月経カップを広めた起業家の思い。「生理の貧困」にも取り組む

経済的な理由やネグレクトなど、さまざまな要因によって生理時に必要なアイテムや生理に関する情報にアクセスできないことを指す「生理の貧困」。生理用品を入手できないために、日常生活を阻害される人々の状況が、社会課題として近年可視化されている。

CINRAでは2021年3月に、女性の健康推進にまつわる取り組みを行なうWomen's Health Actionのプロデュースのもと、心と身体について、医療ヘルスケア分野の専門家とアーティスト、クリエイターたちが話し合うオンラインイベント『わたしたちのヘルシー ~心とからだの話をはじめよう~』を開催。

同日開催されたセッションには、月経カップを世の中に広めたDiva International CEOのキャリーン・チェンバーズ=サイニさん、インテグロ株式会社の神林美帆さんが登場。アーティストのスプツニ子!さんとともに、月経カップである「ディーバカップ」についてトークを繰り広げた。

キャリーンさんがディーバカップを世に広めるにあたっては、「生理の貧困」を解決したいという思いも行動のきっかけの一つだったという。本稿では、同イベントをもとにしながら、ディーバカップの歩みを振り返り、Diva社が「生理の貧困」に対し行なったアクションについてまとめた。

カナダの母娘が取り組んだ、生理ケアの改善。月経カップ「ディーバカップ」が誕生するまで

キャリーンさんが、母のフランシーヌさんとともにディーバカップをカナダで発売したのは2002年。

フランシーヌさんがティーンエイジャーの頃は、生理用品の選択肢が少なく、生理によって活動を制限される経験があった。そんななか、フランシーヌさんはある日、雑誌の裏に隠すように小さく掲載された月経カップの広告に目を奪われたという。

月経カップの存在を知り、可能性を感じたフランシーヌさんは、コンセプトを再設計し、最新の素材を使った月経カップをつくろうと考え、ディーバカップがスタートした。

左から:キャリーンさんとお母さまのフランシーヌさん

月経カップは、さかのぼると1930年代にその原型がつくられている(*1)。けれども多くの人たちは、長らくの間、主に使い捨てのナプキンやタンポンを使用しており、2000年代のカナダにおいても月経カップは新しい生理用品として認識され、体内に入れるデバイスを再使用するという考え方も、消費者にはあまり受け入れられなかった。

また、多くのビジネスの場がそうであるように、衛生用品業界も男性社会だった。キャリーンさん親子がディーバカップをプレゼンテーションする相手は、主に高齢の男性であり、取締役会で笑われたこともあったという。

3月に開催された『わたしたちのヘルシー ~心とからだの話をはじめよう~』に出演したキャリーンさん(右)と、インテグロ株式会社の神林美帆さん(撮影:小林真梨子)

「当時のバイヤーや業界の専門家は、変革を受け入れる準備ができていなかったんです」とキャリーンさんは言う。

ディーバカップは、発売から11年かけて、メジャーなドラッグストアチェーンの店頭にも並ぶようになった。自宅の地下室で始まったビジネスは世界中に広まって、ディーバカップは生理用品のイノベーターとして認知されるようになった。

ディーバカップの日本での販売を支援するインテグロ株式会社の神林美帆さんは、2019年にカナダ・オンタリオ州にあるDiva社を訪れている。現地では月経カップがドラッグストアやディスカウントストアのほか、アウトドアスポーツ用品店でも販売されていて、どこでも気軽に手に入れられることに驚いたという。

日本でも表面化する「生理の貧困」の問題

スプツニ子!さんは、学生時代に数学とコンピューターサイエンスを専攻し、人工知能やバイオ・インフォマティクスゲノム編集などの先端技術について触れて学んできたなかで、人類が月に行けるほどあらゆるテクノロジーが発達しているにもかかわらず、女性が毎月生理に煩わされ続けていることに疑問を覚えたと話す。

アーティストとして、生理をめぐる課題が取り残されている現状や、その根底にあるジェンダーギャップの問題を見つめ、男性が生理を体験する『生理マシーン、タカシの場合。』をはじめとする作品を発表。自身でもピルやIUS(子宮内黄体ホルモン放出システム)といった選択肢を積極的に取り入れてきた。

『わたしたちのヘルシー ~心とからだの話をはじめよう~』に出演したキャリーンさんと、スプツニ子!さん(撮影:小林真梨子)

