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中村一義が語る「平成」とはどんな時代? 写真を通して見えること

東京都写真美術館『「いま、ここにいる」平成をスクロールする 春期』
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:相良博昭 編集:宮原朋之
中村一義が語る「平成」とはどんな時代? 写真を通して見えること

写真から見えてくる、「平成」という時代の姿とはどのようなものか――。そんな問いを掲げた展覧会『平成をスクロールする』が、春夏秋の三期にわたり、東京都写真美術館で開催されています。春期のテーマは、「いま、ここにいる」。不況による閉塞感が叫ばれ、たび重なる自然災害や社会問題によって生のあり方が根本から問われる時代。そのなかでの写真家の世界との向き合い方が、9作家の作品から見えてきます。

本展覧会を、デビュー20周年を記念したセルフカバーアルバム『最高築』を発表した、ミュージシャンの中村一義さんとめぐります。中村さんは1997年のデビューシングル『犬と猫』以降、これまで数多くの音源のビジュアルを、出品作家の一人である佐内正史さんと作ってきました。また展覧会のテーマも、中村さんの楽曲“ここにいる”から引用されたものだそうです。90年代後半から現在にいたる時代のリアリティーを、中村さんは写真からどのように受け取るのでしょうか。

作品はミュージシャンと写真家とデザイナーの共作。「三人でバンドを組んでいるような感覚でした」

普段から、アルバムなどを彩る写真やデザインを、「音楽作品をサポートするものではなくて、すべてがメインでトータルなものとして作っている」と語る中村さん。展覧会は、その中村さんとも縁の深い佐内さんの写真から始まります。

「平成をめぐる企画を考えたとき、まず浮かんだのが佐内さんの写真だった」と話すのは、同館の学芸員・伊藤貴弘さん。「思い出も混じるから、冷静に見られないな」と笑いながら展覧会を見始めた中村さんですが、佐内さんとの出会いは何だったのでしょうか。

中村:最初はデビューシングルを、どうしてもデザイナーの中島英樹さんにデザインしてもらいたくて依頼したんです。そこで「良い写真家はいませんか?」と聞いたら、佐内さんがフィギュアを撮った写真を見せてくれて。バッチリだと思いましたね。フィギュアなのに今にも動き出しそうな生命感に溢れていて、実際に会ってすぐに意気投合しました。

中村一義
中村一義

会場には、そのデビューシングル『犬と猫』のジャケットを飾った、中村さんの地元である江戸川沿いの河川敷の写真も飾られています。「佐内さんや中島さんとはそこからずっと一緒に作品を作っていますが、とくに初期のころは、三人でバンドを組んでいるような感覚でした」と中村さん。この写真にまつわるエピソードも話してくれました。

佐内正史「生きている」より 1995年 東京都写真美術館蔵 この作品は『犬と猫』のジャケットにも使われている
佐内正史「生きている」より 1995年 東京都写真美術館蔵 この作品は『犬と猫』のジャケットにも使われている

中村:中島さんが、朝の感じがほしいから早朝に集合しようと言って、朝4時くらいに眠い目をこすりながら撮ったのがこの『犬と猫』のジャケット写真なんです。直前まで雨が降っていて靄がかかっていたんですが、晴れたらいきなり大量のサッカーゴールが現れた。それを見た佐内さんが「気持ち悪りぃ! いまだ!」って叫んで撮って(笑)。ふと見ると何でもない風景ですけど、佐内さんの写真はその瞬間にしかないものに溢れているんです。

中村一義

閉塞感のなかで、「空っぽの風景」に面白さを見出した作り手たち

佐内さんや、同じスペースに飾られたホンマタカシさんをはじめとする今回の多くの出品作家の写真は、たびたび「何もない風景」や「空っぽの風景」と語られ、平成という時代の空虚さと結び付けられてきました。

実際、その多くが都市の中心や大自然ではない郊外で撮られたこれらの写真には、一見すると特別な瞬間や人物は現れず、私たちが普段から接する何気ない風景が淡々と収められています。しかし中村さんは、「変わらない風景だからこそ、そこに何か変化や面白みを見るという感覚があった」と語りました。

ホンマタカシ『浦安マリーナイースト21、千葉』「東京郊外」より 1995年 東京都写真美術館蔵
ホンマタカシ『浦安マリーナイースト21、千葉』「東京郊外」より 1995年 東京都写真美術館蔵

中村:何もないという感覚がないんです。たとえば今井智己さんの森の写真。僕の地元は川が多いんですが、夜に対岸の森を見ると、生きているのか死んでいるのかわからない不気味なものに見えることがよくあった。その感覚がこの写真にはありますよね。

同じように僕と佐内さんとは、「これがこう見えるよね」という感覚が近かったんだと思う。たしかに時代的には退廃的な雰囲気もあったけれど、「だから何だ。僕らが生まれたのはこの時代なんだ」という思いのなかで、そういう眼を失いたくなかったんです。

今井智己『無題』「真昼」より 2000年 東京都写真美術館蔵
今井智己『無題』「真昼」より 2000年 東京都写真美術館蔵

会場展示風景
会場展示風景

デビューシングルに収められた“ここにいる”のなかで、中村さんは<ただの平々凡々な日々に埋まる、宝を探す僕が、今、ここにいる>と歌っています。同曲も収録された1stアルバム『金字塔』は、22歳の若者がセルフプロデュースで、たった一人で作り上げた作品として、当時の音楽界を驚かせました。そこには、幼少期の両親との別れなど、決して平坦ではない人生から生まれたこんな思いがあったと話します。

中村:“ここにいる”という曲は、幼いころに別れた母親に「ここにいるよ」と言ってあげたくて書いた曲でもあるんです。その意味で閉塞感といえば、デビュー前の方が圧倒的にありました。でも、それを打開しないとどこにも行けない。「自分みたいな若者がいるんだよ」ということを、音楽を通して伝えたかった。みんなが何もないと言う場所に、それでも何かを見ること。そんな「誤解」からすべては生まれると思うんです。

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イベント情報

『総合開館20周年記念 TOPコレクション いま、ここにいる―平成をスクロールする 春期』

2017年5月13日(土)~7月9日(日)
会場:東京都 恵比寿 東京都写真美術館
時間:10:00~18:00(木、金曜は20:00まで、入館は閉館の30分前まで)
出品作家:
佐内正史
ホンマタカシ
高橋恭司
今井智己
松江泰治
安村崇
花代
野村佐紀子
笹岡啓子
休館日:月曜(祝日の場合は翌火曜)
料金:一般500円 学生400円 中高生・65歳以上250円
※小学生以下、都内在住・在学の中学生、障害者手帳をお持ちの方とその介護者は無料
※第3水曜は65歳以上無料

担当学芸員によるギャラリートーク

2017年6月16日(金)

2017年7月7日(金)

会期中の第1、第3金曜日16:00より、担当学芸員による展示解説を行います。
※要展覧会チケット(当日消印)

リリース情報

中村一義『最高築』通常盤
中村一義
『最高築』通常盤(CD)

2017年5月24日(水)発売
価格:3,240円(税込)
VICL-64788

1. 犬と猫
2. 永遠なるもの
3. 魂の本
4. 笑顔
5. 1, 2, 3
6. ロザリオ
7. 素晴らしき世界
8. キャノンボール
9. いつだってそうさ
10. Honeycom.ware
11. ワンリルキス
12. ビクターズ
13. 世界は変わる(ボーナストラック)

中村一義『ERA最高築 ~エドガワQ 2017~』
中村一義
『ERA最高築 ~エドガワQ 2017~』(DVD)

2017年5月24日(水)発売
価格:5,940円(税込)
VIBL-852

第1部
・イーラ
・1,2,3
・ロザリオ
・メロウ
・スヌーズ・ラグ
・ピーナッツ
・ショートホープ
・威風堂々(Part1)
・威風堂々(Part2)
・虹の戦士
・ジュビリー・ジャム
・ジュビリー
・ゲルニカ
・グレゴリオ
・君ノ声
・ハレルヤ
・バイ・CDJ
・ロックンロール
・21秒間の沈黙
・素晴らしき世界
第2部
・犬と猫
・ワンリルキス
・スカイライン
・永遠なるもの
・キャノンボール
・キャノンボール(Music Video)(ボーナストラック)

イベント情報

『La.mama 35th anniversary「正しさの価値観に共感する。中村一義×小谷美紗子」』

2017年8月3日(木)
会場:東京都 渋谷 La.mama
開場19:00/開演19:30
出演:
中村一義(Acoustic set)
小谷美紗子

『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017』

2017年8月5日(土)、8月6日(日)、8月11日(土)、8月12日(日)
会場:茨城県 ひたちなかの国営ひたち海浜公園
※中村一義は8月12日に出演

『夏の魔物2017 in KAWASAKI』

2017年9月10日(日)
会場:神奈川 川崎市東扇島東公園 特設会場

プロフィール

中村一義
中村一義(なかむら かずよし)

1997年、シングル『犬と猫 / ここにいる』でデビュー。セルフプロデュース、そしてすべての楽器をほぼ一人で録音したデビューアルバム『金字塔』は独特な日本語詞と卓越したポップセンスにより、日本のロックシーンに多大なインパクトを与えた。2004年にはバンド「100s」を結成。バンドとしての活動を経て、2012年には約10年ぶりにソロ名義で再始動。これまでに9枚のオリジナルアルバムをリリースしている。今年5月には、デビュー20周年を記念した初のセルフカバーベストアルバム『最高築』とライブDVD「ERA最高築~エドガワQ2017~」を発表した。

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