トラちゃんたちがタイムスリップ!? パピヨン本田が描くアンディ・ウォーホルの軌跡

世の中には、さまざまなコンセプトの美術作品が存在します。理解できないものもあるけれど、少しでもヒントを得られれば、美術を楽しむスタートラインには立てるはず。トラの親子とともに、美術の見方や面白さを学んでいきましょう。

2022年9月に京都市京セラ美術館で開催されるアンディ・ウォーホルの大回顧展『アンディ・ウォーホル・キョウト』。トラちゃんとトラちゃんパパも、ウキウキで展覧会を観に行くことに。しかし道中雷に打たれ、タイムスリップした先は……アンディ・ウォーホルのアトリエ!? はたしてトラちゃんたちはもとの時代に帰れるのでしょうか。回顧展にちなんだパピヨン本田のミニインタビューも必読です。

パピヨン本田特別インタビュー。アンディ・ウォーホルとの出会いとは?

―パピヨンさんがアンディ・ウォーホルを知ったきっかけはなんですか?

パピヨン:そもそも現代美術について知ったのが自分は超遅かったんです。高校まではとにかく「漫画家になりたい! それがだめならイラストレーターになりたい!」と思ってて。その後に地元の画塾に入ってデッサンなんかを勉強しはじめるわけですけど、そこでようやく村上隆の名前を知るぐらい。

ーたまに10代前半から美術や現代思想にハマる人もいますけど、だいたいの入口はそんな感じでは? という気もします。

パピヨン:美大に通っていた時期も含めて、まわりにやたらディープな知識を持つ友だちが多かったから、自分は現代美術について特に詳しいわけではないと思っちゃうところがあって(苦笑)。そんな感じの接点だったので、ウォーホルも「アーティスト」として知るのではなく、『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ』のバナナジャケットから入ったんですよ。

ー1950年代の英国から始まったポップアートは、戦後の大量生産・大量消費社会のなかで生まれた芸術運動ですし、芸術と日常の同化をさらに推し進めたのがウォーホルですから、パピヨンさんとバナナの出会い方もある意味、とってもポップでウォーホルらしいです。

パピヨン:たしかに。今日着てきたTシャツも「そういえば明日インタビューや!」って思って、近所の量販店で買ったウォーホルの『ブリロ・ボックス』ですしね。

ーウォーホルがもはやいつでもどこでも買えちゃう時代に。

パピヨン:画塾に通っていたときはすでに普通に買えるようになっていたから、普段着として「バナナ」Tシャツを着てました。ただそれはデザインがちょっと微妙で、バナナとウォーホルのサインが入ってるだけでいいのに、なぜか「POPART FOR EVERYONE」という文字が入っているという。

パピヨン:それでも「まあええやろ」と自分は思って画塾に着ていったんですけど、当時の先生が「余計なこと書いてあるなー」みたいな微妙なリアクションで。先生曰く「いいかパピヨン、この作品は『みんなのためのポップアート』なんて書いてなくても、『この芸術はお前ら大衆のもんだ』ってメッセージを伝えられるからすごいんだぞ」と。

ーウォーホルの理解として、的確なコメントだと思います。

パピヨン:たしかに有名な『キャンベルのスープ缶』も当時のアメリカでは誰もが知るイメージを使って「これがアート作品である」と宣言したようなものですしね。基本的に現代美術はとっつきづらい作品多めですけど、これなら自分もわかる、これなら知ってると感じられるのは大きい。それが、ウォーホルが後世に与えた影響の最高なところでもあるし、最低なところでもあると思うんです。

「ポップアートいけすかねえ……!」。ウォーホルが世の中に撒いた「毒」

ー「最高なところ」と「最低なところ」とは?

パピヨン:「アートなんていっても、実際には世の中に流布してるほかの印刷物と変わらないでしょ?」っていうテンションの高さが最高ですよね。当時のアメリカの消費社会をふまえれば、ものすごくかっこいいパンチライン。でも、いまとなってはそういうシニカルな態度も含めて「ポップアートいけすかねえ……!」って気持ちにもなりますよね。

ウォーホル以降、ウォーホルの模倣でしかないものもあふれてしまって。多少なりとも現代美術のことを知るようになるとウォーホルにもポップアートにも腹立ってきます。

ーたしかに、若いときは特にムカつくかもしれません。

パピヨン:2019年の『アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ』でマウリツィオ・カテランが本物のバナナをテープで壁に貼りつけて1,500万円前後で売っていたじゃないですか。あれは明らかにウォーホルを参照していて、バナナをキリストの磔刑に見立てている。

