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門脇耕三がヴェネチアで実現する建築の価値再生と新たな協働の形

門脇耕三がヴェネチアで実現する建築の価値再生と新たな協働の形

『第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展』日本館
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:豊島望 編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

モノの移動は、大量消費の象徴でもあるけれど、瑞々しい価値の再生のきっかけにもなる。

―さきほども少し話されていましたが、今回のプロジェクトでは、展覧会で使用した部材のその後の使われ方もユニークだとお聞きしました。

門脇:当初は現地で展覧会をやっておしまいだったのですが、チームで話すうちに、我々がそこでこのモノたちを終わらせるのは申し訳ないと考えるようになりました。我々は、2019年に延々と続くバトンを受け取ったにすぎない。それを次に渡すのは義務だよね、と。

門脇耕三

門脇:また、冒頭にも話した通り、現地にゴミを残すべきではない、なるべくゴミにしない道を模索すべきだという意見がチームのなかに根強くありました。そうしたなか、たまたまビエンナーレが一年延期されることになった。

そこで、この間にできることとして、クラウドファンディングで資金を集め、そのリターンとして、展覧会後の部材を使ったプロダクトをお返しするという新たなプロジェクトを立ち上げました。

『コロナ禍で延期されたヴェネチア・ビエンナーレ建築展の日本館関連企画を盛り上げたい』クラウドファンディングは目標額を大幅に上回り2020年10月に終了した
『コロナ禍で延期されたヴェネチア・ビエンナーレ建築展の日本館関連企画を盛り上げたい』クラウドファンディングは目標額を大幅に上回り2020年10月に終了した(サイトで見る

―面白いですね。

門脇:とはいえ、それでも部材はたくさん余ってしまいます。ここで大きかったのが、ほかの参加国の協力でした。

『ヴェネチア・ビエンナーレ』は基本的に国同士の競争ですが、コロナ禍後の対応について各国のキュレーターと議論を交わすなかで、「競争をしている場合ではない」「連帯を示すような展覧会にしたい」という話が出てきました。

『ヴェネチア・ビエンナーレ』参加各国のキュレーターとのオンライン会議
『ヴェネチア・ビエンナーレ』参加各国のキュレーターとのオンライン会議

門脇:そこで知り合ったフィリピン館のキュレーターの一人であるノルウェーの出身者が、余った部材の行き先として、オスロにある団地を紹介してくれたんです。高見澤邸の一部はオスロに行くんですよ。

―そして、そこでまた別の「生」を生きる、と。

門脇:この全体が我々のプロジェクトで、展覧会はその一部に過ぎないんです。高見澤邸が建てられてから起こった一連の物事が、すべてこのプロジェクトに連なっている。

我々はたまたまプロジェクトを通して2019年の東京でそこに参加したけれど、1950年代の職人たち、 2021年のイタリアの職人たち、2022年のオスロの参加者たち、いろんな人が登場して共存している。

こうした視点は、今回のビエンナーレの全体テーマ「How will we live together?」(我々はいかに一緒に生きられるか?)に対する、ひとつの回答にもなっているのではないかと。この問いの背景には世界の分断状況があるわけですが、ひとつの建築が持ち得るこの広がりこそが、建築家が提示できる共存のためのプラットフォームなのだと考えています。

―建築の見え方が変わるお話でしたが、建築の専門家ではない読者が、慣れ親しんだ周囲の環境に対してそのような新鮮な眼差しを向けるためには、どのようなことが重要だと思われますか?

門脇:ひとつの鍵は、移動だと思います。とくにコロナ前まで、我々はしょっちゅう海外に行き、いまもAmazonからひっきりなしに荷物が届く生活を送っています。こうした流通も含むモノの移動は、大量消費を助長もしますが、このプロジェクトを進めている中で、別の可能性があることにも気づきました。

たとえば、これはイタリアのホームセンターで買ったハケです。向こうの人にしてみたら日常的なものなんですが、我々が見ると妙にカッコいいですよね。

イタリアで購入したというハケ。色味や厚み、ハケ自体が自立するということからも、とても目新しく見える
イタリアで購入したというハケ。色味や厚み、ハケ自体が自立するということからも、とても目新しく見える

門脇:ある場所で慣れ親しまれたものが、別の場所に移されると異なる意味を帯びることがある。こうしたことを踏まえて、プロジェクトメンバーである建築家の長坂常さんは今回、日本ではよく見慣れたブルーシートを全面的に展覧会の床と展示の重要な部分に使っています。

つまり、モノの移動は、大量消費の象徴でもあるけれど、瑞々しい価値の再生のきっかけにもなる。身の回りの街やモノがいかに「普通」でつまらなく見えたとしても、すべては眼差しの持ち方で変わりうるんです。

自分の暮らす場所の内と外を往復しながら、その場所の価値を外側の視点から見てみる。そうした、旅人のような目線が大切なんだと思います。

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サイト情報

『ヴェネチア・ビエンナーレ』日本館
国際交流基金
『第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展』日本館
『ふるまいの連鎖:エレメントの軌跡』

高見澤邸の「建設」「解体」「ヴェネチアへの移動」「その後」が時系列で並んだ、設計図、記録映像、3Dデータ、施工指示書などの膨大なアーカイブを見ることができる。

プロフィール

門脇耕三(かどわき こうぞう)

建築家、建築学者。明治大学准教授、アソシエイツパートナー。博士(工学)。1977年神奈川県生まれ。2001年東京都立大学大学院修士課程修了。東京都立大学助手、首都大学東京助教などを経て現職。2012年に建築設計事務所アソシエイツを設立。現在、明治大学出版会編集委員長、東京藝術大学非常勤講師を兼務。建築構法を専門としながら、建築批評や建築設計などさまざまな活動を展開。建築の物的なエレメントに根ざした独自の建築理論も展開している。

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