レビュー

『笑っていいとも!』放送終了 やっぱり僕たちはタモリに謝らなければいけない

武田砂鉄
2014/04/04
『笑っていいとも!』放送終了 やっぱり僕たちはタモリに謝らなければいけない

『いいとも!』は、僕たちが観なくなったから終わったのだ

カルチャー誌『STUDIO VOICE』が2009年に休刊になったとき、「マジかよ」「信じられん」「自分たちのカルチャーが詰まってた……」云々と、我が事として嘆く声が突然あちこちから噴き出してきたのに苛立って、「休刊になったのは、おそらくキミたちが買わなくなったからだ」と放言したことを覚えている。その指摘はおそらく当たっていて、個人個人は市場原理の1ピースであることに自覚が乏しいものだし、自覚を持ちそうになると、それを意識的に放り捨てて、ムーブメントを鳥瞰するポジションへ逃げたがるものだ。

『笑っていいとも!』やタモリが集中的に語られた数か月だったが、話をスリムに終えてしまえば、僕らが観なくなったから『いいとも!』は終わることになったのだ。1982年に放送開始、88年には最高視聴率27.9%を記録した。その時期から比べると、2011年の年間平均視聴率の7.3%、12年の6.5%という下降はいかにも寂しい数値だ(出典:2013年10月22日 朝日新聞デジタル「『笑っていいとも!』3月で終了 背景に視聴率の低落」より)。なぜ下がったのか、なぜ終わるのか。視聴者が、「明日も観てくれるかなっ」とマイクを向けてきたタモリを無視して『ヒルナンデス!』を観たり、横目でテレビをだらだら観ていた馴染みの食堂からいつしか離れて、近くの公園でランチするようになってしまったから、終わるのだ。雑誌等でタモリ礼賛がどこまでも続く中で、「すみません、うちらが観なかったものだから」という陳謝が少しも前提にならなかったのは不誠実だった。

グランドフィナーレ、なぜスタジオにお客を入れなかったのか

最終回、夜の部のグランドフィナーレ、何が残念だったって、会場にお客さんを入れなかったことだ。番組終了に合わせて組まれた『TV Bros.』の『いいとも!』特集号で、太田光や岡村隆史などが申し合わせたかのように「『いいとも!』の客ほど慣れない客はない、面白くなければ笑ってくれないし、興味が無い芸能人に対して無理に歓声を送らない」と、『いいとも!』の客のレベルの高さに言及していた。タモリにしろ『いいとも!』にしろ、それを、掴みどころのないモンスターに育て上げたのは、やたらと距離の近いお客さんたちだった。その日ごとに変わる客を前にして偉大なるマンネリズムをぶつけ、無理やりにでもステージと客席が連帯していく筋力があの番組の肝だった。グランドフィナーレで波状攻撃のように続いた仲間たちからの感動的なメッセージ、そこに謝辞以外の目的があったとすれば、それはタモリを泣かせることだったはず。その目的をタモリは、目こそ潤ませども、ジャブをかわすボクサーのようによけきった。惜しい試合だった。もし泣かせたかったのであれば、スタジオにお客を入れるべきだったと思う。タモリが誰よりも一緒にいたのは「お客さん」だったのだから、長年の相手に、心を揺さぶられたかもしれない。

なぜタモリのウンチクはウザくないのか

マーティン・スコセッシが映画化したTHE BAND『ラスト・ワルツ』は、1976年に行われた解散ライブを収めた作品だ。バンドを祝福しに、ボブ・ディラン、ニール・ヤング、エリック・クラプトン、ヴァン・モリソンなど、ロック界の蒼々たるメンツがステージに次々とやってくる。終焉を祝う『いいとも!』には、あれと同じような豪華さがあった。明石家さんま、ダウンタウン、とんねるず、ナインティナイン、爆笑問題……大御所が次々とステージに登場した最終回は『ラスト・ワルツ』だった。祝われるべき自分はひとまず一歩下がって、祝いに来た人に自由に振る舞ってもらうという点も、(あっちはバンドでタモリは個人だけど)『ラスト・ワルツ』っぽかった。

昼の放送で、「明日からはO倉智昭の『被っていいとも!』が始まります」と言ってのけたビートたけしの弁から関連づけて話を続けるならば、なぜ、小倉智昭のウンチクはあんなにウザくって、タモリのウンチクはちっともウザくないのだろう。その答えは明快だ。小倉はいつも「ボクはこんなウンチクを知っています」という顔をしている。一方のタモリはいつも「これがウンチクだ」とは言わずに、受け取った側に「なんでそんなウンチクを知ってるんですか」と言わせて初めてウンチクを顕在化させる。相手がいてこそのタモリは、あからさまな組織の長にはならない。例えば「関口宏の……」とか「みのもんたの……」とうたう番組の場合、その名前は常に番組の身動きの中心にいる。タモリって、あんまり中心にいない。ジャムセッションというか、「feat.タモリ」みたいな振る舞いの位置取りを好む。ねぎらいに来た友人たちを前に出して、主役がスッとさがる、最終回の『ラスト・ワルツ』は象徴的なシーンだった。

「うちらが観なかったものだから」と謝るしかない

『いいとも!』の視聴率が落ち込み、終了決定の報が流れてから、このままだとタモリのこと何にも知らずに逃げ切られるぞ、と、芸能界もマスコミ媒体も茶の間も焦りはじめた。結果、沢山の考察と惜別の声が届けられた。こうして盛り立ててれば、今度こそタモリはタモリを語ってくれるんじゃないかと期待した。でも最後までタモリはタモリを、そして『いいとも!』を明かさなかった。スピーチで共演者が次々と涙していく姿は感動的ではあったけれど、動じないタモリを際立たせることにもなった。今日で終わる番組の最後を「明日も観てくれるかな!」で締めくくるタモリに逃げ切られた。

『いいとも!』が終わってしまった。結局、ちっとも分析できずに逃げ切られてしまった。となると、やっぱり「すみません、うちらが観なかったものだから」と謝るしかない。後続番組の天文学的なつまらなさも相まって、数日経とうとも、まだまだ下げた頭を上げることができずにいる。『いいとも!』は僕たちが観なくなったから、終わってしまったのだ。

番組情報

『森田一義アワー 笑っていいとも!』

1982年10月4日(月)から2014年3月31日(月)までフジテレビ系ほかで放送
出演:
森田一義
ほか

(イラスト:なかおみちお)

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