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門脇耕三がヴェネチアで実現する建築の価値再生と新たな協働の形

門脇耕三がヴェネチアで実現する建築の価値再生と新たな協働の形

『第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展』日本館
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:豊島望 編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

目の前の建築ひとつでさえも、完全には理解できない。

―お話を聞きながら、このプロジェクトは1950年代の一般の住宅という、歴史的な価値がまだわかりづらい「近過去」のモノに対して、とても丁寧なアプローチをされてきたのだと感じました。一方で、ある種の都市開発やリノベーションでは、モノや場所の持つ文脈をあまり理解しないままに暴力的な介入が行われることも多いと思います。門脇さんは近過去との付き合い方について、どんなことを大切にされていますか?

門脇:これは高見澤邸で発見された梳きバサミです。高見澤邸には貸店舗があったのですが、そこにごく一時期だけパーマ屋さんが入っていたんですね。

高見澤邸で発見された梳きバサミ

門脇:ほかにも解体中、壁のなかから掛けられたまま埋められたジグソーパズルが出てきたこともありました。こうした埋もれたモノはどんな家にもあるはずですが、何も考えずに一度にすべてをガシャッと崩してしまって、失われてしまうことが多いんです。

たしかに僕にとっては面白いモノですが、当の本人や近い人たちにとっては、消し去りたい過去かもしれない。その意味では、つねに俯瞰的な眼差しを持つというか、自分ごととして対象を見過ぎないことが大切だと思います。

門脇耕三

門脇:もうひとつ大事なのは、ツッコミを入れてあげることですね。高見澤邸は貧ぼっちゃまだという話をしましたけど、近過去ってどこかズッコけてるところがあると思う。いまの視点から見ると、30年前に自分がしていた髪型なんて恥ずかしくて仕方ない(笑)。

だけどそれを無かったことにするのではなく、愛情を持ってツッコんであげる。そういう距離感を掴めると、近過去は唾棄すべきものではなくなるんだと思います。

―さきほどの旅人の目線にも似ていますね。

門脇:そうですね。僕はこうした態度を、長坂さんに教わったんです。たとえば、彼が旧社宅を改修した『Sayama Flat』という作品では、「カッコいいリノベーション」をしたい建築家であれば絶対に残さないような空間のディティールをあえて残している。これは長坂さんによる愛のあるツッコミであり、一種のギャグであり、過去との付き合い方です。

見せてくれた『Sayama Flat』の写真
見せてくれた『Sayama Flat』の写真(『Jo Nagasaka / Schemata Architects』Frame Pub 、2017年

門脇:そうした距離感について、今回のチームでも共有しました。自分たちの価値観ですべてを変えるのではなく、カッコ悪く見えるものも含めて付き合っていく。

またプロジェクトをやりながら、僕らは「住宅の汲み尽くせなさ」を感じました。高見澤邸の部材をすべてスキャンすると、すごい量の情報になる。これはひとりの人間の認知の限界を超えているけれども、世の中はそういう取るに足らないものの集積でできている。目の前の住宅建築ひとつでさえも、完全には理解できないのだということ。そうした畏れの感覚は、今回強く感じましたね。

―一瞬で理解した気になってしまうようなものにも、じつは膨大な文脈が潜んでいる。

門脇:ええ。そうした視点を持つと、目の前の風景の捉え方も変わってくるだろうと思います。

解体された高見澤邸の大量の部材 ©ヤン・ブラノブセキ
解体された高見澤邸の大量の部材 ©ヤン・ブラノブセキ

―最後に、さきほど建築家はモノの背景に対する意識を通して、広い世界のデザインにも関わることができるというお話がありました。今後、そうした建築家の役割は、より一般的になっていくのでしょうか?

門脇:そうした奥にあるものへの意識を持つことは重要だと思います。ただ、その建築家像がずっと続いていくかというと、それもまた一時的な「当たり前」かもしれません。

そもそも、建築家が建築の表面的なデザインを主な舞台としはじめたのは、1980年代頃からのことなんです。それ以前、たとえば高見澤邸が建てられた時代には、建築家は奥にある生産システムにも積極的に関与していたんですね。

たとえば広瀬鎌二という建築家は、戦後直後の有名な「SHシリーズ」という住宅群を鉄で作りました。日本では大工さんがとても強いから、木造だと大工に勝手にやられてしまう。そこで先ほどと同じ文脈で、戦争に使わなくなった鉄で住宅を作れば大工を現場から排除できるという考え方で、彼はこの住宅をデザインします。

これは産業にまでコミットするとても強い建築家のあり方ですが、その背景には、戦後の混乱期で建築産業や建築家のあるべき姿が揺らいでいたという事情がありました。

―素材を通した、現場との一種の駆け引き、コミュケーションがあったんですね。

門脇:ところが、1980年代に現在のような生産システムが確立されると、建築家は表面のデザインに集中していき、さきほど話したような設計者と施工者の固定化が進みました。現在はそうした「当たり前」がふたたび揺らいでいる時代なんですね。

その理由のひとつには、資源問題があります。また、職人の高齢化が進み、近年では年間2万人の大工が減っていると言われています。こうした時代に、建築家はあらためて見えているものの奥にあるものに触ってデザインをしなければいけない。どういう生産のあり方がいいのかを考えないといけない。

そのときに我々は、建築家だけが作るのではなくて、みんなで関わり合うような仕組みがあるべきではないか、建築はあらゆる人の協働で作られる一種の共用物で、そうしたマインドを持った生産システムがいいんじゃないかと考えわけなんです。

「当たり前」が揺らいでいる時代に、それを考えておかないと、ふたたび生産システムが固まったとき、その次を考えることができなくなってしまう。だから、この問題はみんなが考えるべきだと思っていますが、「僕らはこう考えました」ということを、今回のプロジェクトでお見せできればいいと思っています。

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サイト情報

『ヴェネチア・ビエンナーレ』日本館
国際交流基金
『第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展』日本館
『ふるまいの連鎖:エレメントの軌跡』

高見澤邸の「建設」「解体」「ヴェネチアへの移動」「その後」が時系列で並んだ、設計図、記録映像、3Dデータ、施工指示書などの膨大なアーカイブを見ることができる。

プロフィール

門脇耕三(かどわき こうぞう)

建築家、建築学者。明治大学准教授、アソシエイツパートナー。博士(工学)。1977年神奈川県生まれ。2001年東京都立大学大学院修士課程修了。東京都立大学助手、首都大学東京助教などを経て現職。2012年に建築設計事務所アソシエイツを設立。現在、明治大学出版会編集委員長、東京藝術大学非常勤講師を兼務。建築構法を専門としながら、建築批評や建築設計などさまざまな活動を展開。建築の物的なエレメントに根ざした独自の建築理論も展開している。

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