インタビュー

歌を絶やさぬように 久保田麻琴が探る「日本のうた」の過去と未来

歌を絶やさぬように 久保田麻琴が探る「日本のうた」の過去と未来

インタビュー・テキスト
大石始
写真提供:久保田麻琴 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)

「音楽の受信機が似てる」――長年交流を続ける細野晴臣との共通点

―『まちぼうけ』の発売は1973年3月ですが、細野さんの『HOSONO HOUSE』が同じ年の5月、ユーミンの『ひこうき雲』も73年にリリースされています。音楽的にはそれぞれ違いますが、学生運動の時代が終わったあとの空気感を共有しているようにも感じます。

久保田:みんな個性派だし、特に連帯することもなかったけどね。『まちぼうけ』は松任谷とつくったけど、そのあと友達でいるわけでもなく、何かのライブでたまに顔を合わせるぐらい。そのなかでも細野さんとはなぜか『サンセット・ギャング』(久保田麻琴と夕焼け楽団の1973年作)のころから一緒にやるようになった。あまりにも話が合うし、のちのHarry & Macや現在の交流につながるわけだけど。

久保田麻琴と夕焼け楽団“ルイジアナ・ママ”を聴く(Apple Musicはこちら
編註:ベース、ドラム、キーボードのアレンジは細野晴臣

細野晴臣“CHOO-CHOOガタゴト”を聴く(Apple Musicはこちら

―ちょうどそのあたりのころ、喜納昌吉さんの“ハイサイおじさん”を細野さんに紹介して意気投合した、という話は有名ですよね。そもそも細野さんとはなぜそこまで話が合ったんでしょうね。

久保田:音楽の聴き方の根本で通底しているものがあるんでしょうね。音楽の受信機が似てる。子どものころに与えられた環境が近いのかもね。うちは映画館だったけど、細野さんところも映画関係の親族がいたはず(筆者註:叔母が外資系の映画会社勤務)。

久保田麻琴と夕焼け楽団“ハイサイおじさん”(1975年)を聴く(Apple Musicはこちら

細野晴臣“Roochoo Gumbo”(1976年)を聴く(Apple Musicはこちら
編註:同曲は『細野晴臣 STRANGE SONG BOOK-Tribute to Haruomi Hosono 2-』(2008年)で久保田麻琴もカバーしている

久保田:プラスチックスのトシ(中西俊夫)もそういうところがあるよ。お父さんが洋画の映画会社の美術部で、ポスターを描いてたんですよ。映画から得たものがどこそこに出ているのかも。

―先ほどから話に出ている「時代を切り取る感性」の背景に、幼少時代からの映画体験があるのかもしれないですね。

久保田:そうなのかもしれないね、いま思うと。金延幸子も20歳ぐらい年上のお姉さんがいて、宝塚のスターなんですよ。宝塚はハイカラだからね。彼女の楽曲のなかにある「どこにもない外国観」は、宝塚経由のなにかが影響しているのかもしれない。

金延幸子『み空』(1972年)を聴く(Apple Musicはこちら

歌が途絶えることはなにを意味するのか。久保田麻琴が「日本のうた」に向ける眼差し

―久保田さんは現在も浜田真理子さんをプロデュースしていたりと、常に日本語の歌について取り組んでいます。現在の日本の歌に対する久保田さんの意識はどのようなものなのでしょうか。

久保田:私はあまりいい聴き手ではないし、わからないな。ただ、浜田さんの歌にはびりびりと感じるものがあるわけですよ。泣けるし、彼女は心のなかにアメリカーナや素朴な愛しさを持っている。浜田真理子は精神性がめちゃ高いんです。シャーマニックですらある。

―浜田さんの歌には自然な歌謡性がありますよね。なおかつ日本語の発音が綺麗で。

久保田:たしかに歌詞のイントネーションは昔の歌謡曲みたいなところがありますよね。自然でクリアというか。やっぱり歌う人は発音がいいほうがいいですね。

―浜田さんの歌を世に届けることによって、日本の音楽の世界で欠落しているものを埋めようという意識もあるのでしょうか。

久保田:特に考えないです。批判・批評的なところは自分のなかから排除しようとしてるんです。ポジティブなところで精一杯。浜田真理子と細野晴臣がいればOKなんです(笑)。この国に10人も好きな音楽家がいたら大変なことだよ。

かつてのサンフランシコやリバプールからメジャーに乗ればすぐ世界に行けたけど、いまはいくらサム・ゲンデルが偉大でも日本盤すら出ない。それも無理ないとも思うんだけどね。ストリーミングでいくらでも聴けてしまうし、そこで日本盤を出すのかと。でも、出てほしいよな。

編集部:サム・ゲンデルはアメリカ文化の遺産であるジャズを現代的な手法で再解釈したアルバムを発表したり、アメリカーナの生き証人ともいえるライ・クーダーのバンドでサックスを演奏していますよね。文化の歴史的な連なりに自分自身が身を置いていることに、自覚的な方なんだろうなと。

サム・ゲンデル『Satin Doll』(2020年)を聴く(Apple Musicはこちら

編集部:一方で日本に立ち返って考えると、歌謡曲、J-POPというようなポピュラー音楽はそれ以前の「日本のうた」とはどこか断絶があるように感じていて。日本の民謡を再発見して記録・編纂し、再解釈を施す、というような久保田さんのお仕事を見ていると、引き裂かれてしまいそうになっている「日本のうた」をつなぎとめようとされているように見えるんです。

それはサム・ゲンデルと久保田さんの活動の重なるところでもある。土地や生活に根ざした歌が途絶えてしまったらどうなるんだろう、と考えるからこそ、久保田さんに取材させていただいたところもあって。

『阿波百景』(2020年)は、久保田麻琴がセレクト&マスタリングした阿波民謡集。鳴門出身の現代舞踊家・檜瑛司が監修し、1988年に現地録音され、カセットテープのみで発売された音源をもとに制作された

久保田麻琴による沖縄音楽の再発掘プロジェクト「かなす」のリミックス音源。久保田がセレクトした沖縄民謡の音源を、オオルタイチ、ミキオ(BLACK WAX)、harikuyamaku(銀天団)がエレクトロニック化している

久保田:いまのわれわれ日本人のこの脳は、日本語でフォーマットされているわけです。そのOSはずっと残ってほしい。絶滅してほしくない。ウイグルやミャンマーで起きていることを見ていると、すごく考えさせられるよね。

おそらく私のなかにも遠い外国の血は入っているだろうし、島国なんだし、そういう人も多いはず。でも、日本語で生まれ育ったわけで、そのOSは滅んでほしくはないよね。それだけなんですよね。

編集部:歌が途絶えると、いずれ文化そのものも失われていくというか。占領下の話もありましたけど、敗戦を経て流れ込んできたアメリカの文化を浴びて、「アメリカやイギリスの真似事ではない、自分たちの音楽をつくろう」とした第一世代が久保田さんたちなんだろうなと思っています。そしてぼくたちのようなメディアやつくり手は、そのバトンを受け取って、現代の音楽文化にその視点を反映させていかなければいけないのだということも考えます。

久保田:私の世代はある意味、戦後洗脳されているんですよ。敗戦によっていろんなものを抜き取られてしまった。エチオピアや(ブラジルの)レシーフェまでいって近代以前から続く歌や踊りを観にいくのは、きっとそのことと関係しているんです。

どう歴史が転換したのか。変わっていいこともあるけど、変わってはいけないこともあるだろうと。それが何なのか、ちゃんと見たいんだよね。私も宮古島の神歌と出会って心が震えたし、阿波おどりのビートを聴くと泣きそうになる。そんなこと、以前は想像もつかなかった。

だから、あまり他の人から影響を受けすぎず、自分たちを大事にしていく。そのことだけをちゃんとやりたいんです。「それぞれ個々の人生を大事にしてくださいね」ということ。自分が音楽つくったり、音楽を人に伝えたりするというのは、そういうことなんだと思う。

久保田麻琴

▼参考資料(編者)
北中正和『風都市伝説 1970年代の街とロックの記憶から』CDジャーナル、2004年
「ジャパン・ロック・シーンの軌跡」(V.A.『Anthology Of Japan Rock』封入のライナーノーツ)日本コロムビア、1985年
『STUDIO VOICE Vol.361』2006年1月号
『Aquarium Drunkard』Makoto Kubota : The Aquarium Drunkard Interview(外部サイトを開く
細野晴臣・著、中矢俊一郎・編『HOSONO百景: いつか夢に見た音の旅』河出文庫、2017年
『細野観光 1969-2019』朝日新聞出版、2019年

Page 4
前へ

リリース情報

久保田麻琴
『まちぼうけ』(LP)

