岸田繁(くるり)×加藤貞顕対談 音楽市場の変化をチャンスに転換

傑作アルバム『THE PIER』の余韻が未だ鮮明に漂い続けているくるりだが、彼らは今年、インディーズ時代から長年所属していた事務所を離れ、佐藤征史を代表に新事務所「NOISE McCARTNEY」を設立している。佐藤のメッセージを引用すれば「自分たちの音楽活動をよりシンプルに、ダイレクトにファンの皆様にお届けすることが目的」であり、岸田繁の言葉を借りれば「常に自分たちの作る音楽が主語にある状態にしておきたい」がための独立は、業界の激しい変化に対応するため、ある種必然の選択だったように思う。

さらに驚かされたのが、公式ファンクラブ「純情息子」の運用を、WEBサービス「note」を使って開始したことだ。noteとは、デジタルコンテンツ配信プラットフォーム「cakes」の仕掛け人である加藤貞顕が今年の4月にリリースしたソーシャルメディアプラットフォーム。メジャーでCDを発売する人気バンドが、すぐにこの新しいメディアとタッグを組んだということは、独立によってフットワークが軽くなったことの最初の成果と言えるだろう。そして、既存のシステムから離れ、クリエイターとファンとの自由度の高いコミュニケーションの場を創造して行こうとするnoteにとっても、大きな一歩となったことは間違いない。そこで、今回CINRAでは岸田と加藤による対談を企画。これからのクリエイターのあり方、メディアのあり方を指し示す、とても有意義で、濃密で、勇気の出るような対談になったと思う。

今後クリエイターは、ファンと密接なコミュニケーションの上で、ビジネスをしていくようになると思うんです。(加藤)

―加藤さんがcakesおよびnoteを始めたのはどういう経緯だったのか、改めて話していただけますか?

加藤:まず2012年にcakesというサービスを始めたんですけど、理由はすごく単純で、電車の中でみんなこうやって(スマホの画面を覗く仕草)過ごすようになってきたんですよね。特に、ここ数年でそれが顕著になって、それに伴って出版物の売れ行きが減って行き、「ここ(スマートフォンの画面の中)で売るようにしないと、未来はないな」って思ったんです。実は出版業界は、音楽業界より10年遅れてて、スマートフォンとかiPadが普及し始めたのが2010年くらいからなんですけど、最初のiPodが発表されたのが2001年なので、音楽の方が10年早くいろんな目に遭ってるんですね(笑)。で、遂に出版業界でも似たようなことが起こり始めてるんです。でも、これはある意味大きなチャンスで、みんなが同じ画面を見てるんだから、そこでコンテンツを売るビジネスを構築すれば、新しいクリエイティブの市場が生まれるわけですよね。

―そして、雑誌であるcakesに対し、noteは本であり、個人メディアであるとおっしゃってますよね。

加藤:noteはもともと出版目線で、文章、写真、イラスト、漫画などを載せたり、販売できたりするプラットフォームとして設計してたんですけど、ここに音声ファイルも載せようと。そうなると、映像もありだろうと。音楽は10年前から今の状況ですけど、もうこれからは音楽も出版も変わらなくて、今後クリエイターは、ファンと密接なコミュニケーションの上で、ビジネスをしていくようになると思うんです。それをやる場合、リアルよりもネットの方がコミュニティーを構築しやすいんですよね。フォローみたいな仕組みも、簡単にできるわけですし。

―確かに、そうですね。

加藤:なので、そういうコミュニティーの基盤をネットに作って、そこを軸にリアルでライブをやったり、CDとかグッズを売る方が、より素直なんじゃないかと思うんです。だって、みんなずっと画面を覗いてるわけだから(笑)。なので、音楽も出版も関係ない、データファイルであれば何でも載せられる形にして、4月にnoteをリリースしたんです。

もともと最初にファンクラブを作ったとき、俺一人だけ猛反対したんですよ。(岸田)

―「ファンとのコミュニティーの構築」というのが、まさに「ファンクラブ」の話ですよね。くるりがnoteを使ったファンクラブ運用を開始するに至る経緯を教えてください。

