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坂口恭平が語る「死なないという勝ち方」。画狂老人・北斎に学ぶ

坂口恭平が語る「死なないという勝ち方」。画狂老人・北斎に学ぶ

『HOKUSAI』
インタビュー
九龍ジョー
構成:中島晴矢 撮影:タイコウクニヨシ 編集:井戸沼紀美(CINRA.NET編集部)

「アーティスト」は弾圧の産物。北斎から学ぶべきは「しなり方」

坂口:あと、やっぱり映画を見て気になったのは、幕府による版元や戯作者たちへの弾圧ですよね。北斎と仕事で組んでいた柳亭種彦(武士の家系に生まれ、芸術を取り締まる立場でありながら、身分を隠して執筆を続けた戯作者)は、幕府の弾圧の余波に苦しめられていくじゃないですか。

でも北斎は、そうした状況が変わってほしいと強く願いつつも、なかなか変わらない社会のなかで、上手く「アート」のほうへ逃げていくようにも見える。

九龍:「アート」がエクスキューズになるということですか。

坂口:そう。例えば、千利休も、北大路魯山人も、出口王仁三郎も弾圧されますよね。その結果、みんな北斎と同じように「アーティスト」という枠で後世に残るしかなかった。これってつまるところ、「日本の芸術とは何か?」という問題でもあると思う。

でも僕からしたら、彼らを「アーティスト」で終わらせてはダメだと思うんですよ。だって、本当は社会を変えることが目的だったはずなんだから。

坂口恭平

九龍:なるほど。より大きな運動としてあったはずの可能性が、「アーティスト」としてくくられることで損なわれてしまう、と。

坂口:だから僕は「アーティスト」で終わるつもりはないんです。社会を変えたいんだから。あと「弾圧」って、言葉の問題でもあって。けっきょく言葉を牛耳ってるのは権力なんですよね。

九龍:まさに江戸幕府という、いま以上に強大な権力は言葉さえも支配していましたよね。階級によって使う言葉が違ったりだとか。柳亭種彦(瑛太)は、「武家言葉」を話す武士階級でありながら、「江戸言葉」を話す庶民向けの読本を書いて言葉を脱臼させる戯作者でもあるという、ある意味ダブルスパイのような存在だった。

田中泯演じる葛飾北斎と、瑛太演じる柳亭種彦 ©2020 HOKUSAI MOVIE
田中泯演じる葛飾北斎と、瑛太演じる柳亭種彦 ©2020 HOKUSAI MOVIE

坂口:映画のなかで、言葉を扱う種彦は追い詰められていくのに、北斎は「アート」で生きながらえるっていう描き方も象徴的に思えますよね。本来は弾圧される対象のものを「アートの領域でやるなら、いちおうオッケーです」っていうでたらめな判断基準が、いまの社会とも通じるのかなって。

だから北斎が生きのびるために選んだ「アート」がどういうものかを考えることは、僕にとっても、一つのお手本にはなる。いま描いているパステル画だって、北斎と同じ「現実の観察」がベースにあるわけで。

九龍:受動的に「アーティスト」に安住してはいけないけど、生き伸びるための手段として能動的に「アート」を選ぶことはできると?

坂口:まさにそこのしなり方を北斎に学びたいんですよね。頑固に突っ張っても、すぐ折れてしまったら元も子もないから。

坂口恭平
田中泯演じる葛飾北斎 ©2020 HOKUSAI MOVIE
田中泯演じる葛飾北斎 ©2020 HOKUSAI MOVIE
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作品情報

『HOKUSAI』
『HOKUSAI』

2020年5月28日(金)から全国公開

監督:橋本一
脚本:河原れん
出演:
柳楽優弥
田中泯
玉木宏
瀧本美織
津田寛治
青木崇高
辻本祐樹
浦上晟周
芋生悠
河原れん
城桧吏
永山瑛太
阿部寛
ほか
配給:S・D・P

書籍情報

『躁鬱大学―気分の波で悩んでいるのは、あなただけではありません―』
『躁鬱大学―気分の波で悩んでいるのは、あなただけではありません―』

2021年4月28日(水)発売
著者:坂口恭平
価格:1,760円(税込)
発行:新潮社

プロフィール

坂口恭平(さかぐち きょうへい)

1978年、熊本県生まれ。2001年、早稲田大学理工学部卒業。作家、建築家、絵描き、音楽家、「いのっちの電話」相談員など多彩な顔を持ち、いずれの活動も国内外で高く評価される。『TOKYO 0円ハウス 0円生活』(河出文庫)、『独立国家のつくりかた』(講談社現代新書)、『幻年時代』(幻冬舎文庫/熊日出版文化賞受賞)、『坂口恭平 躁鬱日記』(医学書院)、『自分の薬をつくる』(晶文社)、『Pastel』(左右社)ほか著作多数。

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