見たことないテレビが見たい。コンプラの波と配信コンテンツの台頭の間で、鈴木おさむと大森時生が語る

テレビのあり方がいま過渡期を迎えている。ネット中心の生活を送る若者は、スマホでの配信コンテンツに可処分時間を使い、「テレビ離れ」が進行。コンプライアンスに対する意識の高まりで、過激な表現に厳しい目が向けられるようになった。既存のビジネスモデルが通用しなくなった逆境のテレビ業界で、制作者たちはどのような意識で番組を制作し、視聴者と対峙しているのだろうか?

数々の人気バラエティー番組を長年担当してきた放送作家の鈴木おさむと、『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』(テレビ東京)や『テレビ放送開始69年 このテープもってないですか?』(BSテレ東)などの問題作を手がけてきた気鋭のプロデューサー・テレビ東京の大森時生の対談を通して、テレビのいまに迫る。

テレビ畑以外の人材の起用し、化学反応を起こす

―お二人は初対面だそうですが、お互いにどのような印象がありますか?

鈴木:大森くんのようなテレビ業界の若いつくり手の方たちは、ただのバラエティーというより「物語」をつくる人が多くて面白いと思っています。ぼく自身がそういうのが結構好きなんです。

大森:ぼくは『SMAP×SMAP』をすごく見てました。若輩者のぼくが言うのもおこがましいですけど、鈴木さんは単純にひとつのジャンルではなく、色々なものをクロスさせてきた方というイメージがあります。お笑いとかアイドルとかをかけあわせて新しいものをつくってきて、いまのテレビ文脈を生んだ方という印象ですね。

―鈴木さんはYouTuberであるコムドットと一緒にフジテレビで『コムドットって何?』という番組をつくったり、大森さんは『このテープもってないですか?』でホラー作家の梨さん、『SIX HACK』では『オモコロ』ライターのダ・ヴィンチ・恐山さんをスタッフに入れたり、テレビ畑ではない人を起用されていますね。

鈴木:ぼくの場合は2010年頃からネットの世界の人たちとも仕事をすることが多くなり、その後YouTuberの人たちとも出会ったりしてきたなかで、いろんなご縁でコムドットと出会って、彼らがテレビをやりたいというのを聞いたんです。ある意味、テレビはぼくのホームですけど、彼らがテレビって言ったときに大丈夫?とは思いましたよ。いままでYouTuberがテレビでいいかたちになるのをあまり見たことがなかったから。

それだけに正解の画が描けたら面白いなとは思いましたね。YouTuberとしてあれだけ人気がある彼らにとっては、もうやる必要がないことじゃないですか。だけど全世代からの認知が欲しいと言っていたし、実際にテレビに出てみたら変わったって言ってましたね。

大森:ぼくの場合は単純に自分が面白いなと思った人と仕事をしたいという、ある意味ピュアな気持ちがスタートになっています。もちろんテレビをつくってきた方々は優秀な方が多いですけど、どうしてもテレビ文脈に従ったものになってしまう。だから、なんか一味、演出の方法だったり読後感でも、いままでテレビからは感じない雰囲気をつくれたらと思って起用しています。

鈴木:ただ、「別のジャンルから起用」って、ネットという分野が出てきたからよく言われようになったけど、それ自体は昔から変わってない気もして。たとえば、おすぎとピーコだってテレビじゃないところから出てきた。『笑っていいとも!』の会議でずっと言ってたのが、いかに新しい文化人を発掘するか、それが永遠のテーマだった。

テレビ以上にネットはレッドオーシャン? 出演者が再生数に直結

ー大森さんの手がけてきた番組は、テレビだからこそできるものと、テレビでこんなことやっていの?というものが同居していると感じます。過去の番組で意識されているものはありますか?

