わたしたちのヘルシー

タブー視されてきた「アイドルの月経事情」。300人を見てきた振付師が語る

女性の体やそれにまつわる現象は、これまで社会のなかで、なきことにされるか、極度に定型化、理想化されることが多かった。

なかでもとりわけ、「アイドル」と呼ばれる存在は、その言葉のとおりある種の偶像として、血を流し、痛みを感じる、生身の肉体を持つ人であることが、あまり省みられてこなかった。

とくに、タブー視されてきた事柄の一つとして、月経がある。月経に伴い、体調や精神的な不調が起こる月経困難症に苦しむ人は多く、もちろんアイドルたちもその例外ではない。

300人ものアイドルの振り付けを担当してきた経験から、アイドルの健康課題について取り上げた著書『アイドル保健体育』(シーディージャーナル)を執筆した振付師の竹中夏海さんと、産婦人科医として多くの女性を診てきた慶應義塾大学名誉教授の吉村泰典医師が、月経をめぐる現状の課題や今後求められる社会の変化について、語り合った。

月経の苦しみから、舞台裏で倒れるアイドルもいた

─竹中さんは、振付師の立場から、月経に関するトラブルに苦しむアイドルの方をご覧になられてきたそうですね。

竹中:アイドルの子たちは、月経困難症(※1)がもたらす痛みを人前で我慢しなければいけない機会が多い。ステージでのパフォーマンス中はこらえていても、舞台裏に戻った瞬間に崩れ落ちるように倒れる子などもいました。ワンマンライブとなると、ナプキンを変える暇すらなかったりするので、痛み以外にも、「経血が漏れていたらどうしよう」という不安を抱える子も多いです。

吉村:激しいパフォーマンスをすると、すごく体力を消耗します。アイドルは痩せている子が多いから、無月経(※2)の子も多いように思いますが、いかがでしょう?

竹中:多いかどうかはわからないけれど、そういう話も聞きますね。アイドルの場合、スタッフから闇雲に「痩せろ」と言われることも多いんです。そういう環境もすごく問題で。

具体的な目標や痩せる目的を提示されないうえに、管理栄養士さんのような専門家がつくこともほとんどないんですよね。アイドルでいるあいだ、「痩せなきゃ」というプレッシャーをずっと感じていたという子はものすごく多いです。

吉村:アイドルに対するメディカルケアというのは、業界的にされていないんですか?

竹中:そうしたケアはほぼされていないし、必要だということがそもそも知られていないのが現状ですね。本当は周りの大人が教えてあげなきゃいけないんですけど、知識のある大人がマネージメント側にほとんどいないです。

吉村:まだまだ足りていないですが、スポーツ界では男女ともにメディカルケアが根づき出しました。アイドルの方に対しても、もちろん一般の人たちにとっても、非常に大事だと思います。

竹中:私は振付師として関わる女性アイドルから体の相談を受けることが多くて。誰にも相談できないよりはいいですけど、本当は常に一緒にいられるマネージメント側の人たちそれぞれがきちんとした知識を持っている環境になっていけばいいなと思っています。

痛いものというイメージが強い月経。じつは「痛みがない状態」が正常だった

─そもそも月経困難症とは、どのような状態を指すのでしょうか?

吉村:腰痛や腹痛、頭痛といった、月経に随伴して起こる病的症状を指します。体になんらかの疾患などがなくても痛みがあるものは機能性月経困難症、疾患が原因になっているものを器質性月経困難症といいます。

多くの人が「月経は痛いもの」と考えていますが、本来であれば痛みがない状態が正常なんです。痛みがある場合も、病院へ行き、適切な処置を受ければ、月経痛をはじめとした症状を改善することができます。しかし、「痛いこと」が正常だと考えている人が多いため、「病院に行く」という選択肢をとる人はあまり多くないのが現状です。

