インタビュー

君島大空による『袖の汀』全曲解説。歌のあり様の変化を自ら語る

君島大空による『袖の汀』全曲解説。歌のあり様の変化を自ら語る

インタビュー・テキスト
天野史彬
撮影:松永つぐみ 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)
2021/05/17

3. “星の降るひと”――誰にも触れられなかった声、作品、時間をなかったことにしないために

―3曲目の“星の降るひと”は、去年、『no art, no life』(NHK Eテレ)のテーマ音楽として披露されていた曲ですよね。

君島:そうですね。アウトサイダーアートを特集した番組だったんですけど、あの番組のためにつくった曲です。

ぼくには弟がいて、人とコミュニケーションをとるのがすごく苦手なんだけど、ぼくにはたくさん話をしてくれるんです。弟は絵を描いていて、あの番組の話をいただいたときに、弟の姿がすごく被ったんですよね。なので、半分は弟のために書いた曲です。このEPのなかで一番明るい時間帯の曲って感じがしますね。

―歌い出しは<誰も君を知らない夜明け>ですもんね。

君島:目が覚める前に瞼に光が当たって少しずつ意識が戻ってくるような情景が、つくっている間、頭にあった気がします。

夜明け前の誰も起きていない時間に、誰にも気づかれずに絵を描いている人がいる。その絵は誰にも見せたことがなくて、生きている間に誰かに見せるかどうかもわからない。それは絶対に見られたくない絵なのかもしれないけど、でも、そういう時間は、絶対にある。

少なくとも自分は、弟を見ていて、確実に世界のどこかにそういう時間があることを知っている……そういうことを考えていました。

君島大空“星の降るひと”を聴く(Apple Musicはこちら

―歌詞には<俯いたとき星を掴んだ>という一節もありますけど、これは君島さんの音楽の在り方を顕著に表しているラインだと思いました。多くの人は空を見上げたときになにかがあると思うけど、君島さんは、俯いたときに星を見つける。

君島:誰も見ていない時間、ぼくの大好きな人の、ぼくも知らない時間……そういうものにどうにかして手を伸ばしたいって気持ちはすごくあるので。その部分の歌詞は自分でも気に入っています。

―サウンド面はどうですか?

君島:番組に向けてつくったものからほとんど変えずに収録していて。意識していたことは、情報過多なんだけど、サラッと聴けるものをつくりたいということで。おもちゃ箱を引っ繰り返してぐちゃぐちゃになっちゃった床を片づけるような気持ちでつくりましたね。

生っぽいドラムも鳴っているし、自分で録った素材も鳴っているし、エレクトロニックなビートも鳴っている。ダイソーで買った鍋の蓋も叩いているんですよ。

―そうなんですか(笑)。

君島:すごく弱い音で叩くと、いい感じのシズル感が出るんです(笑)。それこそ宅録をはじめた頃って、自分の生活で鳴っている音を音源と混ぜるのが好きで、よくやっていたんですよね。今回のEPでは、そういうことを自然にやっていましたね。

4. “きさらぎ”――穏やかな曲調の奥にある、危うくせめぎ合う感覚

―4曲目の“きさらぎ”はどうですか?

君島:これは、めちゃくちゃ暗い曲ですね(苦笑)。映像として、マジックアワーが終わったくらいの時間帯の熱海の海がずっと浮かんでいて。そこに、ふたりの人間がいる。ふたりは自分と相手の違いに怖くなってしまうから、小さい約束を重ねていく、みたいな……。

1年前くらい前に書いた曲なんですけど、コロナで緊急事態宣言が出ていた時期で、どんどんしんどくなっていて。だからこそ<どこへも行けそうね>と歌いたかったのかもしれないです。

―この曲も「海」がイメージにあるんですね。

君島:そうですね。2月の海。歌詞はすごくベタな設定なんですけど、旅行に行ったふたりが、帰りたくないけど帰らなきゃいけなくて、「どうにかして時間が延びないかしら」と思っている。

あとから調べたら、「きさらぎ駅」という「2ちゃんねる」から生まれた都市伝説があるらしくて。知っていますか?

―いや、知らないです。

君島:「いつも乗っている電車がなかなか次の駅に止まらない」って、リアルタイムでスレッドを立てた人がいて、やっと駅に着いたと思ったら、そこは「きさらぎ駅」という実在しない駅だった。要はパラレルワールドに行っちゃったのかもしれないっていう。

有名スレッドらしいんですけど、ぼくは逆にそういうところに行きたいのかもしれない(笑)。でも、この曲の歌詞のふたりは、きっとどこにも行けないんです。すごく寂しい曲だなと思います。

君島大空“きさらぎ”を聴く(Apple Musicはこちら

―音楽のなかですら「きっとどこにも行けない」という結末に着地させようとするのは、君島さんのなかでは、向こう側に「行きたい」気持ちと「行ってはいけない」気持ちがせめぎ合っているからなのかな、とも思えます。

君島:ああ……せめぎ合っていますね、たしかに。そこは、「終わらせたくない」という気持ちが強いような気もします。決定的なものを見たくないというか。

―それはきっと、「海は見たくないけど、海の近くにいたい」という感覚にも通じますよね(参照:『袖の汀』総論インタビュー)。

君島:そうです、そうです。たぶん、わかっているんです、行ったらどうなってしまうのか。もしかしたら自分は過去に、そういう場所に行ったことがあるのかもしれないし。それをどうにか見ないようにしている感じかもしれないです。

君島大空

―“きさらぎ”のサウンドには、どんなリファレンスがありますか?