岸田:もともと10年以上前に最初にファンクラブを作ったとき、俺一人だけ猛反対したんですよ。僕の個人的な主張を言うと、いいもん作って、その人が聴いてくれていいと思ったら、誰かに広めてくれたらいいと思っていました。

左から:岸田繁(くるり)、加藤貞顕
左から:岸田繁(くるり)、加藤貞顕

加藤:まさにクリエイターの声ですね。

岸田:僕が好きなプロ野球で言うと、チケットを取れて、あとは選手の素顔が若干見られれば、いい形で自分の妄想を膨らませて、応援にも力が入ると思うんですよね。Twitterとかも、なんか素直に使うのが嫌で。でまあ、昔ファンクラブが嫌だったっていうのは、実際何をするかよくわかってなかったのもあって、結局いろんな理由でゴーになったら、ちゃんと盛り上がったし、ファンクラブがあったからこそできたこともあったんで、今となっては感謝しています。

―でも、独立のタイミングで、ファンクラブの存続については迷いもあったということですよね?

岸田:従来の形でのファンクラブのシステムは古いっていうか、結局チケットを先行で取りたい人が入ってるわけじゃないですか? 会報を出したりとかもしてるけど。だから本当は、作るならちゃんと作りたいけど、現実的な話、ファンクラブを運営するにはそれなりに人員が必要だし、コアファンを相手にする場所だから、運用するスタッフともちゃんとコミュニケーションがとれてないと、こっちの思惑とは違う伝わり方をしてしまう危険性もある。なので、「めんどくさいからやめちまえ!」って、一時期言ってたんですけど(笑)。

―(笑)。

岸田繁(くるり)

岸田:ただ、すでに入会してくれている人に突然「やめる」っていうのは、自分が会員だったら嫌やなって思って、いろいろ模索して。1回noteとは別に、「こういう風に行こう」ってなったときに、あるトラブルが起きて、ひとつ破談になった話があったんです。それがもう独立するって案内を出す時期ぐらいだったから、ワサワサなってたときに、noteのことを知ったんです。

加藤さんの考え方を聞いて、ひとつの目的をクリアするまでの論理がびっくりするくらいシンプルで、ファンになりました。(岸田)

―実際noteのことはどのように知ったのですか?

岸田:たまたま津田大介さんと飲んでたときに、さっき言ったような愚痴めいた話をしてたら、「面白い人いるよ」って言われて。

加藤:それ、偶然なんですけど、4月7日なんですよ。noteをリリースした日です。

岸田:そうなんや、縁ですねえ。

―つまり、津田さんが加藤さんを紹介してくれたと。

岸田:そう。その数日後に、津田さんがcakesの事務所に連れてってくれて、加藤さんがnoteの使い方を説明してくれたんですけど、Facebookの使い方がよくわかってない僕ですらわかるぐらい、単純明快だったんですよ。で、加藤さんの考え方を聞いて、ひとつの目的をクリアするまでの論理がびっくりするくらいシンプルで、その周りにあるものも含めてすごく新しいと思って、ファンになりました。

加藤:ありがとうございます。4月7日の話をもう少しすると、その日の午前中にnoteをリリースして、いろんな知り合いに「こんなの始めました」ってメールをしてて、津田さんにももちろん使ってほしいから、「一応tsudaってURLは予約しておきます」ってメールを送ったら(笑)、夜の12時ぐらいにいきなり電話がかかってきて、「加藤くん、これミュージシャンの利用とか考えてるの?」って言うから、「めちゃめちゃ考えてるよ」って返したんです。で、「わかった」って1回切れて、つまりそのとき岸田さんと津田さんが飲んでて、説明をしたんだと思うんですけど、もう1回かけ直してきて、「実は、さっきの話くるりなんだけど」って言うから、もう「えー!」ってなって(笑)。

―すごい、ドラマチックな話というか、やっぱり縁ですね(笑)。

加藤:音楽の機能をつけるって決めた時点で、ミュージシャンの方に使っていただきたいと思っていて、そのモデルケースとして、くるりみたいな人たちがぴったりだって話をしていたんです。つまり、メジャーでありながら、ファンとのコミュニケーションがあって、自分たちの発信したいメッセージもある。そういう人がふさわしいと思っていたので、リリース日にいきなりこんなぴったりな話が来て、驚いたし、嬉しかったですね。

