デジタルコミュニケーションが社会を変える

デジタルコミュニケーションが世界を変える Vol.1 ソーシャルメディアが席巻する時代に生まれた新しい「アーティスト」

デジタルコミュニケーションが世界を変える Vol.1

あらゆるメディアを 自由に組み合わせて表現する 「デジタルコミュニケーションアーティスト」

―こうしたデジタル技術の発達によって、クリエイティブ業界はどのような影響を受けているのでしょうか?

杉山:メディアに分野の区切りがなくなりましたよね。たとえば、小説の途中に動画があったり、音楽付きとの絵本ができたり、あらゆるメディアを自由に組み合わせて表現することができる。表現の場も、スマートフォンの小さな画面から街角の巨大なデジタルサイネージ(インタラクティブなものも含めた電子看板)まで、境はありません。表現の自由度と可能性が飛躍的に増したんです。これまで、いくら未来はそうなるよと言っても現実的には難しかったわけですが、ようやくそれが現実になったと思います。

―それでデジタルハリウッドは今年から、「デジタルコミュニケーション」を専門に学ぶ専攻をスタートさせたわけですね。

杉山:そうですね。僕は、そうしたメディアに捉われない表現物を作れる人を、「デジタルコミュニケーションアーティスト」と呼びたいんです。ビジネスシーン、つまり広告やエンターテイメント界でも、そうした人材の必要性が充分に理解された時代になったと思います。

SOUR「映し鏡」PV

台頭するインタラクティブ系PVの中でも群を抜く面白さで話題をさらった作品。歌詞の世界観にインスパイアされたもので、特設サイトで視聴者自身のTwitterやFacebookのID、またWebカメラを連携させ、自分のSNS上のつながりや顔写真が反映されたPVを紡ぎ出す。Google、YouTubeなどのネットインフラを旅するような展開も、デジタルコミュニケーションの現在形を象徴する。

―映画は総合芸術、という考え方がありますが、デジタルコミュニケーションも今後、クロスメディア・フォームとしての可能性が大きくなるのでしょうか? だとすれば今後、それを加速させるのはどんな人材でしょう。

杉山:結局そこには、新たに世に出てきた面白い技術を、それまでの良いものも含めてタタタっとつなぎ込んでいく才能が求められます。たとえばX'masのイルミネーションをキネクトを使って人の動きと連動させるとか、そういう「コミュニケーションも出てきます。コンサートでも、昔はステージの大画面にミュージシャンのアップ映像が映し出される程度だったけれど、いまはメディアアーティストが監修するなどして、よりインタラクティブになってきている。初音ミクのライブのように、2次元の画面上にしかいなかった子が、3Dで現実のライブに登場したりもする。こうした動きの裏には必ず、どんなものでもつなげていくクロスメディア的なディレクター/プロデューサーの存在があります。彼らが優れたクリエイターやプログラマーを巻き込んでいくわけです。

日本のクリエイティブは今、 どのような強みと弱みがあるのか?

―では、クリエイターや、技術を操る側の才能についての展望はいかがでしょうか?

杉山:スキルについては、あるレベルまで作ることは以前よりぐっと簡単になってきました。もちろん勉強しなきゃいけないけれど、逆に言えば仕事レベルなら訓練で多くの人がやれるようになってきたといえます。一握りの天才も確かにいますが、この世界で生きてる人がそんなに奇才ばかりということでは決してないですよ。

杉山知之

―杉山学長は海外にもよく足を運んでいらっしゃいますが、国際的には、日本のクリエイティブ業界の才能は今どう評価されているのでしょう?

杉山:今なお評価は高いですよ。特に仕事のクオリティという点で。ただ、ディレクション、プロデューサーの人材は弱いとも言われます。分業のさせかたや、現場のやる気を引き出すやりかた、それがまだ上手くないというか。予算と期日を中心に仕事を進めるのも大事だけれど、クリエイティブとしてちゃんと期待以上のものを作ることも大事ですよね。それができれば、次にいいチャンスがくる。そういう舵取りができる、リーダーシップのある人材も今後の課題でしょう。

映像サイト

―文化的な土壌のアドバンテージについても、著作で語っていましたね。

杉山:その際にはアニメーションやマンガを例に挙げましたが、今後のデジタルコミュニケーションにも当てはまる話ですね。簡単に言えば、アニメもマンガも海外にはない作品が出せていることで評価されてきたわけですが、その大きな理由はタブーがないからです。戦争に負け、文化も大きく変わった。でもアメリカは憲法を置いてはいったけれど、社会通念みたいなものは置いていかなかったんです。彼らにはキリスト教の規範があまりに当然過ぎて、そこは見落としたのかどうかわかりませんが。とにかくその結果、日本には一種、どんな考えもオープンという一面が生まれました。マンガの世界で言えば、貸本専用に制作された貸本漫画の隆盛にも関係していますよね。

―水木しげるや白土三平らが初期に活動した場ですね。

杉山:もちろん、あまりに過激な表現で何度も排斥されそうになるけれど、その独自性は場所や形を変え続いてきたと言えます。例えば『聖☆おにいさん』なんて、仏陀とキリストが安アパートで同居なんて、海外の人には絶対思いつかない、思いついてもタブーがあるから描けないわけですよ。

―『ドラゴンボール』でも、平気で神様とため口をきいていますね(笑)。でも、そうしたマンガが海外でも受け入れられているのが面白いところです。

杉山:そういうマンガやアニメが、デジタルに乗って海外に運ばれた結果、向こうで認められていったという面もあります。つまり、インターネットのおかげで、輸出文化としての土壌が生まれてきた。

―「土壌」というのは、やはりまだ本番はこれからだと?

杉山:実際にはお金が外から戻ってきていないですからね。残念ながら、違法ダウンロードなどで出回っているものがあまりにも多いので。とはいえ各地で人気を呼んでいるのは現実で、クリエイティブには自信を持っていいんだぞ、と言えるのは確かです。

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