横山健と、人間模様。バンド・Ken Yokoyamaの生き様と変化

横山健にとってのKen Yokoyama

「Hi-STANDARDをやってるときはHi-STANDARDが世界一でありたいけど、Ken BandをやってるときはKen Bandが世界一でありたい」

これは横山健が最近のCINRA.NETの取材でHi-STANDARD(以下、ハイスタ)について触れる際、毎回のように口にしている言葉である。

2000年に千葉マリンスタジアムで開催された『AIR JAM 2000』を最後に、ハイスタが活動休止状態となった中、横山がKen Yokoyamaとしてバンド活動を開始したのは2004年。それから幾度かのメンバーチェンジがあったものの、2008年2月にHidenori Minami、11月にJun Gray、2011年2月にMatchanが加入してからは、7年間不動のラインナップで活動を続けてきた。

2011年、東日本大震災などをきっかけにハイスタが再始動し、9月に横浜スタジアムで『AIR JAM 2011』、翌2012年9月に宮城県国営みちのく杜の湖畔公園 みちのく公園北地区 風の草原で『AIR JAM 2012』を開催しても、あくまで横山にとってのメインバンドはKen Bandであった。自身のドキュメンタリー映画の公開や、“I Won't Turn Off My Radio”で『MUSIC STATION』(テレビ朝日系)への出演などを経て、2016年3月に8年ぶりとなる日本武道館公演『DEAD AT BUDOKAN RETURNS』を開催するに至る流れは、「Ken Yokoyama、ここにあり」という存在感を確かに示すものであった。

しかし、ハイスタが現在進行形のバンドとなることで、横山の心境は少しずつ変化していく。2017年10月、18年ぶりのアルバム『THE GIFT』を発表し、アリーナとホールを横断して行われたツアーは、メンバーそれぞれが「3分の1」となる、バンドの新たな関係性を確立したツアーとなった。それは横山にある種の達成感をもたらすと同時に、「Ken BandをやってるときはKen Bandが世界一」という信念に揺さぶりをかけるものでもあった(参照記事:Ken Yokoyamaインタビュー バンドの弱点と熱量を問うた1年を語る)。

「バンドメンバー」に対する考え方が揺れ動く中で、Matchanの脱退

そんな「ハイスタ本格再起動」の2017年を終え、2018年は横山にとって、Ken Bandにとって「ハイスタとの戦い」の1年となった。年明けにはミーティングを行い、横山が各メンバーに「4分の1」であることを求めたが、後日の取材で横山はこれを「メンバーに向けてのSOSだった」と表現している(参照記事:Ken YokoyamaからのSOS バンドに訪れた転換期を包み隠さず語る)。

そして、さらなる一手となったのが、NAMBA69とのスプリット『Ken Yokoyama VS NAMBA69』のリリースであった。11月にはハイスタのドキュメンタリー映画『SOUNDS LIKE SHIT』も公開されたが、ハイスタの歴史をよく知る人であれば、横山と難波がかつて根深い対立関係にあったことをご存知だろう。しかし、現在の難波にとってもまた「NAMBA69をやってるときはNAMBA69が世界一でありたい」という想いがあるはず。ハイスタでフロントに立つ2人が、「対ハイスタ」で共闘関係を築くというのは何とも不思議な運命を感じさせるが、ハイスタの本格的な再始動というのは、かつては想像もできなかったことが起きてしまうほどに、強烈な出来事だったのだ(参照記事:Hi-STANDARD元スタッフによる『SOUNDS LIKE SHIT』レビュー)。

この流れの中で引き起こされた最大の転機が、Ken BandからのMatchanの脱退発表であった。スプリットの2マンツアーを終えた8月のアタマ、Matchanから横山に脱退の申し出があり、「4分の1を求められる中、自分の力不足を感じた」というのが直接的な理由だったという。10月には横山が以前から構想を抱き、Jun Grayの提案でこのタイミングでの制作が決まったセルフコンピレーション『Songs Of The Living Dead』のリリースを控えていたが、結果的にこのアルバムはKen Bandの歴史にひとつの区切りをつけ、リリースツアーはMatchanにとってのKen Band最後のツアーとなった。

Ken Yokoyama / 撮影:Teppei Kishida
Matchan / 撮影:Teppei Kishida

Dizzy Sunfistも「繋げる、続ける」を体現

2018年12月6日、新木場スタジオコーストで行われた『Songs Of The Living Dead Tour』のファイナルは、素晴らしいパンクロックショーだった。

まずはゲストのDizzy Sunfistが登場。あやぺた(Vo,Gt)がバンド名の「Dizzy」をMatchanがかつて在籍していたMR.ORANGEの曲名から取ったことを語り、「Ken Bandからパンクを教わった。それを私たちが繋いでいく」と、横山からギターを借りてミュージックビデオを撮影したという“The Dream Is Not Dead”を披露するなど、愛とリスペクトのこもった熱演を見せた。

Dizzy Sunfist / 撮影:半田安政(Showcase)
Dizzy Sunfist / 撮影:半田安政(Showcase)

「辞めるやつと一緒にツアーをするのは、惨めなもんだよ」

Ken Yokoyamaのステージは、アルバム同様に“I Fell For You, Fuck You”で幕を開け、「最初から飛ばし過ぎるともたないから、次の曲は休憩」と言いつつ、アッパーな“Punk Rock Dream”を投下するなどして、序盤からグイグイと盛り上げていく。

Ken Yokoyama / 撮影:Teppei Kishida

中盤の“Believer”では、横山が自身のブランドWoodsticsの子供用ミニギターをプレイしたり、各地で地元のゲストやファンがイントロでトランペットを吹くのが恒例となった“Support Your Local”では、MinamiとJun Grayがトランペットを吹こうとするも、まったく上手くいかないというコミカルなシーンも。

Ken Yokoyama / 撮影:Teppei Kishida
Hidenori Minami、Ken Yokoyama / 撮影:Teppei Kishida

後半も、アルバムではチバユウスケが参加していた“Brand New Cadillac”から“I Won't Turn Off My Radio”、そして、「UNITE」を歌った曲であり、「この曲はなるべくみんなの近くで」と、フロアに降りて演奏された“Ricky Punks III”といった人気曲が続く。

Ken Yokoyama / 撮影:Teppei Kishida
Ken Yokoyama / 撮影:Teppei Kishida

ここまではこれがMatchanとの最後のツアーであることを微塵も感じさせなかったが、最後に横山が口を開いた。「また会おうな。また会うときは、ドラマー変わってるけど。しんみりした感じはまっぴらごめんだけど、でも何となく感じるものはある」と語ると、オーディエンスからは「Matchan!」という声援が送られ、Matchanはそれに手を振って応える。横山は続ける。「いろんな気持ちがあって、難しいツアーだった。辞めるやつと一緒にツアーをするのは、惨めなもんだよ。楽しいもんじゃない。でも、続けて、続けて、続けて、自分ができなくなったら、繋いで、続けて、繋いで、続けて」と繰り返し、最後に「Matchan、愛してるぜ!」と叫ぶと、Matchanのカウントから“Let The Beat Carry On”が届けられた。

Ken Yokoyama / 撮影:Teppei Kishida

鳴り止まないアンコールに呼ばれてステージへ

アンコールを求める声が10分以上続いただろうか。ようやくステージに現れた横山が再び話し始めるも、「Matchanとの最後のツアーじゃなかったら帰ってた。お決まり感、最悪だわ。呼んでくれた君らが悪いわけじゃないけど、でも3千人全員に呼ばれた気はしないな。何となく出てきて、何となくやって帰るわ」との言葉に、何ともバツの悪い空気が流れる。そう、横山にとってKen BandをやっているときはKen Bandが世界一でなくてはならない。すでに彼は先を見据えていて、こんなところで立ち止まっている暇はないのだ。このシーンからは、「難しいツアーだった」という横山の2018年のリアルが感じられた。

