Hi-STANDARD元スタッフによる『SOUNDS LIKE SHIT』レビュー

中盤は心の中で叫んでいた「もう勘弁してください」

10月某日、Hi-STANDARD初のドキュメンタリー映画『SOUNDS LIKE SHIT: the story of Hi-STANDARD』の試写に立ち会った。自分は作品にかかわっていた関係ですでに仮編集されたものを見てはいたが、やはり強烈な内容だった。特に、中盤は呼吸すら忘れそうな展開で胸が痛くなる。心の中で叫んでいた、「もう勘弁してください」と。

2時間弱の上映後、試写室内に知り合いのバンドマンの先輩を見つけ、挨拶もそこそこに映画の内容について話し込んだ。自分が知っていた事実と比べてどうだったのかという答え合わせである。

試写室を出ると、少し離れたところでバンドマンや著名人によるコメント収録が行われていた(スペースシャワーTV『THE DOCUMENTARY FILM「SOUNDS LIKE SHIT」SPECIAL TV PROGRAM』にて放送)。南海キャンディーズのしずちゃんがかなり長い時間をかけて自身の思いをカメラに向かって話している。彼女の熱っぽさが少々意外にも感じたが、納得のできるところもある。今作は鑑賞後にとにかく人と話したくなる映画だ。あの当時、自分は何をしていたのか、3人の発言を聞いてどう思ったのか、延々と語り合いたくなる。逆に、誰にもその思いを打ち明けずに、自分の中だけで反芻したくなる作品でもある。

Hi-STANDARDのメンバーは、いつも人に対して筋を通していた

今作は、メンバー間の仲違いを赤裸々に告白したという話がセンセーショナルに取り上げられがちだが、Hi-STANDARDというバンドの美学も忘れてはならない。彼らは自分たちの進むべき方向を常にメンバーだけで決めてきたバンドだ。一見当たり前に見えることにも疑問を持ち、安易にメディアに露出することを拒み、大金が転がり込むはずだった大型タイアップも断った。CD全盛の時代に「CDがたくさん店頭に並ぶのはカッコ悪い」と新譜リリース時には出荷制限を設けたりもしていた。今の時代には考えられない行動だが、Hi-STANDARDは今も昔も、自分たちがカッコいいと思うことをとことん追求するバンドなのである。どんな些細なことに対しても妥協は一切ない。己を通すのがどんなに困難な場面でも、なんとか活路を見出そうとする。三者三様の個性的なメンバーだが、自らの美学を貫く姿勢は驚くほど共通しているのだ。

彼らのこだわりは表に見えている部分だけではない。カッコよさを追求するというのは、人に対して筋を通すことでもある。日常の細かいところにまで話を広げると、エピソードは枚挙にいとまがない。自分は1999年夏から2011年春までPIZZA OF DEATHのスタッフとして働いていたが、難波章浩と恒岡章がレーベルを離れるまでの2、3年はそういった意味で非常に印象深かった。3人が話すことは徹頭徹尾筋が通っていて、最初は何について怒っているのかわからないことでも、話を聞き進めていくと自然に「そこまで気が回りませんでした、すみませんでした」となるのである。3人それぞれタイプの違う気遣いの人であり、それぞれが内に秘める確固たる正義があった。

類まれなる演奏技術を持つメンバーが、意識レベルでも様々な価値観を共有できているというのは本当に奇跡としか言いようがない。よくもまあ、こんな人たちが出会ったものだ。

話を映画の内容に戻そう。先ほど、バンド内の様々なことを「メンバーだけで決めてきた」と書いたが、今作が3人のインタビューを中心に成立していることがそれを証明している。他のスタッフが介入していたなら、彼らの言葉だけでここまで説得力のある内容にはなり得なかったはず。

