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STAGE

『F/T』ディレクター相馬千秋が問い続けるアートの可能性

インタビュー・テキスト:藤原ちから 撮影:越間有紀子(2012/10/12)

今年で4年目、5回目となる『F/T(フェスティバル/トーキョー)』。秋に定着したこの大規模な舞台芸術の祭典は、日本の、あるいは世界の演劇シーンにおいても重要な存在感を獲得しつつある。最初はヨーロッパの演劇を日本に紹介するフェスティバルという印象のあった『F/T』だが、近年はアジアという視座が前景化し、新しいプラットフォームを構築しようとしているようにも見える。

変化し続ける世の中にあって、アートに、そして演劇に何ができるのかを常に模索しながら、現場を動かしてきたディレクター・相馬千秋。この芯の強い思想と行動力の持ち主なくして、『F/T』は存続しえなかったのではないか。特に「震災以後」という厳しい時代の中で、さらには領土問題も緊迫した状況を迎えている今、この現実は彼女の目にどのように映っているのだろう? ノーベル賞作家、エルフリーデ・イェリネクを特集する『F/T12』の見所や、『F/T』のこれまでの軌跡を、共に歩んできた彼女自身の話と一緒に伺った。

PROFILE

相馬千秋
1975年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、フランスのリヨン第二大学院にてアートマネジメントおよび文化政策を専攻。2002年よりアートネットワーク・ジャパン(ANJ)勤務。『東京国際芸術祭』「中東シリーズ04-07」を企画・制作。06年には横浜に急な坂スタジオを設立、10年までディレクターを努める。『東京国際芸術祭2008』ディレクターを経て、『フェスティバル/トーキョー』のプログラム・ディレクターに就任。

演劇とのファーストコンタクトは最悪?

―演劇との出会いは?

相馬:恋愛もそうですけど、第一印象がものすごく悪いものにかぎって、のちのち縁が深くなることってあると思うんです。私にとって演劇はまさにそう。大学時代は文学少女だったので、いろんなアートに触れたい、願わくば自分も小説家になりたいと思っていて……。それで小説の同人誌をやったり、美術や映画も片っ端から観ました。音楽はオーケストラでビオラをやっていたので生活そのものだったし、現代音楽や実験音楽のイベントにもよく通って。ひとことで言えば、演劇以外のアートには幅広く触れていたんですね。

―ではなぜ演劇はスルーを?

相馬:ひとつには、友達に誘われて観に行く学生演劇の舞台が妙に大げさで恥ずかしく感じたこと。自分の醒めた現実感覚とあまりに落差があった。それにチケット代も高いから、そんなに何本も観に行けなかった。ものの見方ってたくさん見続けないと蓄積されないので、どう見ていいかも分からなくて。


相馬千秋
相馬千秋

―その後、フランスに留学されたんですよね?

相馬:自分が作家になるよりも、芸術の環境を作りたいと思って、文化政策やアートマネジメントを実践的に学ぶために、2000年から01年にかけてリヨンの大学院に行きました。学校の隣にオペラ座があって、安い席なら10ユーロで一流のオペラやダンスが観られたんです。あとリヨンではダンスと現代美術のビエンナーレが交互に開催されていて、町そのものが常に芸術的な祝祭で覆われている。例えば「デフィレ」と呼ばれる仮装行列では、みんなで衣装を作って踊りを練習してビエンナーレに参加するんです。つまりコミュニティーに根ざした活動と、世界レベルの芸術とが地続きなんです。その雰囲気に私もまんまと乗せられましたね(笑)。


『宮澤賢治/夢の島から「わたくしという現象」』ロメオ・カステルッチ(『F/T11』) ©石川純
『宮澤賢治/夢の島から「わたくしという現象」』ロメオ・カステルッチ(『F/T11』) ©石川純


「劇場や美術館という制度の中で何かをやる、という発想にはならなかった。実は未だに演劇の部外者という意識はあります。常にアウトサイダーです(笑)」

―そして創作の現場に関わるように?

相馬:まず4か月間、フランスとスイスとドイツの国境にあるモンベリアールという小さな町で、メディアアートに特化したアーティスト・イン・レジデンス(滞在制作)の施設に住み込みで働きました。当時はメディアアートが盛り上がっていたし、ダムタイプも制作に来るようなとっても刺激的な環境でしたね。大学院が終わってからはパリに行って、バトファーという、2000年代初頭のクラブシーンでは有名な場所で働きました。セーヌ川の上に蒸気船を浮かべてクラブスペースにしているんです。そこで日本にフォーカスしたメディアアートや電子音楽のフェスティバルが開催されることになり、大友良英さんともお知り合いになったり。まあ制作アシスタントとしてパシってました(笑)。

―その頃からジャンルオーバーなんですね。

相馬:劇場や美術館という制度や箱の中で何かをやる、という発想にはならなかったですね。権威や制度がしっかり固定化したものよりも、同時代的な面白い動きに本能的に同期していたのだと思います。そういう意味では、実は未だに演劇の部外者という意識があります。まだ演劇の本丸には入れてもらえない(笑)。常にアウトサイダーです。


『転校生』飴屋法水(『F/T09春』)©Jun Ishikawa
『転校生』飴屋法水(『F/T09春』)©Jun Ishikawa


「分からないものを分からないままに伝えられるのがアート。私はそっちのほうに賭けています。だって簡単に分かりたいんだったら、歴史の教科書でいいじゃないですか」

―帰国後は、『東京国際芸術祭(『F/T』の前身)』で「中東シリーズ」を担当されましたね。

相馬:ディレクターだった市村作知雄(現『F/T』実行委員会実行委員長)が、9.11の後に突然「これからは中東だ!」って言い出して、パレスチナとかレバノンとかに送り込まれたんです。でもいきなりアラブ文化圏に属する人たちの同時代的な表現に触れても、やっぱり彼らの直面する現実の重さは、本当のところ彼らにしか分からない。例えばこれまで『F/T』に3回招聘しているレバノンのラビア・ムルエの作品にしても、日本人はそもそもレバノンの歴史や現状を知らないので、簡単に共感なんてできないですよね。だから作品を前にしてもポカーンとするしかないんですけど、そこに対面することで、そのポカーンとした距離感の重大さを体感できる。なぜこの作品がこの時間の長さや饒舌さを必要したかという、その複雑さを全体で受け取ることが重要だと思うんです。だから、彼ら自身の言語、彼ら自身の身体性で、彼ら自身が現地のお客さんに向けて語っているものこそを東京で見せてほしいと思っていました。よく「分かりやすいもの」が求められることがありますけど、分からないものを分からないままに伝えられるのがアートではないかと。私はそっちのほうに賭けています。だって簡単に分かりたいんだったら、歴史の教科書でいいじゃないですか。


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