インタビュー

岸田繁(くるり)×加藤貞顕対談 音楽市場の変化をチャンスに転換

岸田繁(くるり)×加藤貞顕対談 音楽市場の変化をチャンスに転換

インタビュー・テキスト
金子厚武
撮影:豊島望

今まではCDとチケットとグッズぐらいだったけど、売れる可能性があるものって、アーティスト側には実はいっぱいあって、ファンが欲しいものもいっぱいあるんですよね。(加藤)

―先日くるりは、noteでデビュー前の音源を発表されましたよね? あれはどういった意図があったのでしょうか?

岸田:田中宗一郎先生にライナーを書いてもらったんですけど、あの文章があったから、売ってもいいと思ったんですよね。カセットの多重録音の音源やし、そのアーティストのファンだったとしても、お金を払う価値はないと俺は思ってるんです。逆に、あのライナーは500円払ってでも読むべきやって思ったんですけど、音をタダで聴かせちゃうと、ライナー読まないなって思ったんですよ。

―確かに。

岸田:だから、ライナーはタダで読めるようにしました。あの文章は、くるりと今のシーンを紐づける優れた判断材料になると思って、あれを読んで聴くと、「なるほど」ってなるなと。昔だとレコードに大きなライナーが入ってて、それを読んでたりしたけど、今みんなそんなの読まないじゃないですか? でも今回のやり方っていうのは、自分的にすごく手ごたえがありました。

『くるりの一回転』解説ページ

加藤:Twitterでもすごい話題になって、1,000RT超えて、桁が振り切れちゃってるんですよね。曲は有料で、ライナーは無料っていうのは、岸田さん自身から提案していただいたんですけど、これってそういう「メディア設計」をしていただいてるんですよね。あ、僕もこれ買いました(9月10日の「岸田日記Ⅱ #10」を見ながら)。

岸田:ああ、これ、何があるとも言わずに、100円払った人だけ続きを見られるようにしたんですけど、これってアルバムに入ってる“loveless”って曲のコード譜なんです。

加藤:これ、自分で書いたんですか? コード進行だけじゃなくて、手書きでコードの押さえ方まで書いてあるんですけど、岸田さん、コードの押さえ方知ってますよね?

岸田:ジジイになってきて、忘れちゃうんです(笑)。最初に加藤さんと話したときに、秘蔵音源とか、パーソナルなものをここで出してほしいっておっしゃってたんですけど、でも、やっぱりなかなか出せないんですよ。それって、食堂で残ったもんで適当に作ったまかないを出せって言うようなもんで。ただ、それでも出すのであれば、「これを聴いてくれ」とかじゃなくて、ふざけて出したりとか、メンバーも知らないようなものをこっそり出して、「2枚売れたらいいや」ぐらいから始めようと思って(笑)。コード譜って、普段持ち歩かないですけど、ライブ前にギターの練習をするときに忘れちゃうんで、試験勉強じゃないですけど、書いて覚えるんですよ。

―へー、じゃあすごくパーソナルなものですね。

岸田:うん、俺の楽譜ノートみたいなのがあるの。

左から:岸田繁(くるり)、加藤貞顕

加藤:要するに、売れる可能性があるものって、アーティスト側には実はいっぱいあって、ファンがほしいものもいっぱいあるんですよね。例えば、リハーサルを見れる権利が10万円だったら、買う人がいるかもしれない。そこはファンによって濃さが違うわけですけど、今まではCDとライブのチケット、あとはグッズぐらいで、売ってるものが少なかったと思うんですよ。もちろん、noteで何でもかんでも売れって話じゃなくて、いろんなものが売れる可能性を開いて、そこをどう活用するかはその人次第。ただ、今より広がるってことには確実に意味があって、アーティストとファンがめっちゃ濃い付き合いをしたければ、その分お金をたくさん取ってもいいし、ラフな関係が良ければタダでやればいいし、そこは何でもアリだと思うんです。

曲を作ってるからこそ書ける文章、演奏してるからこそ撮れる写真とか、そういうのをアーカイブしてひとつのまとまりにすると、意外と喜ばれるものができたりするんじゃないかって。(岸田)

―「アーティストの基本はCD(音源)とライブ」ってずっと言われてて、今もそこが基本だとは思いますが、それ以外の可能性を開くっていうのは、すごく大きな意味があると思います。

加藤:AKBはさっき言ったようなことを既存のシステムでやってるわけですよね。濃い付き合いをしたい人は、たくさんお金を払って、CDを買うっていう。それがいい悪いはさておき、同じようなことを、それぞれに見合った形でできれば、クリエイターもファンも幸せになれると思うんです。その自由度を高めるっていうのが、noteでやってることで。

岸田:うんうん。

加藤:もちろん、アーティストは「いい作品を作るから、それを聴いてください」だけでもいいと思うけど、その横には「ここで儲けないとヤバいでしょ」っていうプロデューサーがいるかもしれない(笑)。そういうときに、自由に使える場所がないっていうのが、今の一番の問題だと思うんですよ。

岸田:そうですね。例えば、紙メディア、音楽雑誌とかの機能って、僕はほぼ失われてると思うんですね。中にはいいもんもありますけど、ある種の使命とか役割は失われつつある。ただ、かつての自分たちには必要な媒体で、今その代わりってないんですよ。やっぱり、140字のTwitterとかFacebookだと、良くも悪くもカジュアルだから、重みがないですしね。その意味で言うと、noteの使い方って、何かを編集するって作業ですから、ひとつの雑誌を作るのに近いというか、自分たちでそういうことができるっていう利点もありますよね。

―確かに、わかります。

岸田:途中で、「ミュージシャンは曲を作って演奏するのが仕事だから、それ以外何もしたくない」みたいなこと言いましたけど、でもそういう人の作るものの良さっていうのをもっと生かさないとっていうのも、同時に思うんですよ。曲を作ってるからこそ書ける文章、演奏してるからこそ撮れる写真とか、そういうのってあると思ってて、実際大したことない、自己満だったりするかもしれないけど、アーカイブしてひとつのまとまりにすると、意外と喜ばれるものができたりするんじゃないかって思うんですよね。

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インフォメーション

リリース情報

くるり<br>
『THE PIER』初回限定盤(CD)
くるり
『THE PIER』初回限定盤(CD)

2014年9月17日(水)発売
価格:5,400円(税込)
VIZL-719

1. 2034
2. 日本海
3. 浜辺にて
4. ロックンロール・ハネムーン<album edit>
5. Liberty&Gravity
6. しゃぼんがぼんぼん
7. loveless
8. Remember me
9. 遥かなるリスボン
10. Brose&Butter
11. Amamoyo
12. 最後のメリークリスマス<album edit>
13. メェメェ
14. There is(always light)
※全曲楽譜集付き7インチサイズジャケット仕様、“Liberty&Gravity”ハイレゾ音源ダウンロードコード封入

くるり<br>
<p>『THE PIER』通常盤(CD)
くるり

『THE PIER』通常盤(CD)

2014年9月17日(水)発売
価格:3,132円(税込)
VICL-64167

1. 2034
2. 日本海
  3. 浜辺にて
4. ロックンロール・ハネムーン<album edit>
5. Liberty&Gravity
6. しゃぼんがぼんぼん
7. loveless
8. Remember me
9. 遥かなるリスボン
10. Brose&Butter
11. Amamoyo
12. 最後のメリークリスマス<album edit>
13. メェメェ
14. There is(always light)

プロフィール

くるり

1996年9月頃、立命館大学(京都市北区)の音楽サークル「ロック・コミューン」にて結成。古今東西さまざまな音楽に影響されながら、旅を続けるロックバンド。岸田繁(Vo, Gt)、佐藤征史(Ba, Vo)、ファンファン(Tp, Vo)の3名で活動中。

加藤貞顕(かとう さだあき)

株式会社ピースオブケイク 代表取締役CEO。1973年、新潟県生まれ。アスキー、ダイヤモンド社に編集者として勤務。『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(岩崎夏海)、『ゼロ』(堀江貴文)など話題作を多数手がける。2012年、コンテンツ配信サイト・cakes(ケイクス)をリリース。2014年、クリエイターとユーザーをつなぐウェブサービス・note(ノート)をリリース。

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