折坂悠太とカネコアヤノの再会の記録 「歌」に注ぐ眼差しの違い

折坂悠太とカネコアヤノ、『CROSSING CARNIVAL 外伝』で2年ぶりのツーマン

近年、注目を集める二人のシンガーソングライター、折坂悠太とカネコアヤノが、2019年12月19日に行われたライブイベント『CROSSING CARNIVAL 外伝』で共演した(ツーマンでの共演は、2017年12月の下北沢・風知空知公演以来となった)。

折坂は『平成』、カネコは『祝祭』をリリースした2018年あたりから、やりたいことを明確に打ち出しながら、それが評価されるという理想的な状況になってきた。そんな二人はともに個性的な歌声と言葉(歌詞)を持ち、弾き語りとバンドというふたつの形態で活動している、という共通点がある。この日は共にバンド形態での出演になったが、旬なアーティストのツーマンだけにチケットはソールドアウトという人気ぶり。渋谷WWW Xには超満員の観客が詰めかけた。

折坂悠太(おりさか ゆうた)
平成元年、鳥取県生まれのシンガーソングライター。独特の歌唱法にして、ブルーズ、民族音楽、ジャズなどにも通じたセンスを持ち合わせながら、それをポップスとして消化した稀有なシンガー。
カネコアヤノ
弾き語りとバンド形態でライブ活動を行っている。2019年には最新アルバム『燦々』と弾き語りによる再録アルバム『燦々 ひとりでに』を発表。『燦々』は『第12回CDショップ大賞2020入賞作品』に選出。2020年4月には大阪市中央公会堂、中野サンプラザでのワンマンライブを控えている。

種々の音楽を取り込んだ、折坂悠太の歌。多彩で豊かな音の連なりを見守り、そして導くのは、洗練と野生の眼差し

まず、ステージに登場したのは折坂。これまで折坂は、弾き語りによる「独奏」のほかに、東京を拠点とするメンバーによる「合奏」、京都を拠点とするメンバーによる「重奏」というふたつのバンド編成で活動。さらに、「のろしレコード」としても活動するなど、様々なアウトプットを通じて表現の幅を広げてきた。

折坂悠太

この日の合奏のメンバーは、寺田燿児(Ba)、青野慧志郎(Gt,Saxほか)、飯島はるか(Pf)、田中久仁彦(Dr)、宮坂遼太郎(Perc)、ハラナツコ(Sax)といった面々。オープニングナンバーは『平成』に収録された“さびしさ”で、バンドがゆったりとしたグルーヴを紡ぎ出していく。

折坂悠太(合奏)

演奏を聴きながら、以前、VIDEOTAPEMUSICに取材した際、彼が新作『The Secret Life of VIDEOTAPEMUSIC』に参加した折坂の歌声を「国境を超えて飛んで行く鳥のよう」と表現したことを思い出した。バンドの演奏が音の気流を生み出し、それに乗って折坂の鳥のような歌声が飛んでいるようだ。そして、サビで天高く舞い上がる。“さびしさ”からブラジル音楽を消化した“抱擁”へと続く流れも心地よい。

折坂悠太“抱擁”を聴く(Apple Musicはこちら

合奏の演奏は緻密にアンサンブルを組み立てるというより、お互いに音を聴きながら膨らませていく有機的なもの。青野は“みーちゃん”ではサックスを吹いてハラと二管の編成になったりと、曲によって楽器を持ち替えてアンサンブルに彩りを与える。

そんななかで、バンドサウンドの華になっていたのはハラのサックスだった。その艶やかな音色が、ときには折坂とデュエットするように歌声に絡む。

折坂悠太“みーちゃん”を聴く(Apple Musicはこちら

“光”を演奏しているときに折坂が弾くギターの弦が切れ、次に予定していた曲ができなくなるというハプニングがあったが、その場でメンバーに相談して“あさま”に変更。その際、折坂は、「こういうときにも、すぐ対応できるのがこのバンドのいいところ」と笑っていたが、合奏の柔軟さは、ジャズ、ブラジル音楽、民謡など、折坂の多彩な音楽性を表現するために必要なものだ。

