スティーブン・ソダーバーグが自ら語る、映画づくりの着想源と『マジック・マイク ラストダンス』の裏側

ダンス映画の歴史において、過去累計の世界興行収入No.1の大ヒットを誇る『マジック・マイク』シリーズ。その最新作『マジック・マイク ラストダンス』の公開にあたり、スティーブン・ソダーバーグ監督へのインタビューが実現した。

主演のチャニング・テイタムの実体験をもとに男性ストリップダンスの世界とその裏側を描いた本シリーズを紐解きつつ、本稿ではソダーバーグ監督の作劇の意図についても踏みこんでいった。ソダーバーグが自身の映画に時代ごとの経済状況を織りこんできた理由、そして社会的な格差を描きながらも本作では富裕層をこき下ろすことはしなかった理由について、ライターの木津毅とともに取材した。

メイン画像:『マジック・マイク ラストダンス』より © 2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

『マジック・マイク ラストダンス』トレイラー映像

スティーブン・ソダーバーグが語る、人気シリーズへの監督復帰の背景

華やかなメイル・ストリップダンスの世界をめぐる人間ドラマのシリーズ、『マジック・マイク』が帰ってきた。

「帰ってきた」というのには複数の意味合いがあるのだが、ひとつのトピックとしては、シリーズ1作目の『マジック・マイク』(2012年)から『マジック・マイク XXL』(2015年、グレゴリー・ジェイコブズ監督作)を挟んで、ふたたびスティーブン・ソダーバーグが監督を務めた点にある。

その経緯について、ソダーバーグはまずこのように説明している。

ソダーバーグ:それはとてもシンプルなものでした。『マジック・マイク XXL』のあと、チャニング(・テイタム、マイク・レーン役)とリード・カロリン(脚本、制作)と振付チームがキャバレーのようなライブショーをつくったんですね。最初のとてもラフなバージョンを私は見ていたのですが、そのあとロンドンで完成版を見たときに「これはすごいな」と驚きました。
- スティーブン・ソダーバーグへのインタビューより

『マジック・マイク・ライブ』トレイラー映像

ソダーバーグ:それですぐにチーム全体に電話し、もう何年もつくろうと準備していたブロードウェイのミュージカルバージョンをやめて、まず映画をつくろうと話しました。どうやって主人公がこのライブショーをつくるに至ったかっていう話をつくろうじゃないかと。

ちょうど『オール・ザット・ジャズ』(1979年)のボブ・フォッシー監督みたいな役をチャニング・テイタムのマイクがやる、というような映画をつくりたいと言ったんですね。あまりにも『マジック・マイク・ライブ』にびっくりして、本当に感動したので、自分がその一部になりたいっていう気持ちもあったんです。映画にそれをとり入れたいと思いました。
- スティーブン・ソダーバーグへのインタビューより

ソダーバーグがそう言うように、『マジック・マイク ラストダンス』は舞台版の『マジック・マイク・ライブ』に強く触発されて生まれた映画だ。

物語は破産してしまった元ストリップダンサーのマイクが資産家の女性マックス(サルマ・ハエック)と出会い、彼女とともにロンドンでストリップダンスショーを制作する過程に軸を置いている。1作目からマイクの人生を追っている観客からすれば、この10年間で彼がたどってきた道を思いながら、ふたたびエンターテインメントショーの舞台に関わろうとする姿に胸を熱くすることだろう。

『マジック・マイク』シリーズの復習動画

このシリーズ3作目について、監督は「いままでつくりあげてきた世界の延長線上に成り立っていることを見せたかったんですね。ですので、マイクをアメリカから外に出す必要がありました。彼にとってまったく新しい場所ではじめることが映画にも必要なことだったんです」と端的に解説している。

『マジック・マイク』シリーズにおけるチャニング・テイタムの変化と変わらないところ

その中心にあるのは、やはりチャニング・テイタムその人の存在感だ。

ソダーバーグは「10年から12年前の私たちには、この映画をつくる準備ができていなかったと思います。しかし、ブレることのない本物の核があるという意味で、チャニングは変わっていません」とテイタムの魅力を語る。

今回、テイタム演じるマイクは自身が踊ることよりもダンサーたちを育て、舞台を演出する役割を担っている。ソダーバーグは、その設定にテイタムのアイデアが大きく関わっていることを明かす。

ソダーバーグ:ジャンルとしてのストリップダンサー映画という、シリーズ当初からあまり変わっていない部分を変えたい、というチャニングのアイデアがありました。

つまり、ダンスを通して感情や共感を伝えることが、そのジャンルを広げる、変えることになるんだと考えたわけです。そして、ダンサーを中心にショーをつくっていくことにしました。ストリッパーではなくて、ちゃんと踊れるダンサーが、ストリップ的な動きを入れつつダンスをするというショーを考えたんです。
- スティーブン・ソダーバーグへのインタビューより
ソダーバーグ:そして、ダンスを通じてストーリーを語りたかったんです。チャニングと彼のチームがショーを考え、ダンサーたちと話をして、それぞれのダンサーにどんな才能があるかを見極めて、それらをショーに入れこんでいきました。

