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別府の街に多様な人々が集う。老舗劇場に見る「生きやすい場所」

別府の街に多様な人々が集う。老舗劇場に見る「生きやすい場所」

THEATRE for ALL
インタビュー・テキスト
羽佐田瑶子
編集:後藤美波(CINRA.NET編集部)

華やかな衣装とメイクを纏った9人のドラァグクイーンが、ソファに腰掛けて自身の生い立ちや考えを語る──明るく振る舞うその様に、覚悟とプライドを感じて心が震えた。多様性をよりいっそう考える現在に、このドキュメンタリーが生まれたことを祝福したい。

大分県の温泉街・別府市にある昭和24年(1949年)創業の、街唯一のミニシアター「別府ブルーバード劇場」。2017年から始まった『Beppuブルーバード映画祭』には、斎藤工やリリー・フランキー、白石和彌監督など映画関係者のほか、毎年ドラァグクイーンが全国各地から応援に訪れ、会場を盛り上げている。館長を務めるのは、今年で90歳になる岡村照さん(通称「照ちゃん」)。「会えて嬉しい!」とクイーンたちを全身で抱きしめ、ありのままを受け止める。そんな90歳の照ちゃんとドラァグクイーンの交流を収めたドキュメンタリー映画『十人十色の物語~今年90歳になる館長と9人のドラァグクイーン~』が、オンライン型劇場「THEATRE for ALL」にて配信中だ。2021年2月に開催された、LGBTQ+をテーマにした映画の上映やトークを行った『十人十色映画祭』の裏側も収録する。

本作の監督である「もりたじり」の二人(森田真帆+田尻大樹)は以前より劇場や映画祭の運営に携わり、ドラァグクイーンたちからの信頼も厚い。兼ねてより親交の深い監督の二人と映画に出演したドラァグクイーンのドリアン・ロロブリジーダ、映画解説者のよしひろまさみちに映画や劇場の魅力、日本のLGBTQ+作品の現状について話を伺った。

日本のLGBTQ+作品に対する思い。「当事者を招き入れることと同時に、監督自身に理解がない限りいい作品は撮れない」

―本作は、館長の照さんとドラァグクイーンのみなさんの生い立ちや考えに迫るドキュメンタリーです。思春期の性について、カミングアウト、初恋など個人的な話をカメラに向かって正直に語りかけていて、胸打たれるものがありました。ドラァグカルチャーやLGBTQ+当事者の声がつまった映画作品というのは、日本にはまだ少ないように思うのですが、よしひろさんは現状をどうご覧になっていますか?

よしひろ:ゲイカルチャーを真っ向から描いた日本映画って、ピーターさん主演の『薔薇の葬列』(1969)など始まりは早いんだけれど、実は成熟していません。橋口亮輔監督の『二十才の微熱』(1993)が発表されたときは衝撃だったんだけれど、あれから日本のゲイ映画がアップデートされたか、と問われると、決してそうでもないと思います。一方で、昨年はタイBLの影響もあってBLブームがあったけれど、BLとゲイカルチャーは全然違うんですよ。あそこには、私たちのリアルは全く入っていないと私は思うので。

ドリアン:あくまでもファンタジーとして楽しむものだからね。

よしひろ:でも、欧米での性的マイノリティをテーマにした映画は、どんどん成熟しています。当事者のリサーチもきちんと入れているし、キャストやスタッフで関わっていることも多いです。

ただ、日本のLGBTQ+コンテンツは、当事者監修がほとんどありません。だから、当事者が見ると、勝手なイメージを作られて腹が立つんですよ。監修に入れることで言い合いになるのが嫌なのかもしれないけれど、見てくればっかり綺麗な作品が多いですよね。また当事者を招き入れることと同時に、監督自身に理解がない限りいい作品は撮れないと思います。

よしひろまさみち<br>映画ライター、編集者。1972年、東京都生まれ。ゲイ雑誌、音楽誌、情報誌などの編集部を経てフリーに。『sweet』などで編集、執筆をするかたわら、映画レビューやインタビューで『SPA!』、『oz magazine』、アプリ版『ぴあ』、『クロワッサン』など連載多数。日テレ系『スッキリ』で月イチの映画紹介を担当するほか、テレビ、ラジオ、Webの番組内で映画紹介も手掛ける。18歳からゲイと自認し、キャリア上でも隠すことなく活動。LGBTQ+テーマの映画を中心に、トークイベントにも多数出演。
よしひろまさみち
映画ライター、編集者。1972年、東京都生まれ。ゲイ雑誌、音楽誌、情報誌などの編集部を経てフリーに。『sweet』などで編集、執筆をするかたわら、映画レビューやインタビューで『SPA!』、『oz magazine』、アプリ版『ぴあ』、『クロワッサン』など連載多数。日テレ系『スッキリ』で月イチの映画紹介を担当するほか、テレビ、ラジオ、Webの番組内で映画紹介も手掛ける。18歳からゲイと自認し、キャリア上でも隠すことなく活動。LGBTQ+テーマの映画を中心に、トークイベントにも多数出演。