折坂悠太“あさま”を聴く(Apple Musicはこちら

そんなバンドの演奏に折坂の声は楽器のひとつのように溶け込んでいて、緊張感に貫かれたギターの弾き語りのときとは対照的におおらかさがある。折坂はバンドから音が生まれ、それが曲に育っていく様子を注意深く見守り、時折メンバーに目配せしたりして微調整する。そして、大きなうねりに育った音楽は、折坂の歌声に引き寄せられてステージからフロアへと溢れ出す。

そういう音楽の動きが見えるようなライブで、折坂は演奏や歌をコントロールする客観的なバランス感覚と、ある瞬間、そこから突き抜けようとする荒々しさを併せ持っている。

洗練と野生。折坂がその両極を持ったアーティストだということがライブから伝わってきた。

ひと言では言い得ない、でも澄み渡った剥き出しの感情を歌に。カネコアヤノは、脇目も振らず全力疾走するように音楽を鳴らす

続いて、エレキギターを持ったカネコアヤノとバンドが登場。バンドメンバーは林宏敏(Gt)、本村拓磨(Ba)、Bob(Dr)の三人だ。

カネコアヤノバンド

様々なバンドを通じて音楽を生み出す折坂に対して、カネコにとって現在のバンドメンバーは唯一無二の存在。それは毎回、ライブが始まる前に行われる「儀式」からも伝わってくる。全員がBobの前に集まり、声をかけ合って気持ちを統一する。この日はカネコの弾むような笑い声が聞こえてきて、それがライブへの期待感へと繋がった。そして、Bobを除く3人は各自のポジションへと散り、新作『燦々』のオープニング曲“花ひらくまで”でライブは幕を開けた。

カネコアヤノ“花ひらくまで”を聴く(Apple Musicはこちら

カネコの肉声が会場に響き渡った瞬間、まるで特大の電球が灯ったようにフロアの雰囲気が大きく変わる。折坂の歌声、節回しも個性的だが、それが折坂が独自に磨き上げたスタイルであるのに対して、カネコの歌声は直感的で剥き出しの感情がそのまま詰まっている。

それは「悲しみ」とか「喜び」とか限定された感情ではなく様々な感情が混ざりあったもの。そこに濁りはなく、澄み渡っていて力強い。それは生命力そのものなのかもしれない。だからこそ、大きな場所、大勢の人々の前で歌うことで、その輝きは増す。そして、その歌声の力を増幅させるのがバンドの役割だ。

しっかりと4人がスクラムを組んだようなバンドアンサンブルは、メンバーそれぞれのキャラクターが音に反映されていて、個性的なプレイを聴かせながら、それぞれの音は寄り添っている。メンバーがお互いを信頼しているのが伝わってくる演奏で、その根底には音楽を演奏することに対する喜びがあり、メンバーは演奏中に何度も笑顔を浮かべてアイコンタクトをとっている。

また、カネコの無垢な歌に様々なアレンジを施して、曲に広がりを与えるのもメンバーの役割だ。“かみつきたい”をはじめとする多彩なコーラスや、“ぼくら花束みたいに寄り添って”などの緩急のメリハリをつけた演奏でカネコの歌の表現力や瞬発力を際立たせている。

カネコアヤノ“かみつきたい”を聴く(Apple Musicはこちら

カネコアヤノ“ぼくら花束みたいに寄り添って”を聴く(Apple Musicはこちら

そして、“さよーならあなた”の後半では、カネコの歌が乗り移ったように林のジミヘンばりの激しいギターソロが炸裂。カネコはギターに集中して白熱したセッションへとなだれ込んでいく。カネコの歌声をしっかりと届けることがバンドの最大の目標だが、バンドの演奏が歌の添え物になっているわけではなく、歌と同じくらいのパワーがないとバランスがとれないのだ。

折坂はライブの合間に穏やかに観客に語りかけ、バンドのアンサンブルをじっくり聴かせて、ひとつの作品を作り上げるようにライブを構成していく。一方、カネコのライヴはMCを一切入れず、脇目も振らずに全力疾走する。その姿はまさにロックンロール。

カネコの歌っているときの表情や身のこなしは最高にグラマラスで目が離せない。それはカリスマ的な魅力を発揮しているというより、彼女が音楽によって開放されているようで、そんな姿に見る者は惹かれるのだろう。

世の中のわずらわしさ、自意識の面倒臭さから開放されて、歌うことの気持ちよさだけがそこにある。それは自由な気持ちになれる歌。観客はカネコとバンドが生み出す歌を通じて、束の間、心のなかに雲ひとつない青空が広がるのだ。

月9や映画の主題歌を手がけるまでになった二人。久しぶりの共演を祝して、“いつでも夢を”をデュエット

本編終了後、アンコールに応えて折坂とカネコが二人で登場。初めて出会ったときのことを語った。

左から:折坂悠太、カネコアヤノ

共通の知り合いを通じて出会った二人は、一緒に飲み、音楽について語り合い、帰りの駅で「絶対売れよう!」と誓い合ったとか。カネコが「折坂君、あの頃、めっちゃ怖くて」と当時の様子を振り返っていたが、二人ともそれぞれに屈託を抱きながら自分のやりたいことを貫いてきたのだろう。

折坂は「シンガーソングライター同志の距離感は、ときどき会う親戚みたいな感じ」と言っていたが、この日のライブでは、折坂はテレビドラマ『監察医 朝顔』の主題歌“朝顔”、カネコは映画『わたしは光をにぎっている』の主題歌“光の方へ”を披露した。活動範囲が広がったことを伝えるそれぞれの歌は、久し振りに共演した二人の手みやげのようにも思えた。

折坂悠太“朝顔”を聴く(Apple Musicはこちら

カネコアヤノ“光の方へ”を聴く(Apple Musicはこちら

そして、折坂がギターを弾き、ハラのサックスを交えて、昭和の名曲“いつでも夢を”(原曲は橋幸夫と吉永小百合のデュエット、1962年発表)をデュエット。ライブ本編のときよりもリラックスして歌われたその歌は、ツーマンの美しいエピローグとなった。

個性的な声と音楽性を持ったふたりが共演することで、それぞれの魅力が際立った『CROSSING CARNIVAL 外伝』。“いつでも夢を”を聴きながら、いま二人はどんな夢を抱いているのだろうと思った。

5月16日(土)、渋谷7会場で『CROSSING CARNIVAL'20』が開催される。チケット先行受付を2月25日(火)23:59まで実施中
5月16日(土)、渋谷7会場で『CROSSING CARNIVAL'20』が開催される。チケット先行受付を2月25日(火)23:59まで実施中(サイトを見る

イベント情報
『「CROSSING CARNIVAL 外伝」~カネコアヤノと折坂悠太~』

2019年12月19日(木)
会場:東京都 渋谷 WWW X
出演:
カネコアヤノ
折坂悠太(合奏)

『CROSSING CARNIVAL'20』

2020年5月16日(土)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-EAST、TSUTAYA O-WEST、TSUTAYA O-nest、duo MUSIC EXCHANGE、WOMB LIVE、clubasia、7th FLOOR
料金:一般5,500円(ドリンク別)

曽我部恵一
吉澤嘉代子
君島大空
柴田聡子inFIRE
王舟(トリオ編成)
CRCK/LCKS
Lucky Kilimanjaro
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YOMOYA
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プロフィール
折坂悠太 (おりさか ゆうた)

平成元年、鳥取県生まれのシンガーソングライター。幼少期をロシアやイランで過ごし、帰国後は千葉県に移る。2013年よりギター弾き語りでライヴ活動を開始。2018年10月には2ndアルバム『平成』をリリース、CDショップ大賞を受賞するなど各所で高い評価を得る。2019年7月クールのフジテレビ系月曜9時枠ドラマ「監察医 朝顔」主題歌としてシングル『朝顔』を発表。独特の歌唱法にして、ブルーズ、民族音楽、ジャズなどにも通じたセンスを持ち合わせながら、それをポップスとして消化した稀有なシンガー。

カネコアヤノ

弾き語りとバンド形態でライブ活動を行っている。2019年には最新アルバム『燦々』と弾き語りによる再録アルバム『燦々 ひとりでに』を発表。『燦々』は『第12回CDショップ大賞2020入賞作品』に選出。2020年4月には大阪市中央公会堂、中野サンプラザでのワンマンライブを控えている。



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