ダンサーたちに自分の才能を見せる時間やチャンスを与えたんですね。それぞれのダンサーがリアルな人間であってリアルなパフォーマーであることを見せるものをつくりあげました。
- スティーブン・ソダーバーグへのインタビューより

不朽の名作『ウエスト・サイド物語』のダンスシーンに対する挑戦

つまり『マジック・マイク ラストダンス』は、マイクがダンサーたちそれぞれの個性を引き出すショーを生み出すことで、演出家としての才能を見つけ出すまでの物語といえる。

エンターテイメントの世界から離れ、失意にあったマイクがかつてとは違ったかたちで娯楽の現場に帰っていくのだ。そしてもちろん、そうしたマイクの努力と情熱が成果となって表れるラストのダンスシーンは、間違いなく本作のハイライトである。

ソダーバーグ:最後の場面を撮影しているときに、自分が好きだった映画のいろんなダンスシーンを考えていました。『ウエスト・サイド物語』(1961年)の“アメリカ”のシーンを誰も超えることはできないと思うんです。あれ以上に複雑にすると、バラバラになってしまう。あれが、本当に誰も打ち負かせないダンスシーンだということは認めます。
- スティーブン・ソダーバーグへのインタビューより

スティーブン・スピルバーグ版『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021年)より

ソダーバーグ:そのなかで、どうやって自分なりのシーンをつくれるかと考えたときに出てきたのが、水を使ったダンスシーンだったんです。

ある意味でダンスは直線的な時間の流れを持つものですが、その時間の流れにマイクとマックスの関係にまつわる記憶や連想を編集で入れていったんです。そうするとダンスの直線的な流れのなかに、直線的でない時間の流れが入っていく。

そこには私なりのやり方で、誰も負かすことのできない『ウエスト・サイド物語』の“アメリカ”に匹敵する、あるいは競合するシーンをつくりたいという必死の思いがあったんです。
- スティーブン・ソダーバーグへのインタビューより

また、ダンスのパートとストーリーラインをどのように融合するかも大きな挑戦だったという。

ソダーバーグ:主舞台でのショーをどのようにつくるか、人間関係や男女関係をどのように見せるか、そしてそのバランスをどうとるかがチャレンジでした。うまくブレンドしてじゅうぶんに両方を見せたい気持ちがありましたね。どのようにショーをつくるかだけの話でもないし、ふたりの男女関係の話だけでもないですから。
- スティーブン・ソダーバーグへのインタビューより

ソダーバーグが自身の映画に時代ごとの経済状況を織りこんできた理由とは?

今回、監督にソダーバーグが戻ってきたことでとくに彼の作家性が発揮されていると思える箇所もある。

映画の冒頭、パンデミックによってマイクが事業に行き詰まったことが示されるように、きわめて具体的かつ現実的に経済の問題が描かれているのだ。これは、1作目の『マジック・マイク』が2008年の金融危機以降の世界を背景にしていたことを連想させる。ソダーバーグは本シリーズに限らず、その時代ごとの経済状況を自身の監督作に織りこんできたところがある。

ソダーバーグ:私は、人々がどうやって生計を立てるかということにいつも興味があるんですね。どんな映画をはじめるにも、そのキャラクターがどうやって生計を立てているのかということを最初に知りたいのです。

それは人生におけるすごく大きな部分を占めていると思います。私たちは多くの時間を仕事や、あるいは仕事を探すことに費やしていますよね。そういう意味で、キャラクターをつくっていくおもしろい入り口だなと考えているんです。
- スティーブン・ソダーバーグへのインタビューより
ソダーバーグ:1作目の『マジック・マイク』で考えていたのは、人は生計を立てるためにどんな変わったことをするんだろうかということでした。ストリップダンサーというのは――あんなふうにダンスするというのは、仕事としては風変わりであり、妙な得意技ではあるんですけれども、それが映画にとってすごくおもしろいモチーフになると思いました。

私は、実際にリアルな経済生活をしている人々に根ざしたストーリーがすごく好きなんです。それに、それが楽しいものであっていいと思うんですよ。

『マジック・マイク ラストダンス』の登場人物も、どうやって生計を立てるのか、どうやって家賃払うのかという多くの人と同じような心配事を抱えているわけです。そういったことを悲しい感じでなくて、すごく楽しく描くことで、映画として人を楽しませることは可能だと思っています。
- スティーブン・ソダーバーグへのインタビューより

サルマ・ハエック演じる資産家の女性マックスの描き方も興味深い。破産してしまったマイクと裕福なマックスは経済状況においては対照的だが、ともに舞台をつくりあげるなかでお互いを理解し合い、そして恋愛的な意味でも惹かれ合っていく。

格差社会を描きながら、なぜ富裕層を批判することはしなかったのか?

近年、ポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』をはじめ格差社会を背景とした作品が高く評価され、またHBOのテレビシリーズ『メディア王 ~華麗なる一族~』や『ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル』といった富裕層を痛烈に風刺する作品が人気を博すなか、『マジック・マイク ラストダンス』では現代の格差社会を背景に置きながらも、わかりやすく金持ちをこき下ろすことはしていない。そこにはどのような意図があったのだろうか。

ソダーバーグ:そうですね……まず、ものすごく裕福な人々が経済的な格差を是正するためにすべきことを全部していない、ということを正確に描くということは、必ずしもこのストーリーを語るうえで助けにならないと思ったんですね。

ただ、この映画においてはマックスが資産をすべて失うかもしれないという状況に直面しているわけなんですけれども、これはすごくリアルなことですよね。特に娘がいることがリアルだと思うんです。

私たちはそういう状況で何をするんだろうかということを探ってみました。マックスは安定した人生か、より自分らしく生きる道かを選ばなければいけないんです。
- スティーブン・ソダーバーグへのインタビューより

監督はその後のマックスの決断についても語ってくれているが、そのあたりはぜひ実際に映画を観ていただきたい。

ただ、ソダーバーグはその顛末について「ファンタジーではなくて、本当にリアルさもあることだと思っています」と断言している。ここは本作の重要なポイントだろう。すなわち、リアリティーと楽しさのバランスを保ちつつ、格差を超える関係性や相互理解を描いた作品なのだ。

社会的な階層を超えて、同じ夢を追うふたりを描いた先で

また、裕福な女性がそうではない男性を金銭的にサポートする意味で男女逆転版『プリティ・ウーマン』(1990年、監督はゲイリー・マーシャル)だと評する声に対しては、「たしかに似ているところはある」としながらも「マイクが夢とそれを実現するためのスキルを持っていて、解放されていく必要がある」ことを描いているという点で異なっていると説明している。

つまり、金持ちの女性と貧しい男性といった単純な二項対立ではなく、異なる立場にあるふたりが同じ夢を描く可能性を追い求めた物語だということだ。

だからこそ、社会的な階層を超えてマイクとマックスがひとつの舞台をつくりあげていくことに意味がある。パンデミックによってエンターテインメント産業が危機に瀕する様を見聞きしてきた観客にとっては、その過程が奇しくも大衆娯楽の再生にも重なって見えてくる。その喜びのために、人はあらゆる対立を乗り越えられるのだという希望が『マジック・マイク ラストダンス』には封じこめられているのである。

ラストのダンスシーンの躍動には、ソダーバーグや制作陣の想いがこめられている。ダンスの原初的なエネルギーは、さまざまな対立が顕在化している現代社会にこそ必要なものなのかもしれない。あるいはまた、パンデミック以降の閉塞的な世界にさえも活力を与えることだろう。

ソダーバーグ:ダンスは、とてもユニークなコミュニケーション方法だと思います。ダンスに比べられるものはないんです。ですので、そのユニークなコミュニケーション手段であるダンスを映画にとり入れることができたら、非常におもしろいものになると考えました。とても視覚的であると同時に、すごくエモーショナルでもあるわけですね。

最後のシーンでは、マイクがマックスにダンスを通じて何かを伝えようとしています。ふたりの人間がダンスを通じてメッセージを伝えあおうとしているのが、非常にエキサイティングだと私は思うのです。
- スティーブン・ソダーバーグへのインタビューより
作品情報
『マジック・マイク ラストダンス』

2023年3月3日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:スティーブン・ソダーバーグ

出演:
チャニング・テイタム
サルマ・ハエック
プロフィール
スティーブン・ソダーバーグ
スティーブン・ソダーバーグ

脚本家/監督/プロデューサー/撮影監督/編集者と多彩な顔をもつ。自身の初監督作であり、脚本も書いた『セックスと嘘とビデオテープ』(1989年)が『カンヌ国際映画祭』でパルムドールを受賞し、『アカデミー賞』でも脚本賞にノミネート。2001年、監督を務めた『トラフィック』(2000年)で『アカデミー賞』監督賞を受賞。以降、『オーシャンズ』シリーズ(2001~2007年)や『チェ』2部作(2008年)などさまざまな作品を手がける。2023年3月、最新作『マジック・マイク ラストダンス』が公開された。



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