さらに『コメディアン』ってタイトルからは、生前のウォーホルがそれこそ芸人(コメディアン)のようにテレビに出まくっていたことを思い起こさせますし、13世紀の詩人・ダンテの書いた『神曲』の原題が『La Divina Commedia』……「コメディア=喜劇」だったことを踏まえれば、天国・煉獄・地獄を旅してきた人のイメージを、ポップアートがウォーホル以降に使い倒されまくってきた状況に重ねていってる気もする。

ー『神曲』はダンテ自身が詩人ウェルギリウスに案内されて天国から地獄へとめぐる物語ですね。

パピヨン:そういうのも全部ふまえて、1,500万円ぐらいの値段にしてバナナ貼りつけにして「はい! これでバナナは打ち止め! ポップアートも終わりです!」って言ってるんじゃないでしょうか。ここまでやってくれたカテランはかっこいいですけど、自分が亡くなったあとにもこれだけの作品とイメージを生産・流通させてるウォーホルの「毒」はとんでもなく強烈だな、と。

ー結局のところ、パピヨンさんはウォーホルが好きなんですか? それとも嫌い?

パピヨン:どっちだろう。これまでの『美術のトラちゃん』でもしょっちゅうウォーホルの話題を出しているし、安藤壁穴(あんどう・うぉーるほーる)先生というキャラクターまで登場させちゃってますからね。

パピヨン:でも、やっぱり「乗り越えるべき存在」なんだと思います。ウォーホルに限らず、歴代の偉人作家ってそういう目で見ちゃいますよね。知らず知らずのうちに影響を受けているのは間違いない。漫画『ヒカルの碁』で、主人公のヒカルが自分の囲碁のなかに佐為を見つける、みたいに。

ー名シーンですね!

パピヨン:佐為がつくった囲碁の歴史にヒカルがいるように、ぼくもウォーホルのつくった美術史に生きているんですよ……。

ウォーホルの『死』に対する姿勢には、共感する部分がある

ーパピヨンさんもウォーホルの「毒」にやられた一人、ということなんでしょうね。

パピヨン:そうですね。個人的にもう一つ共感をもって見ているのが、「死」に対する姿勢です。ウォーホルの作品を見ていると、シルバー(銀)のイメージと死が強く結びついていると感じます。

ちょっと前に文芸誌『文學界』で漫画を書いたんですけど、そこでは三島由紀夫の『金閣寺』をモチーフに、ウォーホルが金閣寺を銀に塗り替えちゃうってギャグを描いたんですよ。最終的に「ミュータント近代ゴリラ」が現れて金閣寺を燃やしちゃうんですけど。

ー三島の『金閣寺』は、実際に起きた金閣寺放火事件をモチーフにした小説ですね。日本の近代文学の傑作としても名高い。

パピヨン:実際に放火した見習い僧侶は自殺を図ったけれど、小説のなかでは最終的に「私は生きようと思った」で終わります。自分はいろんな作家が持っている「死」に対する考え方に興味があるんですが、そんな結末を書いた三島がのちに市ヶ谷駐屯地に立てこもって割腹自殺してしまったことの屈折に切実さを感じます。

パピヨン:いっぽうでウォーホルは心臓発作で亡くなったけれど、死のイメージを延々生み出し続けてきた。この金と銀、三島とウォーホルの対比は、つくり手である自分にとってものすごく気になるテーマなんです。『金閣寺』が物語のなかでは放火犯にある種の救済を示したように、創作のなかでは希望を持たせたいというか。

ーそういえば今回の『美術のトラちゃん』もタイムトラベル・歴史改変エピソードでした。「男塾もウォーホルもポップアートだから……」なる問題発言もあって(笑)。

パピヨン:『魁!!男塾』では死んだと思っていた塾生も生き返りますからね。だからウォーホルも死んでない。京都市京セラ美術館で蘇るんだ、というオチです。

ー「生きようと思った」わけですね!

パピヨン:美術館や主催者のリアクションがとっても気になります!

イベント情報
『アンディ・ウォーホル・キョウト / ANDY WARHOL KYOTO』

2022年9月17日(土)~2023年2月12日(日)

会場:京都市京セラ美術館 新館「東山キューブ」(京都市左京区岡崎円勝寺町124)
開館時間:10:00~18:00(入場は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(但し祝日の場合は開館)、12月28日~1月2日
主催:京都市、アンディ・ウォーホル美術館、ソニー・ミュージックエンタテインメント、MBSテレビ、産経新聞社、京都新聞、WOWOW、FM802/FM COCOLO
協賛:DNP大日本印刷、アクセンチュア
後援:米国大使館
企画制作:イムラアートギャラリー / ソニー・ミュージックエンタテインメント
プロフィール
パピヨン本田 (ぱぴよん ほんだ)

1995年生まれの作家。2021年5月よりTwitterに漫画をアップし始める。静けさや、岩をも砕くパワフルパンチ。セミをも超えた令和セミ、寿命が千年。亀は満点通信講座。よろしくお願いします。



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