HOWL BE QUIETがポップスでさらけだす、依存気味な恋愛観

3rdシングル『サネカズラ』のリリースタイミングで実施した前回のインタビューで、HOWL BE QUIETの竹縄航太はバンドのフロントマンとして、ソングライターとして、ひとつの確信を得たと熱っぽく語ってくれた。それは、自身の生々しい恋愛観や過剰なまでに女々しい感情を堂々と歌に乗せることで、自縄自縛の状態から解き放たれるということ。

そして、完成したメジャー1stフルアルバム『Mr. HOLIC』は、竹縄の女性に対する依存性の高さが浮き彫りになった歌を、多彩なサウンドプロダクションで彩ることが、HOWL BE QUIETが試行錯誤の末に辿り着いた「強固なポップミュージックの作り方」であることを提示している。

今回のインタビューで竹縄は、『サネカズラ』を経て本作が完成するまでの過程と、音楽表現と向き合う前のルサンチマンを抱えていた季節をさらけ出した。

男を代表して「みんな~! ついに女に対して言ってやったぞ!」みたいな感覚がある。

―『サネカズラ』のリリースタイミングでのインタビュー(HOWL BE QUIETがすべて本音で語る、デビュー後の現実と失恋話)で竹縄さんは、「近い将来にフルアルバムを作ることになると思うんですけど、その木が10本くらい並んだときにそこで初めて『こういう森だったんだ!』って気づくと思うんですよね」と言っていて。

竹縄:言ってましたね。むしろ『サネカズラ』をリリースしてみて、アルバムに対して見えてきたことがいろいろありました。

竹縄航太
竹縄航太

―うん、そうなんだろうなと思って。“サカネズラ”から派生した木が並んでるようなアルバムだなと。

竹縄:『サネカズラ』をリリースしてなかったら、こういうアルバムにならなかったと思います。ひとつ大きかったのは、シンプルに“サネカズラ”みたいにウダウダ愚痴を吐き出してるような歌が、自分は好きなんだなと思ったということ。だから、次のアルバムは愚痴っぽい感情も隠さずに表現しようと思ったんです。とにかく、俺が好きなことを好きなように歌おうと。

―“サネカズラ”に対するリスナーの反応はどう受け止めたんですか?

竹縄:あそこまで自分の感情を赤裸々に包み隠さずさらけ出したのは“サネカズラ”が初めてだったので、その分怖さもあったんです。でもリリースしてみたら、“サネカズラ”に対する細かい反応を見てある種の快感を覚えたんですよね。

―マゾっぽい感じで?

竹縄:もうちょっといい言葉でお願いしたいんですけど(笑)、あそこまで曲に自分のことをさらけ出して、人に聴いてもらうことで、過去の苦い恋愛経験を笑い話にできるんだなと思ったんです。歌でそういう昇華ができるんだとわかったのは大きかった。それで、その勢いのままアルバムの歌詞制作に取りかかった感じですね。

竹縄航太

―今作の歌詞はあまりにも女々しかったりするから、僕もちょいちょい笑いました。

竹縄:それだけで嬉しいですもん(笑)。

―滑稽なまでのかっこ悪い姿も振り切って描いてますよね。普通ならちょっとくらいかっこつけたくなると思うけど。

竹縄:かっこつけたくない、という思いは強くありました。友達とサシで飲んでるようなテンションで歌詞を書くのがいいんじゃないかなと思って。友達と飲んでるときに、「こういうことがあったんだけど、ありえなくない?」って愚痴ってるテンションをそのまんま詰め込んだというか。本能的な言葉で綴った歌詞が、人に刺さるんだろうなと思ったんです。

HOWL BE QUIET『Mr. HOLIC』収録曲

―ストレートすぎて、竹縄航太という人間に対して誤解が生まれるかもしれないという危惧はなかった?