フランシーヌさんの原点もそうだったと思うけれど、みんなが生理について知って「もっといい方法があるはずなのにおかしいな」と考えて、行動を起こすことを広げていきたいと思うんです。

スプツニ子!さんは、生理にまつわる課題の一つとして「生理の貧困」をあげる。

最近日本でもニュースになっていますが、「生理の貧困」は非常に深刻な問題です。ニュージーランドやスコットランドでは、学校で生理用品を無償で提供するようになったと聞きます。

「生理の貧困」は、衛生用品全般が不足している国のみならず、日本を含む先進国においても、その現状が表面化している。

国際NGOのプラン・インターナショナルが、2021年3月に15歳から24歳の日本の女性2,000人を対象に実施した調査では、「生理用品の購入・入手をためらったことがあるか」という質問に対し、およそ36%の人が、「購入をためらったことがある・購入できなかった」と回答し、そのうち8割の人が、収入や生理用品の価格など金銭的な理由を挙げた(*2)。

「生理の貧困」は、生理のある人だけでなく、社会全体に影響を及ぼす

Diva社の本社があるカナダでも、「生理の貧困」の問題が取り沙汰されている。Diva社では、この問題にアプローチするため、国内にとどまらず、世界中でアドボカシー活動(政治や経済、社会などの制度へ影響を与えるために行なう、個人やグループによる活動・運動)や教育に取り組む非営利団体の支援を行なっているほか、「生理の貧困」にフォーカスしたドキュメンタリー映画『Pandora's Box』を制作している。

ドキュメンタリー映画『Pandora's Box』。キャリーンさんが2017年にニューヨークで生理の公平化に向け取り組む活動家たちと議論する機会を得たことをきっかけに制作された。同作品の視聴申し込みフォームはこちら

「生理の貧困」については、やるべきことがまだまだたくさんあります。生理にまつわるスティグマ(偏見や差別)、教育やリソースの不足など、非常に多くの複雑な問題が存在しているのです。

そうした活動に取り組むなかで、キャリーンさんは「生理の貧困」の解決に向けて、このような考えを示す。

まずは問題があることを認識し、生理について話すことへの偏見をなくす必要があります。生理について自由に話せるようになればなるほど、「生理の貧困」の複雑さを理解し、向き合うことができるようになるはずです。

「生理の貧困」は、キャリーンさん親子が月経カップのビジネスを始めた際にぶつかった壁と同じように、生理を経験したことのない人が意思決定層の多くを占めることからくる、生理への知識と理解不足も要因の一つになっている。

「生理の貧困」は、生理のある人だけでなく、社会全体に影響を及ぼす問題であることを理解すべきだと思います。

「生理の貧困」は、生理時の衛生状態を悪化させる可能性があり、生殖器や尿路の感染症との関連も指摘されるなど、身体的な健康リスクを引き起こすこともあります。また、生理中の人が学校や仕事を休むことは、教育やキャリアにおける公平性の問題にもつながります。社会のメンバーそれぞれを力づけることで、生理のある人だけでなく、全員が恩恵を受けることができるのです。

誰もが気兼ねなく生理用品にアクセスできる社会のために

月経カップが認知されていないころから、生理のある人たちの生活がより良く変わってゆくことを信じ、ビジネスを続けてきたキャリーンさん。今後新たなチャレンジをしたい人たちに向けて「クレイジーなアイデアは存在しない」とエールを送る。

私たちも、月経カップを売るなんて、クレイジーだと思われていました。女性の皆さんには、自分たちの声を見つけ、主張し、情熱を追求してほしい。恐れがあるからといって自分の歩みを止めないでください。乗り越えるにはたくさんのエネルギーが必要ですし、同じことを何度も何度もやる必要があります。それでも、辛抱強く諦めない精神で続けていただきたいです。

ディーバカップ日本公式Instagramより

キャリーンさんの起業家としてのありかたに共感を示しながら、「みんな勇気をもらったと思う」と言うスプツニ子!さんはこう続ける。

ディーバカップを通じて、女性たちを生きやすくするために、新しいことに挑戦してタブーを変えてきた。プロダクトだけでなく、キャリーンさん親子の起業家としての姿勢がかっこいいと思います。

