シティポップの歴史とアニメ・声優文化の接点。降幡 愛と紐解く

シティポップの歴史において、アニメやアニメソングは見過ごすことのできない要素のひとつだ。

国内外でのシティポップ再評価と縁の深い音楽ジャンル「フューチャーファンク」のミックス動画における日本のアニメ映像の流用はその好例だろう(YouTubeで「future funk」と検索してみれば一目瞭然だ)。

「ローファイヒップホップ」もその一例で(註1)、その最大の参照点であるNujabesと海外のティーンエイジャーたちとの大きな接点をもたらしたのがアニメ『サムライチャンプルー』であるということは、アニメというモチーフがシティポップブームやその周辺において重要なものとして存在していることを示している(註2)。

シティポップとアニメの直接的なつながりでいうならば、1988年~1992年のあいだに放送されたアニメ『美味しんぼ』の2代目オープニングテーマ中村由真“Dang Dang 気になる”(1989年発表、作曲は松原みき“真夜中のドア~stay with me”などで知られる林哲司)や、『シティーハンター』の初代オープニングテーマである小比類巻かほる“City Hunter ~愛よ消えないで~”(1987年)など、シティポップの名曲として挙げられるアニメソングは少なくない(註3)。

本稿では、シティポップとアニメソングの関係に着目し、80年代カルチャーをこよなく愛し、「80年代シティポップ」をコンセプトに歌手活動を行う声優の降幡 愛に取材を実施。『レコードコレクターズ』誌のシティポップ特集号(2020年7月号)にも参加する音楽ライターの村尾泰郎を聞き手に迎えて、アニメ / 声優文化からシティポップへのアプローチを試みた。

降幡 愛(ふりはた あい)
2月19日生まれ、長野県出身。2015年に『ラブライブ!サンシャイン!!』の出演が決まり、黒澤ルビィ役で本格声優デビュー。同作品のスクールアイドルグループAqoursのメンバーとして活動し、2018年には東京ドーム2Daysのライブにて、国内外ライブビューイングを含め15万人を動員。同年末の『第69回NHK紅白歌合戦』に出演を果たす。2020年9月23日にデビューミニアルバム『Moonrise』でソロアーティストデビュー。2021年9月29日には、1stシングル『ハネムーン』をリリースした。

降幡 愛『メイクアップ』を聴く(Apple Musicはこちら

世代も国境を超えて、シティポップとの出会いをもたらすハブとしてのアニメ

近年、国内外で大きなブームになっているシティポップ。再評価が進むなか、あまり表立って語られないのがアニメとの関係だ。小林泉美(註4)、飯島真理(註5)など、シティポップ文脈で再評価されているシンガーが幅広い人気を得るきっかけになったのは、「アニソン=アニメソング」だった。

小林泉美“Dancing Star”(1983年)を聴く(Apple Musicはこちら

飯島真理“愛・おぼえていますか”(1984年)を聴く(Apple Musicはこちら

現行のシティポップブームの当事者には、1980年代のアニソンを通じてシティポップを知った者も少なくない。まさにそのひとりである声優 / シンガーの降幡 愛は、あらためてアニメとシティポップの相性のよさを教えてくれる。

降幡 愛は2020年からソロアーティストとして本格的に音楽活動をスタートし、コンセプトとして「80年代シティポップ」を打ち出す。それは自身の音楽的なルーツを正直に反映させた結果であった。

降幡 愛のデビュー作『Moonrise』(2020年)収録曲

降幡は80年代シティポップとの出会いをこんなふうに振り返る。

子どもの頃、テレビで80年代のアニメ番組の再放送をよく見ていたんです。同時代のアニメも見ていましたが、80年代のアニメのほうが絵柄やお話も好きでした。主題歌やエンディングの曲も大好きで、その映像や音楽がいまでも鮮明に記憶に残っているんです。

大人になって岡村ちゃん(岡村靖幸)にハマって、関連動画を見ているうちに80年代のポップスが好きになったんですけど、子どもの頃に80年代のアニメを見ていたからしっくりきたんだと思います。

岡村靖幸“Super Girl”(1988年)を聴く(Apple Musicはこちら

自分がアーティストとして出発することが決まったとき「私はどんな音楽をやりたいんだろう?」とじっくり考えて、「いまのJ-POPよりも、80年代のポップスが好きだ」ということを再認識したんです。

子どもの頃に降幡が好きだったという『うる星やつら』『魔法の天使クリィミーマミ』『シティハンター』『きまぐれオレンジロード』といったアニメ主題歌は、シティポップのエッセンスを感じさせる名曲揃い。

『きまぐれオレンジロード』のオープニングに起用された池田政典“NIGHT OF SUMMERSIDE”(1987年)を聴く(Apple Musicはこちら

『シティハンター2』では岡村靖幸がエンディング曲“Super Girl”を手がけており、それが後に彼女が岡村にハマる要因になったのかもしれない。平成生まれの降幡はそうした80年代アニソンのどんなところに惹かれたのだろう。

70年代のアニソンは、作中のロボットの名前を歌詞で何度も歌っているようなものが多いんですけど、それに比べて80年代のアニソンはどこか大人っぽいものが多い気がします。

『シティハンター』とか『スペースコブラ』の曲の雰囲気なんて、「本当に19時台に放映してたの?」って思います。それまでのアニソンに比べて同時代の洋楽を取り入れている感じもあって、そういうところに惹かれたんです。

『スペースコブラ』の第1話。オープニングテーマは前野曜子“コブラ”(1982年)

80年代のアニソンに「大人っぽい」ものが多いのはなぜか?

70年代頃まで、アニソンは歌謡曲のように職業作家が手がけていた。そこでは「子ども向け」ということが意識されていたが、80年代に入るとアニメブームが巻き起こり、思春期を迎えた若者たちが楽しむようになる(註6)。

それにともなってラブストーリーの要素も増え、洋楽の影響を受けたロックやニューミュージックのミュージシャンが作家陣として参入。純粋にポップスとして楽しめるアニソンが増えていったのだ。

降幡が感じた「大人っぽさ」は、思春期を迎えたアニソンの新たな魅力であり、そこには思春期の視聴者が抱く妄想の大人の世界が投影されていた。

たとえば『キテレツ大百科』のエンディングテーマに“レースのカーディガン”(1988年)という曲があるんですけど、歌詞の内容は『キテレツ大百科』と全然関係ないんですよ。

すごく大人っぽい歌詞で、小学生の私にとっては衝撃的でした。可愛い絵なのにエグい歌詞、それが当時のアニソンの特徴だと思いますね。

“レースのカーディガン”は、作詞・松本隆、作曲・来生たかおという豪華な組み合わせで、アイドルの坂上香織(註7)のデビュー曲でもある。

坂上香織“レースのカーディガン”を聴く(Apple Musicはこちら

80年代はアイドルとアニメが若者たちのあいだでブームになり、アイドルがアニソンを歌うことも多かった。

“レースのカーディガン”は都会に出た主人公が別れた田舎の恋人に想いを馳せる曲で、同じく松本が歌詞を手がけた名曲“木綿のハンカチーフ”を思わせる内容だが、<君はホームの端まで 声にならない言葉を叫びながら列車を追ったね>という別れの風景を描いた歌詞が、小学生の少女に「エグい」と感じさせたのだろう。

シティポップの持つ「虚構性=つくりものっぽさ」とアニメの親和性

そして、そのエグさが80年代ポップスの魅力だと降幡は言う。

最近のJ-POPの曲ってきれいというか、裏がなくてシンプルな歌詞が多いように思います。80年代のポップスって、もっとドロドロしていたと思うんですよ。私は悲しい歌とか失恋ソングが好きなので、そういうドロドロした世界に憧れるんですよね。

降幡 愛“パープルアイシャドウ”

私にとって80年代のポップスは、リアリティーを感じさせながらもポップな音でファンタジックな世界を感じさせるものなんですよね。当時のアニソンも可愛い絵で大人の世界を垣間見せるところがあって、そのギャップが魅力だったと思います。

韓国のDJでNight Tempoさんという方がいて、YouTubeで日本のシティポップをミックスしてあげているんですけど、映像は日本のアニメなんです。

80年代のアニソンやシティポップで大人の世界を垣間見てドキドキしていた降幡。サウンドの魅力はどんなところだったのか。

きらびやかなサウンドやフレーズですね。メロディーもキャッチーで同じサビを何回も繰り返すので、一度聴いたら覚えてしまうんです。

最近のおしゃれな音楽に比べると直球で、すごく貪欲で積極的な感じがするんです。ゆとり世代の自分としては、そういう肉食っぽいところにも魅力を感じます(笑)。

秋元薫“Dress Down”(1986年)

たしかに80年代のシティポップは、バブルの時代を反映させたかのようにギラギラしている。歌詞に登場するのもホテルのラウンジやカフェバーなどリッチな風景。その虚構性がアニメと相性がよかったのかもしれない。

後追い世代の降幡愛の歌詞に、80年代末から活動する本間光昭の楽曲が説得力を与える

そんな世界に憧れてきた降幡の最新シングル『ハネムーン』は、彼女が愛するアニソンやシティポップのエキスが詰まっている。

全3曲の歌詞は降幡自身が担当して、作曲とプロデュースを務めたのは本間光昭。80年代にキャリアをスタートさせた本間は、槇原敬之、ポルノグラフィティ、浜崎あゆみ、木村カエラなど、さまざまなアーティストの楽曲提供やプロデュースを手がけてきた。そんなベテランをパートナーに迎えることで、降幡の妄想はリアルになった。

デビュー曲“CITY”から本間さんと組ませていただいていますが、本間さんは80年代からポップスの第一線で活躍されている方。私みたいな若い世代にはつくれない、本気の80年代サウンドで勝負してくれるんです。

シングル曲“ハネムーン”は、私が歌詞を書いたらすぐに曲を書いて送ってくれました。すごくサマーなサウンドで、私の原点に戻ったようなシティポップな曲です。

降幡 愛“ハネムーン”

ハネるリズムにキャッチーなメロディー。そして、サビで繰り返し歌われる<浮気なハネムーン>という言葉のセンスにも80年代テイストを感じさせるが、「ムーン(月)」は彼女自身のイメージだという。

シングルのコンセプトを考えているときにポンと出てきたのが「ハネムーン」という言葉だったんです。その言葉を広げていくうちに「ムーン」って私のことだなと思って。

私は太陽みたいに自分が輝く存在ではなく、支えてくださる皆さんから光を浴びせてもらって輝いている、そう思ってきたんです。だから、「ムーン」という言葉をいつか歌詞に使いたいと思っていました。

<浮気なハネムーン>というフレーズには、いろんなアーティストさんがいるなかで、「私に一度浮気してみて。私の歌も聴いてみて」という気持ちからです。2番目の女でいいからって(笑)。

「2番目の女」というアダルトな表現も降幡らしいが、2曲目の“真夜中のフライト~約束の時刻~”は、80年代シンセポップの名曲、The Rah Bandの“Clouds Across The Moon”(1985年)を思わせるメロウなサウンド。シンセの音色もきらびやかで、夜の空港の情景を浮かび上がらせる。

この曲は本間さんに「角松敏生さんみたいなサウンドで」というざっくりした感じでお願いしました。

本間さんは「じゃあ、こんな感じでどう?」って洋楽の曲を聴かせてくれたんですけど、シンセでブラスっぽい音が入っていて、それがこの曲にも使われています。

降幡 愛“真夜中のフライト~約束の時刻~”を聴く(Apple Musicはこちら

本間さんとは密に連絡を取り合っているので、私が何も言わなくても私が好きそうな音を入れてくれるんですよね。それが毎回、ドンピシャなんです。

そして、3曲目の“シークレット・シュガー”は先行配信されていた曲。モータウン風のベースラインを織り込んだダンサブルなリズムに多重コーラスが彩りを添えている。

“てんとう虫のサンバ”みたいなウエディングソングをつくりたいと思ったんです。リズムはゆったりしたテンポになっているんですけど、サウンドは3曲のなかで一番新しい気がします。本間さんは80年代サウンドだけじゃなく、新しい要素を常に入れてくれるんですよね。

降幡 愛“シークレット・シュガー”

アニソン、シティポップ、声優には、架空の物語を生み出す力という共通点がある

80年代シティポップを貫きながら、ただの懐古趣味に陥らないのは、そこに新しい要素を盛り込む本間のプロフェッショナルな手腕。そして、降幡の現代的な感覚のおかげだろう。

そこで重要な役割を担っているのが歌声だ。いい意味でクセがない、伸びやかで透明感のある歌声が80年代サウンドにフィットしている。

声優がシンガーとしてオリジナルアルバムを発表するようになったのも80年代からのことだったが、降幡が考える「声優の歌」の魅力はどんなところにあるのだろう。

シンガーの方は自分の声やスタイルを持っているので、歌を聴いたらすぐわかりますよね。声優は曲によっていろんな声を出すことができる。そのレンジの広さが強みだと思います。

私は自分で歌詞を書いていることもあって、曲ごとに主人公に完全になりきって歌っているんです。もともと、私は「降幡 愛」というアーティストを演じているようなところもあって。自分にとって、そのほうが気持ちが入りやすいんです。

さまざまな声を使って役を演じる声優は声の職人。自分の内面を表現するシンガーソングライターや、オリジナリティーを売りにするシンガーとは違ったスタンスで歌に向き合っている。

さまざまなキャラクターを演じる、つまり曲ごとにドラマをつくるという点では、トレンディードラマのように洒落た舞台を設定に歌われた80年代シティポップと相性はいいのかもしれない。

アニソン、シティポップ、声優は、「架空の物語=ファンタジー」を生み出す力を持っているという点で共通している。降幡 愛の歌はそのいい例と言えるだろう。

降幡 愛『ハネムーン』を聴く(Apple Musicはこちら

休みの日にはレコード店を回って、アナログをチェックするくらいシティポップ熱が止まらない降幡。

「この前、探していた松原みきさんの『Cupid』を見つけて買ったんです。ジャケットも可愛くて、これから聴くのが楽しみ!」と微笑む。そんな彼女がシティポップ再評価の真っ只中で、どんなファンタジーを生み出してくれるのか楽しみだ。

降幡 愛『ハネムーン』ジャケット(サイトで見る

リリース情報
降幡 愛
『ハネムーン』初回限定盤(CD+Blu-ray)

[CD]
1. ハネムーン
2. 真夜中のフライト~約束の時刻~
3. シークレット・シュガー
4. ハネムーン(Instrumental)
5. 真夜中のフライト~約束の時刻~(Instrumental)
6. シークレット・シュガー(Instrumental)

[Blu-ray]
・「ハネムーン」Music Video
・Music Video & Photo Shoot Making
リリース情報
降幡 愛
『ハネムーン』通常盤(CD)

2021年9月29日(水)発売
価格:1,430円(10%税込) / 1,300円(税抜)
LAPS-4003

1. ハネムーン
2. 真夜中のフライト~約束の時刻~
3. シークレット・シュガー
4. ハネムーン(Instrumental)
5. 真夜中のフライト~約束の時刻~(Instrumental)
6. シークレット・シュガー(Instrumental)
プロフィール
降幡 愛
降幡 愛 (ふりはた あい)

2月19日生まれ、長野県出身。2015年に『ラブライブ!サンシャイン!!』の出演が決まり、黒澤ルビィ役で本格声優デビュー。同作品のスクールアイドルグループAqoursのメンバーとして活動し、2018年には東京ドーム2Daysのライブにて、国内外ライブビューイングを含め15万人を動員。同年末の『第69回NHK紅白歌合戦』に出演を果たす。2020年9月23日にデビューミニアルバム『Moonrise』でソロアーティストデビュー。2021年9月29日には、1stシングル『ハネムーン』をリリースした。

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