インタビュー

君島大空による『袖の汀』全曲解説。歌のあり様の変化を自ら語る

君島大空による『袖の汀』全曲解説。歌のあり様の変化を自ら語る

インタビュー・テキスト
天野史彬
撮影:松永つぐみ 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)
2021/05/17

5. “白い花”――「好きな人の部屋にそっと入っていくような気持ちでつくった」

―5曲目“白い花”は、<幽霊みたいになって君の胸に滑り込もう>と歌詞にありますけど、本当に幽霊みたいなサウンドというか(笑)。

君島:幽霊っぽいですよね(笑)。すごく人っぽい気体というか、形にならずに漂っているものみたいな。

歌詞を見返したら、自分が思っている素直なことが書いてあるなと思いました。この曲ってほとんどストーカーの曲だと思うんですけど、ぼく自身、ストーカー気質なんですよ。

―(笑)。<誰よりも早く朝陽が君を抱きしめるより / それよりも早く君の窓を僕はすり抜けて>という歌詞もありますけど、ひとりで思っているような感覚というか。

君島:思い出すとちょっと怖いんですけど、中学生の頃とか、約束もしていないのに好きな人の家の前で待っていたりしていて。当時はそうすることでしか自分のなかで気持ちを収める方法がなかったんですよね。

そのときは、それでしか「好き」という気持ちを表すことができなかった。“白い花”は、あくまでも「幽霊みたい」になっているという曲で、実際に幽霊にはなっていないんです。好きな人の部屋にそっと入っていくような気持ちでつくったんです。最後にはバレちゃうんですけどね。

君島大空“白い花”を聴く(Apple Musicはこちら

―サウンド面に関してはいかがですか?

君島:この曲は、見たい景色が明確にあって。すごく安心したかったんだと思うんですよね。なので、これは“きさらぎ”にも言えるんですけど、どちらも低域を意識してつくりました。

ずっと不安定ではあるんだけど、低域が安定していると、安心して聴けるから。その絶妙なところを目指しました。特に“白い花”のキックとベースはすごく気に入っていますね。ちゃんと曲を包んでくれている気がする。

―「不安定だけど安心できる」というのは、「幽霊みたい」だけど「幽霊ではない」という歌詞の感覚につながりますね。

君島:そうですね。この曲は結構前に、これも川べりでつくった曲なんですけど、歌詞はできたときから変わっていなくて。歌詞から見えてくる音をつくっていった感じだと思います。

6. “銃口”――自分の世界の一部を託せる人と出会うことで生まれた、ゆくあてのないラブソング

―最後の“銃口”。この『袖の汀』という作品は、この曲で締めくくられていることがとても重要なことだと思います。

君島:“銃口”は、めちゃくちゃラブソングのつもりで書いたんです。時期的には“光暈(halo)”のすぐあと、海の近くから帰ってきたときにバーッと、歌詞もほとんどそのまま出てきて。自分でも、すごく好きな曲です。

“銃口”は自分でもすごく不思議な曲で、ラブソングと言いつつ誰に向けているかも謎で、この曲は、なにが言いたかったのか……。すごくいろんなものがない交ぜになっている気がします。「銃口」って、カメラのレンズのことなんですけど。

―<壊れたシャッターの音で僕を焦がして>という一節もありますね。

君島:ぼくは写真を撮られると、撃たれた感じになるというか、魂をとられたような感覚になってしまって。写真を撮られるのがすごく嫌いだったんですけど、去年、「この人に撮られるなら、写真を克服できるかもしれない」と思えるような写真を撮ってくれる人に、ふたり出会って。

その人たちに出会ったことで、写真そのものというか、「自分を見つめること」を克服できるんじゃないかって感覚があったんです。その写真家の人たちのことも考えていました。

君島大空“銃口”を聴く(Apple Musicはこちら

―いま言ってくださったふたりの写真家は、他の人とはなにが違うのだと思いますか?

君島:写真でぼくが見たい景色って、すごく具体的なんだと思うんです。いままで「こういうふうに撮ってください」とお願いしても、出てきたものに対して「違う」と思ってしまうことが多くて、それは結局、自分のなかに強烈にイメージがあるからなんですよね。

実際に映っているものはぼやっとしていたり、霞んでいるものなんだけど、自分のイメージ自体はすごく強くある。ぼくのなかで見えている景色、見えている世界……そういうものを撮っている人たちに、去年出会えたんだと思います。共通言語はないけど、「この人たちはぼくと同じ世界を、違う視点から見ているのかもしれない」と思える人たちというか。そう思えることが嬉しかったんです。

―なるほど。

君島:自分でコラージュをつくったり、絵を描いたり、曲の視覚的な世界を補完するために自分でなにかしなくちゃいけないとずっと思っていたんですけど、その人たちになら、自分の世界の一部を任せることができるかもしれないと思えた。

『縫層』のときも西田(註:君島大空 合奏形態のギタリスト、西田修大)の力を借りたりしましたけど、そうやってどんどんと誰かの力を借りるっていうことが前向きにできるようになってきている感覚があります。

君島大空

―“銃口”はとても穏やかな曲であると同時に、音に歪な「震え」のようなものが捉えられていると思うんです。音づくりでどんなことを意識しましたか?

君島:“銃口”は歌とギターを一発で録ったんですけど、マスタリングでモノラルにしたんです。モノラルにしてガッチガチのコンプ(註:音を圧縮するエフェクターのこと、音の強弱の差を縮小させる効果がある)をかけて、演奏の音量レベルが上がっていくにつれて、音がモノラルのなかで暴れ出す。

よく聴くと、そのときの音が鳴っています。海がモノラルで鳴っているようなイメージがあったんです。それは“銃口”だけでなくて、このEP全体を通してのイメージでもあるんですけど。

―なるほど。だからこの曲の、特に後半の音像は不思議なものになっていたんですね。

君島:マスタリングは那須でやったんですけど、“銃口”は、マスタリングの前日に旅館でテクスチャーを足していきました。“光暈(halo)”の最後に入っている海の音とか、『午後の反射光』で使った音とかを足して、最終的にそれをモノラルにする。

……ぼく、カセットテープが大好きなんです。カセットテープは壊れていってしまう、伸びていってしまうものだけど、でも、そのなかだけで確実に世界が回っている。その状態が好きで。“銃口”では、そういう感じを出したかったんですよね。閉ざされた世界を覗いているような感覚というか。

―君島さんの音楽を構成する音には、強烈に君島さんの個人史が刻まれていますよね。きっと君島さんはその一つひとつを細かく説明して伝えたいとは思わないだろうけど、それが混ざり合って音楽として伝わってきたときに、すごく個人的で、でもすごく開けたものとして伝わってくるような感じがします。

君島:そう言っていただけるのは嬉しいです。自分のサンプルライブラリーのなかのあるひとつの音が、これまでの3作品すべてに入っているんです。『午後の反射光』でも、『縫層』でも、今回の『袖の汀』でも、ずっと同じひとつの素材から取ってきている音がある。

それがどの音かは自分だけがわかればいいんですけど、きっと次の作品にもそれは入ると思う。それは、自分へのおまじないのようなものなんですよね。呪いをかけるような感覚というか。「魔法をかける」と言ったほうが綺麗かもしれないけど、自分としては、そんなに綺麗なものではない、もっと執着の強い音。そういうものはずっと自分の音楽のなかにあるような気がします。

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リリース情報

君島大空『袖の汀』
君島大空
『袖の汀』(CD)

2021年4月21日(水)発売
価格:2,200円(税込)
APLS2015

1. 光暈(halo)
2. 向こう髪
3. 星の降るひと
4. きさらぎ
5. 白い花
6. 銃口

プロフィール

XXX
君島大空(きみしま おおぞら)

1995年生まれ日本の音楽家。ギタリスト。2014年から活動を始める。同年からSoundCloudに自身で作詞 / 作曲 / 編曲 / 演奏 / 歌唱をし多重録音で制作した音源の公開を始める。2019年3月13日、1st EP『午後の反射光』を発表。2019年7月5日、1stシングル『散瞳/花曇』を発表。2019年7月27日『FUJI ROCK FESTIVAL '19 ROOKIE A GO-GO』に合奏形態で出演。11月には合奏形態で初のツアーを敢行。2020年1月、Eテレ NHKドキュメンタリー『no art, no life』の主題曲に起用。同年7月24日、2ndシングル『火傷に雨』を発表。2021年4月21日、3rd EP『袖の汀』を発表。ギタリストとして吉澤嘉代子、高井息吹、鬼束ちひろ、adieu(上白石萌歌)などのアーティストのライブや録音に参加する一方、楽曲提供など様々な分野で活動中。

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