よしひろ:日本はスタートが早かったのに、どうしてこんなに遅れているんだろうと思います。台湾や東南アジアの映画はとっても進んでいるんですよ。LGBTQ+が主題じゃなくても、そういうキャラクターが物語の中に描かれていて、表現もきちんと考えられている。今の日本の、お笑いキャラにしたり最後は死なせたり、1990年代くらいまでのハリウッドを感じさせる不平等なキャラ描出には出遅れ感を感じますね。

―ドキュメンタリーという枠組みでも、あまり描かれてこなかったように思います。

よしひろ:ドキュメンタリーで一番難しいのが、インタビュアーがただ映画を作りたいだけだと相手が腹を割って話してくれないということですよね。お笑い要素を織り込んで、着地点を曖昧にしたりして、本当の本当のところは決して見せなかったり。

でも、今回の『十人十色の物語』はもともと関係性があった「もりたじり」の二人が頑張ってくれたから、みなさんも正直に自身のことを話されたんだと思います。私自身もドラァグクイーンのみなさんとは仲良くさせていただいているけど、バックストーリーを聞いたのはこの映画が初めてでしたわ。

<b>もりたじり(森田真帆+田尻大樹)</b><br>映画ライターの森田真帆、公私共にパートナーの田尻大樹の2人による共同監督名義。昨年コロナ禍の緊急事態宣言で別府ブルーバード劇場が休館になった際、「なにかできることはないか」、と2人で短編映画作りに挑戦したときに生まれた。<br><b>森田真帆(もりた まほ)</b><br>映画ライター。19歳でハリウッドへ。映画やドラマの現場にインターンとして参加し、帰国後はシネマトゥデイ編集部にてライター活動を開始。これまで多くのハリウッド俳優にインタビューし、海外映画祭への取材や映画のオフィシャルライターとして活動。現在は、映画ライター業のかたわら、偶然出会った別府ブルーバード劇場を盛り上げるために別府に移住し、パートナーの田尻大樹とともに劇場を支える。<br><b>田尻大樹(たじり ひろき)</b><br>2019年までの8年間、ビジネスマン生活を送っていたが、森田真帆との出会いをきっかけに、極限まで追い詰められていた仕事を退職。別府へと移住し、現在は森田と共に別府ブルーバード劇場を手伝いながら、自身は竹工芸の職人になるべく学校に通っている。最近では、森田と共に出演した『アウトデラックス』が反響を呼んだ。
もりたじり(森田真帆+田尻大樹)
映画ライターの森田真帆、公私共にパートナーの田尻大樹の2人による共同監督名義。昨年コロナ禍の緊急事態宣言で別府ブルーバード劇場が休館になった際、「なにかできることはないか」、と2人で短編映画作りに挑戦したときに生まれた。
森田真帆(もりた まほ)
映画ライター。19歳でハリウッドへ。映画やドラマの現場にインターンとして参加し、帰国後はシネマトゥデイ編集部にてライター活動を開始。これまで多くのハリウッド俳優にインタビューし、海外映画祭への取材や映画のオフィシャルライターとして活動。現在は、映画ライター業のかたわら、偶然出会った別府ブルーバード劇場を盛り上げるために別府に移住し、パートナーの田尻大樹とともに劇場を支える。
田尻大樹(たじり ひろき)
2019年までの8年間、ビジネスマン生活を送っていたが、森田真帆との出会いをきっかけに、極限まで追い詰められていた仕事を退職。別府へと移住し、現在は森田と共に別府ブルーバード劇場を手伝いながら、自身は竹工芸の職人になるべく学校に通っている。最近では、森田と共に出演した『アウトデラックス』が反響を呼んだ。