竹中:私も初めてピルを処方してもらったときに、あまりにも痛みや経血量が減ったことでかえって不安になったんです(※3)。でも、婦人科の先生にそれまで感じていた痛みや経血量の多さを正常に戻すことができると教えていただいて、これまでの常識が覆りましたね。

─薬によって体の状態をコントロールすることが、不自然で良くないことであるかのような刷り込みはどこかあるように思います。

竹中:教え子のアイドルから「月経困難症を改善するためにピルを使いたい」と母親に相談したら、「化学の力で痛みをコントロールするのは体に悪いんじゃないか」と反対されたという相談を受けたことがあります。

吉村:日本は我慢を美徳とする風潮が強いんですよ。例えばお産も痛くないほうがいいじゃないですか。でも、「子どもを育てるためには痛みに耐えなくちゃいけない」と刷り込まれているんですよね。

竹中:日本は無痛分娩の割合が低いですよね。無痛分娩であっても産後の苦痛はあるし、そろそろ「自然分娩」という言葉を「無麻酔分娩」に変えたほうがいいんじゃないかなと思っています。

吉村:その言い方はいいですね! 月経についても、痛みで苦しむのはもったいないんですよ。

竹中:月経を軽くするためにIUS(子宮内黄体ホルモン放出システム)を子宮内に入れる人もいますけど、施術の際に日本では麻酔が使われない場合が多いと聞きます。それってどうしてなんでしょうか?

吉村:医者側の問題ですね。先ほどもお話したように、日本は忍耐を良いものとする感覚が根強くあるし、麻酔を使うとその分、母体にいっそう気を使うわけですよ。

だから「すぐ終わるからちょっと我慢して!」という対応をとる人もいるんです。いまは医療全体が、なるべく痛みのない方法をとるように変わりつつありますが、婦人科医ももっと変わらないといけないですね。

─経血量や痛みは人と比べづらいため、我慢している意識もないまま辛さを抱えている人も多いかもしれません。

吉村:例えば痛みがあるときに、鎮痛剤を飲んですぐ良くなるならいいんだけど、鎮痛剤を飲んでも効かなかったら、病院に行き、原因を探り、必要に応じて薬を処方してもらうべきです。

─ピルなどによって月経が来ない状態になることに、不安を感じる人もいると思うのですが、その点について詳しくうかがえますか?

吉村:月経が起こるのは、体が妊娠するための準備をしているからです。準備の結果、妊娠しないと月経が起こります。だから子どもを望まないうちは、月経はなくてもいいんです。

だから、ピルを連続投与することで、月経を止め続けることもできるわけです。もしくは定期的に月経が来るように周期投与で飲んでいると、それに合わせて予定を立てやすい。

ぼくは、初経が来たら、ピルを飲んでもいいと考えています。ただ問題なのは、月経困難症に苦しんでいる子どもがピルを飲んでいると、学校の先生から「経口避妊薬を飲んでいるのか」と咎められることがあるそうなんですね。

竹中:そういった心ない誤解は、アイドルの現場でも起きています。ピル(※4)によって月経困難症が軽くなることを知らないスタッフが多いので、アイドルの子がピルを処方してもらうために婦人科に行きたいというと、生活が乱れているととらえられるみたいで。そもそも、女性が主体的に避妊をするためにピルを飲んでいたとしても、まったく悪いことではないですよね。

「推し」のアイドルをきっかけに、心と体の変化の背景まで考えてほしい

─本当にそうですね。女性が主体的に自分自身の体をコントロールすることについての偏見はまだまだ根強いのかもしれません。

竹中:そもそもアイドルの子たちは、プライバシーが漏れてしまう怖さがあるので、婦人科に行く精神的なハードルが高い場合が多いんです。それでもようやく行ってみたら、自分の体に対して知識がなさすぎるという理由で、婦人科の先生に怒られてしまったという話を結構聞くんですよ。スタッフの人も理解してくれないなか、勇気を振り絞って行った分ショックが大きくて、それ以降病院に行けなくなってしまうみたいで。