2021年4月21日(水)発売
価格:4,180円(税込)
PROT7103

[SIDE-A]
1. あさの光
2. かわいいお前
3. 汽車
4. ひとごみ
5. 山田氏の場合
6. 丸山神社

[SIDE-B]
1. まちぼうけ
2. 休みの風
3. Make Love Co.
4. 時は近ずいて
5. Poor Boy
6 .挽歌

プロフィール

久保田麻琴(くぼた まこと)

1949年、京都府生まれ、石川県小松市出身。同志社大学経済学部在学中の1970年、URCより『アナポッカリマックロケ』でデビュー。同年、軽音楽部の1学年上だった水谷孝らと「裸のラリーズ」を結成しベースを担当。大学を1年休学して渡米後、松任谷正隆プロデュースのソロアルバム『まちぼうけ』を発表。その後、夕焼け楽団およびザ・サンセッツとして、ヒッピーカルチャー、アロハ、琉球・沖縄音楽などを独自のグルーブで融合させ、ワールドミュージックブームの先駆けとなる。細野晴臣と親交が深く、ユニットHarry & Macとして『Road to Louisiana』(1999年)を発表するなど、作品にゲストミュージシャンとしても参加している。ライ・クーダー、レボン・ヘルムとも作品で共演している。阿波踊り、岐阜県郡上白鳥の盆踊りなど日本の伝統音楽の録音 / CD制作も行うほか、宮古島の古謡を題材とした映画『スケッチ・オブ・ミャーク』(2011年)の原案・整音・出演を担当。著書に『世界の音を訪ねる―音の錬金術師の旅日記』(2006年、岩波新書刊)がある。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

あらかじめ決められた恋人たちへ“日々feat.アフロ”

何かを我慢することに慣れすぎて忘れてしまいそうになっている「感情」を、たった10分でこじ開けてしまう魔法のようなミュージックビデオ。現在地を確かめながらも、徐々に感情を回転させていくアフロの言葉とあら恋の音。人を傷つけるのではなく、慈しみ輝かせるためのエモーションが天井知らずの勢いで駆け上がっていった先に待ち構えている景色が、普段とは違ったものに見える。これが芸術の力だと言わんばかりに、潔く堂々と振り切っていて気持ちがいい。柴田剛監督のもと、タイコウクニヨシの写真と佐伯龍蔵の映像にも注目。(柏井)

  1. 星野源、ドラマ『着飾る恋には理由があって』主題歌“不思議”ジャケ公開 1

    星野源、ドラマ『着飾る恋には理由があって』主題歌“不思議”ジャケ公開

  2. くるり・岸田繁と君島大空の共鳴するところ 歌と言葉とギターの話 2

    くるり・岸田繁と君島大空の共鳴するところ 歌と言葉とギターの話

  3. Honda新型VEZELのCMに井浦新、玉城ティナ、Licaxxxら 楽曲は藤井 風が担当 3

    Honda新型VEZELのCMに井浦新、玉城ティナ、Licaxxxら 楽曲は藤井 風が担当

  4. Puzzle Projectとは?YOASOBIの仕掛け人と3人の10代が語る 4

    Puzzle Projectとは?YOASOBIの仕掛け人と3人の10代が語る

  5. 君島大空が照らす、生の暗がり 明日を繋ぐよう裸の音で語りかける 5

    君島大空が照らす、生の暗がり 明日を繋ぐよう裸の音で語りかける

  6. 今泉力哉と根本宗子が決めたこと ちゃんと「面倒くさい人」になる 6

    今泉力哉と根本宗子が決めたこと ちゃんと「面倒くさい人」になる

  7. パソコン音楽クラブが語る「生活」の音 非日常下で見つめた自然 7

    パソコン音楽クラブが語る「生活」の音 非日常下で見つめた自然

  8. サブスク以降のバンド活動 97年生まれ、Subway Daydreamの場合 8

    サブスク以降のバンド活動 97年生まれ、Subway Daydreamの場合

  9. Huluの映像クリエイター発掘&育成企画『HU35』発足の理由とは? Pが語る 9

    Huluの映像クリエイター発掘&育成企画『HU35』発足の理由とは? Pが語る

  10. 「日本が滅びても残る芸術を作りたい」平田オリザ×金森穣対談 10

    「日本が滅びても残る芸術を作りたい」平田オリザ×金森穣対談