インタビュー

入江陽×柴田聡子 YouTubeやドキュメントに潜むアブない「真実らしさ」

入江陽×柴田聡子 YouTubeやドキュメントに潜むアブない「真実らしさ」

インタビュー・テキスト
松井友里
撮影:タケシタトモヒロ 編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

「真実」と「虚構」を突きつける、ドキュメンタリーの真髄

―YouTubeの話がとめどなく続いてしまいそうなので(笑)、ドキュメンタリーの話もしましょうか。柴田さんがドキュメンタリー好きだという話は以前から出ていましたね。

柴田:映像学科出身で、昔から『三里塚』シリーズ(小川紳介監督による三里塚闘争を追ったドキュメンタリー。全7作)とか『SELF AND OTHERS』(2001年、佐藤真監督)、『極北のナヌーク』(1922年、ロバート・フラハティ監督)みたいな、クラシックなドキュメンタリー映画をたくさん見てきたんですよ。ドキュメンタリーの世界ではリアリティーとフェイクの間の限りない考察、ひいては抗争とも言えるものがずっと続いている印象があって、ときにそれが問題になったりするようなこともひっくるめて、ドキュメンタリーというもののいまだ解き明かされない部分が、フィクション作品を見ることとは違う感覚で面白くて。

―前回も思ったのですが、柴田さんは虚実の境のあやうさについて関心が高いですよね。

柴田:真実にどこまでこだわったらいいのか、嘘はなんで悪いのか、逆に真実っていいことなのかとか、わからないから考え続けています。常に現実にあるものが題材になって、その記録が作品になるということに、なんとも言えない面白みを感じるんです。

入江:完全にフラットに観察や記録をするだけというスタンスって成り立たないですもんね。完全にフラットだったら、そもそも意思を持って撮りに行かないですし。

柴田:撮影って、それだけでも攻撃的な行為だから、現実に起きている問題を記録するという意義と、撮られている人が感じるストレスって、折り合いがつかない行為なんじゃないかというのも、考えてしまいますね。記録として残すべきものほど、問題がハードで複雑だったりするから。

柴田聡子

入江:そこで撮りこぼれるものもありますしね。撮影した素材の選び方次第ではまったく違う話にもできちゃいますし。その揺らぎは確かにいくら考えても考えたりないです。

―柴田さんが最近見たおすすめの作品としてあげてくれたのが『イントゥ・ザ・インフェルノ: マグマの世界』(2016年、ヴェルナー・ヘルツォーク監督)です。

柴田:マグマを題材にしているので、自然と対峙しているんだけど、結局は信仰の話になっていくのが人間らしくていいんですよね。ヘルツォークが監督で、映像も面白いですし。ドキュメンタリーって、志の高さと共に、映像的な快感もないとダメだと思っていて。だけど決め打ちで撮れないことが多いから、とんでもない時間と労力がかかるものだなあと思います。

『Into the Inferno』予告編(英語版)
インドネシア、エチオピア、アイスランド、北朝鮮にある世界有数の火山を訪れ、各地の大噴火や流れる溶岩の映像を撮影。それとともに、火山を恐れ、敬う各土地の人々の儀式を映し出す。

入江:まだ見ていないけど、ミシェル・オバマを追った『マイ・ストーリー』(2020年、ナディア・ハルグレン監督)も気になっています。

柴田:私はすごく励まされて、勇気づけられたけれど、ただただエンパワメントされるだけではない作品で、賛否両論ありそうだなと思いました。ミシェル・オバマは、苦労もしながらまっすぐに生きてきた人なんだけど、とにかくずっと「正しい」んです。そのあまりの正しさに、ちょっと疑問も感じてしまって。自伝のプロモーション活動に密着しながら作られた側面があるからだとは思うんですけど。

『マイ・ストーリー』予告編
ミシェル・オバマの回顧録『マイ・ストーリー』。その出版ツアーや読者との交流を通して、ミシェル・オバマの飾らない姿を映し出すドキュメンタリー。ミシェル・オバマの激動の人生を追い、新しいアングルでその生き様や夢に迫る。