吉村:それは医者側が本当に反省しないといけないことですね。だんだんと医者の意識も変わってきているから、「怖くて行きづらい」と考えている方は安心してほしいです。海外では初経が起こると、保護者に連れられて婦人科に行って、妊娠のしくみや、ピルについて教えてもらう習慣のある国もあるんですよ。

─婦人科が性教育の場になっている国もあるんですね。

吉村:日本の婦人科医は、あまりそういうことをやってこなかったんです。最近では、医師が学校に出向いて性教育を行う機会も増えてきているけれど、それも学校に理解がある先生がいるかどうかに左右されます。

竹中:日本の学校における性教育は、十代のうちは性行為をしないという前提になっていて、教えるべきことが漏れてしまっているんです。その構造は、アイドルの「恋愛禁止」という暗黙のルールにも通ずる部分があると感じます。

「恋愛禁止」となると、異性との性交渉もNGということになると思います。それを演出としてグループのコンセプトに取り入れるのは自由ですが、なぜだめなのか、どんなリスクがあるのかを説明できる大人がいないまま、ただ押さえつける状況になっている場合が多い。禁止するなら、その分きちんと大人が説明するべきだし、教育をしないといけないと思うんです。

吉村:最近ではようやく男性にも学校の性教育で月経についてしっかり教えるようになりつつあるけれど、それはすごく大事なことで。教育でしか変えられないんですよね。

竹中:私が『アイドル保健体育』を書いたのは、女性アイドル自身に知識をつけてほしいのと同時に、男性ファンの方にも知ってもらうきっかけになったらと思っていて。

知識って、具体的な対象を思い浮かべないと入ってきづらいですよね。だから、家族やパートナーはもちろんのこと、「推し」がきっかけになってもいいと思うんです。私自身も、教え子たちから相談される機会が増えたことで、きちんとした知識を得たいと思うようになりましたから。

─竹中さんの本からは、体のことを個人の努力や頑張りによって解決させてはいけないし、そのために適切な知識を得るべきだというメッセージが、強く伝わってきました。

竹中:アイドルの体調に関することって、プロ意識の問題にされがちなんですよね。

いまは握手会やSNSによって、昔のアイドルと比べてファンの人との距離感が近くなっていて、「ちょっと太ったかな」とか「肌荒れてる」みたいな言葉が本人の耳に簡単に届いてしまうんです。

でも、好きで体をむくませたり、肌荒れしたりしている子なんていないですよね。だから、そういう現象は当たり前にあるということが、応援する側にも、支えるスタッフ側にも、アイドル自身にも、当たり前の知識としてもっと伝わってほしいと思います。

吉村:そのとおりだと思います。月経周期の中だけでも大きな変動がありますし、初経、妊娠、出産、閉経と、ライフステージによって、ドラスティックな変化のなかで生きていかなきゃいけないんですから。

竹中:女性はずっとホルモンに振り回されているって、もうちょっと知られてほしいです(笑)。

月経についてオープンに話せる場が増えれば、世の中全体が変わっていくはず

ーアイドルを職業としていなくても、月経による心身の変化に戸惑ったり、それについて他者から心ない言葉をかけられて、辛い思いをしたことがある人は少なくないと思います。月経がある人もない人も、知ることによって、無用な偏見から解消されてゆくといいですよね。

竹中:こういう話をしやすい空気をいろんな場所でつくっていくことで、世の中全体が変わっていくと思うんです。昔だったら「汚物入れ」という名前だったのが「サニタリーボックス」に変わったり、最近では少しずつ性を不浄のものとしない感覚が根づいてきましたよね。

吉村:生理の貧困やフェムテックという言葉が、メディアで取り上げられたことによって、女性の体の問題が顕在化してきて、みんながそれについて話せるようになってきたのは非常にいいことです。

フェムテックというと、月経カップや吸水ショーツなどのアイテムが取り上げられがちですが、生殖医療や、無理なく子どもを産み育てられる環境を社会が整えることなど、「女性をめぐる健康課題を解決するためのテクノロジー」として広く、かつ身近な話題であると捉えていくことが大事だと考えています。

竹中:フェムテックという言葉自体は知られるようになってきたものの、まだまだヘルスリテラシーの高い、経済的に余裕のある人のものというイメージが強いです。政治がそうした課題に目を向けるようになってくると、価格的にも手に入りやすいものが増えていくと思いますし、そうやっていろいろな層に届くことが必要ですね。

─月経や体のことについて話される機会が増えることで、自分の体の状態に目を向ける習慣もつきそうですね。

吉村:『黄帝内経素問』という紀元前200〜220年頃に書かれた中国の医学書に「すでに病みたるを治せず、未(いま)だ病まざるを治す」という言葉があるんです。つまりは「未病」ですよね。病気になる前に、病気の前兆にいかにして気づくかが大事なんです。この概念がもっと知られるようになればと思います。

婦人科というと、内診が嫌だという人も多いですけど、いまはMRIや超音波の機械が普及してきていて、内診の機会をかなり減らすことができるようになっています。

竹中:内診は、必ずしなければいけない場合を除き、「嫌だ」と伝えても良いのでしょうか?

吉村:そうですね。もちろん内診は重要ですが、「必ずするもの」ではなくなってきているのです。

竹中:「合わないな」と思う先生にあたったら、自分に合う先生に出会えるまでカジュアルに病院を変えることも大事だなと思います。

吉村:相性がありますからね。Aさんにとってすごくいい先生が、Bさんにとってはまったくだめな場合もあると思います。いまは大きな病気の場合、セカンドオピニオンを受けることが普通になってきましたけど、家庭医も自分に合う先生に変えていいんです。婦人科というのは、生涯にわたって女性の体の健康を守るところですから、自分の悩みを伝えやすい、パートナーになってくれるお医者さんを見つけてほしいなと思います。

参考:
(※1)参考記事:月経困難症 | 女性の健康推進室 ヘルスケアラボ|厚生労働省研究班監修
(※2)参考記事:月経不順・無月経 | 女性の健康推進室 ヘルスケアラボ|厚生労働省研究班監修
(※3)効果・副作用の出方・感じ方には個人差があります。
(※4)ピルには避妊目的で使用される経口避妊薬(OC)と治療目的で使用される保険適用のある低用量エストロゲン・プロゲスチン製剤(LEP剤)がある。

サービス情報
あすか製薬株式会社

あすか製薬は1920年の創立以来、内科・産婦人科・泌尿器科領域に注力するスペシャリティファーマとして、同領域のヘルスケアに関連する製品を提供し、現在もそのラインアップの充実に努めております。また、「女性のための健康ラボMint+」は2020年にサイトを新設し、女性の体と健康についての正しい知識を得ていただくためのヒントを発信しています。2021年度には若年層に向けて「Mint+ teens(ミントティーンズ)」の活動を開始しております。
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プロフィール
竹中夏海 (たけなか なつみ)

1984年、埼玉県出身。日本女子体育大ダンス学科卒業 。2009年に振付師としてデビュー。その後、様々なアーティスト、広告、番組にて振付を担当。コメンテーターとして番組出演、女性の健康問題を扱う連載も持っており、書籍『アイドル保健体育』(シーディージャーナル)は「令和の保健体育の教科書」としても注目されている。

吉村泰典 (よしむら やすのり)

産婦人科医。慶應義塾大学名誉教授、福島県立医科大学副学長、元内閣官房参与、ウィメンズ・ヘルス・アクション代表、慶應義塾大学医学部教授。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長などを歴任した不妊治療のスペシャリスト。特定不妊治療費助成制度の確立、周産期医療従事者の待遇改善など日本の周産期医療と女性・子ども達を支える活動に取組んできた。主な著書に『産科が危ない 医療崩壊の現場から』『生殖医療の未来学 生まれてくる子のために』『ハッピーライフのために女性が知っておきたい30のこと』などがある。



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