クリエイターが消費されるだけでないエコシステムとは? INTROの試み

個人が自由にクリエイティブを発揮し、SNSでクリエイター同士がつながれる時代になって久しい。とはいえ、それを生業とし、保障やサポートがない状態で、フリーランスでの活動を続けることは決して簡単ではないだろう。

トイズファクトリーとトライバルメディアハウス内のエンターテイメントマーケティングレーベル「Modern Age / モダンエイジ」が設立した「INTRO」は、次世代クリエイターの発掘・育成を目的とする新プロジェクト。

アニメーターや映像作家、フォトグラファーらが所属し、クリエイターが消費されるだけではない、「現代にフィットしたエコシステムの形成」を目指すという。アニメーション制作ユニットの「擬態するメタ」の所属も発表され、コンセプト動画も公開されている。

レコード会社であるトイズファクトリーとデジタルマーケティングの会社であるトライバルメディアハウス内のModern Age / モダンエイジとが組み、音楽以外のジャンルのクリエイターをサポートするというのは、今後のアートのあり方を考える意味でも非常に興味深い。INTROプロジェクトメンバー5人のうち、トイズファクトリーの茂木岳史と、Modern Age / モダンエイジの高野修平を中心に話を聞いた。

BLACKPINKやPERIMETRONの活動も参考に模索した、次世代のアーティスト支援のあり方

「トイズファクトリー×Modern Age / モダンエイジ(以下Modern Age)」によるINTROが掲げる、「クリエイターからアーティストへ」というテーマの真意とはなにか。

たとえば、レコード会社やマネジメント事務所と契約を結び、表舞台で華々しく活躍するミュージシャンがいる一方で、デザイナーやアニメーターなどのフリーランスのクリエイターは基本的には裏方であり、作品ごとの買い取りが多い。

長い時間をかけて制作した作品やそのための労力が、結果として「消費」されてしまっていたとしたら……INTROはそんな状況に一石を投じることになるだろう。

いまって絵師やグラフィックデザイナー、映像作家など、いろんなクリエイターがいますよね。そういう人たちのクリエイティブにこれまで以上に光を当てて世の中に広め、映像でも音楽でも絵でも写真でも、何かの表現者をもっと表舞台に届けたい。さらには彼らを応援するファンの方々がいて、その結果生まれた対価やサービスがクリエイターたちに還元される流れをつくりたいと思ったんです。

高野修平(たかの しゅうへい)
株式会社トライバルメディアハウス所属。エンターテイメントマーケティングレーベル「Modern Age / モダンエイジ」事業部 事業部長 / レーベルヘッド。チーフコミュニケーションデザイナー、クリエイティブディレクター。トライバルメディアハウス内にある日本初のブランドマーケティングとエンターテイメントマーケティングを融合させたマーケティングレーベルを設立。ナショナルクライアント、テレビ局、音楽配信会社、レコード会社、アーティストといった幅広いエンターテインメント業界を支援している。最新刊は『始まりを告げる《世界標準》音楽マーケティング』。M-ON番組審議会有識者委員、尚美学園大学非常勤講師。‬

INTROの構想がスタートしたのは去年の春ごろ。BABYMETALなどを担当している茂木が、大きく変化する音楽ビジネスのあり方に合わせて、次世代のアーティスト支援の方法を模索しようと、Modern Ageに話を持ちかけた。両者でやりとりをするなかで、今回のプロジェクトに発展したのだという。

INTROでは、互いの強みを生かしたプロジェクトとして、「次世代のアーティストを発掘していこう」という話になり、「では、『次世代アーティスト』とはどんなアーティストなのか?」というところから、議論を重ねました。