『SOUNDS LIKE SHIT: the story of Hi-STANDARD』より。上から:横山健、恒岡章、難波章浩

3人それぞれの「美学」と「事情」が、包み隠さず語られる

後日、人から聞いたところによると、試写会には古くからの関係者が何人か姿を見せ、上映が終わると泣きながら試写室から出てきたらしい。その涙が意味するところは本人らに聞かないとわからないが、彼らの思いを勝手に代弁するならばこういうことかもしれない。まず、メンバー3人が自らの思いを包み隠さず話していたこと。「ああ、やっぱりあのことは話さないんだ」という部分がない。逆に、「そこまで話しちゃうんだ!」とハラハラするぐらいだ。

そして、次のことが一番大きいのだが、過去の様々な出来事を3人なりに消化し、今、ポジティブに前を見て進んでいる様子に胸を打たれる。それは、当時を知る人間にはとてもとても想像できなかった姿であり、バンドが今なお成長を続けている証でもある。これには本当に驚いた。あんなにいがみ合っていたのに、絶対に修復不可能だと思っていたのに、メンバーの口からあんな言葉が出てくるなんて。映画用に用意した言葉でないことはメンバーの表情を見ていればわかる。だからこそ、前述の関係者は涙したのだろう。

これは「バンド」と「人生」の素晴らしさが十分に伝わる作品だ

梅田航監督自身も認めているが、Hi-STANDARDとそれを取り巻く状況の全てを2時間で説明し切るというのは不可能に近い。落ち着いて考えると、どうやってHi-STANDARDがシーンの頂点に立ったのか説明が足りない部分もある。しかし、今作が持つ説得力と破壊力は、バンドや人生の素晴らしさを伝えるには十分。今回、多くの人にHi-STANDARDの生き様が知られる日が来ることを心の底からうれしく思う。

『SOUNDS LIKE SHIT: the story of Hi-STANDARD』より。上:2000年活動休止前のHi-STANDARD。下:2011年再始動後のHi-STANDARD

……とまあ、ここで締めればキレイに終わるのだが、まだ気が済まないので書いてしまう。2000年代のHi-STANDARDを取り巻く環境は本当に最悪だった。当時のスタッフ全員が辛く悲しい思いをした。もちろん、そんなことを周囲の人に話すことはできなかった。メディアやファンからの「Hi-STANDARDはいつ復活するんですか?」という言葉が辛かった。あの頃の、そういった思いを、みんなと、共有できる日が来る。これも、すごく、うれしい。こんなことって本当にあるんだな。想像もしてなかった。

作品情報
『SOUNDS LIKE SHIT: the story of Hi-STANDARD』

2018年11月10日(土)新宿バルト9ほか全国公開
監督:Wataru Umeda
製作:SOUNDS LIKE SHIT PROJECT
配給:NexTone

プロフィール
Hi-STANDARD (はいすたんだーど)

横山健(Gt,Vo)、恒岡章(Dr)、難波章浩(Vo,Ba)によるパンクロックバンド。通称「ハイスタ」。1991年8月、4人で結成。1992年9月より、現在の3人体制となる。1994年にミニアルバム『LAST OF SUNNY DAY』をリリース。『GROWING UP』(1995年)、『ANGRY FIST』(1997年)と、2枚のフルアルバムをメジャーレーベルから発表。1997年には、主催フェス『AIR JAM』をスタートさせる。1999年に、自主レーベル「PIZZA OF DEATH RECORDS」を立ち上げ、アルバム『MAKING THE ROAD』をリリース。インディーズとしては異例の国内外で100万枚以上のセールスを記録する。2000年に活動休止。2011年、『AIR JAM 2011』の開催と再始動を発表。2016年10月5日には、シングル『ANOTHER STARTING LINE』を突如リリースした。2017年10月4日、18年ぶりのアルバム『THE GIFT』をリリース。2018年11月10日より、ドキュメンタリー映画『SOUNDS LIKE SHIT: the story of Hi-STANDARD』が全国約80館で上映。



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