竹縄:それはなかったですね。「男ならこれわかるでしょ?」っていうか、男を代表して「みんな~! ついに女に対して言ってやったぞ!」みたいな感覚が自分のなかにあって。自分をさらけ出しながら、男を代表して愚痴る快感ですね(笑)。

―この「極端さ」って、デビュー当初に「僕らはアイドルになりたい」と宣言したこと(2016年の台風の目になるか? バンドを捨てたHOWL BE QUIET)にも通じる、竹縄さんなりの、HOWL BE QUIETなりの、表現方法なのかなとも思う。

竹縄:ああ、通ずる部分はあるかもしれないです。

俺が信じてるのは、ポップスって、記名性の向こう側に強い共感があるんじゃないかということ。

―でも、メジャーデビュー当初はこういうフルアルバムを作るとは思ってもみなかったでしょ?

竹縄:全然思ってなかったですね(笑)。だから、本当に“サネカズラ”があったからこそこのアルバムができたと思ってます。それまでの曲は、恋愛のトピックをピックアップしてなかったので。

“サネカズラ”で、このトピックが一番自分の性に合ってるんだと気づけたのは本当に大きいですね。嬉しかったのは、歌詞を読んだメンバーから、「これは完全にタケ(竹縄)だね」って言ってもらえたんですよ。

竹縄航太

―記名性が高いと。

竹縄:そう。「これが竹縄航太です」って自分でも断言できるし、匿名じゃなく完全に俺個人なんですよね。俺が信じてるのは、ポップスって、記名性の向こう側に強い共感があるんじゃないかということで。

―その記名性の向こう側にある共感に辿り着いてるソングライターの例として、誰か挙げることはできますか?

竹縄:俺のなかでは、中学生のときに初めてしっかり歌詞を読んだのがBUMP OF CHICKENなんですね。特に“オンリーロンリーグローリー”がすごく刺さって。あの曲で初めて、ソングライターである藤原基央さんという記名性の向こう側にある共感を覚えたような気がします。

―竹縄さんは、どういう中学生だったんですか?

竹縄:俺は冴えない学生時代を送ってきたんですよ。

―それを意外に思う人は多いかもしれないですね。

竹縄:それは完全に金髪のせいですね(笑)。勉強でもスポーツでも及第点は取れる子どもだったんですけど、なにかに秀でているとか、人に認められたような感覚を得た経験がほとんどなくて。

中学時代はバスケ部だったんですけど、がんばって練習してもずっと補欠でレギュラーベンチに座れないまま3年間を終えて。勉強も、高校受験のときに第一志望の学校に落ちて。そういう小さい挫折がちょこちょこあったなか、“オンリーロンリーグローリー”の「選ばれるのを待つんじゃなくて、自分から選びに行け」というメッセージ性が込められた歌詞が刺さったんですよね。思い返すと、俺、ずっと承認欲求が強かったんです。

竹縄航太

―ずっと突き抜けられなかったから?

竹縄:本当にそうなんです。

―だから今ソングライターとして、突き抜けた、極端な表現をしようとしているのかもしれない。

竹縄:確かにその反動はあるんですよね。突き抜けるときって、根拠のない自信だけで突っ走るじゃないですか。バンドで曲を作るようになって、やっとそれができるようになったんです。それまでは挑もうとする勇気も自信もなかったんですよね。

小学生のときはテニスとピアノをやっていたんですけど、それも途中でドロップアウトして。本当は中学でもテニスをやりたかったんですけど、テニス部がなくて、体力作りのためにバスケ部に入ったんですよね。それで、高校に入学してテニス部に入ろうとして、中学時代の成績が記入された仮入部の名簿を見たら、とてもじゃないけど敵わないトップレベルの人がいて。俺はそれを見ただけで入部をやめたんです。

実はその前に、そいつがそんなトップレベルの実力者だとは知らずに、「テニス部キツいらしいけどがんばろうな」っていう会話を交わしてたんですよ。でも、そいつの成績を知っただけで、「やっぱり俺、テニス部やめとくわ」って逃げ出して。

