価値観を覆してきたダンス界の「怒れる子ども」Nibrollは、2015年に何を観せるのか

賛否両論を巻き起こしながら国際的に活躍してきた、専門的ディレクター集団による新しいダンスカンパニー

Nibrollは言わば、ディレクターズコレクティブ。振付、映像、音楽、衣装、美術、照明などの専門家たちがチームでダンス作品を作るカンパニーである。1997年の結成以来、その作品は常に(かなり常時)賛否両論を巻き起こしてきた。

矢内原美邦(振付)の結成当時の口癖は「アラベスクなんて大っ嫌い、ターンもユニゾンもやらない!」だった。アラベスクとは片足を軸にもう一方の足を後方に高く上げる、バレエによくある美しいポーズ。ユニゾンとは複数の踊り手が動きを揃える、ダンスにお馴染みのテクニックのことである。Nibrollは、スカした感じのダンスが主流だった当時にあって、怒れる子どもの形相(それは奈良美智が描く子どもの雰囲気にすごく似ている気がする)で前述のように言い張り、優秀なダンサーだけでなく俳優を起用して荒削りなダンスを踊らせるなど、テクニック重視のダンスの価値観を覆してきた。その踊りは音楽家・ダンス批評家の桜井圭介氏に「コドモ身体」と評され、新しい時代のダンスとして議論を巻き起こしてきたが、一部のダンス批評家からは眉をひそめられ、「これはダンスではない」と言われたこともあるらしい(Nibrollはジャンルで言えばコンテンポラリーダンス。アメリカでは「ニューダンス」と呼ばれることもあり、つまりなんでもありのジャンルに属するはずなのだが……)。

Nibroll『リアルリアリティ』コンセプトイメージ

Nibroll『リアルリアリティ』コンセプトイメージ

Nibroll『リアルリアリティ』コンセプトイメージ
Nibroll『リアルリアリティ』コンセプトイメージ

それでもダンスに限らずアートを広く見ている批評家や、海外のプロデューサーたちから高く評価され、早くから様々なフェスティバルに招聘され国際的に活躍してきた。また矢内原美邦は演劇にも進出し(そういえばダンサーにはやたらと台詞を叫ばせていた)、2012年にはなんと劇作家の登竜門『岸田國士戯曲賞』を受賞。劇作家・演出家としても活躍している。

首都圏では約2年半ぶりの新作公演は、20~50代のダンサーの年齢差やバリエーションが、迫力の存在感を醸し出す

現在制作中の『リアルリアリティ』は、そんなNibrollによる首都圏では、じつに約2年半ぶりの新作公演だ。とは言え、ミクニヤナイハラ・プロジェクトでの演劇作品や、矢内原と映像作家の高橋啓佑によるoff-nibrollでのメディアアート的な作品はずっと精力的に発表されていたので、これらの作品を通して彼らに出会ってきた読者も多いだろう。その原点であるNibrollのダンス作品を体験しない手はない。

Nibroll『リアルリアリティ』コンセプトイメージ

Nibroll『リアルリアリティ』コンセプトイメージ

Nibroll『リアルリアリティ』コンセプトイメージ
Nibroll『リアルリアリティ』コンセプトイメージ

というわけで新作の進捗をうかがうべく、リハーサル中の稽古場を訪れてみた。そこでは本番のサイズを想定した通し稽古が行われていたが、毎回さまざまなテクノロジーや映像表現とのコラボレーションが行なわれる実際の舞台美術はまだ設置されていない。移動式の白い壁がたくさん置かれており、それぞれ映像が投影されている。本番では白い床材が敷かれ、そこにも映像が映し出されるのだとか。また背面奥には家具が山のように積み上げられるのだそうだ。

Nibroll『リアルリアリティ』リハーサル風景
Nibroll『リアルリアリティ』リハーサル風景

Nibroll『リアルリアリティ』クリエイションワークショップ風景
Nibroll『リアルリアリティ』クリエイションワークショップ風景

出演するのは20、30、40、50代のダンサーがそれぞれ1名ずつ。さらに急遽、矢内原本人も出演することになったそう。起用の理由を尋ねると、あえて年齢差を出したかったとのこと。ただダンサーたちは日頃から鍛錬しているため、それほど顕著な差は出なかったそうだ。確かにいわゆる体力的な衰えというような違いは全く感じられないが、それぞれに表現力の違いがあって、若手には青さが、ベテランには年輪や味わいがあり、いつもとは異なるダンサーのバリエーションで迫力の存在感を醸し出している。

「こんなのダンスじゃない」と避けてきた人に、ぜひ観てほしい。ダンスファンもダンス初心者も陶然とするNibrollの現在形

初期の頃とは異なり最近のNibroll作品では、アラベスクもユニゾンもこれでもかというほど出てくる。とくに本作では、じわじわと執拗にゆっくりとしたアラベスクが繰り返されるのだが、時間を積み上げるような深みがあって印象的だ。その時間の体積を剥ぎ取るように、重ね着した衣装を脱いでいくところは、時代を遡っていくような感覚がある。機械のようにぴったりと合ったユニゾンは、時々恣意的にずらされることで、個の中に流れる時間の差異や、生身の身体ならではのほころびを感じさせる。ダンスだけではなく、映像、音楽、美術、衣装がそれぞれ主張する情報力の多さがNibrollの特徴だが、めまぐるしく押し寄せてくるそれらの密度にも関わらず、まとまりが感じられるのは経験のなせる技なのだろうか。重みのあるスローさと、粘着質に繰り返される展開の速いパートが畳みかけてくる。

Nibroll『リアルリアリティ』コンセプトイメージ

Nibroll『リアルリアリティ』コンセプトイメージ

Nibroll『リアルリアリティ』コンセプトイメージ
Nibroll『リアルリアリティ』コンセプトイメージ

冒頭、iPhoneの音声操作システム「Siri」のように人工的な声が流れ、つらつらと独り言を繰り返す。内容を聞くとけっこう愚痴が多い。そこにはネットやスマホでどんな遠方とも簡単に繋がることができる現代人の「拡張された身体」、半ばアンドロイド化した身体のほころびを突き付けられているようで切ない。日常にテクノロジーがあふれる現代だからこそ、身体をメディアとして発信されるダンスにはあらためて気づきがある。以前に一度観て、「こんなのダンスじゃない」と避けてきた人にも、ぜひもう一度観てほしい。だって本番までにきっとまだまだ変わるけれど、現時点ですでに踊りが素晴らしい。矢内原特有のワイルドな振付は変わらぬまま、洗練されたダンステクニックと相まって、ダンスファンもダンス初心者も陶然とするNibrollの現在形が見られるような気がする。

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