君島:当時はブレイク・ミルズの『Mutable Set』(2020年)をすごく聴いていて。情報量は豊かなんだけど、テンションの低いものをつくりたかったんです。彼のアルバムは生演奏だから、PCでオーバーダブしながらっていうつくり方では同じことを再現することは不可能ではあるんだけど、“きさらぎ”と、次の“白い花”は、そういうものを意識しながら、トラックもので、なおかつ静かなものをつくろうというチャレンジをしました。

“きさらぎ”は実際にエレピを弾いて、それを1回カセットテープに録音したものとオリジナル音源を混ぜたり、この曲でも昔録った石若さんの音を要所要所で使ったりしています。あと、ハイハットみたいに鳴っている音は、これもダイソーで買った鍋の蓋ですね(笑)。

―これも(笑)。

君島:あと、“きさらぎ”にはなぜかいままでで一番長いギターソロが入っています。このギターソロは、真剣には捉えないでほしいです(笑)。「うわあ、だせえ」って、ここで一緒に笑ってもらえたらいいなと思います(笑)。いや、ここまで言っておいてなんですが、いまやはり真に受けてほしいなと、思いました。半泣きで録ったのを思い出した。

Page 3
前へ 次へ

リリース情報

君島大空『袖の汀』
君島大空
『袖の汀』(CD)

2021年4月21日(水)発売
価格:2,200円(税込)
APLS2015

1. 光暈(halo)
2. 向こう髪
3. 星の降るひと
4. きさらぎ
5. 白い花
6. 銃口

プロフィール

XXX
君島大空(きみしま おおぞら)

1995年生まれ日本の音楽家。ギタリスト。2014年から活動を始める。同年からSoundCloudに自身で作詞 / 作曲 / 編曲 / 演奏 / 歌唱をし多重録音で制作した音源の公開を始める。2019年3月13日、1st EP『午後の反射光』を発表。2019年7月5日、1stシングル『散瞳/花曇』を発表。2019年7月27日『FUJI ROCK FESTIVAL '19 ROOKIE A GO-GO』に合奏形態で出演。11月には合奏形態で初のツアーを敢行。2020年1月、Eテレ NHKドキュメンタリー『no art, no life』の主題曲に起用。同年7月24日、2ndシングル『火傷に雨』を発表。2021年4月21日、3rd EP『袖の汀』を発表。ギタリストとして吉澤嘉代子、高井息吹、鬼束ちひろ、adieu(上白石萌歌)などのアーティストのライブや録音に参加する一方、楽曲提供など様々な分野で活動中。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

あらかじめ決められた恋人たちへ“日々feat.アフロ”

何かを我慢することに慣れすぎて忘れてしまいそうになっている「感情」を、たった10分でこじ開けてしまう魔法のようなミュージックビデオ。現在地を確かめながらも、徐々に感情を回転させていくアフロの言葉とあら恋の音。人を傷つけるのではなく、慈しみ輝かせるためのエモーションが天井知らずの勢いで駆け上がっていった先に待ち構えている景色が、普段とは違ったものに見える。これが芸術の力だと言わんばかりに、潔く堂々と振り切っていて気持ちがいい。柴田剛監督のもと、タイコウクニヨシの写真と佐伯龍蔵の映像にも注目。(柏井)

  1. THE SPELLBOUNDがライブで示した、2人の新しいロックバンド像 1

    THE SPELLBOUNDがライブで示した、2人の新しいロックバンド像

  2. 中村佳穂が語る『竜とそばかすの姫』 シェアされ伝播する歌の姿 2

    中村佳穂が語る『竜とそばかすの姫』 シェアされ伝播する歌の姿

  3. 『プロミシング・ヤング・ウーマン』が映し出す、「女性の現実」 3

    『プロミシング・ヤング・ウーマン』が映し出す、「女性の現実」

  4. ジム・ジャームッシュ特集が延長上映 『パターソン』マーヴィンTシャツも 4

    ジム・ジャームッシュ特集が延長上映 『パターソン』マーヴィンTシャツも

  5. A_oから青い心を持つ全ての人へ 自由に、自分の力で生きること 5

    A_oから青い心を持つ全ての人へ 自由に、自分の力で生きること

  6. 地下から漏れ出すアカデミックかつ凶暴な音 SMTKが4人全員で語る 6

    地下から漏れ出すアカデミックかつ凶暴な音 SMTKが4人全員で語る

  7. 林遣都×小松菜奈『恋する寄生虫』に井浦新、石橋凌が出演 特報2種到着 7

    林遣都×小松菜奈『恋する寄生虫』に井浦新、石橋凌が出演 特報2種到着

  8. 『暗やみの色』で谷川俊太郎、レイ・ハラカミらは何を見せたのか 8

    『暗やみの色』で谷川俊太郎、レイ・ハラカミらは何を見せたのか

  9. ギャスパー・ノエ×モニカ・ベルッチ『アレックス STRAIGHT CUT』10月公開 9

    ギャスパー・ノエ×モニカ・ベルッチ『アレックス STRAIGHT CUT』10月公開

  10. 『ジョーカー』はなぜ無視できない作品なのか?賛否の議論を考察 10

    『ジョーカー』はなぜ無視できない作品なのか?賛否の議論を考察