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くるり・岸田繁と君島大空の共鳴するところ 歌と言葉とギターの話

くるり・岸田繁と君島大空の共鳴するところ 歌と言葉とギターの話

『FUJI & SUN '21』
インタビュー・テキスト
大石始
撮影:垂水佳菜 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)

くるりの歌詞の「静かさ」から君島大空が受け取ったもの

―君島さんは、くるりについてどういう印象を持っていますか。

君島:初めて聴いたときのことをよく覚えていて。地元の図書館でくるりの『ワルツを踊れ Tanz Walzer』(2007年)を借りて、2曲目の“ブレーメン”で号泣したのを覚えています。

―そこで湧き上がってきたのはどういう感情だったんでしょうか。

君島:さっき岸田さんもおっしゃっていましたけど、ぼくも言いづらいことを歌の中で言ってもらえていると安心するんですよ。“ブレーメン”には「日本語でこんなふうに歌ってくれる人がいるんだ」という感覚があって、すごく救われました。

あのアルバムはいまもずっと聴いていて、そこから出られなくなっている感じなんですよ。“ジュビリー”のアウトロのコードやばいなとか(笑)。

岸田:嬉しいですね。

くるり『ワルツを踊れ Tanz Walzer』を聴く(Spotifyを開く

君島:ぼくは自分の歌詞を「うるさい」というか、情報が多いと思っていて。どんどんイメージを投げつけていって、「そのなかで印象に残ったものだけを見てください」という書き方をしている。

言いたいことを言って、あとから見て「こういう景色になったんだな」という作り方だけど、岸田さんの歌詞はもっと静かで、生活に近い感じがする。静物画のようにイメージが置かれてゆく感じ。ぼくにはできないし、大きい音楽だなといつも思います。

―なるほど。

君島:昨日も『ソングライン』(2018年)をずっと聴いてたんですけど、“Tokyo OP”という曲を聴いて「岸田さん、めちゃくちゃギター好きなんだな」と思いました。

岸田:わかるやろ?(笑)

君島:はい(笑)。

2人の書く楽曲に独自の響きがある背景。ギター好きの両者の共鳴するところ

岸田:あれはもともと練習用のフレーズやってん。DADGADで……(註:DADGADとは、ギターの変則チューニングの一種。通常ギターは6弦からEADGBEと調弦するところ、DADGADでは6弦と1~2弦を1音分低くチューニングする。ブールスやカントリーなどで好んで使用される)。

君島:DADGADなんですか!

岸田:コードを押さえるのが邪魔くさいから、変則チューニングが好きで。The Beatles風のポップソングじゃなかったら、3度をオミットしたいんですよ(註:コードにおけるメジャー / マイナーを決定づける3度の音を省略するということ。それにより明暗どちらともつかない響きが得られる)。

君島:なるほど、おもしろいです。

岸田:でね……ちょっとマニアックな話ですけど、大丈夫ですか(笑)。

―はい、いまのところギリギリ大丈夫です(笑)。

岸田:私は4度積みが好きなんですよ(註:4度堆積コードとも呼ばれ、濁りや緊張感、浮遊感など幽玄な響きが得られる)。

君島:ぼくも好きです(笑)。

岸田:好きですよね? それは聴いていてわかる。ぼくも音として好きなんですよ。ギターもDADGADで弾いているときが一番指が楽しい。レギュラーチューニングのギター、いまは手元に1本ぐらいしか用意してないかもしれない。指で遊んでる感じでつくっていったら、それにつられてか拍子もよくわからんことになってたりしておもしろいんです(笑)。

2人はなぜ、「レギュラー(正式・正規のもの)」に縛られない姿勢でギターを扱い、歌を書くのか?

編集部:岸田さんの歌には、自分の心の奥底に触れるような郷愁を感じさせるところがあると思うんですけど、そういったソングライティングと、変則チューニングのようにギターを脱臼させて使うことは何か関係があるんでしょうか。DADGADもブルースやカントリーのようなルーツミュージックのなかで好んで使われますけど、岸田さんがレギュラーチューニングではないギターを使って曲を書かれる意図をお聞きしたいです。

岸田:楽器ってそれぞれに身体の動きとつながった固有の響きがあるんですよね。ドラムであれば右足でキックを踏み、左手でスネアを叩く。ギターもしかり。たとえばギターでピアノみたいな響きを出そうと思ったらすごく指を動かさなくちゃいけない。

ギターのレギュラーチューニングにおいて、2弦と3弦って謎の存在なんですよ。他の弦は4度でチューニングされているのに、2弦と3弦の間だけそれより半音ずれた音程になってる。

レギュラーチューニングを発明した人の癖か、もしくは茶目っ気かわからないんですけど、その人以降、ぼくも含めてそのチューニングを「レギュラー」として受け入れていることになるわけですよね。

君島:めちゃくちゃおもしろい話ですね(笑)。

岸田:でも、マンドリンみたいに完全5度でチューニングされた楽器を何も押さえずに弾くと、それだけで透き通るような響きがあるんです。その響きをどこかで覚えているんでしょうね。ギターでその音を表現しようと思うと、自然と変則チューニングになるんです。

あとね、(天井を指差しながら)こういう空調の音とか、MRIのバババババという音がすごく好きなんです(笑)。そういう音の感覚を、どこも押さえないでも鳴るようにチューニングしたくて。レギュラーチューニングに出せないものを出したいんです、ぼくは。

岸田繁

―そもそも「レギュラー(正式・正規のもの)」とは何なのかということでもありますよね。ポピュラーミュージックにおいて特定の型を踏襲することは一定の意義があるものの、ギターのようにすぐチューニングを変えられる楽器でそれを頑なに守る必然性がどこにあるのか。

君島:レギュラーチューニングがなぜ「レギュラー」とされているのか、ぼくも違和感を覚えた時期があったんですよ。みんな同じチューニングでやるのはつまらないというか、意味がわからないと思ったんです。

それでオープンチューニングでやってるギタリストの作品を聴くようになったんです(註:弦を押さえずに弾いた際に特定のコードが鳴るように調整されたチューニングのこと)。

DADGADってほぼAとDの音なんですよね。でも、同じAとDでも弦によって響きが違うし、その倍音もすごく綺麗で。だからぼくもDADGADが好きだし、ギターという楽器の好きなところでもありますね。6本しか弦がないのに、多様な響きがある。ただ自分が癒されたくてDADGADを弾くこともあります。

岸田:ああ、わかる(笑)。

君島:曲に活かされることはないんですけど、家でひとりDADGADを開放弦で弾いて「これです!」とひとり納得してます(笑)。12弦ギターで弾くとさらに気持ちいいんですよね。

君島大空

岸田:そうそう、たまらんね(笑)。音響装置としてのギター。

君島:そうですね。オルゴールみたいな感じというか。

岸田:レギュラーチューニングって曲をつくるうえでは便利なんですよ、たしかに。でも、いわゆるJ-POP的な展開をしない曲の場合、変則チューニングだとおもしろい響きが生まれる。むしろこっちのチューニングのほうが正しいんじゃないかとさえ思うし、じつはレギュラーチューニングのほうが「脱臼」させてるともいえるんですよ。

―レギュラーチューニングのほうが不自然でもあるということですよね。何が自然で、何が不自然なのかという点は、先ほどの歌詞のつくり方にも共通する話ですよね。

君島:そうですね。

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イベント情報

『FUJI & SUN '21』
『FUJI & SUN '21』

2021年5月15日(土)、5月16日(日)
会場:静岡県 富士山こどもの国

5月15日出演:
∈Y∋(DJ)
青葉市子
悪魔の沼(DJ)
折坂悠太
君島大空
Kotsu(DJ)
寺尾紗穂
nutsman(DJ)
VIDEOTAPEMUSIC(DJ SET)
Mars89(DJ)
民謡クルセイダーズ
Ramza
吉原祇園太鼓セッションズ
くるり

5月16日出演:
Akie(DJ)
OLAibi+KOM_I
カネコアヤノ
GOMA
COMPUMA(DJ)
SUGAI KEN(DJ)
TENDRE
TOP DOCA(DJ)
ハンバート ハンバート
マヒトゥ・ザ・ピーポー
冥丁
森山直太朗
U-zhaan
林立夫 with 大貫妙子
人力チャレンジ応援部
阿部雅龍
竹内洋岳

出店:
富士市presents 富士市ご当地グルメ
Pizzeria L'alba di Napoli
竹の子
いちご実 加藤農園
PIPS ピップス
らく
藤太郎
東京・下北沢名物!ニックンロール
2-3-4SHOKUDO+オトワファーム
HUG COFFEE

参加:
STARTLE
armadillo leather works
ブンブク屋
Damassy
舎鳥木-yadorigi-

プロフィール

岸田繁(きしだ しげる)

作曲家 / くるり / 京都精華大学特任准教授。1976年4月27日生まれ。1996年9月頃、立命館大学(京都市北区)の音楽サークル「ロック・コミューン」にてくるりを結成。古今東西さまざまな音楽に影響されながら、旅を続けるロックバンドとして活動する。2021年4月28日、ニューアルバム『天才の愛』をリリース。

君島大空(きみしま おおぞら)

1995年生まれ日本の音楽家。ギタリスト。2014年から活動をはじめる。同年からSoundCloudに自身で作詞 / 作曲 / 編曲 / 演奏 / 歌唱をし多重録音で制作した音源の公開をはじめる。2019年3月13日、1st EP『午後の反射光』を発表。2019年7月5日、1stシングル『散瞳/花曇』を発表。2019年7月27日『FUJI ROCK FESTIVAL '19 ROOKIE A GO-GO』に合奏形態で出演。11月には合奏形態で初のツアーを敢行。2020年1月、Eテレ NHKドキュメンタリー『no art, no life』の主題曲に起用。同年7月24日、2ndシングル『火傷に雨』を発表。2021年4月21日、3rd EP『袖の汀』を発表。ギタリストとして吉澤嘉代子、高井息吹、鬼束ちひろ、adieu(上白石萌歌)などのアーティストのライブや録音に参加する一方、楽曲提供などさまざまな分野で活動中。

関連チケット情報

2021年5月15日(土)〜5月16日(日)
FUJI & SUN’21
会場:富士山こどもの国(静岡県)

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