竹縄航太

―ああ、そのエピソードはしんどいな。

竹縄:俺が「入部やめとくわ」って言ったときのそいつの目を今でも覚えていて。それで「もうスポーツはできねえな」と思って始めたのが音楽だったんです。

歌うこともずっと好きだったから、軽音楽部を見学しに行ったら先輩のバンドが演奏していて、初めて生で聴くバンドサウンドの爆音に圧倒されて。所詮、高校生の演奏ではあるんだけど、初めてバンドの生演奏を見るには十分すぎるほど衝撃的だったんです。そこから俺もバンドをやってみたいと思って軽音楽部に入ったのがスタートなんですよね。

―まさに運命の分かれ道ですね。そこでテニス部に入ってたら……。

竹縄:今の俺はないでしょうね。

―今の竹縄さんは、メロディメイカーという自負があるじゃないですか。そこに自信を持てるようになったのはいつころから?

竹縄:曲を作るようになってから昔の友達に言われて思い出したんですけど、中学のときに通ってた塾の英語の授業で、出てくる単語を歌にすることにハマったことがあって。その曲をクラスのみんなで歌ってたんですよね。

思い返すと僕は、音楽で、初めて人に認められた感覚を得たんだと思います。だから、メロディーを書き続けられている。メロディーだけはどんどん出てくるんですよ。

彼女が、テレビに映ってる俳優を「かっこいい」と言っただけで、すげえキレそうになる。

―バンドを始めたばかりの頃の竹縄さんがこのアルバムを聴いたら、なんて言うと思いますか?

竹縄:高校生の俺が聴いたら、「この先の6、7年でなにがあったの?」って驚くと思いますね。「女の人に対してどれだけ物申してんねん」って(笑)。

竹縄航太

―これからどんな恋愛をするんだと(笑)。恋愛もずっと不器用なんですか?

竹縄:不器用ですね(苦笑)。たとえば彼女が男友達と飲みに行くってなったときにどう言うかって、包容力の見せどころだと思うんですよ。そこで「終電前に帰ってこいよ」って言えたらかっこいいと思うんですけど、俺は「イヤだから行くな」って言っちゃうタイプなんですよね。そういうところがダメだなと自分で思ったりして(苦笑)。

―でも、束縛されるほうがいいという女性もいますけどね。

竹縄:束縛したいわけじゃないんですけど……不安なんでしょうね。浮気を疑うわけじゃないけど、彼女が自分から離れちゃうんじゃないかと思ってしまう。彼女が、テレビに映ってる俳優を「かっこいい」と言っただけで、すげえキレそうになるので。

―ああ、それは相当ですね(笑)。

竹縄:「自分の好きな人が目の前にいるのに、赤の他人である俳優をかっこいいって言うのはどんな心境なのか?」ということを歌ってるのがこのアルバムです(笑)。このアルバムで、“サネカズラ”だけではわからなかった竹縄航太という人の輪郭を鮮明にできたと思います。

竹縄航太

―“矛盾のおれ様”の歌詞なんか、完全に被害妄想ですよね。

竹縄:そう。それもわかってるから“矛盾のおれ様”なんですよね。「俺が間違ってるのはわかってるけど、言わせろよ」っていう。

―ラストの“ファーストレディー”はプロポーズソングですけど、一番最後に<僕が虫で、君が男でも恋したいのです>というフレーズがあって。これも感覚としては全然理解できないけど、思わず吹き出しましたね。

竹縄:ありがとうございます(笑)。

―『Mr. HOLIC』というアルバムタイトルにもすごく合点がいくし。

竹縄:メンバーと話していて、「要はこのアルバムの歌詞ってだいたい依存について書いてるよね」ってなって。どの曲もそういう匂いがプンプンすると。

―“MONSTER WORLD”や“Wake We Up”という“サネカズラ”の前にリリースしたシングルがこのアルバムに入ることについては、どういう感触を覚えてますか?

