インタビュー

君島大空による『袖の汀』全曲解説。歌のあり様の変化を自ら語る

君島大空による『袖の汀』全曲解説。歌のあり様の変化を自ら語る

インタビュー・テキスト
天野史彬
撮影:松永つぐみ 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)
2021/05/17

1. “光暈(halo)”――声の聴かせ方、音の響かせ方にこれまでとの如実な変化が

―ここからは『袖の汀』収録曲を1曲ずつ解説していただきます。まずは1曲目の“光暈(halo)”。この曲に入っている波の音は、曲が生まれた場所で録ったものですか?

君島:これは、いろんな波の音を入れていて。去年の10月に“笑止”のMVを撮ったときに館山で録った音とか、2年くらい前に幕張の海でラジカセのノイズを録ったときの音とか、綺麗な景色を思い出せる海の音を入れようと思っていろんな音が入っています。

君島大空『縫層』収録曲(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

君島:ただ、実際に“光暈(halo)”ができたときの海の音は入っていないんですよ。ずっと俺のギターの音が入っているから、それが邪魔で(笑)。

―(笑)

君島:“光暈(halo)”をつくったときは7時間くらいずっと同じ浜辺にいたんですよね。できたばかりの曲なのに、すでにある曲をやっているような、他の誰かの曲をやっているような感覚で曲が出てきて。不思議な感じでした。

―サウンド面ではどんなことを考えましたか?

君島:今回のEPは家で全部録っていて。“光暈(halo)”はまずガットギターを録ったんですけど、ガットから鳴る音に残響っぽく聴こえる倍音が出ていて。その音のドローン(註:楽曲のなかで音高の変化と関係なく持続的に鳴っている音のこと)を足しているんです。

よく聴けばとわかると思うんですけど、あるところから、弾いている音の倍音に近い音程のドローンがずっと鳴っている。そうすることで、ガット1本で、鳴らし方は閉じているけど、音はホールで録ったみたいに大きく聴こえるというか。開けたなにもない場所で音がずっと鳴っている……そんな感じの音にしたくて。

君島大空『袖の汀』収録曲(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

―そういった音づくりのうえでリファレンスになった音源などはありますか?

君島:ブラジルのギタリストのソロ作品はよく聴きました。ヤマンドゥ・コスタっていうめちゃくちゃ上手い人のソロとか、パコ・デ・ルシアとか。両方とも、特に参考にはならなかったんですけど(笑)、彼らはガットギターの録音の音がすごく綺麗なんです(註:ヤマンドゥ・コスタはブラジル、パコ・デ・ルシアはスペインのギタリスト)。

あと、Guingaというブラジルのギタリストの音源を聴いたりもしました。本職は歯医者らしいんですけど(笑)、めちゃくちゃギターが上手くて。あと、ガットギターを弾いているということで、青葉市子さんも聴きましたね。

君島:ガットって、いい音の基準が難しいんです。昔の録音で、乾いていてパッキパキだけどすごくいい音だと感じるものもあるし、音がリッチ過ぎてもリアルじゃないし。いろんな人の録音と自分の録音を交互に聴き比べたりしながらつくりました。

―これまでの音源と比べると、“光暈(halo)”は特に歌唱の変化が顕著なような気がしましたが、ご自身としての印象はどうですか?

君島:今回は、いままで歌ってきたなかで一番自然な歌唱だと思います。「自分の声はこれだ!」という感じで歌えている。これまでは周りに煙幕を張り巡らせて、その奥から声が聴こえてほしいと思っていたんだけど、今回はもっと真正面から聴こえてほしいと思ってつくりました。

あと、今回のタイミングでマイクやスピーカーを新調したり、録音の環境をちょっとよくしたんです。ミックスもヘッドフォンでやらずスピーカーでやるようになったし。このEPは、いままでの作品に比べても一番いい音になっていて、だからこそナチュラルな自分の声をちゃんと録ろうと思えたのもあると思います。

君島大空

君島:昔つくったデモを聴き返すと、声の重心が低くて、いまのほうが出ている声の腰みたいなものの位置が高いんです。少しずつ高い音が出せるようになっているのは、心境の変化も大きいと思っていて、どんどんと自分の声の自然な出し方を許せてきているのかもしれない。

去年、コロナでライブそのものが減ったけど、同時に、もともとはバンドで出る予定だったライブにひとりで出ることがあったりして、弾き語りで演奏できる機会も増えたんです。

オーチャードホールのような大きな場所で弾き語りをやるのって、こういう状況でなければできなかったことだと思うんです。

―七尾旅人、石橋英子と共演した『Shibuya Sound Scope ~パラレルとパラドックス~』(2020年11月19日に開催)では、できたばかりの“光暈(halo)”を披露していましたけど、開けたところで鳴っているという音像のイメージも、もしかしたらあの公演によって生まれた感覚なのかもしれないですね。

君島:うん。あとは、そういう経験を経るごとにひとりでやるのはどんどん楽しくなったし、それを「好き」といってもらえる場面も増えた実感もあって、自信がついてきたのかもしれないです。真正面から自分の声を受け入れた結果、こういう歌い方になったような気がします。

君島大空“光暈(halo)”を聴く(Apple Musicはこちら

2. “向こう髪”――鬼気迫るギター、意味を跳躍して次々に違う景色を描く歌詞。この曲の持つエネルギーが描写しているもの

―2曲目の“向こう髪”は、昔からライブでよく演奏されていた楽曲で、待望の収録です。

君島:最近、歌うときに笑うようにしていて。“向こう髪”は特に、歌いながらずっと笑っていたんですよね。この曲は楽しくて自然に笑っちゃうのもあるんですけど、今回の歌唱の変化とか、自分の歌いやすさにつながっているのかもしれないです。

―「笑うこと」って、君島さんの音楽にとってすごく大事な要素になっていますよね。

君島:それはすごくあります。……変な言い方ですけど、ずっとキュンキュンしていたいんです(笑)。自分がつくるものや、自分が見せる景色や、自分が聴く音楽にも、ずっとときめいていたい。ずっと最高の鮮度でときめいていられたらこんなにいいことはないだろうなって、最近すごく思います。

君島大空『袖の汀』収録曲(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

―“向こう髪”が生まれたときのことは覚えていますか?

君島:“向こう髪”にも、海の映像がイメージとして強くあったんです。たしか川べりでつくって。この曲は、はっきりと人に向けて書いた記憶があります。なんの嫌味もなく前向きな曲だと思いますね。

あと、この曲は歌をすごく丁寧に録りました。“光暈(halo)”は仮歌をほとんどそのまま使っちゃっていますけど、“向こう髪”は己との闘いという感じで、ギター1本、歌1本っていうところをすごく意識しました。

―SoundCloudに上がっていた音源と比べると、すごくリズミカルになっていますよね。

君島大空“向こう髪 demo”アートワーク
君島大空“向こう髪 demo”アートワーク(SoundCloudで聴く

君島:そうですね。ギターも今回のEPのなかでは一番集中して録りました。ほぼワンテイクで録ったんですけど、いま自分のなかにいる最強のギタリストを呼び出して演奏させました。

ギターを録るのが難しすぎて、レコーディングはこの曲が一番辛かったかもしれない。長く弾いてきた曲なので、演奏面でやることがほぼ全部決まってしまっていたんです。それによる束縛と抗おうとする気持ちが拮抗して、録音のときには、意識の外で急に暴れ出すような感覚がありました。

―そこにもいろんな自分がいますよね。何年もかけてフレーズを磨き上げてきた自分、完成されたフレーズを越えようとする自分、その両方を冷静に見つめて録音している自分。

君島:ああ、たしかにそうですね。(SoundCloud版で入れていた)コーラスを入れようかとも考えたんですけど、結局入れず。ただ、『縫層』のレコーディングのときに(石若)駿さんが持ってきてくれたヴィブラスラップという楽器を使って録った音はところどころに重ねて入れています。

―歌詞に関してはどうでしょう。曲がリズミカルであると同時に、歌詞もすごく跳躍していると思います。

君島:飛んでいる感じはありますね。自分のなかでの景色の切り替わりがすごく激しい。どんどんと扉を開けて、どんどんと先に先に行こうとする感じというか。

この、どんどん切り取られて、どんどん好きなようにつなげていく感じって、自分のなかではすごく自然なんです。好きなときに好きなことを言う、みたいな。表面的には静かでも、内情はめちゃくちゃ忙しいことが起こっている。静かに血液が沸騰している感じがそのまま歌詞になっているような気がします。

今回の撮影は“向こう髪”のミュージックビデオの撮影の合間に、松永つぐみによって行われた
今回の撮影は“向こう髪”のミュージックビデオの撮影の合間に、松永つぐみによって行われた

―なるほど。だから1行ごとに違う景色が描かれるどころか、1行のなかでも意味の跳躍が起こっている。

君島:この曲で歌われているのは、誰かのことを救おうとしているんだけど、それは自分のなかでもがいているだけで救うことができない人のことなんだろうなと思います。<連れてゆくんだ>と言っているけど、その人に向かって面と向かっては言えていないし、だからこそ歌になっている。

歌のなかの人物がなにを言っているのかはぼくもよくわからないんだけど、でも、なにか強い気持ちがあるのは伝わるっていう。

―ある種、衝動的というか。

君島:たしかに、“向こう髪”の歌詞は、今回のEPのなかで一番「若い」感じがします。年齢が若いがゆえに、気が急いている感じがある。この歌詞は、「ある」ものを絶対にこぼさないように、バーッと書いた記憶があります。

君島大空“向こう髪”を聴く(Apple Musicはこちら

Page 2
前へ 次へ

リリース情報

君島大空『袖の汀』
君島大空
『袖の汀』(CD)

2021年4月21日(水)発売
価格:2,200円(税込)
APLS2015

1. 光暈(halo)
2. 向こう髪
3. 星の降るひと
4. きさらぎ
5. 白い花
6. 銃口

プロフィール

XXX
君島大空(きみしま おおぞら)

1995年生まれ日本の音楽家。ギタリスト。2014年から活動を始める。同年からSoundCloudに自身で作詞 / 作曲 / 編曲 / 演奏 / 歌唱をし多重録音で制作した音源の公開を始める。2019年3月13日、1st EP『午後の反射光』を発表。2019年7月5日、1stシングル『散瞳/花曇』を発表。2019年7月27日『FUJI ROCK FESTIVAL '19 ROOKIE A GO-GO』に合奏形態で出演。11月には合奏形態で初のツアーを敢行。2020年1月、Eテレ NHKドキュメンタリー『no art, no life』の主題曲に起用。同年7月24日、2ndシングル『火傷に雨』を発表。2021年4月21日、3rd EP『袖の汀』を発表。ギタリストとして吉澤嘉代子、高井息吹、鬼束ちひろ、adieu(上白石萌歌)などのアーティストのライブや録音に参加する一方、楽曲提供など様々な分野で活動中。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

あらかじめ決められた恋人たちへ“日々feat.アフロ”

何かを我慢することに慣れすぎて忘れてしまいそうになっている「感情」を、たった10分でこじ開けてしまう魔法のようなミュージックビデオ。現在地を確かめながらも、徐々に感情を回転させていくアフロの言葉とあら恋の音。人を傷つけるのではなく、慈しみ輝かせるためのエモーションが天井知らずの勢いで駆け上がっていった先に待ち構えている景色が、普段とは違ったものに見える。これが芸術の力だと言わんばかりに、潔く堂々と振り切っていて気持ちがいい。柴田剛監督のもと、タイコウクニヨシの写真と佐伯龍蔵の映像にも注目。(柏井)

  1. THE SPELLBOUNDがライブで示した、2人の新しいロックバンド像 1

    THE SPELLBOUNDがライブで示した、2人の新しいロックバンド像

  2. 中村佳穂が語る『竜とそばかすの姫』 シェアされ伝播する歌の姿 2

    中村佳穂が語る『竜とそばかすの姫』 シェアされ伝播する歌の姿

  3. 『プロミシング・ヤング・ウーマン』が映し出す、「女性の現実」 3

    『プロミシング・ヤング・ウーマン』が映し出す、「女性の現実」

  4. ジム・ジャームッシュ特集が延長上映 『パターソン』マーヴィンTシャツも 4

    ジム・ジャームッシュ特集が延長上映 『パターソン』マーヴィンTシャツも

  5. A_oから青い心を持つ全ての人へ 自由に、自分の力で生きること 5

    A_oから青い心を持つ全ての人へ 自由に、自分の力で生きること

  6. 地下から漏れ出すアカデミックかつ凶暴な音 SMTKが4人全員で語る 6

    地下から漏れ出すアカデミックかつ凶暴な音 SMTKが4人全員で語る

  7. 林遣都×小松菜奈『恋する寄生虫』に井浦新、石橋凌が出演 特報2種到着 7

    林遣都×小松菜奈『恋する寄生虫』に井浦新、石橋凌が出演 特報2種到着

  8. 『暗やみの色』で谷川俊太郎、レイ・ハラカミらは何を見せたのか 8

    『暗やみの色』で谷川俊太郎、レイ・ハラカミらは何を見せたのか

  9. ギャスパー・ノエ×モニカ・ベルッチ『アレックス STRAIGHT CUT』10月公開 9

    ギャスパー・ノエ×モニカ・ベルッチ『アレックス STRAIGHT CUT』10月公開

  10. 『ジョーカー』はなぜ無視できない作品なのか?賛否の議論を考察 10

    『ジョーカー』はなぜ無視できない作品なのか?賛否の議論を考察