―人の人生のすべてを推し量ることはできないので、あくまでこのドキュメンタリーの感想ですけど、彼女がしてきた努力についての話が繰り返されるたびに、その力強さに励まされつつも、頑張ってもその頑張りが返ってこなかったり、頑張れるスタートラインに立っていない人生についても思ってしまう部分はありましたね。

入江:その賛否両論感も含めて、より見たくなりました。僕が最近見て面白かったのは『ジム&アンディ』(2017年、クリス・スミス監督)です。ジム・キャリーがアンディ・カウフマンという実在のコメディアンを演じた『マン・オン・ザ・ムーン』という作品の裏側を追っているんですけど、ジム・キャリーが、自分がジムなのかアンディなのかわからないくらい役にのめり込んでいっちゃうんですよ。あまりにも似すぎていて、アンディ・カウフマンの家族が、ジム・キャリーに会って涙したり。

『ジム&アンディ』予告編
1999年の映画『マン・オン・ザ・ムーン』で伝説のコメディアン、故アンディ・カウフマンを演じたジム・キャリー。撮影以外の時間も完全にカウフマンになりきったジム・キャリーの姿を映すメイキング映像とともに、当時を回想するインタビューを行う。

―イタコみたいですね……!

柴田:面白そう!

入江:あとは『ヴォイス・オブ・ファイア ~調和の歌声~』(2020年)。ファレル(・ウィリアムス)の叔父さんが、最強のゴスペル隊を作ろうとするんですけど、市民一人ひとりの声が素晴らしくて。

『Voices of Fire』予告編(英語版)
ファレルの地元、米バージニア州ハンプトン・ロードのシンガーたちを対象にしたオーディション番組。ファレルの叔父エゼキエル・ウィリアムス司教と彼のゴスペルチームのリーダーとともに未知の才能を発掘し、ゴスペル・コーラス隊を作る。

柴田:私、ファレルの音楽はもちろん好きなんですけど、ファレルのキャラクターを苦手に感じることがあって(笑)。『ヴォイス・オブ・ファイア』も少しだけ見たけど、まだ入り込めていないんです。

入江:僕はヒップホップが好きだから、ファレルもろとも好きではいるんですよ。でもファレルだけファレルでしかないという感覚はありますね(笑)。この作品でも、彼が現れた瞬間に「ファレルだ!」って。

柴田:もちろん、そこがよさでもあると思うんですが、どこにいても「ファレルすぎる」んですよね。

入江:ただ、オーディションを受ける人たちの人生を短くまとめた映像が差し込まれて、市民一人ひとりにストーリーがある感じは、『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』に似ているかもしれません。僕が少しだけ疑問なのは、なんでこんなにオーディションが厳しいのかなってこと(笑)。みんなで歌えばいいのに、アメリカらしい競争原理が強力に働いて、めちゃくちゃ苦労してきた市民が落とされるんですよ。

入江陽

柴田:そこは厳しいショービズなんですね(笑)。

―宗教と音楽の密接さも興味深いですよね。ものすごく歌のうまい人たちが出てくるけど、自己表現じゃなくて、「持って生まれたギフトを神様のために使うんだ」という感覚で。

入江:それぞれの人生の話と、神様との出会いが絡んでくるんですよね。もしこれがキリスト教の布教活動に密着するという内容だったら、かなり印象が変わってくるけれど、音楽にフォーカスして、市民一人ひとりの人生にものすごく寄り添っているから美しいなと思います。

柴田:歌うって、最高の行為ですよね。歌っている人の姿を見ているのはたまらないものがあります。もちろん映像になっている時点で選定されているんだけど、スターじゃない人の一つひとつの出来事にスポットライトが当たっていく感じも、ドキュメンタリーの魅力だなと思います。もう1回見てみます!

