レビュー

坂本龍一vs大友良英も出演した対戦型即興ライブの記録

金子厚武
2012/04/10
坂本龍一vs大友良英も出演した対戦型即興ライブの記録

以前のCINRAの記事でも書いてきたことだが、「対戦型即興ライブ」と銘打たれた『BOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS LIVE(以下:BRMVL)』というイベントは、その場で起きたことが全てである。予定調和の筋書きもなければ、明確な結末も存在しない。ただ2組の音楽家がその場で感じたことを音にし、言葉にし、そこに居合わせたそれぞれがそれをどう感じるか。ただ、それだけなのだ。もしかしたら、この日の対戦に、復興へと向かう日本の逞しさを感じたものがいたかもしれない。怒りを感じたものがいたかもしれないし、慰めを感じたものがいたかもしれない。そして、そのどれもが決して間違いではない。なので、ここではあくまで記録としての『BRMVL2012』を、あの日あの場所で何が起こったかを綴っていく。

『BOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS LIVE 2012』

開演の19時半よりも前に会場の後楽園ホールに到着すると、すでに中から大音量のドラムの音が聴こえてくる。オープニングアクトとしてアナウンスされていた「千住宗臣 vs 服部正嗣」がすでに始まっているのだ。ジャンルレスに活動する2人のドラマーの熱っぽいプレイに、まだ観客席は埋まり切っていないながらも、方々から歓声が上がっている。最後は勢いよくスティックを放り投げて演奏が終了すると、ゲストのやくしまるえつこが登場。「夢」を題材にした詩の朗読と共に、『BRMVL2012』の開幕を宣言した。

『BOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS LIVE 2012』

第1戦は「DJ KENTARO vs Open Reel Ensemble」。世界的なターンテーブリストと、旧式のオープンリールを用いた話題のアンサンブルチームの対戦だ。試合に先立ってCINRAがOpen Reel Ensembleに行った取材では、「どっちがどの音を出してるのか、目をつぶってもわかるといいなって思います」という話があったが、それは実際によくわかって、ザクザクと小気味いいDJ KENTAROのスクラッチに対し、モノ感のあるずっしりした音を響かせるOpen Reel Ensembleのスクラッチは全くの別物だった。また同じ取材で、「異種格闘技戦だと思うので、相手の土俵に入っちゃうとダメですよね」ということを言っていたが、これもまさにで、基本的にはDJ KENTAROのプレイが試合の主導権を握っていたのだが、その周りで工作員のように様々な音を出し続けるOpen Reel Ensembleの姿はなんだか別次元に居るかのようで、不思議な面白味があった。

『BOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS LIVE 2012』

続く第2戦は「いとうせいこう vs Shing02」。日本語ラップのオリジネイターの1人と、才能溢れるバイリンガルラッパーのMCバトルだ。それぞれセコンド(?)にDUB MASTER XとDJ A-1を従え、交互に1曲ずつ披露するような形で3ラウンドが行われた。2009年の『BRMVL』に参加したときは、最初の1文字を書き出すまでに15分かけたというShing02だが、この日は完全即興スタイルで次々とライムを繰り出し、ラッパーとしてのスキルの高さを披露。一方のいとうせいこうはあらかじめ準備をしてきていたようで、□□□の曲のフレーズも挟みながら、座ったままリリックを読む形式。ダブ処理されたメッセージ性の強い言葉の強度は伝わったものの、バトルという色合いはやや薄かったかもしれない。しかし、3ラウンド目も終了というところで事件は起こる。客席から「せいこう、立てよ!」の声がかかったのだ。会場がざわつく中、それに応える形でせいこうも立ち上がると、最後にそれぞれがフリースタイルを披露。Shing02が「バランスを崩しながらも、坂本教授の前ですべるわけにはいかねえ!」と締め、場内の拍手をさらっていった。

『BOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS LIVE 2012』

再びやくしまるが登場し、最後の対戦者を紹介。本日のメインイベント、「坂本龍一 vs 大友良英」だ。『プロジェクトFUKUSHIMA!』でも共演を果たしているこの2人の大物の試合を、観客は固唾を呑んで見守った。様々な楽器をマイペースで奏で続ける大友に対し、序盤は鍵盤を叩いていた教授が立ち上がり、ピアノの中に手を伸ばして内部奏法を開始。ノイズともアンビエントともつかない前衛的な展開に突入し、ここが後楽園ホールであることなどすっかり忘れてしまうような雰囲気に。しかし、途中で教授が鍵盤に戻り、シンプルなメロディを奏で出すと、それまでうごめいていたものがスッとそこに収束し、大友の演奏とハーモニーを奏で出したかのような瞬間には、ハッとさせられるものがあった。実にフラジャイルで美しい対戦は、ゆっくりと潮が引くように、静かな終わりを迎えた。

こうして『BRMVL2012』は終了。最後に、もう一度やくしまるのアナウンスが。

「また夢でお会いしましょう、バイバイ」

そう、夢というものはどれだけ伝え聞かせても、結局その本人しかわからないものである。

イベント情報

『BOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS LIVE 2012』(2012年3月21日@後楽園ホール)
『BOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS LIVE 2012』

2012年3月21日(水)OPEN 18:45 / START 19:30
会場:東京都 水道橋 後楽園ホール

出演:
坂本龍一 vs 大友良英
いとうせいこう vs Shing02
DJ KENTARO vs Open Reel Ensemble
ゲスト:やくしまるえつこ
オープニングアクト:千住宗臣 vs 服部正嗣

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

カネコアヤノ“光の方へ”

カネコアヤノの新作『燦々』より、すでに先行配信もされている屈指の名曲“光の方へ”のスタジオライブ映像。Tシャツ一枚に素足の飾り気ない佇まいが、音源よりも強気な歌声が、遠くを見つめたり、マイクをすっと見据えたり、手元を確認したりする一瞬一瞬が、いちいちかっこいい。カネコアヤノは、常に、今が一番最高なアーティストだと思う。(山元)

  1. 桑島智輝が妻・安達祐実を毎日撮影、写真集『我我』刊行 記念トークも 1

    桑島智輝が妻・安達祐実を毎日撮影、写真集『我我』刊行 記念トークも

  2. 女性の身体の柔らかさ 森瀬の個展『えっちすぎる ... 展』高田馬場で開催 2

    女性の身体の柔らかさ 森瀬の個展『えっちすぎる ... 展』高田馬場で開催

  3. 『ワンピース』ナミが17歳の高校生に カップヌードル「HUNGRY DAYS」新CM 3

    『ワンピース』ナミが17歳の高校生に カップヌードル「HUNGRY DAYS」新CM

  4. 乃木坂46と学生約300人が大合唱、「ファンタ坂学園」特別映像公開 4

    乃木坂46と学生約300人が大合唱、「ファンタ坂学園」特別映像公開

  5. フォーリミ・GENの本音。自らの手で時代を作るための葛藤と原点 5

    フォーリミ・GENの本音。自らの手で時代を作るための葛藤と原点

  6. 『The Covers』スカパラ特集に奥田民生&高橋一生が登場、スカパラとコラボ 6

    『The Covers』スカパラ特集に奥田民生&高橋一生が登場、スカパラとコラボ

  7. 『エイス・グレード』公開間近、春名風花の応援ロングコメントが到着 7

    『エイス・グレード』公開間近、春名風花の応援ロングコメントが到着

  8. 田中圭が花屋の店主役、今泉力哉監督『mellow』1月公開 共演に岡崎紗絵ら 8

    田中圭が花屋の店主役、今泉力哉監督『mellow』1月公開 共演に岡崎紗絵ら

  9. 『天気の子』展が銀座で開催、背景画など約400点 気象現象の再現装置も 9

    『天気の子』展が銀座で開催、背景画など約400点 気象現象の再現装置も

  10. 吉田ユニ展『Dinalog』ラフォーレミュージアム原宿で開催 新作や創作過程も 10

    吉田ユニ展『Dinalog』ラフォーレミュージアム原宿で開催 新作や創作過程も