茂木岳史(もてぎ たけし)
トイズファクトリーでメディアプロモーターや新人開発などを経て、現在はBABYMETALなどのA&Rディレクターを務める。

散々議論して、「次世代アーティストってなんだろう。ヒットってなんだろう。アーティストのゴールってなんだろう」みたいなことを話し合うなかで、一つのポイントとしてマストではないかとINTRO内で出てきたのが、「切り口の多様さとその切り口の掛け算」だったんです。そのなかでサンプルとして名前が挙がったのが、BLACKPINKとPERIMETRONだったんです。

BLACKPINKは、歌もダンスももちろんすごいんですけど、マーケティングも含め、ファッションやビジュアルなど音楽以外の付随する要素がすごくあったんですよね。

一方で、PERIMETRONは企業案件もよくやっているのですが、ちゃんとそのなかでオリジナリティーを出していて、評価されている。こういうクリエイターがもっといてもいいと思うんです。

トイズ内で茂木さんや岩井(祐輔。茂木と同様にINTROの主要メンバーの一人)さんは、誰もが知ってる、いままさに勢いがあるアーティストをご担当されてらっしゃいます。そういった方々と、「誰をやる?」みたいな話の前に、そもそもの議論を深く長くできたのは良かったなと思います。

King Gnu / millennium paradeの常田大希が主宰するPERIMETRONは、複数の映像作家やデザイナーらが在籍するクリエイティブチーム。King Gnuやmillennium paradeはもちろん、Mr.Children、GLAY、櫻坂46などのミュージックビデオやアートワークを手掛けるほか、ロゴデザインやファッションブランドのコレクションムービーの制作など、幅広い分野で活躍。メンバーがメディアに露出することも多い。

世界観がしっかりあって、思想もあって、オリジナリティーを出しつつ、しっかりとファンもいて、企業案件もしっかりやる。そんなミュージシャンはけっこういるのですが、じつは音楽以外のジャンルのクリエイターでできている人はなかなかいないんです。

INTROの所属第一弾アーティストはアニメーション制作ユニットの「擬態するメタ」ですけど、今後はフォトグラファーやデザイナーが所属する可能性もあるし、ジャンルを問わず「なにかを生み出す人」をフックアップしていきたいです。

PERIMETRONが手掛けたmillennium parade“lost and found”MV

知名度ではなく、世界観や文脈を通して、クリエイターと企業をつなげる

INTROの主要メンバーは5人。茂木と高野に加えて、「トライバルメディアハウス / Modern Age」でコミュニケーションプランナーを務める大森隆博、トイズファクトリーから宣伝とマーケティングを担当する岩井祐輔、クリエイターの発掘やコミュニケーションを担当するチーム最年少の鹿倉駿輔が参加している。

左から:大森隆博、高野修平(ともにModern Age / モダンエイジ)、茂木岳史、岩井祐輔、鹿倉駿輔(すべてトイズファクトリー)

いまは10代の子がすごいクリエイティブを発揮していたりするので、年齢関係なく、いろんなところに目を向けて、新しい才能を見つけていきたいです。

決して知名度は高くなくても「この人の世界観と、このブランドは文脈的にマッチする」というケースがいっぱいあって、そこがハマればすごい効果を発揮するクリエイターが世の中にはいっぱいいる。企業側にはそういうことをもっと知ってほしいし、そういう人たちに光を当てて、つなげていくことをINTROでやりたい。

あとは、Modern Ageとしても自分たちでアーティストをマネジメントするというのは大きな挑戦です。だけど、足りないことがたくさんあります。アーティストのあり方やアーティストへの想い、そして自分たちの新しい試みを実現するためにトイズさんとご一緒しているというのもあるんです。

トイズファクトリーとして、音楽以外のクリエイターにスポットライトを当てて、事業化していくのは新たなチャレンジではあります。

でも、いまの世の中にはジャンルに限らず、本当にクリエイティブな方がたくさんいらっしゃるので、そのなかで特に光るものを持っている方とぼくらも出会いたいし、そこから派生してクリエイター同士がつながることで、いろんな物語が始まっていくと思うんです。INTROという名前にはそういう意味を込めています。