ドリアン:私もほとんど初めて聞いた話でした。「お互いにもちろんいろいろあったよね」っていう前提で会話しているところがあるし、私たちってほら、見栄っ張りだから。

よしひろ:たとえば、悩んでいる若い子が飲み屋にいたら「私もこういうことがあったわよ」って話すけど、オープンにしている者同士が話すことはないよね。

ドリアン・ロロブリジーダ<br>180cmのスレンダーなボディに20cmのハイヒールと巨大なヘッドドレスを装着し、ひたすらに空を目指すその姿はさながらバベルの民か。長い手足とよく回る舌、豊かな声量を活かして、各種イベントやMC、CM出演やモデル業もこなすマルチなクイーン。2018年12月より新宿二丁目発本格DIVAユニット「八方不美人」や、好きな歌を好きな場所で「ただただ歌う」ユニット「ふたりのビッグショー」メンバーとしても活動する。
ドリアン・ロロブリジーダ
180cmのスレンダーなボディに20cmのハイヒールと巨大なヘッドドレスを装着し、ひたすらに空を目指すその姿はさながらバベルの民か。長い手足とよく回る舌、豊かな声量を活かして、各種イベントやMC、CM出演やモデル業もこなすマルチなクイーン。2018年12月より新宿二丁目発本格DIVAユニット「八方不美人」や、好きな歌を好きな場所で「ただただ歌う」ユニット「ふたりのビッグショー」メンバーとしても活動する。
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サービス情報

「THEATRE for ALL」
「THEATRE for ALL」

日本で初めて演劇・ダンス・映画・メディア芸術を対象に、日本語字幕、音声ガイド、手話通訳、多言語対応などを施したオンライン劇場。現在、映像作品約30作品、ラーニングプログラム約30本を配信。様々なアクセシビリティに対してリサーチ活動を行う「THEATRE for ALL LAB」を立ち上げ、障害当事者やその他様々な立場の視聴者、支援団体などと研究を重ねている。また、作品の配信に加え、鑑賞者の鑑賞体験をより豊かにし、日常にインスピレーションを与えるラーニングプログラムの開発も行う。

作品情報

『十人十色の物語~今年90歳になる館長と9人のドラァグクイーン~』

THEATRE for ALLで配信
料金:1,000円(税込)
視聴可能期間:購入から10日間

イベント情報

THEATRE for ALLアーティストトーク『表現とバリアフリー』

『VOL.3 みんなが生きやすい場所ってどんなところ?ー大分・別府市の小さな映画館「別府ブルーバード劇場」が教えてくれること』

2021年7月15日(木)12:00~13:00にTHEATRE for ALL Facebookページにて配信予定
ゲスト:森田真帆、鈴木励滋(生活介護事業所カプカプ所長・演劇ライター)
ファシリテーター:中村茜(株式会社precog代表・THEATRE for ALL統括プロデューサー)

プロフィール

ドリアン・ロロブリジーダ

ドラァグクイーン。180cmのスレンダーなボディに20cmのハイヒールと巨大なヘッドドレスを装着し、ひたすらに空を目指すその姿はさながらバベルの民か。長い手足とよく回る舌、豊かな声量を活かして、各種イベントやMC、CM出演やモデル業もこなすマルチなクイーン。2018年12月より新宿二丁目発本格DIVAユニット「八方不美人」や、好きな歌を好きな場所で“ただただ歌う”ユニット「ふたりのビッグショー」メンバーとしても活動するなど、その活躍はとどまることを知らず。今夜もちょっぴり高いところから、耳障りな笑い声をお届けします。

よしひろまさみち

映画ライター、編集者。1972年、東京都生まれ。ゲイ雑誌、音楽誌、情報誌などの編集部を経てフリーに。『sweet』などで編集、執筆をするかたわら、映画レビューやインタビューで『SPA!』、『oz magazine』、アプリ版『ぴあ』、『クロワッサン』など連載多数。日テレ系『スッキリ』で月イチの映画紹介を担当するほか、テレビ、ラジオ、Webの番組内で映画紹介も手掛ける。18歳からゲイと自認し、キャリア上でも隠すことなく活動。LGBTQ+テーマの映画を中心に、トークイベントにも多数出演。

もりたじり

映画ライターの森田真帆、公私共にパートナーの田尻大樹の2人による共同監督名義。昨年コロナ禍の緊急事態宣言で別府ブルーバード劇場が休館になった際、「なにかできることはないか」、と2人で短編映画作りに挑戦したときに生まれた。

森田真帆(もりた まほ)

映画ライター。19歳でハリウッドへ。映画やドラマの現場にインターンとして参加し、帰国後はシネマトゥデイ編集部にてライター活動を開始。これまで多くのハリウッド俳優にインタビューし、海外映画祭への取材や映画のオフィシャルライターとして活動。現在は、映画ライター業のかたわら、偶然出会った別府ブルーバード劇場を盛り上げるために別府に移住し、パートナーの田尻大樹とともに劇場を支える。

田尻大樹(たじり ひろき)

2019年までの8年間、ビジネスマン生活を送っていたが、森田真帆との出会いをきっかけに、極限まで追い詰められていた仕事を退職。別府へと移住し、現在は森田と共に別府ブルーバード劇場を手伝いながら、自身は竹工芸の職人になるべく学校に通っている。最近では、森田と共に出演した『アウトデラックス』が反響を呼んだ。

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