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塚原悠也×渡邉朋也 アーカイブは100年後の創造性を刺激する

塚原悠也×渡邉朋也 アーカイブは100年後の創造性を刺激する

EPAD
インタビュー・テキスト
島貫泰介
編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

アーカイブにとって大切な「やれるかも」と「すぐにやらなくてもいい」

―そういうアーカイブされたものに多様な解釈が生まれるような、ある種の「余白」がどう機能しているかといえば、ざっくり言うと「やる気にさせる」ということだと思います。後の時代から見る人の創造性を刺激するような工夫があるアーカイブは、長く活性化しやすいのではないかと。

塚原:俺たちにも、やれるかも……みたいな(笑)。

渡邉:「やれるかも」は重要ですよ。鹿児島で『搬入プロジェクト』を行なった展覧会のタイトルが『つくるスポーツ/するアート展』(2020年、霧島アートの森)というんですけど、つまりアートを作ったり見るものじゃなくて、「するもの」として定義してる。それはすごく時代を反映した定義づけだと思います。

渡邉:それともう一つのポイントとして、「やれるかもしれないけど、すぐにやらなくてもいい」というのもアーカイブにとって大切です。ひょっとすると作品が生まれて100年後の誰かの心に刺さるかもしれない。アーカイブはそういう人たちに向けて、ビンに手紙を詰めて海に流すような作業でもあります。いわばロングテール。

塚原:きっと100年後の面白さの基準はいまとはぜんぜん違っているはずだから、何が刺激するかまったくわからない。だからこそ作る活動をしてる人は積極的に自分でもアーカイブを作ってほしいです。

contact Gonzo『MINIMA MORALIA』 / 2006年から世界中で行われたcontact Gonzoのパフォーマンス、食事、飲酒、睡眠までの映像をリミックスした100分の「半ドキュメンタリー」長編映画作品。現在1週間1000円でオンデマンド配信中
contact Gonzo『MINIMA MORALIA』(Vimeoで見る) / 2006年から世界中で行われたcontact Gonzoのパフォーマンス、食事、飲酒、睡眠までの映像をリミックスした100分の「半ドキュメンタリー」長編映画作品。現在1週間1000円でオンデマンド配信中

渡邉:ちょっと話が飛びますけど、アーカイブに関わる仕事ばかりやっていると、最近のコロナ禍のことも違って見えてくるところがあります。この1年であっという間に感染拡大して、一日も早く解決策が確立されるのが望まれていますけど、むしろ自分が気になっているのはコロナの数年間が100年後からはどんな風に見られるか、ということだったりする。

搬入プロジェクトを例に取ると、モディファイしやすいがために目の前で起きていることにクイックに対応することもできるのですが、ひょっとすると対応しすぎることが、後世の作品理解を阻んでしまってかえってよくない可能性もありうるわけで。悶々と考えてます。

塚原:未来からの目線で言えば、いま起きている変化というのはアーカイブからしか見えてこないでしょうしね。大学の授業で先生が話していたことなんですけど、現在の文脈が分からなくなった未来の芸術史では、ラッセンの絵はどう見えるか、ってことを考えたんですよ。地球上でいちばん評価されたアーティストだったんじゃないか、って仮説が出てもおかしくないくらいラッセンのイルカの絵って流布してますよね。

渡邉:パズルにもなってますしね。

2016ピース ジグソーパズル パズルの超達人 ラッセン クリスタル ドリーム ベリースモールピース(50x75cm)
2016ピース ジグソーパズル パズルの超達人 ラッセン クリスタル ドリーム ベリースモールピース(50x75cm)(Amazonで見る

渡邉:いまの話はとてもSF的ですけど、アーカイブに関わる仕事では、そういった発想はけっこう湧いてきます。

YCAMではメディアアートの修復保存もやっていますが、例えばアーティストの三上晴子さんの「欲望のコード」は、ロボットアームとかが剥き出しで使われている。ああいった作品を30年後に保存対象として扱えるのは美術館ではなくてむしろ科学博物館だと思うんです。技術的な説明や、その技術と社会との関わりの解説を加えなければ、未来において作品を再現しても、理解をすることができなくなってしまう可能性が起こりうる。

三上晴子「Desire of Codes|欲望のコード」 / 撮影:丸尾隆一(YCAM) 、写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]
三上晴子「Desire of Codes|欲望のコード」 / 撮影:丸尾隆一(YCAM) 、写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]

渡邉:そういえば、GonzoでもSF的なアプローチのある小説を書いてませんでしたっけ?

塚原:書いてます。それもラッセンの話に触発されて書いたものなんですけど、Gonzoメンバーが死に絶えた後、僕らのハードディスクを未来の人が無理矢理掘り起こして研究をし始めるっていう内容。

渡邉:2019年にYCAMでやった展覧会『wow, see you in the next life. /過去と未来、不確かな情報についての考察』も、僕は広い意味でのアーカイブの話だと思ってました。遊具のような装置での体験を通じて、Gonzo的なものを自分の遺伝子に刻み込む、って内容でしたよね。

『wow, see you in the next life. /過去と未来、不確かな情報についての考察』展示風景 / 撮影:守屋友樹、写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]
『wow, see you in the next life. /過去と未来、不確かな情報についての考察』展示風景(Vimeoでトレーラーを見る) / 撮影:守屋友樹、写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]

塚原:そうですね。来た人全員にスタンプを押して、Gonzoの遺伝子を埋め込んでしまおうっていう。遺伝子にアーカイブを残すという発想だから、後世に伝わるのは確実じゃないですか。

渡邉:Gonzoの遍在化というか。究極だと思いました。

―でもそこには、何でも残すことを是とするアーカイブの欲望と、それに対するアーティストの欲望の関係のややこしさを感じます。

塚原:現状、アーカイブの基本的な素材って映像ではあると思うんですよ。フライヤーや戯曲も残されていくけれど、映像の信頼度は群を抜いて高い。

でも、仮に僕らが飛行機事故で一斉に死んだらパスワードもわからなくなって、アーカイブに誰もアクセスすることができなくなったりするわけで。あるいは災害によってサーバーが破壊されることはありうるし、クラウドって言っても結局有限だよなあ……と考えちゃいますよね。

渡邉:既存のプラットフォームに依存してると、完全には信頼できないですよね。企業のさじ加減で運営方針は変わってしまうから。

Gonzoのパフォーマンスって文脈が分からない人にとっては喧嘩みたいじゃないですか。例えば時代の変化で、プラットフォームの規約として、暴力的な表現はNGとなったら、ある日突然削除される可能性もある。

塚原:国によっても変わると思います。アメリカでパフォーマンスしたときは、けっこう引いてるお客さんが多かったし。

―コンテンポラリーダンスの名著で『西麻布ダンス教室』というダンスの見方を教えてくれる、いま読んでも勉強になる本があるのですが、文章が発刊当時(1991年)の時代的な感触が強くて、悪く言うと男子ノリ的なところがあります。

これを、今このまま復刊するとしたら、テレビで昔の映画を放送するときの「放送上不適切な表現がありますが、作者の意図を尊重してそのまま放送します」みたいな但し書きが必要になっちゃう時代がやってくるのかもなあ、とも思います。

塚原:このあいだNetflixで1984年版の『ゴーストバスターズ』を見てたんですけど「ダメだこりゃあ」って思う部分がありましたね。

―とはいえ作品があったことを抹消してしまってはいけないですから、だとするとそこにどんな留保や註釈を加えて後世に残していくか。それは、これからの書き手や編者の責任だとも感じます。

塚原:逆に言えば、違和感があればあるほどアーカイブとしての意味は大きいんじゃないかな?

渡邉:たしかにそうですね。最初に言ったように、アーカイブにかかるコストは限りなく安価になっているけれど、それはクラウドや既存のサービスに依存することを前提にしているからです。

でもそれがいつまで残るかわからないですし、情勢に応じて画一化してしまう傾向が自然と強くなっていく。その流れに対しては、作家も美術館も博物館も抗っていかなければならないと思います。

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緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業(EPAD)
緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業(EPAD)

文化庁より令和2年度戦略的芸術文化創造推進事業「文化芸術収益力強化事業」として採択された「緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業」。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い困難に陥っている舞台芸術等を支援、収益強化に寄与することを目的に設置され、新旧の公演映像や舞台芸術資料などの収集、配信整備、権利処理のサポートを行っている。

プロフィール

塚原悠也(つかはら ゆうや)

KYOTO EXPERIMENT共同ディレクター。関西学院大学文学部美学専攻修士課程修了後、NPO法人ダンスボックスのボランティア、運営スタッフを経て、アーティストとして2006年パフォーマンス集団contact Gonzoの活動を開始。2020年、演劇作品『プラータナー:憑依のポートレート』におけるセノグラフィと振付に対し「読売演劇大賞」スタッフ賞を受賞。同年より京都市立芸術大学彫刻科非常勤講師。

渡邉朋也(わたなべ ともや)

1984年生まれ。東京都出身。2010年8月、YCAMのスタッフに着任。展覧会や公演など主催事業全般のドキュメンテーションのほか、YCAMが発表した作品の再制作のプロデュースを手がける。主な著書に『SEIKO MIKAMI-三上晴子 記憶と記録』(2019年/NTT出版/馬定延との共編著)がある。

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