第一弾アーティスト、アニメーション制作ユニット「擬態するメタ」と共鳴したビジョン

INTROの第一弾アーティストとなった「擬態するメタ」は、2020年12月に始動したアニメーション制作ユニット。アニメ作家 / イラストレーターのしまぐちニケと、映像作家のBiviの2人組で、「技法や常識に縛られず、前衛的なアイデアを具現化する」ことを掲げている。

たまたま気になったMVのアニメーションを手掛けていたのが「擬態するメタ」で、それでコンタクトを取りました。彼らもまだ結成したばかりで、「これからこんなことをやっていきたい」というビジョンと、ぼくたちの構想がドンピシャだったんですよね。

例えば、存在が「世の中ごと化」しているミュージシャンはたくさんいても、「世の中ごと化」している映像クリエイターって、いまは映画監督を除いてほとんどいないと思うんです。

どうしても作品自体が前に出て、なかなかその人自身が知られるまでにはいかない。でも本当に才能がある人だったら、音楽以外のジャンルでも、日本人の誰もが知っているアーティストになることが可能だと思うんです。そんなことを考えているなかで「擬態するメタ」に出会って、彼らと一緒にやれたら面白いんじゃないかなって感じました。

「擬態するメタ」コンセプトティザー『企劇』

「擬態するメタ」のメンバーと話をしていて面白かったのは、『報道ステーション』のオープニングをつくってみたいとか、ナショナルクライアントのCMもつくりたいとか、ジャンルにとらわれないいろんなアイデアが出てきたこと。「これは可能性がある」と思えたんです。彼らとはこれまでぼくらが音楽アーティストに接してきたのと同じ感覚で接することができると感じています。

「擬態するメタ」が手掛けた終電間際≦オンライン。“escape”MV

「擬態するメタ」を皮切りに、今後さまざまなジャンルのクリエイターを発信していく予定だというINTRO。個人が自由にクリエイティブを発揮する時代をもう一段階アップデートし、そこで生まれた作品や想いが簡単に消費されることなく、誰もがアーティストとして輝き続けることのできる未来の実現に向けて。INTROの挑戦はいままさに始まったばかりだ。

INTROというチーム自体もきっちりブランディングしながら、個のクリエイターをフックアップできるかたちをつくっていきたいです。INTROって面白そうだと思ってくれるクリエイターの方がいたら、どんなジャンルでも構わないので、ぜひご連絡いただければと思います。

これからもっといろんなタイプのクリエイターに集まってほしいし、そのなかでどんどんコラボレーションが生まれるといいですね。所属しているクリエイターたちが個として立って、ファンがついて、しっかり活動していけたらいいなと思っています。ぼくらはイントロなので、サビは任せたいんですよね。所属してくれるクリエイターたちに、いろんな旋律を奏でていってほしいです。

プロジェクト情報
次世代クリエイターの発掘・育成を目的とするトイズファクトリーとモダンエイジの共同プロジェクト。クリエイターをアーティストとして認め、価値を高めるための仕組みづくりを目指す。
プロフィール
高野修平 (たかの しゅうへい)

株式会社トライバルメディアハウス所属。エンターテイメントマーケティングレーベル「Modern Age / モダンエイジ」事業部 事業部長 / レーベルヘッド。チーフコミュニケーションデザイナー、クリエイティブディレクター。トライバルメディアハウス内にある日本初のブランドマーケティングとエンターテイメントマーケティングを融合させたマーケティングレーベルを設立。ナショナルクライアント、テレビ局、音楽配信会社、レコード会社、アーティストといった幅広いエンターテインメント業界を支援している。最新刊は『始まりを告げる《世界標準》音楽マーケティング』。M-ON番組審議会有識者委員、尚美学園大学非常勤講師。‬

茂木岳史 (もてぎ たけし)

トイズファクトリーでメディアプロモーターや新人開発などを経て、現在はBABYMETALなどのA&Rディレクターを務める。



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