竹縄:結局、“MONSTER WORLD”や“Wake We Up”、あと“Higher Climber”もそうですけど、歌ってる対象が恋愛じゃなくて、夢や目標でも、異常なまでになにかに執着している自分が歌詞に出ていると思うんですよね。それも僕がずっと持っている承認欲求の表れで。なので、“サネカズラ”より前に作った曲にも意図せずとも『Mr. HOLIC』としての俺が出ているなと思います。

竹縄航太

―サウンドプロダクションも振れ幅がありながら、ポップに突き抜けていて。その様相もこのタイトルがよく似合うと思うし。このアルバムのリリース後の展望をどう描いてますか?

竹縄:まだまだ書きたい歌があります。でも、その前にこのアルバムを多くの人に届けたいという思いが強いです。「これがHOWL BE QUIETで、これが竹縄航太です」と宣誓するような気持ちで書いたので。

身構えずに聴いてほしいし、本当に男でも女でもサシで飲みに行くような感覚でライブに来てほしい。やっぱり音楽は届いてなんぼなので。届けたいし、届いてほしいし、届けられるアルバムができたと思います。

リリース情報
HOWL BE QUIET
『Mr. HOLIC』初回限定盤(CD+DVD)

2017年5月24日(水)発売
価格:3,780円(税込)
PCCA-04527

[CD]
1. ラブフェチ
2. MONSTER WORLD
3. ギブアンドテイク
4. にたものどうし
5. My name is...(ALBUM Ver.)
6. サネカズラ
7. PERFECT LOSER
8. Wake We Up
9. 矛盾のおれ様
10. Higher Climber
11. 208
12. ファーストレディー
[DVD]
・HOWL BE QUIET「Wake We Up! Special One Man Live!!」(2016年9月11日 恵比寿LIQUIDROOM)
1. Wake We Up
2. Daily Darling
3. 孤独の発明
4. 千年孤独の賜物
5. Merry
6. バトルナイフ
7. 救難戦争
8. ライブオアライブ
9. レジスタンス
10. ウォーリー
11. MONSTER WORLD
・「Wake We Up! Special One Man Live!!」 Document Movie
・「Daily Darling」Music Video
・「サネカズラ」Music Video
・「Higher Climber」Music Video
※メンバー直筆サイン入り

HOWL BE QUIET
『Mr. HOLIC』通常盤(CD)

2017年5月24日(水)発売
価格:3,024円(税込)
PCCA-04528

1. ラブフェチ
2. MONSTER WORLD
3. ギブアンドテイク
4. にたものどうし
5. My name is...(ALBUM Ver.)
6. サネカズラ
7. PERFECT LOSER
8. Wake We Up
9. 矛盾のおれ様
10. Higher Climber
11. 208
12. ファーストレディー

イベント情報
『Mr. HOLIC ~僕が虫で、君が男でも恋したいのです~ TOUR』

2017年7月20日(木)
会場:宮城県 仙台 LIVE HOUSE enn 2nd

2017年7月26日(水)
会場:愛知県 名古屋CLUB QUATTRO

2017年7月28日(金)
会場:大阪府 umeda TRAD

2017年8月1日(火)
会場:香川県 高松DIME

2017年8月3日(木)
会場:福岡県 DRUM Be-1

2017年8月4日(金)
会場:広島県 SECOND CRUTCH

2017年8月16日(水)
会場:東京都 赤坂BLITZ

プロフィール
HOWL BE QUIET
HOWL BE QUIET (はうる びー くわいえっと)

竹縄航太(Vo,Gt,Pf)、黒木健志(Gt)、橋本佳紀(Ba)、岩野亨(Dr)の4人から成る神奈川県出身4人組。2010年結成。圧倒的な曲の世界観と歌詞で多くのリスナーからの支持を得ている。2016年ポニーキャニオンよりメジャーデビュー。メジャーデビューシングル『MONSTER WORLD』はSSTV「POWER PUSH!」、FM802ヘビローテ―ション等、全国ラジオ/CS46局でパワープレイを獲得、大型音楽番組へも多数出演する。5月24日、メジャー1stアルバム『Mr. HOLIC』をリリース。



フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Music
  • HOWL BE QUIETがポップスでさらけだす、依存気味な恋愛観

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて