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オンラインアート展の試行錯誤。揺らぐキュレーターと作家の関係

オンラインアート展の試行錯誤。揺らぐキュレーターと作家の関係

『11 Stories on Distanced Relationships: Contemporary Art from Japan(距離をめぐる11の物語:日本の現代美術)』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
編集:宮原朋之、後藤美波(CINRA.NET編集部)

リモートの環境は内輪的になりやすい? オンライン展示ならではの迷いや試行錯誤と、可能性

―展覧会が複合的な生態系、エコシステムであるというのは私の実感でもあります。だからこそなのですが、そこには想像しえない他者がいる必要があるとも思うんです。

コロナ禍以降多くの企業がリモート体制になり、オフィス自体を持たない業態に移る例も現れています。「それでも仕事はできる。生活との両立も可能。便利だ」というポジティブな声もありますが、いっぽうで新しく入社した人、転職してきた人が会社のなかで新しく関係性を作っていくのが難しい、という声も聞きます。この問題は、リモート授業を積極的に行っていた大学などでも起きていることでしょう。

これを展覧会、あるいは現代美術界みたいなものに当てはめると、そもそもコミュニケーションしやすい既知のアーティストがコロナ以降の展覧会に頻繁に参加する状態になり、多様性が生まれにくくなるということはないでしょうか? 実際、数多あるオンライン展覧会が内容も似ていて、参加作家もかぶっているという例が散見されます。

木村:質問に対する答えを象徴するアーティストとして、吉田真也さんが今回出品しています。彼は昨年開催されるはずだった『札幌国際芸術祭』にも選ばれていましたが、そもそもキュレーターと仕事をするのもほとんど初めてで、私自身も今回初対面でした。そういう意味では、コロナ禍以降に新しく会社に入った人と似た立場と言えるかもしれません。

吉田真也の出品作品『ラフカディオ・ハーン -海界(うなさか)の風景-』 ©Yoshida Shinya
吉田真也の出品作品『ラフカディオ・ハーン -海界(うなさか)の風景-』 ©Yoshida Shinya(展覧会サイトはこちら

木村:そこで生じる緊張感はじつは私の側にもあって、どういう風に話を聞こうかな、コミュニケーションしようかな、と模索し続けています。また、島根県に住んでいるので、リアルな打ち合わせもなかなかできない。

しかしそういった困難さを感じつつも、結局は「よい作品を見せたい」というモチベーションで動いているのがキュレーターだと思うんです。既得権益的なものを持った作家だけが生き残っていける、というようなことはないんじゃないかなと私自身は信じています。

奥村:もともと作品って作家から切り離されたもので、作品から始まる関係性が美術にはあると思うんですよ。もちろん会社や大学と共通する対人的な繋がりもあるけれど、それとは良い意味で微妙に違うところがあるんじゃないかなあ。

木村:亡くなっているアーティストの作品も、存命のアーティストの作品も、展覧会では等しく扱われますし、作品を鑑賞する時には、アーティストに直接会うことはほとんどありません。でも、作品を介して私たちはアーティストの深い部分に触れている感覚になることが多くあると思います。

それって一般的な社会生活ではなかなか得られない人間同士の関係性を作品越しに見出しているとも言えると思うんです。今のように、リモートでの交流が主体になった時代では、多くの人が生身の身体と切り離した、自分の別人格みたいなものを作り出して新しい関係性を構築している気がしています。そこに美術が持っている生態系を当てはめて考えることで、発見や活路を見出せるかもしれません。

佐藤雅晴の出品作『オオカミになりたい』 ©Estate of Masaharu Sato
佐藤雅晴の出品作『オオカミになりたい』 ©Estate of Masaharu Sato(展覧会サイトはこちら

奥村:僕は翻訳の仕事もしていますが、翻訳にも似たところがあります。死んだ人の文章を扱うことも多いし。著者が存命でも、どちらにしろ既に閉じられた文章だけをたよりにやりくりしていく。そんな距離感で、互いに孤立しながら進行する翻訳の仕事を、僕はとても気に入っているんです。

また、僕は今ヨーロッパにいますが、コロナ禍でリモート生活になり、相手が近くに住んでいても日本にいても、イコールな距離でやりとりしている。それは、人と人との本源的な繋がりと隔たりが社会に実装されたみたいで、個人的になかなか居心地のよい感じなんです。オンライン展覧会でも、作品と鑑賞者が別々の次元にいながら、1対1で正対しますよね。そこにはたくさん可能性があると感じます。

野口里佳の出品作『光る海』 ©Noguchi Rika
野口里佳の出品作『光る海』 ©Noguchi Rika(展覧会サイトはこちら
荒木悠の出品作『双殻綱:第二幕(右)』 ©Yu Araki
荒木悠の出品作『双殻綱:第二幕(右)』 ©Yu Araki(展覧会サイトはこちら

野村:もちろんオンライン展覧会が内輪的になってしまうところはあると思うんですよ。ありていに言ってしまえば、奥村さんの作品も楽屋オチみたいなものだから。

奥村:そうなんですよね(笑)。

野村:そういった限られた関係性から思考を始めていることも否定できないわけです。展覧会を作るにあたって私自身は努めてアノニマスな存在であろうとするタイプなので、奥村さんの作品によって可視化されることに葛藤もありました。でも、このアンビバレントな気持ちもオンライン展覧会というこの企画だからこそ生じた制約と挑戦だと思ってやっていますね。

奥村:ご協力いただきましてありがとうございます……! 内輪っていう話が出ましたけど、僕は決してそれが悪いと思ってないんですよね。

誰もが内輪の閉じた関係性のなかで生きているから、その点で響き合えるというか。そして、個々人のパーソナリティーの折り重なりによって歴史や文化は生まれている。

それは美術も同様で、例えば美術史というと固定された、客観的なものと考えがちなのですが、それだってアーティスト、キュレーター、ヒストリアンといったさまざまな人たちの主観性や欲望が相互に作用した結果の産物なんです。その偶発性に、僕はすごく興味があります。

毛利悠子の出品作『For the Birds』 ©MOHRI Yuko
毛利悠子の出品作『For the Birds』 ©MOHRI Yuko(展覧会サイトはこちら
柳井信乃の出品作『The Day of Creation, 4/4 time』 ©Shino Yanai
柳井信乃の出品作『The Day of Creation, 4/4 time』 ©Shino Yanai(展覧会サイトはこちら

桝田:展覧会を作るってことは、何らかのフレームで区切ることですから、エコシステム自体をいったんは閉じざるを得ない。ただ、そのなかにいろんな要素を含ませておいて、そのフレームの外を想像させることはできるんじゃないかと思っています。

野村さんと違って僕はあまり抵抗感がなかったんですよ。名前を出すことで、キュレーターと呼ばれる人々が展覧会というフレームを区切っているのだと言明することができます。

そのことによって、フレームの「外」の可能性を想像させることもできるからです。展覧会に選ばれた作家がいるのと同時に、選ばれなかった数多の作家がいることが忘却されず浮き彫りになる。それは、展覧会を作るうえでの倫理的な態度を表すやり方の一つなんじゃないかと思います。

木村:フレームを作っているのは私たち(キュレーター)であると表明することが、逆にその先や外にある解釈に対して私たちは介入しません、という表明にもなるというか。

実際の空間でキュレーションを行う場合は、その態度表明の方法も様々にあります。空間のコントロールであれば、この作品はこの高さに置くとか、逆にこの作品の周囲には何も置かないだとか。

でも今回のようなオンライン展覧会ではすべてが等価になってしまって、むしろタイトルの重みが増してしまったりする。結果として、今回の4人のキュレーションの方針は、順路や導線を作らず鑑賞者をなるべく誘導しないようにするとなったわけですが、まだ迷いはありますね。

小泉明郎の出品作『自由ノ暗示催眠実験』 © KOIZUMI Meiro
小泉明郎の出品作『自由ノ暗示催眠実験』 © KOIZUMI Meiro(展覧会サイトはこちら
飯山由貴の出品作『hidden names』 ©Iiyama Yuki
飯山由貴の出品作『hidden names』 ©Iiyama Yuki(展覧会サイトはこちら

野村:作家名の並び順も迷いましたよね。結局、苗字のアルファベット順にして、この順番にはそれ以上の何の意味もないことを示したり。

奥村:以前、ある展覧会に参加したとき、参加アーティストの名前の並べ方に介入する作品案を出したんですよ。会場やチラシで、日本語表記ではアルファベット順に、英語表記ではあいうえお順にするっていう。和英で2列にすると、ほとんどの場合、別人の名前が横に並ぶことになる(笑)。

木村:どちらの言語でも「あ(A)」の人がトップに来ちゃいますね。

奥村:そうそう!