左から:入江陽、柴田聡子

「2人は配信ヘッズ」第3回で取り上げた作品

「ざっくりYouTube」(YouTube)
「仲里依紗です。」(YouTube)
「SekineRisa」(YouTube)
『イントゥ・ザ・インフェルノ: マグマの世界』(Netflix)
『マイ・ストーリー』(Netflix)
『ジム&アンディ』(Netflix)
『ヴォイス・オブ・ファイア ~調和の歌声~』(Netflix)

Page 3
前へ

連載情報

『2人は配信ヘッズ』

シンガーソングライターの入江陽と柴田聡子が、自身の気になる配信動画サービスの作品を語り合う。話題が逸れたり、膨らんだりするのも自由きままな、読むラジオのような放談企画。

プロフィール

入江陽(いりえ よう)

1987年、東京都新宿区生まれ。現在は千葉市在住。シンガーソングライター、映画音楽家、文筆家、プロデューサー、他。今泉力哉監督『街の上で』(2021年春公開予定)では音楽を担当。『装苑』で「はいしん狂日記」、『ミュージック・マガジン』で「ふたりのプレイリスト」という連載を持つ。最新曲は“週末[202009]”。

柴田聡子(しばた さとこ)

1986年札幌市生まれ。恩師の助言により2010年より音楽活動を開始。最新作『がんばれ!メロディー』まで、5枚のオリジナルアルバムをリリースしている。また、2016年に上梓した初の詩集『さばーく』では現代詩の新人賞を受賞。雑誌『文學界』でコラムを連載しており、歌詞にとどまらない独特な言葉の力が注目を集めている。2017年にはNHKのドラマ『許さないという暴力について考えろ』に主人公の姉役として出演するなど、その表現は形態を選ばない。2020年7月3日、4曲入りEP『スロー・イン』をリリース。2021年5月12日、『がんばれ!メロディー』アナログ盤の発売が決定している。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

あらかじめ決められた恋人たちへ“日々feat.アフロ”

何かを我慢することに慣れすぎて忘れてしまいそうになっている「感情」を、たった10分でこじ開けてしまう魔法のようなミュージックビデオ。現在地を確かめながらも、徐々に感情を回転させていくアフロの言葉とあら恋の音。人を傷つけるのではなく、慈しみ輝かせるためのエモーションが天井知らずの勢いで駆け上がっていった先に待ち構えている景色が、普段とは違ったものに見える。これが芸術の力だと言わんばかりに、潔く堂々と振り切っていて気持ちがいい。柴田剛監督のもと、タイコウクニヨシの写真と佐伯龍蔵の映像にも注目。(柏井)

  1. cero高城晶平×折坂悠太 10年代のインディ音楽の萌芽と開花の記録 1

    cero高城晶平×折坂悠太 10年代のインディ音楽の萌芽と開花の記録

  2. 『鬼滅の刃』オリジナルアイテム第4弾 全13キャラクターのアウター&傘 2

    『鬼滅の刃』オリジナルアイテム第4弾 全13キャラクターのアウター&傘

  3. 広告に冷めた時代のアプローチ。Hondaは「フラット」を提示する 3

    広告に冷めた時代のアプローチ。Hondaは「フラット」を提示する

  4. 大滝詠一『A LONG VACATION』40周年記念盤がオリコンデイリー1位獲得 4

    大滝詠一『A LONG VACATION』40周年記念盤がオリコンデイリー1位獲得

  5. 『ノマドランド』が映すアメリカの姿。過酷な状況とノマドの精神 5

    『ノマドランド』が映すアメリカの姿。過酷な状況とノマドの精神

  6. 『森、道、市場』第1弾でアジカン、cero、折坂悠太、カネコアヤノら 6

    『森、道、市場』第1弾でアジカン、cero、折坂悠太、カネコアヤノら

  7. 中国Z世代を虜にする漢服ブーム。愛好者やデザイナーが語る 7

    中国Z世代を虜にする漢服ブーム。愛好者やデザイナーが語る

  8. 『そして、バトンは渡された』映画化 永野芽郁、田中圭、石原さとみ共演 8

    『そして、バトンは渡された』映画化 永野芽郁、田中圭、石原さとみ共演

  9. 松坂桃李、菅田将暉、賀来賢人が共演 花王「アタックZERO」新CM放送 9

    松坂桃李、菅田将暉、賀来賢人が共演 花王「アタックZERO」新CM放送

  10. GU×UNDERCOVERが初コラボ キーワードは「FREEDOM/NOISE」 10

    GU×UNDERCOVERが初コラボ キーワードは「FREEDOM/NOISE」