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オンラインアート展の試行錯誤。揺らぐキュレーターと作家の関係

オンラインアート展の試行錯誤。揺らぐキュレーターと作家の関係

『11 Stories on Distanced Relationships: Contemporary Art from Japan(距離をめぐる11の物語:日本の現代美術)』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
編集:宮原朋之、後藤美波(CINRA.NET編集部)

奥村によるキュレーションへの「介入」。キュレーターは作品制作を依頼した自分と、作品との適切な距離が取れない感覚にも陥った

野村:これは奥村さんの意図かはわからないのですが、この作品は展覧会が作られるときのプロセスや関係性に介入していくベクトルも持っていますよね。今回のように11組ものアーティストが参加する展覧会では、大きなテーマはキュレーターが事実上密室的に決めていくのが一般的ですが、奥村さんはそれを盗聴して作品にしているようでもある。

奥村:録音してくれたのは僕を担当している桝田さんですから、桝田さんがスパイ=内通者です(笑)。でも、音源をイヤフォンで聞いていて、たしか野村さんだったと思うんですけど「奥村さん、今これを聞いてるよね?」と急に言われてびっくりしました。「時空を超えて頭の中に語りかけられた!」と。

一方的に介入するつもりが、思わぬタイミングで仕返しされたみたいで楽しかった。そのときの問いかけには後日メールで答えましたけど、その経緯も作品に入ってます。だから語り手の人格には「ユウキ」という他者もちょっと侵入しちゃってる。

奥村雄樹の出品作『孤高のキュレーター』より Courtesy MISAKO & ROSEN, Tokyo and La MAISON DE RENDEZ-VOUS, Brussels
奥村雄樹の出品作『孤高のキュレーター』より Courtesy MISAKO & ROSEN, Tokyo and La MAISON DE RENDEZ-VOUS, Brussels(展覧会サイトはこちら

奥村:それに関連して聞きたいんですが、僕が送ったメールはみなさんの暫定的な結論に異議を唱えるもので、それが最終的な展覧会タイトルにも波及したと思うんです。それについてはみなさんどう思いますか? まさにキュレーションへの介入になったのかなあと。

木村:キュレーションって、そもそもキュレーターだけでやるものではないんですよね。アーティストとの会話によって内容はどんどん変わっていくし、アーティスト以外の人たちの言葉にも影響されていく。

今回であれば、作品について私たちが書いた日本語のテキストをイーデン・コーキルさんに英訳してもらっていて、イーデンさんからの反応も私たちの思考に影響しています。

―特に海外だとスターキュレーターみたいな存在がいるから、展覧会の人格がキュレーター個人とイコールに思われるような時もあります。でも、実際にはもっと複合的なものであるわけですね。

木村:もちろん分化してるところも多くありますが。今回の奥村さんのアプローチで面白いのは、キュレーション全体ではなく、タイトルを決めるという部分に限定されてることだと思っています。

それによって議論の方向性が集約されたと感じます。キュレーター的な発想だと、タイトルを決めるときも、広報的なアピールや、全体的なフレームとの照らし合わせなど、いろんな要素を同時に考えていくので、しばしば議論がまとまらない(笑)。奥村さんの介入によって、逆にうまくまとまったところがあるかもしれない。

桝田:奥村さんの作品を見て私はけっこう戸惑ったんですよね。というのは、自分が喋った、自分が聞いたと思っている記憶と、作品内で語られていることがちょっとだけずれているように感じたからです。

そのことを作品解説に書いたら、奥村さんから「原文に創作は含まれていません。みなさんのZoomでの議論やメールからすべて抜いています。」と返事がありました。でも、私の主観からすると、文脈が変わり、声が変わり、文字が変わったことで、少しだけ別のもののように感じられたんです。

作品についてのテキストを書くときも戸惑いを感じました。なぜなら私自身が作品に巻き込まれているせいか、客観的な記述に徹することができなかったからです。

ここにも距離感の問題が現れていると思います。つまり、作品制作を依頼した側である自分は、半ば作品に巻き込まれ、作品との適切な距離が取れない感覚に陥っている。奥村さんの作品はそういう戸惑いを与えるものになっています。私が感じたような戸惑いがオーディエンスの方々にも伝わればすごくいいなあと思っています。

潘逸舟の出品作『SLOW SAMBA – Practice to Dance with You –』 ©Han Ishu
潘逸舟の出品作『SLOW SAMBA – Practice to Dance with You –』 ©Han Ishu(展覧会サイトはこちら

空間的配置を頼りにできないオンライン展覧会のキュレーション。美術館の展覧会との違いは?

奥村:ところでオンライン展覧会の形式はどうですか? フィジカルな空間と、ウェブページという平面的な空間でキュレーションするのは、まったく違う経験だと思うんですよ。

桝田:今まで自分がやってきたことと全然違うなとは感じています。普段の美術館での仕事において頼りになるのは空間的な配置です。

作品の配置を通じて何かしらの文脈を作り、展示空間のなかでいかに具現化するか、というのが自分の仕事の中心だったわけです。つまり作品同士のわずかな距離の取り方によって見え方を変え、作品間の関係性を演出し、ある種のナラティブを作っていく。

そうした物理的な空間の中で展覧会を作るのとはまったく違う思考方法で作品について考えなければいけなかったことが、私にとっては非常にチャレンジングなことでした。

奥村:なるほど。オンライン空間に固有の特性に応答した、「ウェブサイト・スペシフィック」と呼べるような作品の可能性もありますよね。実際に今回も、普段から展覧会の文脈、状況、空間に合わせてアプローチを積極的に変えてきたアーティストが選ばれている気がしました。

木村:それは最初の段階で交わした議論でも大きなトピックの一つでした。新作をお願いする以上は、展覧会で我々が伝えたいある種の距離感や、それに対するもどかしさの感覚を含めて共有できるという意味での「スペシフィック」を求めたところがあったと思います。

さわひらきの出品作品『Polaris』 ©Sawa Hiraki
さわひらきの出品作品『Polaris』 ©Sawa Hiraki(展覧会サイトはこちら
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イベント情報

オンライン展覧会『11 Stories on Distanced Relationships: Contemporary Art from Japan(距離をめぐる11の物語:日本の現代美術)』
オンライン展覧会
『11 Stories on Distanced Relationships: Contemporary Art from Japan(距離をめぐる11の物語:日本の現代美術)』

2021年3月30日(火)~5月5日(水・祝)

主催:独立行政法人 国際交流基金
参加作家:
荒木悠
潘逸舟
飯山由貴
小泉明郎
毛利悠子
野口里佳
奥村雄樹
佐藤雅晴
さわひらき
柳井信乃
吉田真也
キュレーター:
木村絵理子
近藤健一
桝田倫広
野村しのぶ

プロフィール

木村絵理子(きむら えりこ)

横浜美術館・主任学芸員、ヨコハマトリエンナーレ2020企画統括。主な展覧会に、“HANRAN: 20th-Century Japanese Photography”(ナショナル・ギャラリー・オブ・カナダ、オタワ、2019-2020)、「昭和の肖像:写真でたどる『昭和』の人と歴史」(2017)、「BODY/PLAY/POLITICS」(2016)、「蔡國強:帰去来」(2015)、「奈良美智:君や 僕に ちょっと似ている」展(2012)、「高嶺格:とおくてよくみえない」展(2011)、「束芋:断面の世代」展(2009-2010)、「金氏徹平:溶け出す都市、空白の森」(2009)ほか。この他、横浜トリエンナーレ・キュレーター(2014、2017、 2020)、關渡ビエンナーレ・ゲストキュレーター(2008、台北)、釜山Sea Art Festivalコミッショナー(2011、釜山)など。

桝田倫広(ますだ ともひろ)

東京国立近代美術館・主任研究員。主な展覧会に「ピーター・ドイグ展」(2020)、「アジアにめざめたら:アートが変わる、世界が変わる 1960–1990年代」(共同キュレーション、東京国立近代美術館、韓国国立現代美術館、ナショナル・ギャラリー・シンガポール、2018–2019)、「No Museum, No Life?―これからの美術館事典 国立美術館コレクションによる展覧会」(共同キュレーション、2015)、「高松次郎ミステリーズ」(共同キュレーション、2014–2015)など。

野村しのぶ(のむら しのぶ)

東京オペラシティアートギャラリー シニア・キュレーター。主な展覧会に「カミーユ・アンロ|蛇を踏む」(2019)、「単色のリズム 韓国の抽象」(2017)、「サイモン・フジワラ|ホワイトデー」(2016)、「ザハ・ハディド」(2014)、「さわ ひらき Under the Box, Beyond the Bounds」(2014)、「エレメント 構造デザイナー セシル・バルモンドの世界」(2010)、「都市へ仕掛ける建築 ディーナー&ディーナーの試み」(2009)、「伊東豊雄 建築|新しいリアル」(2006)、「アートと話す/アートを話す」(2006)。外部の仕事に《都市のヴィジョンーObayashi Foundation Research Program》推薦選考委員、「シアスタ−・ゲイツ」(2019)、「会田誠展「GROUND NO PLAN」(2017)。

奥村雄樹(おくむら ゆうき)

1978年、青森県生まれ。現在、ブリュッセルとマーストリヒトを拠点に制作活動を行う。奥村は、ビデオ、インスタレーション、パフォーマンス、キュレーション、翻訳など多岐にわたる実践に取り組んできた。例えば彼は1960年代から70年代にかけての美術動向や、河原温といった実際の作家などを取り上げ、再解釈や翻訳によってそれらに介入し、時にはフィクションのような挿話や設定を挟む。その過程で不可避的に生じる主客のずれによって、凝り固まった諸関係は一時的であれ可変的なものになる。近年の主な展覧会に、「29771日–2094943歩」(ラ・メゾン・デ・ランデヴー、ブリュッセル、2019)、「彼方の男、儚い資料体」(慶應義塾大学アート・センター、東京、2019)、「Na(me/am)」(コンヴェント、ゲント、2018)、「奥村雄樹による高橋尚愛」(銀座メゾンエルメスフォーラム、東京、2016)など。

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