野村:「あ(A)」で始まる名前の人は既得権益を持っている(笑)。それは半ば冗談ですが、社会を見渡してみると生まれたときから決まっている有利不利というのはどうしてもあるんですよね。だからこそ、それをどう言う風に捉えるか、解釈して自分なりの意味を見つけることが大切ですし、それは大きな判断になります。

「Black Lives Matter」や「#MeToo」のムーブメントがあり、コロナ禍があって、本当にあらゆる局面でマジョリティーやパワーの問題を意識する時代になったと思っています。だからこそキュレーターも作家も、自分たちの責任や持っている力を自覚する必要があり、それを踏まえた表明をしていかなければならないんですよね。

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イベント情報

オンライン展覧会『11 Stories on Distanced Relationships: Contemporary Art from Japan(距離をめぐる11の物語:日本の現代美術)』
オンライン展覧会
『11 Stories on Distanced Relationships: Contemporary Art from Japan(距離をめぐる11の物語:日本の現代美術)』

2021年3月30日(火)~5月5日(水・祝)

主催:独立行政法人 国際交流基金
参加作家:
荒木悠
潘逸舟
飯山由貴
小泉明郎
毛利悠子
野口里佳
奥村雄樹
佐藤雅晴
さわひらき
柳井信乃
吉田真也
キュレーター:
木村絵理子
近藤健一
桝田倫広
野村しのぶ

プロフィール

木村絵理子(きむら えりこ)

横浜美術館・主任学芸員、ヨコハマトリエンナーレ2020企画統括。主な展覧会に、“HANRAN: 20th-Century Japanese Photography”(ナショナル・ギャラリー・オブ・カナダ、オタワ、2019-2020)、「昭和の肖像:写真でたどる『昭和』の人と歴史」(2017)、「BODY/PLAY/POLITICS」(2016)、「蔡國強:帰去来」(2015)、「奈良美智:君や 僕に ちょっと似ている」展(2012)、「高嶺格:とおくてよくみえない」展(2011)、「束芋:断面の世代」展(2009-2010)、「金氏徹平:溶け出す都市、空白の森」(2009)ほか。この他、横浜トリエンナーレ・キュレーター(2014、2017、 2020)、關渡ビエンナーレ・ゲストキュレーター(2008、台北)、釜山Sea Art Festivalコミッショナー(2011、釜山)など。

桝田倫広(ますだ ともひろ)

東京国立近代美術館・主任研究員。主な展覧会に「ピーター・ドイグ展」(2020)、「アジアにめざめたら:アートが変わる、世界が変わる 1960–1990年代」(共同キュレーション、東京国立近代美術館、韓国国立現代美術館、ナショナル・ギャラリー・シンガポール、2018–2019)、「No Museum, No Life?―これからの美術館事典 国立美術館コレクションによる展覧会」(共同キュレーション、2015)、「高松次郎ミステリーズ」(共同キュレーション、2014–2015)など。

野村しのぶ(のむら しのぶ)

東京オペラシティアートギャラリー シニア・キュレーター。主な展覧会に「カミーユ・アンロ|蛇を踏む」(2019)、「単色のリズム 韓国の抽象」(2017)、「サイモン・フジワラ|ホワイトデー」(2016)、「ザハ・ハディド」(2014)、「さわ ひらき Under the Box, Beyond the Bounds」(2014)、「エレメント 構造デザイナー セシル・バルモンドの世界」(2010)、「都市へ仕掛ける建築 ディーナー&ディーナーの試み」(2009)、「伊東豊雄 建築|新しいリアル」(2006)、「アートと話す/アートを話す」(2006)。外部の仕事に《都市のヴィジョンーObayashi Foundation Research Program》推薦選考委員、「シアスタ−・ゲイツ」(2019)、「会田誠展「GROUND NO PLAN」(2017)。

奥村雄樹(おくむら ゆうき)

1978年、青森県生まれ。現在、ブリュッセルとマーストリヒトを拠点に制作活動を行う。奥村は、ビデオ、インスタレーション、パフォーマンス、キュレーション、翻訳など多岐にわたる実践に取り組んできた。例えば彼は1960年代から70年代にかけての美術動向や、河原温といった実際の作家などを取り上げ、再解釈や翻訳によってそれらに介入し、時にはフィクションのような挿話や設定を挟む。その過程で不可避的に生じる主客のずれによって、凝り固まった諸関係は一時的であれ可変的なものになる。近年の主な展覧会に、「29771日–2094943歩」(ラ・メゾン・デ・ランデヴー、ブリュッセル、2019)、「彼方の男、儚い資料体」(慶應義塾大学アート・センター、東京、2019)、「Na(me/am)」(コンヴェント、ゲント、2018)、「奥村雄樹による高橋尚愛」(銀座メゾンエルメスフォーラム、東京、2016)など。

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