話をできればと思うのですが、先程、石倉さんのおっしゃったような「社会や人間の関係の再構築」に関連して思い出すのが、直島に移住して『瀬戸内「   」資料館』という郷土資料館を作るプロジェクトを進めている下道基行さんです。彼はアーティストであるけれど、直島では司書、アーキビストのような働きをしようとしていて、それも新しい社会参加、関係性を再構築する実験に思えます。

宮浦ギャラリー六区『瀬戸内「百年観光」資料館』 / プロジェクト名:『瀬戸内「 」資料館』(監修:下道基行) 撮影:下道基行 協力:公益財団法人 福武財団
宮浦ギャラリー六区『瀬戸内「百年観光」資料館』 / プロジェクト名:『瀬戸内「 」資料館』(監修:下道基行) 撮影:下道基行 協力:公益財団法人 福武財団

―石倉さんは、2019年の『ヴェネチア・ビエンナーレ』で下道さんとチームを組んで参加していますね。

石倉:下道さんとは「津波石」(津波で海底から陸上に運ばれた岩石)の撮影のために2018年から一緒に沖縄の離島を旅してまわるなかで、いくつものユニークなアーカイブに出会いました。島々にある図書館や資料館は、蔵書数や運営資金といった面では困難を抱えているところも多いのですが、どの施設もすごくユニークで、司書さんたちも親切で素敵なんですよ。

例えば小さな島に伝わる歴史伝承の記録だったり、手書きでコピー製本された伝説集だったり。在野の民俗学者や郷土史家、郷土詩人といった人びとが残したユニークな仕事が、それぞれの施設の守り人によって保管されています。

下道基行との津波石調査(多良間島、2018年)。撮影:石倉敏明
下道基行との津波石調査(多良間島、2018年)。撮影:石倉敏明
『Cosmo-Eggs | 宇宙の卵』 / 『ヴェネチア・ビエンナーレ2019』日本館展示風景 撮影:石倉敏明
『Cosmo-Eggs | 宇宙の卵』 / 『ヴェネチア・ビエンナーレ2019』日本館展示風景 撮影:石倉敏明

石倉:それらを巡りながらヴェネチアのための作品制作を進めていったのですが、下道さんと僕には共通の関心があって、それは「既存の美術館や博物館の分類法ってもったいないよね」というものでした。例えば学術的な分類法に従うだけでなく、新しいリアリティーを作ろうとするアーティストの構想力を起点に社会的・地域的・歴史的に価値のある記録を残そうとするとき、その役割が専門性や職業によってばらばらに切り離されているのはもったいない。

むしろそれらをリミックスしたり越境的に活用することが、地域の小さな現実をもとに新しいリアリティーを制作する助けになるのではないか。そのために島々で暮らすおじいさんやおばあさんたちを訪ね、資料が存在しないものは自分たちでマッピングして、新たに「津波石」の一次資料を作ったりしました。

―その成果の一つが、下道さんが作ろうとしている資料館なんですね。

石倉:他の様々な文脈もあると思いますが、沖縄での経験も、そこにはきっと活かされていると思います。下道さんは、直島をはじめ瀬戸内海の観光の歴史に関わる「百年観光」のアーカイブを作っている最中ですが、それは外から訪れる旅行者だけでなく、島に住んでいる居住者にも開かれた、新しい記録・保存・開示のフォーマットを発明する実験なのだと思います。

資料を集めて閲覧可能にするだけじゃなく、関係する映画を上映したり、ワークショップを行ったり。そうやって集合的な記憶を再編集して地域に開いていくことは、現在新たに浮上しているアートや人類学の要請でもあるはず。

相馬:パフォーミングアーツのためのアーカイブ設立は個人的にも悲願だったので、EPADの始動は心底嬉しいです。ただパフォーミングアーツをどのように残すかは今後さらに議論を進めていく必要があるとも思っています。

演劇における最強のアーカイブは戯曲ですが、加えて映像記録もしっかりアーカイブできれば、未来の人たちが参照できるツールとして相乗効果を発揮するでしょう。しかし表現形式や観客の体験が多様化する中、それだけでは全く十分でない、ということも痛感しています。

