レポート

『瀬戸内国際芸術祭』で現実になったスワロウテイルの円都レポ

テキスト
柴那典
編集:矢島由佳子
『瀬戸内国際芸術祭』で現実になったスワロウテイルの円都レポ

普通の音楽イベントでないことは、会場に入った段階で明らかだった

ステージは、廃墟となった発電所跡にあった。目の前には楽器やアンプや譜面台が並ぶ。その背後にレンガ作りの巨大な煙突がそびえ立つ。向こうに夕暮れの空が見える。

『「円都空間 in 犬島」produced by Takeshi Kobayashi』 撮影:太田好治
撮影:太田好治

『「円都空間 in 犬島」produced by Takeshi Kobayashi』 撮影:太田好治
『「円都空間 in 犬島」produced by Takeshi Kobayashi』 撮影:太田好治

10月8日から11日にかけて、岡山県・犬島精錬所美術館発電所跡にて開催された『「円都空間 in 犬島」produced by Takeshi Kobayashi』。それが通常のライブや音楽イベントでないことは、会場に一歩足を踏み入れた段階で明らかだった。そこには異世界の光景が広がっていた。

『円都空間』の会場となった犬島精錬所美術館は、100年以上前に操業を停止した銅の精錬所だ。今回のプロジェクトは、そういう「打ち棄てられてきた場所」を、岩井俊二監督の映画『スワロウテイル』に登場する架空の都市「円都」(=YEN TOWN)に見立てて行われた。事前のコメントで、プロデューサーの小林武史はステージについて「2時間におよぶ協奏組曲」と表現していた。開催前に行ったインタビューでは「たぶん、実際に来ないとわからないと思います。こういうものは、まだ世の中に存在していないから」と語っていた。

確かにそうだった。実際に足を運んで強く感じたのは、そこに非日常の空間があった、ということ。通常のライブとは何もかもが違っていた。音楽と言葉の力を駆使して、目の前の現実の外側にあるものに触れようとする試みだった。

詩の朗読と歌が途切れることなく続く。「円都」と3.11以降の今を繋ぐ

17時の開演時間を少し回ると、時報のSEが響く。「午後2時46分ちょうどをお知らせします」。東日本大震災の起こった時刻だ。ステージ脇のビジョンに「#1 眼の海」と映し出される。宮城県石巻市生まれの作家・辺見庸が震災を受けて記した詩集のタイトルだ。小林武史と名越由貴夫の二人がゆっくりとステージに上がり、幻想的な音色を奏でる。続いてステージに登場した安藤裕子と大木伸夫が、詩の朗読を始める。『眼の海』からの一節だ。ビジョンにその言葉が映し出される。

そしてSalyuがステージに登場する。詩を朗読する安藤裕子と大木伸夫の声は惹き込まれるような迫真さを持ち、ハイトーンのSalyuの歌声は透明に響く。小林武史のピアノを中心にセッションのように展開していた演奏は、そのままLily Chou-Chou“グライド”へ。ドラムに金子ノブアキ(RIZE)、ベースに高桑圭(Curly Giraffe)、ギターに津野米咲(赤い公園)、そしてトランペットにTOKUという演奏陣が揃う。

Salyu 撮影:太田好治
Salyu 撮影:太田好治

金子ノブアキ(RIZE) 撮影:太田好治
金子ノブアキ(RIZE) 撮影:太田好治

津野米咲(赤い公園) 撮影:太田好治
津野米咲(赤い公園) 撮影:太田好治

TOKU 撮影:太田好治
TOKU 撮影:太田好治

続いては「#2 壁の内側 日常とエロス」とビジョンに表示され、大木伸夫の朗読に続けて、安藤裕子が“忘れものの森”を歌う。SalyuがLily Chou-Chou“エロティック”を歌う。複数の歌い手が舞台上のさまざまな場所に入れ替わり立ち替わり登場し、朗読と歌がシームレスに繋がる構成だ。夕暮れの赤に染まっていた空が、徐々に暗くなっていく。

撮影:太田好治
撮影:太田好治

このあたりで、ようやく『円都空間』の見せようとしているものの片鱗が掴めてきた。演奏は途切れることなく続く。YEN TOWN BANDとLily Chou-Chouの曲だけではなく、安藤裕子、ACIDMANの楽曲も披露される。それらを詩の朗読が繋ぐ。そうして、『スワロウテイル』と『リリイ・シュシュのすべて』という2つの作品で岩井俊二と小林武史が描いた世界観、その焦点距離を伸ばして3・11以降の今という時代に像を結んだものを描き出そうという試みなのだろう。

架空の場所から、現代の社会問題を浮かび上がらせた

ステージはインダストリアルな演奏の上でコンピューター加工された声が啓示的な内容を告げた「#3 人工知能と知能主義」から、「#4 宇宙へ」と続く。大木伸夫がボーカルをとり、ACIDMAN“永遠の底”“廻る、巡る、その核へ”を歌う。曲間の安藤裕子の朗読の声もより迫力を増し、演奏は徐々に熱を帯びた轟音へと上り詰めていく。ひとつのクライマックスが訪れる。

大木伸夫 撮影:太田好治
大木伸夫 撮影:太田好治

安藤裕子 撮影:太田好治
安藤裕子 撮影:太田好治

再び静寂が訪れ、SEに流れた9・11のNY同時多発テロ、そしてイラク戦争からここ数年の世界各地のテロを報じるニュース音声が折り重なる中、ビジョンには「#5 シンクロニシティ」と表示される。そして、ここでステージにCharaが登場する。ドレスが風に揺れ、ステージ上の椅子に座って膝を抱えたCharaが、YEN TOWN BANDの“Sunday Park”を繊細な声で歌う。ここも思わずゾクっとする瞬間だった。Charaは“She don't care”、そして映画『スワロウテイル』でもひとつのキーとなった“My way”を歌う。

朽ち果てた発電所をバックに歌うChara=グリコ(『スワロウテイル』で彼女が演じた役名)の姿を観て、改めて強く感じたことがあった。YEN TOWN BANDは「架空のバンド」だということ。だから、バンドには「架空の場所」が、とてもよく似合う。普通のライブハウスのステージよりも、どこか現実感のない場所のほうが映える。それは、20年ぶりの復活の場となった昨年秋の『大地の芸術祭』で、大量のカゲロウが舞い羽ばたく中でChara=グリコが歌うのを観た時にも思ったことだった。

Chara 撮影:太田好治
Chara 撮影:太田好治

撮影:太田好治
撮影:太田好治

岩井俊二が監修を務め、この神秘的な空間は映像化される

そして、ドラマは終盤に向かう。再び朗読が披露され、歌と言葉が折り重なる。安藤裕子が“Last Eye”を、SalyuがLily Chou-Chou“エーテル”を、大木伸夫がACIDMAN“世界が終わる夜”を歌う。ビジョンは「#6 出口へ」。それぞれの曲が、目に見えない何かの点で交わっているように感じられる。見上げると雲の合間に月が光る。海からの風がひんやりと肌を冷やす。不思議な、神聖さすら感じるような瞬間だった。

撮影:太田好治
撮影:太田好治

撮影:太田好治
撮影:太田好治

最後に披露されたのはYEN TOWN BAND“Swallowtail Butterfly ~あいのうた~”、そして“EL”。Charaは声を振り絞るように歌い、バンドメンバーが一人ずつステージを降り、そして『円都空間』は終了となった。

2時間におよぶ協奏組曲は、とても神秘的なものだった。想像力を駆動して、社会と生命の奥底のほうにある深淵にタッチするような体験だった。この『円都空間』は、映像監修を務める岩井俊二によって映像化もされる。現場で目撃した人だけでなく、多くの人に届いてほしいと思う。

イベント情報

『「円都空間 in 犬島」produced by Takeshi Kobayashi』

2016年10月8日(土)~10月11日(火)
会場:岡山県 犬島 犬島精錬所美術館 発電所跡
出演:
YEN TOWN BAND
Lily Chou-Chou Project
安藤裕子
大木伸夫(ACIDMAN)
金子ノブアキ(RIZE)
Salyu
高桑圭(Curly Giraffe)
Chara
津野米咲(赤い公園)
TOKU(10月10日、10月11日のみ)
名越由貴夫
小林武史

映像監修:岩井俊二

番組情報

『YEN TOWN BAND・Lily Chou-Chou Project ~円都空間 in 犬島~ produced by Takeshi Kobayashi』

2016年12月28日(水)22:30からWOWOWライブで放送

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