椿昇が発案 アート業界を覆す破天荒なアートフェアを京都で取材
『ARTISTS' FAIR KYOTO』- テキスト
- 島貫泰介
- 撮影:伊藤信 編集:宮原朋之

「『ARTISTS’ FAIR KYOTO』は、はっきり言ってテロなんです」(椿)
大勢の来場者でごった返す会場ではNAZE以外にも興味を惹かれる作品がたくさんあった。もう少しだけ『ARTISTS’ FAIR KYOTO』出品作家の声を紹介していこう。
薄久保香の推薦で参加した皆藤齋は、ナルシズムをテーマにペインティグを描いている作家だ。
皆藤:私の考えるナルシズムっていうのは、悲しみやみじめなところも含めて主張していくこと。だから恥ずかしい格好をしている人も、絵のなかでは堂々としている。それと、このシリーズでは男性が画題になっていますけど、じつは自分自身と同化させて描いているところがあります。女性である私が、絵のなかでは自由に性や存在を入れ替えたり行き来できるんだ、ってイメージを大事にしているんです。
男性が排泄したり緊縛されたりするアブノーマルな描写にも目を奪われるが、その他の「虎」や「スマホ」といったモチーフとの関係のフラットさは、セクシャルな倒錯感や湿っぽさをいたずらに強調しないバランス感を作品にもたらしている。詩人の男が虎に変身してしまう小説『山月記』からの引用も、「#MeToo」が話題になる時代の、新たな性意識を反映しているのかもしれない。
皆藤の他には、たくさんの人たちにバナナについての説明・解釈を依頼し、それを設計図図のようなドローイングに再構成する堀川すなお(塩田千春 推薦)。
デジタルデータや版画のメディア的特性を逆手にとった写真・映像作品を手がける迫鉄平(高橋耕平 推薦)。
在日韓国人である自身のアイデンティティーを、伝承・習慣などを踏まえて写真化する金サジ(澤田知子 推薦)など、それぞれの方法で、既存の社会的尺度やものの見方からジャンプしようとするアーティストたちが『ARTISTS’ FAIR KYOTO』には集まっている。
椿:僕のなかで『ARTISTS’ FAIR KYOTO』は、はっきり言って「テロ」なんです。でも、テロは成功すると革命と呼ばれて、歴史的な転換点として人類に記憶される。スティーブ・ジョブズがガレージでAppleを起業したのも、巨大なIBM帝国に一人でイタズラを仕掛けたようなものでしょう? それが成功したとき、一気に世界の価値観は変わるんです。
椿:準備期間中、「マジで!?」と驚くような出来事が本当にあったんですよ。今回のスペシャルパートナーであるUBSは、スイスの巨大アートフェア『アート・バーゼル』に協賛してることでも有名ですが、これまで日本のフェアを支援したことはありませんでした。断られるのを覚悟でプレゼンに行って「新しい仕組みを作りたい!」「アートフェアをやりたいわけじゃないんだ!」と熱く訴えたら、なんとサポートしてくれることになった!
たぶんその理由は、「儲かりそうだから」とかじゃなくて、アイデアの奇抜さに共感してくれたからです。それこそ、最初にFacebookに投資した誰かのようなマインドでね。こういう風に、新しい時代が動き始めるんですよ。
椿は、2001年に開催された最初の『横浜トリエンナーレ』で、海沿いにそびえるインターコンチネンタルホテルの側面にバルーン製の巨大なバッタを止まらせるというプロジェクトを実行したことで知られるが、彼の作品にはつねに日常や社会をアートの手段で転覆させるテロリズム的姿勢が貫かれている。そしてそれは、今回の『ARTISTS’ FAIR KYOTO』でも健在であるようだ。内覧会が始まる前、椿は筆者にこう打ち明けてくれた。
椿:言ってみればこの展示空間は巨大な一つのインスタレーションなんです。だから最高の希望としては、出品されている作品も構造物も全部含めて、5億円で一人のメガコレクターに買ってほしい。そうしたら「一人を除いて誰も買えなかったアートフェア」という伝説が生まれる(笑)。
もしそれが実現したら鳥肌が立つでしょう? 本来アートって、太古から続くアミニズムや人類が持つ本能や暴力性に結びついた呪術的なものなんです。マネーにとらわれた現代社会やアートシーンで、そのマネーのシステムを利用してひっくり返し、アート本来の力を回復するっていうのはアーティストとしての自分のテーマでもあるし、『ARTISTS’ FAIR KYOTO』にかけた願いでもあります。アートはね、エマージングでアンリミテッドでデンジャラスなものなんですよ!
メイン会場の京都文化博物館別館と、BLOWBALL(綿毛の意味)と呼ばれる京都市内の複数箇所で行われるサテライトイベントで構成された今回の『ARTISTS’ FAIR KYOTO』。椿によると、次回の開催もすでに決定済みとのことだ。
好奇心を優先して生きるアーティストたちが主導する催しゆえ、今回の破天荒さが次回もキープされるのか、あるいはもっと別のかたちに突然変異していくのかは未知数だ。だが、京都を騒がせるアートの「事件」がしばらく続くのは間違いない。来年の開催を期待して待ちたい。
イベント情報
- 『ARTISTS' FAIR KYOTO』
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2018年2月24日(土)、2月25日(日)
会場:京都府 烏丸御池 京都文化博物館 別館
時間:10:00~18:00
料金:1,000円
プロフィール
- 椿昇(つばき のぼる)
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京都市立芸術大学美術専攻科修了。1989年のアゲインストネーチャーに「Fresh gasoline」を出品、展覧会のタイトルを生む。1993年のベネチア・ビエンナーレに出品。2001年の横浜トリエンナーレでは、巨大なバッタのバルーン《インセクト・ワールド-飛蝗(バッタ)》を発表。2003年、水戸芸術館にて9.11以後の世界をテーマに「国連少年展」。2009年、京都国立近代美術館で個展「椿昇 2004-2009:GOLD/WHITE/BLACK」を、2012年、霧島アートの森(鹿児島)にて「椿昇展“PREHISTORIC_PH”」を開催。2013年瀬戸内芸術祭「醤+坂手プロジェクト」ディレクター。青森トリエンナーレ2017ディレクター。