加藤貞顕

―さきほど岸田さんの話にあったように、旧態のファンクラブは手続きの煩わしさであったり、実際にはそこまでコミュニケーションがなかったりした。でも、noteであれば、そこが改善できるということですよね。

加藤:岸田さんに「使い勝手がシンプル」っておっしゃっていただきましたけど、そこは相当意識したところで、やっぱりインターネットって、難しいと思うんですよ。僕はブログですら難しいと思ってて、例えば、自分の母親ができるかっていうと、できないんですよね。なので、誰でも使えるレベルにしないといけないっていうのがひとつ。あと今クリエイターはみんな大変だと思うのが、Twitterやってブログやって、公式ウェブサイトもあって、CD出るってなったらAmazonとかiTunesに誘導して、その上会報も作ってとか、バラバラにいろんなことをやらないといけないじゃないですか?

岸田:それ大変です。ホントに……もうね、そうなんですよ(笑)。

加藤:なので、それが1か所で済むようにしたいなって思ったんですよね。noteで書いたものを、TwitterやFacebookでシェアするのはいいんですけど、情報は1か所に集めて、何ならそこで楽曲も売れて、チケットも予約できて、グッズも売れるみたいな。

岸田:そういうプラットフォームとしての期待はすごくあるんですよね。もちろん実際使ってみて、「もっとこうなって欲しい」って部分もあるんですけど、加藤さんに「これどうですかね?」って言うと、すぐにそれが実現するんですよ。天才です。

加藤:いやいやいや(笑)、僕らも実際アーティストの方に使っていただいて、意見をいただけるのが一番ありがたいので、シンプルなところからちょっとずつ積み上げていければなって思っています。

今まではCDとチケットとグッズぐらいだったけど、売れる可能性があるものって、アーティスト側には実はいっぱいあって、ファンが欲しいものもいっぱいあるんですよね。(加藤)

―先日くるりは、noteでデビュー前の音源を発表されましたよね? あれはどういった意図があったのでしょうか?

岸田:田中宗一郎先生にライナーを書いてもらったんですけど、あの文章があったから、売ってもいいと思ったんですよね。カセットの多重録音の音源やし、そのアーティストのファンだったとしても、お金を払う価値はないと俺は思ってるんです。逆に、あのライナーは500円払ってでも読むべきやって思ったんですけど、音をタダで聴かせちゃうと、ライナー読まないなって思ったんですよ。

―確かに。

岸田:だから、ライナーはタダで読めるようにしました。あの文章は、くるりと今のシーンを紐づける優れた判断材料になると思って、あれを読んで聴くと、「なるほど」ってなるなと。昔だとレコードに大きなライナーが入ってて、それを読んでたりしたけど、今みんなそんなの読まないじゃないですか? でも今回のやり方っていうのは、自分的にすごく手ごたえがありました。

『くるりの一回転』解説ページ

加藤:Twitterでもすごい話題になって、1,000RT超えて、桁が振り切れちゃってるんですよね。曲は有料で、ライナーは無料っていうのは、岸田さん自身から提案していただいたんですけど、これってそういう「メディア設計」をしていただいてるんですよね。あ、僕もこれ買いました(9月10日の「岸田日記Ⅱ #10」を見ながら)。

岸田:ああ、これ、何があるとも言わずに、100円払った人だけ続きを見られるようにしたんですけど、これってアルバムに入ってる“loveless”って曲のコード譜なんです。

加藤:これ、自分で書いたんですか? コード進行だけじゃなくて、手書きでコードの押さえ方まで書いてあるんですけど、岸田さん、コードの押さえ方知ってますよね?

岸田:ジジイになってきて、忘れちゃうんです(笑)。最初に加藤さんと話したときに、秘蔵音源とか、パーソナルなものをここで出してほしいっておっしゃってたんですけど、でも、やっぱりなかなか出せないんですよ。それって、食堂で残ったもんで適当に作ったまかないを出せって言うようなもんで。ただ、それでも出すのであれば、「これを聴いてくれ」とかじゃなくて、ふざけて出したりとか、メンバーも知らないようなものをこっそり出して、「2枚売れたらいいや」ぐらいから始めようと思って(笑)。コード譜って、普段持ち歩かないですけど、ライブ前にギターの練習をするときに忘れちゃうんで、試験勉強じゃないですけど、書いて覚えるんですよ。

―へー、じゃあすごくパーソナルなものですね。

岸田:うん、俺の楽譜ノートみたいなのがあるの。

左から:岸田繁(くるり)、加藤貞顕

加藤:要するに、売れる可能性があるものって、アーティスト側には実はいっぱいあって、ファンがほしいものもいっぱいあるんですよね。例えば、リハーサルを見れる権利が10万円だったら、買う人がいるかもしれない。そこはファンによって濃さが違うわけですけど、今まではCDとライブのチケット、あとはグッズぐらいで、売ってるものが少なかったと思うんですよ。もちろん、noteで何でもかんでも売れって話じゃなくて、いろんなものが売れる可能性を開いて、そこをどう活用するかはその人次第。ただ、今より広がるってことには確実に意味があって、アーティストとファンがめっちゃ濃い付き合いをしたければ、その分お金をたくさん取ってもいいし、ラフな関係が良ければタダでやればいいし、そこは何でもアリだと思うんです。

曲を作ってるからこそ書ける文章、演奏してるからこそ撮れる写真とか、そういうのをアーカイブしてひとつのまとまりにすると、意外と喜ばれるものができたりするんじゃないかって。(岸田)

―「アーティストの基本はCD(音源)とライブ」ってずっと言われてて、今もそこが基本だとは思いますが、それ以外の可能性を開くっていうのは、すごく大きな意味があると思います。

加藤:AKBはさっき言ったようなことを既存のシステムでやってるわけですよね。濃い付き合いをしたい人は、たくさんお金を払って、CDを買うっていう。それがいい悪いはさておき、同じようなことを、それぞれに見合った形でできれば、クリエイターもファンも幸せになれると思うんです。その自由度を高めるっていうのが、noteでやってることで。

岸田:うんうん。

加藤:もちろん、アーティストは「いい作品を作るから、それを聴いてください」だけでもいいと思うけど、その横には「ここで儲けないとヤバいでしょ」っていうプロデューサーがいるかもしれない(笑)。そういうときに、自由に使える場所がないっていうのが、今の一番の問題だと思うんですよ。

岸田:そうですね。例えば、紙メディア、音楽雑誌とかの機能って、僕はほぼ失われてると思うんですね。中にはいいもんもありますけど、ある種の使命とか役割は失われつつある。ただ、かつての自分たちには必要な媒体で、今その代わりってないんですよ。やっぱり、140字のTwitterとかFacebookだと、良くも悪くもカジュアルだから、重みがないですしね。その意味で言うと、noteの使い方って、何かを編集するって作業ですから、ひとつの雑誌を作るのに近いというか、自分たちでそういうことができるっていう利点もありますよね。

―確かに、わかります。

岸田:途中で、「ミュージシャンは曲を作って演奏するのが仕事だから、それ以外何もしたくない」みたいなこと言いましたけど、でもそういう人の作るものの良さっていうのをもっと生かさないとっていうのも、同時に思うんですよ。曲を作ってるからこそ書ける文章、演奏してるからこそ撮れる写真とか、そういうのってあると思ってて、実際大したことない、自己満だったりするかもしれないけど、アーカイブしてひとつのまとまりにすると、意外と喜ばれるものができたりするんじゃないかって思うんですよね。

おそらく『東京オリンピック』に向けて、東京の地価もどんどん上がるだろうし、ものを作る人って各地に拡散する傾向にあるんちゃうかなって思ってて、そうなるとやっぱりネットですよね。(岸田)

―では、今度はまだ若いこれからのクリエイターに、「noteをどう使ってほしいか? どう使うべきか?」という話をしていただきたいと思うのですが。

岸田:ちょっと話ずれますけど、U2のアルバムが勝手にダウンロードされるやつとかって、俺U2好きやから新作聴けるのは嬉しいんですけど、なんか違和感を感じました。僕はミュージシャンに対して、「ジャンルに見合ったことをやってほしい」って思っちゃうところがあって、「セレブ」とか「商売人」っていうジャンルとしてU2を見るならいいんですけど、アイルランドのパンクバンドとして見るなら、どうなのかなぁと思っちゃうんです。

―いろんな意味で、時代を象徴する出来事ですよね。

岸田:僕らはシンプルにnoteでものを売りたいとも思ってて、「iTunesに行ったら買えるやん」っていうのと同列のプラットフォームになり得ると思うんです。で、むしろ僕らよりアマチュアのクリエイターの人たちがここで儲けてほしくて、そういう人たちが創意工夫して、すごい曲をnote発で売って、城みたいなスタジオ建てるとかね(笑)。

岸田繁(くるり)

加藤:くるりみたいなメジャーで活躍してる人が使ってくれるのももちろん嬉しいんですけど、同時にここからいろんな人がデビューしてもらいたいとも思ってて、今、山本さほさんっていう、ずっとここで漫画を無料で描いてあげてた人がバズって、出版社10社以上からオファー受けてて、スターになる可能性が高いんですよね。スターって、軸が2つあると思ってて、それは、ひとつは影響力で、もうひとつはビジネス、つまりお金なんですね。影響力とある程度のお金をnoteで確保して、大きなビジネスとしては既存の枠組みを使ってもらうっていうのが現段階で。その前段の部分ができるようになっただけでも、だいぶ進歩だと思うんです。将来的にはその両方がすべてnoteで確保できるように、仕組みを作って行きたいと思ってて。

―影響力もつくし、ビジネスとしても成り立つと。

加藤:今後10年ぐらいで、影響力とビジネス両面で、クリエイターの本拠地はネットになると思うんですよ。ものを作って、お金を稼ぐ、その本拠地はネットで、それを必要ならば、CDにしたり、出版したりする。そのための場所作りと、新しい人がここから出て、食えるようになるっていう、その2つは目指していきたいなって。

岸田:その理念はホント大賛成で、僕1回京都に帰って、今また東京に出てきたんですけど、東京って、やっぱり音出せないんですよ。音出せないところにミュージシャンが住むってあかんやろって思うんです。だから、ホントは田舎に住んだ方がいいんですよ。おそらく『東京オリンピック』に向けて、東京の地価もどんどん上がるだろうし、ものを作る人って各地に拡散する傾向にあるんちゃうかなって思ってて、そうなるとやっぱりネットですよね。正直、京都に帰って「こりゃ仕事にならん」ってなったから、東京に戻ってきたっていうのもなくはないんですけど、noteをもっと早く知ってたら、京都に留まってたかも(笑)。

問題はマーケティングとかビジネスの転換が上手く行ってないってことで、クリエイティブのせいではないと思うので、そこをやんなきゃなって。(加藤)

―加藤さんから、これからの若いクリエイターに何かアドバイスいただけますか?

加藤:僕、まだファンが多くない人は、何かを売るとき高く設定した方がいいと思うんですよ。例えば、月額1,000円払ってくれるファンが300人いたら30万、もうバイトする必要ないですよね? もちろん、300人って簡単な数字ではないですけど、本気でやりたいと思ってる人であれば、集められないことはない。CD何千枚売るよりは、遥かに現実的じゃないですか? そうやって、音楽なり絵なりに打ち込めたら、さらに可能性が開けると思うんですよね。

―途中でAKBの話もありましたけど、地下アイドルを支えているのは、1人でCDを何枚も購入するような、いわゆる「強ヲタ」だって話に近い部分もありますよね。

加藤:ただ、ネット上だっていうのが大きくて、全部オープンだから、その分先が開ける可能性があると思うんです。狭いところでお金を取っていくのは、未来がないじゃないですか? 小さいビジネスから始めて、その先がちゃんとあるっていうのが面白いと思うんですよね。

岸田:ネット上って、人の区別がないじゃないですか? 金持ちも貧乏も、年寄りも若者もいる。俺どうしてもカルティエとかティファニーのお店は入れないんですけど(笑)、でも、ティファニーのサイトだったら一発で見れるじゃないですか? それって面白いと思うんですよね。もちろん、まだネットに対する恐怖心がある人もいて、俺もそういうとこありますけど、noteはホントに単純明快なので、入りやすいと思います。なんかね、課金のシステムもホントにシンプルやから、中間搾取がない状態で仕事をするってことに、僕らが慣れていく必要があるなって思ったり。

―ああ、今って中間搾取がある状態が逆に普通ですもんね。

岸田:そうそう。でもこれはホント使う人の自由やし、デザインもスッキリしてるから、分け隔てなくいろんな人が見れて、僕ビジネスマンじゃないからわからないですけど、やる気さえあれば、すっごい商売しやすいと思うんですよ。

加藤:さっきからお金の話いっぱいしちゃってますけど(笑)、やっぱり取っても取らなくてもいいっていうのがポイントだと思うんです。

岸田:そうそうそう。

加藤:自由度の高い場所を作るっていうのが一番重要で、その中で成功例が生まれていくと、いろいろ風通しが良くなるのかなって。僕昔出版社にいて一番我慢ならなかったのが、クリエイティビティーは何ら損なわれていないのに、市場環境の変化でビジネスが小っちゃくなってるってことだったんですよ。

岸田:あー、毎日その呪いと戦いながら、酒に煽られてます(笑)。

加藤:問題はマーケティングとかビジネスの転換が上手く行ってないってことで、クリエイティブのせいではないと思うので、そこをやんなきゃなって。

左から:岸田繁(くるり)、加藤貞顕

岸田:ホント心強いです。そういうことを考えてくれる人がいるっていうことは。

加藤:これだけいろんなことに簡単にアクセスできるのに、今までより商売が上手く行かないって、ホントおかしな話だと思うんですよ。今は過渡期だと思いますけど、この状況に適応したことを、これから誰かがやらないといけなくて、「じゃあ、やってみます」って手を挙げさせてもらったので、いろんな人たちと一緒に作って行きたいなって思います。< /p>

リリース情報
くるり
『THE PIER』初回限定盤(CD)

2014年9月17日(水)発売
価格:5,400円(税込)
VIZL-719

1. 2034
2. 日本海
3. 浜辺にて
4. ロックンロール・ハネムーン<album edit>
5. Liberty&Gravity
6. しゃぼんがぼんぼん
7. loveless
8. Remember me
9. 遥かなるリスボン
10. Brose&Butter
11. Amamoyo
12. 最後のメリークリスマス<album edit>
13. メェメェ
14. There is(always light)
※全曲楽譜集付き7インチサイズジャケット仕様、“Liberty&Gravity”ハイレゾ音源ダウンロードコード封入

くるり

『THE PIER』通常盤(CD)

2014年9月17日(水)発売
価格:3,132円(税込)
VICL-64167

1. 2034
2. 日本海
  3. 浜辺にて
4. ロックンロール・ハネムーン<album edit>
5. Liberty&Gravity
6. しゃぼんがぼんぼん
7. loveless
8. Remember me
9. 遥かなるリスボン
10. Brose&Butter
11. Amamoyo
12. 最後のメリークリスマス<album edit>
13. メェメェ
14. There is(always light)

プロフィール
くるり

1996年9月頃、立命館大学(京都市北区)の音楽サークル「ロック・コミューン」にて結成。古今東西さまざまな音楽に影響されながら、旅を続けるロックバンド。岸田繁(Vo, Gt)、佐藤征史(Ba, Vo)、ファンファン(Tp, Vo)の3名で活動中。

加藤貞顕(かとう さだあき)

株式会社ピースオブケイク 代表取締役CEO。1973年、新潟県生まれ。アスキー、ダイヤモンド社に編集者として勤務。『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(岩崎夏海)、『ゼロ』(堀江貴文)など話題作を多数手がける。2012年、コンテンツ配信サイト・cakes(ケイクス)をリリース。2014年、クリエイターとユーザーをつなぐウェブサービス・note(ノート)をリリース。



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