もちろん、“Soulmate”が始まれば、彼らは最高の演奏を披露してくれる。しかし、何となく漂っていた重たい空気を解放したのは、“Come On,Let's Do The Pogo”でステージに乱入したNAMBA69のメンバーだった。「ハイスタとの戦い」でともにしのぎを削った両者が、ここでは「VS」ではなく「Support」の関係性となり、会場の雰囲気を塗り替える。これもまた、2018年を象徴するシーンだったように思う。ダブルアンコールでは再度Ken Bandの4人が登場し、Matchanのボーカルによる“Sucky Yacky”で締め括られた。

Matchan / 撮影:Teppei Kishida

ツアーの追加公演を終えた12月11日、新メンバーとして元Joy Opposites、FACTのEijiの加入が発表された。ピースサインとともに笑み浮かべる横山とメンバーの顔には、難しい時期を乗り切ったそれぞれの心境が表れているように見える。新たな季節の始まりだ。

Ken Yokoyama
イベント情報
『Songs Of The Living Dead Tour』

2018年12月6日(木)
会場:東京都 新木場 STUDIO COAST

リリース情報
Ken Yokoyama
『Songs Of The Living Dead』(CD)

2018年10月10日(水)発売
価格:2,700円(税込)
PZCA-85

1. I Fell For You, Fuck You
2. My Shoes
3. What Kind Of Love
4. My Day
5. Nervous
6. Don't Wanna Know If You Are Lonely
7. Swap The Flies Over Your Head
8. If The Kids Are United
9. You're Not Welcome Anymore
10. Walk
11. Sayonara Hotel
12. Going South
13. Brand New Cadillac
14. Dead At Budokan
15. Hungry Like The Wolf
16. Nothin' But Sausage
17. Living After Midnight
18. A Stupid Fool
19. A Decade Lived
20. Soulmate

プロフィール
Ken Yokoyama (けん よこやま)

Hi-STANDARD、BBQ CHICKENSのギタリストである横山健が2004年に始動させたバンド。2004年、アルバム『The Cost Of My Freedom』でKen Yokoyamaとしてバンド活動を開始。その後、コリン(G)、サージ(B)、Gunn(Dr)を率いてライブ活動を開始。2005年に『Nothin' But Sausage』、2007年に『Third Time's A Charm』をリリース。2008年1月13日に日本武道館でのライブを『DEAD AT BUDOKAN』と称して行った(12000人動員)チケットは即日完売。この公演を最後にコリンが脱退し、新たに南英紀が加入。同年秋にはサージも脱退し、Jun Gray(B)が加入する。2010年には『FOUR』をリリース。10月には「DEAD AT BAY AREA」と題したアリーナライブを神戸と幕張で実施した。その後Gunnが脱退し、松浦英治(Dr)が加入。2011年3月11日の震災を期にKen Bandを率いて東北でフリーライブ等を積極的に敢行。9月18日にロック・フェスHi-STANDARD主催『AIR JAM 2011』を横浜スタジアムで開催する。そこで、11年ぶりにHi-STANDARDの活動を再開させ、12年には横浜での収益を基に念願の東北で『AIRJAM 2012』を開催。11月には5枚目のアルバム『Best Wishes』をリリース。2015年7月、シングルとしては8年4か月ぶりとなる『I Won't Turn Off My Radio』をリリースし、テレビ朝日系『ミュージックステーション』に初出演。大きな話題を呼んだ。9月、2年10か月ぶりとなるニューアルバム『Sentimental Trash』を発表。また、Gretsch Guitar 132年の歴史において、初の日本人ギタリストのシグネチュア・モデル「Kenny Falcon」が発売される。2016年3月には自身2度目となる日本武道館公演を『Dead At Budokan Returns』と称して開催。2018年6月、難波章浩率いるNAMBA69とのスプリット盤『Ken Yokoyama VS NAMBA69』をリリース。同年10月には、コンピレーション提供曲や未発表音源に加えて、新たに録音した楽曲を収めたセルフコンピレーションアルバム『Songs Of The Living Dead』を発表した。



フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Music
  • 横山健と、人間模様。バンド・Ken Yokoyamaの生き様と変化

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて