インタビュー

NHK震災ドラマで向き合い続けた問い。三浦直之&北野拓Pが語る

NHK震災ドラマで向き合い続けた問い。三浦直之&北野拓Pが語る

インタビュー・テキスト
麦倉正樹
編集:後藤美波(CINRA.NET編集部)

2018年に野木亜紀子脚本のドラマ『フェイクニュース』(NHK総合)を送り出した1986年生まれのプロデューサー・北野拓と、自身が主宰する劇団「ロロ」の公演はもとより、2019年にはドラマ『腐女子、うっかりゲイに告る。』(NHK総合)の脚本を手掛けたことでも知られる1987年生まれの脚本家・三浦直之が、初めてタッグを組んだオリジナル作品となった『東日本大震災10年 特集ドラマ「あなたのそばで明日が笑う」』(NHK総合で2021年3月6日放送)。

「わかる・わからないの二項対立を乗り越えるために物語はあるのだと信じています」という制作発表時の三浦のコメントが表しているように、このドラマは、被災者の心の奥底にいまもある「言葉にできない思い」を描くと同時に、震災の当事者と非当事者のあいだに広がる「心の距離」を乗り越えようとする物語でもあるという。震災から10年という節目であることはもちろん、「分断の時代」と言われて久しい昨今、本作が射程するものとは、果たして何なのか。北野プロデューサーと三浦直之の2人に、本作に込めた「思い」を聞いた。

「場所」と結びついた「記憶」。宮城県出身の三浦が被災地を訪れて感じたこと

―まずはドラマ『あなたのそばで明日が笑う』の成り立ちと経緯について教えていただけますか?

北野:今回のドラマは僕が震災当時、報道にいて被災地へ応援取材に行き、そこで感じた無力感が出発点になっています。企画段階からたくさんの方に取材をさせていただき、被災者と移住者の物語、当事者と非当事者のラブストーリーのようなものを作りたいなと思って、まずは僕のほうである程度企画を考えて。実話やモデルがある番組は数多く作られると思ったので、今回はフィクションの力で震災と向き合いたいと考えました。そこから、三浦さんに脚本をお願いしたという流れでした。

北野拓(きたの ひらく)<br>1986年生まれ。NHK入局後、報道記者・ディレクターを経て、現在はNHKエンタープライズドラマ番組部チーフ・プロデューサー。主な演出作は宮崎発地域ドラマ『宮崎のふたり』(脚本:安達奈緒子/出演:柄本明・森山未來・池脇千鶴/ギャラクシー賞奨励賞)、FMシアター『呼吸する家』(脚本:木皿泉)。主なプロデュース作は土曜ドラマ『フェイクニュース』(脚本:野木亜紀子/出演:北川景子・光石研/ギャラクシー賞奨励賞)。
北野拓(きたの ひらく)
1986年生まれ。NHK入局後、報道記者・ディレクターを経て、現在はNHKエンタープライズドラマ番組部チーフ・プロデューサー。主な演出作は宮崎発地域ドラマ『宮崎のふたり』(脚本:安達奈緒子/出演:柄本明・森山未來・池脇千鶴/ギャラクシー賞奨励賞)、FMシアター『呼吸する家』(脚本:木皿泉)。主なプロデュース作は土曜ドラマ『フェイクニュース』(脚本:野木亜紀子/出演:北川景子・光石研/ギャラクシー賞奨励賞)。

―そういう話を受けて、三浦さんはどんな反応を?

三浦:率直に、すごく嬉しかったです。震災というモチーフは、僕がこれまでロロで上演してきた作品の中にもずっと流れていました。でも、それが前面に出るというよりは、物語の背景に震災の空気があるみたいなものが多かったので、いつかちゃんと震災というものを中心に据えた物語を作りたいなっていうのは、ずっと思っていて。ただ、「それをロロでやるのはどうなんだろう?」みたいなことを考えていたタイミングで今回のお話をいただいたので、「是非、お願いします」という感じでした。

三浦直之(みうら なおゆき)<br>ロロ主宰 / 劇作家 / 演出家 。1987年生まれ、宮城県出身。2009年、主宰としてロロを立ち上げ、全作品の脚本・演出を担当。古今東西のポップカルチャーを無数に引用しながら作り出される世界は破天荒ながらもエモーショナルであり、演劇ファンのみならずジャンルを超えて老若男女から支持されている。2019年脚本を担当したNHKよるドラ『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』で第16回コンフィデンスアワード・ドラマ賞脚本賞を受賞。
三浦直之(みうら なおゆき)
ロロ主宰 / 劇作家 / 演出家 。1987年生まれ、宮城県出身。2009年、主宰としてロロを立ち上げ、全作品の脚本・演出を担当。古今東西のポップカルチャーを無数に引用しながら作り出される世界は破天荒ながらもエモーショナルであり、演劇ファンのみならずジャンルを超えて老若男女から支持されている。2019年脚本を担当したNHKよるドラ『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』で第16回コンフィデンスアワード・ドラマ賞脚本賞を受賞。

―三浦さんは、宮城県のご出身とのことですが、宮城県のどちらで生まれ育ったのですか?

三浦:僕は小学校3年生まで女川町に住んでいて、そのあと富谷市──僕が引っ越したときは富谷町だったんですけど──に引っ越して、それからずっと実家は富谷市です。ただ、僕はそのあと大学で東京に出てきて、震災当時は東京だったので、実際に現地にいた方々とは若干距離があるというか。宮城県出身ですけど、被災者の方にある当事者意識みたいなものは、あまりないと思います。

―ということは、北野さんから提案があった「当事者と非当事者のラブストーリー」というのは──。

三浦:それも含めて北野さんと一緒に考えていきましょうっていう話だったので、細かい内容について、そこまで縛りがあったわけではないです。ただ、その「当事者/非当事者」の問題というのは、僕もずっと考えていたことではあって。震災があってから僕もいろいろ興味を持って、本を読んだり、ずっと調べたりしてはいたんですけど、当事者と非当事者のあいだには、さまざまな分断が起こりやすいですし、そこにはいろんなグラデーションがあるんですよね。「当事者」と言っても、住んでいた場所の違いなどによって、感じ方や状況もそれぞれに異なるので。そういうことって、震災に限らず、いまどんどん増えていっているとも思うんですが。

―なんとなくわかります。

三浦:そういう状況の中でフィクションはどうしたら成り立つのか、物語を作ることを生業としている自分はそういうものにどう寄り添っていけるだろうか、というようなことは、今回のドラマの脚本を書く上ですごく考えたことではあります。題材が題材なので、とても緊張はしましたけど。

『東日本大震災10年 特集ドラマ「あなたのそばで明日が笑う」』あらすじ:宮城県石巻市を舞台に行方不明の夫を待ち続ける女性(綾瀬はるか)が震災を知らない建築士(池松壮亮)と出会い、心を通わせていく。ふたりの想い、願い、それを見守る人々の優しい心に包まれて、前を向き、歩み始める愛の物語。
『東日本大震災10年 特集ドラマ「あなたのそばで明日が笑う」』あらすじ:宮城県石巻市を舞台に行方不明の夫を待ち続ける女性(綾瀬はるか)が震災を知らない建築士(池松壮亮)と出会い、心を通わせていく。ふたりの想い、願い、それを見守る人々の優しい心に包まれて、前を向き、歩み始める愛の物語。

―今回の脚本を書くにあたって、現地をいろいろ取材されたとのことですが、そこで改めて感じたことって何かありましたか?

三浦:北野さんと一緒に現地を取材して回ったんですけど、そこでいろんな方たちの話を直接聞くことができたのは、本当に大きかったと思います。その中でもいちばん印象に残っているのは……石巻に大川小学校っていう津波にのまれてしまった小学校があるんですけど、許可をいただいてその中に入ることができて。震災のときにそこでお子さんを亡くされた方が、校内を案内しながら当時のことをいろいろ話してくださったんですけど、その姿はすごく印象に残っています。あと、小学校の建物自体はいまも残っているので、校内のロッカーとかに当時通っていた生徒たちの名前が貼ったままになっていて。そういうものを見ると、一気にリアリティーが立ち上がってくるんですよね。

―「場所」や「記録」によって、当時の様子が浮かび上がってくるというか。

三浦:そうですね。僕は2011年に震災があったあと、すぐに女川に行ったんですが、車でずっと走りながら海を目指している途中に昔、僕が暮らしていたアパートがあったんです。そこで、そのあたりを境に波が引いていったのが、ありありとわかったんですよね。手前にある小学校とかは残っていて。その前を通ったときは、自分がそこに通っていた頃のことが一気に思い出されました。ただ、そのアパートを境にそこから海まではもうホントに何もかもが無くなってしまっていて……そこに何があったか思い出せないんです。どんな建物が立っていたのか、自分はそこを通ってどうやって海まで行っていたんだろうとか、そういうことがいっさい思い出せなくなっていて。

―以前とは、まったく違う場所になってしまったから?

三浦:そうだと思います。そのときに、記憶っていうのは、自分の内側にあるのではなく、自分の外側にあるものを拾い集めてできているんだっていうことを、すごく思ったんですよね。僕が見せてもらった大川小学校もそうですけど、場所が持つ力というか、それが残っていて、そこにあるロッカーに名前が貼られていることで、自分はその当時のことを生々しく思い浮かべることができるんだなって思って。やっぱり場所というものは記憶の風化を止めるために、すごく大事なんですよね。その気持ちは、今回のドラマに出てくる「本屋のリノベーション」というモチーフにも、繋がっているように思います。

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番組情報

『東日本大震災10年 特集ドラマ「あなたのそばで明日が笑う」』
『東日本大震災10年 特集ドラマ「あなたのそばで明日が笑う」』

2021年3月6日(土)19:30~NHK総合、BS4Kで放送

作:三浦直之
演出:田中正
主題歌:RADWIMPS“かくれんぼ”
音楽:菅野よう子
出演:
綾瀬はるか
池松壮亮
土村芳
二宮慶多
阿川佐和子
高良健吾
ほか

プロフィール

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三浦直之(みうら なおゆき)

ロロ主宰/劇作家/演出家。1987年生まれ、宮城県出身。2009年、主宰としてロロを立ち上げ、全作品の脚本・演出を担当。古今東西のポップカルチャーを無数に引用しながらつくり出される世界は破天荒ながらもエモーショナルであり、演劇ファンのみならずジャンルを超えて老若男女から支持されている。2019年脚本を担当したNHKよるドラ『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』で第16回コンフィデンスアワード・ドラマ賞脚本賞を受賞。

北野拓(きたの ひらく)

1986年生まれ。NHK入局後、報道記者・ディレクターを経て、現在はNHKエンタープライズドラマ番組部チーフ・プロデューサー。主な演出作は宮崎発地域ドラマ『宮崎のふたり』(脚本:安達奈緒子/出演:柄本明・森山未來・池脇千鶴/ギャラクシー賞奨励賞)、FMシアター『呼吸する家』(脚本:木皿泉)。主なプロデュース作は土曜ドラマ『フェイクニュース』(脚本:野木亜紀子/出演:北川景子・光石研/ギャラクシー賞奨励賞)。

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