生理のある人は、通算すると、一生涯のうち、およそ6~7年間を生理期間として過ごすと言われている。それほどの期間、生理用品を必要とし続けるにもかかわらず、日本では2019年10月に消費税が増税された際、日用品であるはずの生理用品には軽減税率が適用されなかった(*3)。それはいまだに「生理がある」ことが、どこか社会の前提に含まれていないことを示している。

このような現状において、Diva社のように生理ケアアイテムをつくる企業が社会課題へ取り組む意思を支持したい。

同時に、再使用できる製品を「生理の貧困」の解決策とするのではなく、あくまで誰もが気兼ねなく生理用品を入手し、生理時の体調に応じて医療機関にかかることのできる環境があったうえで、それぞれの身体やライフスタイルにあった生理用品を選択できる状況が求められる。

「生理の貧困」には、意思決定層における生理を経験したことがある人の少なさ、賃金の格差、性教育の不足など、ジェンダーギャップ等に起因するさまざまな問題が潜んでいる。

地道に声をあげ、行動に移した人たちによって、生理に関する話題がオープンになりつつあるなかで、ようやくこうした課題がテーブルの上に乗せられた。

生理のある人にとって、欠かせない必需品である生理用品へのアクセスを阻害されていることは、その生活や、ひいては人生を阻まれていることに等しい。そうした状況をなくすためにも、まずは生理に対するスティグマをなくし、「生理がある」ことが、当然視界に入っている社会であってほしいと考える。

参考:

*1 紙ナプキンやタンポンより古い生理用品とは?(インテグロ株式会社 ブログ)
https://www.integro.jp/blog/menstruralcup_history

*2 公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパン「日本のユース女性の生理をめぐる意識調査結果」
https://www.plan-international.jp/activity/pdf/0413_Plan_International_Ver.03_01.pdf

*3 生理用品への課税「tampon tax」の問題は世界中にあり、イギリス、カナダ、オーストラリア、インド、マレーシア、アメリカの一部の州などで非課税とする動きが出てきている。

サービス情報
ディーバカップジャパン

ディーバカップジャパンでは、日本でさまざまな理由から生理用品が必要な方を支援する活動を行う団体をサポートする、月経カップの寄付プログラムをはじめました。ご希望の方はこちらからお申込みください。
また、ドキュメンタリー映画『Pandora's Box』の視聴は下記フォームよりお申し込みください。
企業情報
インテグロ株式会社

月経カップや吸収型サニタリーショーツという新しい生理ケアを提案し、女性が生理によって自由な活動を制限されることなく、だれもが自分らしく生きやすい社会を目指します。
ウェブサイト情報
わたしたちのヘルシー【心とからだの話をはじめるメディア】

Women's Health Action×CINRAがお届けする、女性の心とからだの健康を考えるメディアサイトです。ゆらぎがちな女性の健康に役立つ記事や、専門家からのメッセージ、イベント情報などをお知らせします。
プロフィール
キャリーン・チェンバーズ=サイニ

ディーバ 創業者・CEO。使い捨てナプキンが主流のなか、母のフランシーヌ・チェンバーズとともに身体にも地球環境にもよい生理ケアを求め、100%医療用シリコーン製の月経カップを開発。快適な生理体験を提供するだけでなく、生理に関する教育と生理ケアへの平等なアクセスを訴え、エンパワーメントする活動を展開。世界中の月経を取り巻くタブーを打開することにも尽力。ディーバカップは世界No.1シェアの月経カップとなっている。

スプツニ子!

インペリアル・カレッジ・ロンドン数学科および情報工学科を卒業後、英国王立芸術学院デザイン・インタラクションズ専攻修士課程を修了。在学中より、テクノロジーによって変化していく人間のあり方や社会を反映させた映像作品を制作。これまでにVOGUE JAPANウーマンオブザイヤーや「ロレアル‐ユネスコ女性科学者 日本特別賞」を受賞。FORBES JAPAN「未来を創る日本の女性10人」、世界経済フォーラム「ヤンググローバルリーダーズ」、TEDフェローにも選出。著書に「はみだす力」。



フィードバック 1

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Life&Society
  • 月経カップを広めた起業家の思い。「生理の貧困」にも取り組む

Special Feature

Habitable World──これからの「文化的な生活」

気候変動や環境破壊の進行によって、人間の暮らしや生態系が脅威に晒されているなか、これからの「文化的な生活」のあり方とはどういうものなのだろうか?
すでに行動している人々に学びながら、これからの暮らしを考える。

記事一覧へ

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて