インタビュー

君島大空が照らす、生の暗がり 明日を繋ぐよう裸の音で語りかける

君島大空が照らす、生の暗がり 明日を繋ぐよう裸の音で語りかける

インタビュー・テキスト
天野史彬
撮影:松永つぐみ 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)
2021/04/26

生きて時間を重ねることの意味に気づけた2020年。失うだけではない、その人生の巡り合わせ

―これはレポートでも書いたんですけど、去年12月の合奏形態での配信ワンマンを見たときに、円形になって向かい合うように機材をセッティングしていたし、“光暈(halo)”が独奏と合奏で2回演奏されたこともあって、「循環」というものをすごくイメージしたんですよね。反復しながら、変化しながら、一周して同じところに戻っていく感じというか(関連記事:君島大空が鳴らす『縫層』の次の季節 『遠隔夜会「層に電送」』評)。

君島:そうですね、繰り返し……そういうことは最近よく考えます。ぼくはずっと巻き戻そうとしていたんです、いろんなことを。それは現実世界では無理なことだけど、それでもずっと、過ぎてしまった時間や過去の記憶を取り返そうとしてきた。

忘れないように、いつでも思い出せるように、強く握っていなきゃいけないって、ずっとそういうことを意識していたと思うんです。

君島大空“午後の反射光”を聴く(Apple Musicはこちら

君島:でも、そんなに力を入れなくても、自分は最初に戻っていくだろうって最近は思うんですよね。開き直りとかとは多分違って、意識が何回も同じ道を通って、どんどんと最初のイメージが強くなっていくような感覚というか。

―大切にしている感覚や景色は誰かが奪いにくることも、消えることもないし、むしろ時間を重ねてより鮮明になっていく。なぜ、そう思えたのでしょうね。

君島:「もう会えないかもしれない」と思っていた人に、去年、会えたりしたんです。そのとき、「回るもんだな」って思ったんです。「ああ、生きてんなあ」って、すごく自然に思った。だからこその今回の音源なのかもしれないなって思います。

―1曲目の“光暈(halo)”は、歌詞やサウンドに「波」のイメージがあると思うんですけど、よく考えると、波の動きって巻き戻しようがないんですよね。ゆらゆらと揺らいでいる姿そのものが変化であり、時間の経過であり、二度と同じものには戻らない。

波だけでなくても、自然はそういうものだと思うんですけど、“光暈(halo)”を聴いていると、そうやって時間が過ぎていくことに対して、抗いたい気持ちを胸に抱きながらも、でも、波には乗り続けているというか、ゆらゆらと漂いながら、最終的には、時間が流れ、物事が変化していくことを肯定しているような感覚があるなと思ったんです。

君島:うん、うん。肯定している感覚はあります。でも、それは決して諦めではなくて。「時間が過ぎていっちゃうのは仕方がないよね」とはあんまり思っていない。

時間が過ぎていったことにあとから気づいて、それを肯定しているんだと思います。だから、「こんなに時間が経ったから、また会えたんだな」と、ある地点まで来たときに振り返って、納得して、大きく時間を肯定しているような感覚があります。

君島大空“光暈(halo)”を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

―ぼくは去年11月、石橋英子さん、七尾旅人さんとのオーチャードホールでのライブで“光暈(halo)”を初めて聴いたんですけど、この曲が生まれてきたときのことは覚えていますか?

君島:すごく覚えていて。それこそ、オーチャードの1週間くらい前に海に行ったんですよ。たまに「海の近くにいたいな」と思うことがあるんですよね。海は見たくないけど、海が近くにあるっていう状態が自分を洗ってくれるような気がして。

その頃は、『縫層』のときに考えていた息苦しさというか、閉塞感は晴れていたけど、次になにかをする気持ちにもなれなくて、コロナでライブもできないし、ただなんとなく慢性的に疲弊していた時期だったんです(関連記事:君島大空、苦闘の第二作。狂騒と覚醒の狭間で、ひっつかんだ実感)。それで小さいギターを持って海に行って、なんとなくレコーダーを回しながらパラパラと弾いていたら、“光暈(halo)”が、本当に収録されているこのままの尺で出てきたんです。

歌詞は出てこなかったけど、全部そのままのかたちで自然に出てきて。それを聴いて、すごく救われたんです。これが塊として自分のなかから出てきたっていうことがすごく嬉しかった。とても個人的な感動なんですけど。

―そのときの君島さんにとって、すごく自然な音楽だったんですね。

君島:うん、すごく自然なものでした。メロディーも、そのときの自分の身に降りかかったことと、自然と重なるような感覚があって。“光暈(halo)”のシングルのジャケットを描いてくれた子って、高校生の頃の知り合いで。

君島大空『光暈(halo)』ジャケット
君島大空『光暈(halo)』ジャケット(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

君島:その頃のぼくはバンドもやっていなかったし、外に自分の音楽を発表してもいなかったんですけど、その子はその当時からライブハウスに出入りしていたんですよね。で、ぼくの知らない音楽やその他の表現に詳しくて、教えてもらうものがいつも刺激的で、話をするために、その子の好きな音楽を聴いていたくらいで(笑)。その子は当時から絵を描いていて、ぼくは彼女の絵がすごく好きで。どこかでそれを引きずっていたからこそ、「自分も何かしたい」と思ってコラージュをつくりはじめた部分もあって。

高校の終わりくらいに音信不通になってしまったんですけど、去年、“火傷に雨”を出して『Love music』(フジテレビ系、2020年9月27日放送)に出たとき、放送があった日の夜中に10年ぶりくらいに連絡があったんです。「テレビ出てたでしょ? 君島くんだよね?」って。「うっそー! 生きてたんだ!」とか思って……っていうか、「俺、生きてたんだ」と思って(笑)。

―ははははは(笑)。

君島:あれは忘れられないです。代々木八幡の路上でタクシーを待ちながら、その子から連絡が来たときのことは。こんなことがあるんだなと思いました。生きているとまた会える……月並みで擦り切れている言葉だと思うけど、でも、自然にその言葉のままにそう思えました。それですごく元気になったんですよね。「生きていたんだな」って。

君島大空“火傷に雨”を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

君島:ぼく、「生きていてよかった」と思うようなことって、人生でそんなになくて。それは当たり前になっちゃっていることだし、その子のことも「もう会えないんだろうな」と勝手に思っていたし。でも、また会えた。

そのときに、「生きる」とか「生きていた」って、自分の言葉としてやっと言えるようになった……26歳にして、やっと(笑)。

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リリース情報

君島大空『袖の汀』
君島大空
『袖の汀』(CD)

2021年4月21日(水)発売
価格:2,200円(税込)
APLS2015

1. 光暈(halo)
2. 向こう髪
3. 星の降るひと
4. きさらぎ
5. 白い花
6. 銃口

プロフィール

君島大空
君島大空(きみしま おおぞら)

1995年生まれ日本の音楽家。ギタリスト。2014年から活動を始める。同年からSoundCloudに自身で作詞 / 作曲 / 編曲 / 演奏 / 歌唱をし多重録音で制作した音源の公開を始める。2019年3月13日、1st EP『午後の反射光』を発表。2019年7月5日、1stシングル『散瞳/花曇』を発表。2019年7月27日『FUJI ROCK FESTIVAL '19 ROOKIE A GO-GO』に合奏形態で出演。11月には合奏形態で初のツアーを敢行。2020年1月、Eテレ NHKドキュメンタリー『no art, no life』の主題曲に起用。同年7月24日、2ndシングル『火傷に雨』を発表。2021年4月21日、3rd EP『袖の汀』を発表。ギタリストとして吉澤嘉代子、高井息吹、鬼束ちひろ、adieu(上白石萌歌)などのアーティストのライブや録音に参加する一方、楽曲提供など様々な分野で活動中。

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