文化庁より令和2年度戦略的芸術文化創造推進事業「文化芸術収益力強化事業」として採択された「緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業(EPAD)」。舞台芸術等を支援、収益強化に寄与することを目的に設立された
文化庁より令和2年度戦略的芸術文化創造推進事業「文化芸術収益力強化事業」として採択された「緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業(EPAD)」。舞台芸術等を支援、収益強化に寄与することを目的に設立された(サイトを見る

―相馬さんが制作に関わることの多い高山明 / Port Bの作品などは、まさに記録に残しづらい作品ですよね。ツアー形式ですから参加者ごとに体験するものが異なるし、分散的な経験を作ることをアーティスト自身も意図している。

相馬:記録映像のようなものがあっても、ツアーの経験そのものではもちろんありえませんし、ツアーのために作った地図を添えればアーカイブになるのかと言えばそれだけでも足りない……。同様に、個人が没入する経験を作り出すVR演劇も、再生環境含めどうやったらアーカイブとして残すことができるのか、悩ましい課題です。

―そのヒントになるものとして、石倉さんが研究してきた芸能のあり方がある気もします。見取り稽古や口承によって人から人へと伝えられていく、生きたアーカイブとしての芸能。そこでは世代を重ねることで次第に生じる変化も、受け入れるべきものとして意識されています。

石倉:定量的な計測だけではなく、インタビューや参与観察によって調査していく方法のことをエスノグラフィー(民族誌)といいますが、一回性の出来事を記録することに、現代の人類学者は大きな関心を持っています。

例えばセンサリーメディア(感覚メディア)研究では、視覚情報だけに限らず、聴覚や嗅覚といった感覚にまつわる表現をどのように記録・保存していくかに取り組んでいます。ハーバード大学のSensory Ethnography Lab(感覚民族誌学ラボ)はとても先進的で、その成果はドキュメンタリー映画や現代アートの作品としても発表されて高い評価を得ています。

この他にも、高機能のカメラを使って民俗芸能の演目そのものを3Dデータとして残していくような取り組みも行われていますし、VR盆踊りのような芸能の実験も現れています。テクノロジーと学術的な叡智を結集し、演者やアーティストと一緒に作り上げていくのがこれからのアーカイブではないでしょうか。

相馬:日本の文化行政の枠組みだとどうしても定められた年度内で完結するものを求められます。でもアーカイブというのは100年後、200年後を見越して作られるべきもの。そういった長いスパンを見据えて、議論を重ねていきたいです。

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ウェブサイト情報

緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業(EPAD)
緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業(EPAD)

文化庁より令和2年度戦略的芸術文化創造推進事業「文化芸術収益力強化事業」として採択された「緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業」。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い困難に陥っている舞台芸術等を支援、収益強化に寄与することを目的に設置され、新旧の公演映像や舞台芸術資料などの収集、配信整備、権利処理のサポートを行います。

Japan Digital Theatre Archives

EPADの事業の一環として、早稲田大学演劇博物館が監修・運営を務める特設サイト。EPADに収蔵された1960年代から現在に至る公演映像の情報が検索できます。

プロフィール

相馬千秋(そうま ちあき)

アートプロデューサー / NPO法人芸術公社代表理事。横浜の舞台芸術創造拠点「急な坂スタジオ」初代ディレクター(2006~2010年)、国際舞台芸術祭『フェスティバル/トーキョー』初代プログラム・ディレクター(2009~2013年)等を経て、2014年にNPO法人芸術公社を設立。国内外で舞台芸術、現代美術、社会関与型芸術を横断するプロデュースやキュレーションを多数行う。2015年フランス共和国芸術文化勲章シュヴァリエ受章。立教大学現代心理学部映像身体学科特任准教授(2016~2021年)。『あいちトリエンナーレ2019』パフォーミングアーツ部門キュレーター。2017年に東京都港区にて『シアターコモンズ』を創設、現在まで実行委員長兼ディレクターを努めている。

石倉敏明(いしくら としあき)

1974年東京都生まれ。人類学者。秋田公立美術大学アーツ&ルーツ専攻准教授。シッキム、ダージリン丘陵、カトマンドゥ盆地、東北日本等でフィールド調査を行ったあと、環太平洋地域の比較神話学や非人間種のイメージをめぐる芸術人類学的研究を行う。美術作家、音楽家らとの共同制作活動も行ってきた。2019年、『第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際芸術祭』の日本館展示『Cosmo-Eggs 宇宙の卵』に参加。共著に『野生めぐり 列島神話をめぐる12の旅』『Lexicon 現代人類学』など。

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