大森:ぼくのテレビの原体験として『放送禁止』(フジテレビ)というフェイクドキュメンタリー番組があります。テレビがまだまだ元気だった時代に異彩を放っていた、鬱屈とした雰囲気で「答え」を示さないパッケージの番組。当時相当刺さった記憶があります。いまのほうがさらにバズるように思いますね。

鈴木:つくりものに近い作品を手がける若い人たちは、みんな『放送禁止』の影響をあげるよね。「だいにぐるーぷ」の岩田(涼太)くんも言ってた。

『放送禁止』シリーズ劇場版第3弾『放送禁止 洗脳 ~邪悪なる鉄のイメージ~』(2014年)予告編

大森:あと、「別のジャンルから起用」という意味では、ぼくはまったく世代ではないですけど『JOCX-TV2』(フジテレビが1987年〜1996年に使用していた深夜枠の総称)で、小山薫堂さんとか三谷幸喜さんとかがどんどん入っていって、新しいものができてカオスな雰囲気が生まれていったというのがいいなと思います。

鈴木:その頃に本広(克行)さんとかも入ってきた。フジテレビのバブルの頃に深夜にテレビをつけるとイラストとナレーションだけで進行する番組とかをやっていて、そのギャップがすごかった。ぼくが10代の頃に、テレビに一番惹かれたのはその部分だったね。

大森:その一連の番組のアートワークとかもすごくカッコよかったですよね。やっぱりカルチャーが交差した時にできる雰囲気が面白いなと思います。でもこれはぼくが勝手に思っているだけかもしれないですけど、番組のアートワークとかデザイン性とかって、意外と配信の再生数にはつながらないんですよね。ぼくは大切にしたいと思っているところなんですけど。

鈴木:わかる、わかる。再生数を上げるためにはもうちょっとベタにやったほうがいい。でもそれはテレビ特有の大事な部分かもしれないね。とくにドラマとかではいまも、デザイン性やおしゃれさみたいなものは、求められてはいると思いますね。

―まさに最近は視聴率以外にも、配信の回転数なども評価の基準になってきていますね。

大森:配信が局内でとくに言われるようになって、逆に企画というより出演者が重視されるようになってきてしまっている感じはします。視聴率以上に、出演者が明確に再生数につながってしまう。だいたい数万回再生されれば合格という基準がある場合、アイドルの方とか強いファン層がいる人が出ているとその数は担保されるので。

鈴木:それはあるよね。あと芸人さんでもコアなファンがいると強い。じゃあそういう出演者を揃えればいいだけかって、本来面白い番組をつくるって、そういうことじゃないんだけどなと。

大森:むしろテレビ局内の企画の時代が終わる雰囲気すら感じます。

―鈴木さんは『ボクらの時代』(フジテレビ)で、ネットのほうがレッドオーシャンで、テレビが逆にブルーオーシャンかもしれないとおっしゃられていましたね。

鈴木:いまネットのほうが渋滞が起きていてライバルが多くて、しかも数字にシビア。対してテレビは危機感が出てきている。企画を選ぶ人が一歩下がって俯瞰で見てくれると、じつはテレビのほうがブルーオーシャンじゃないかって。

鈴木:逆に言うと、大森くんのような若手にチャンスを与える立場の人次第だと思っていて。そういう人の気持ちが変わらないと、結局この状態は変わらないという気はしますね。せっかくのブルーオーシャンなのに再生数にこだわるとネット文脈でとらえられてしまうから、すごくもったいないなと思っちゃうよね。

大森:本当におっしゃるとおりで。いままでの視聴率に再生数という概念がもう一軸出てきたことで、テレビ局内では逆にちょっとパニックみたいになっている感じがします。

いまは仲良いコンビが求められる。時流をとらえたダウンタウン2人の関係性

―先程、コムドットが認知をあげたいからテレビに、とおっしゃっていましたが、YouTuberに限らずお笑い芸人もテレビは認知をあげるものと考える人が出てきているんじゃないかと思います。昔は「テレビに出してあげる」みたいな意識のある制作者も多かったように思いますが、そこに変化はありますか?

鈴木:芸人さんがここ最近一番変わったのって、いままでは単独ライブをやっても、売り上げが数万円そこそこで、打ち上げで乾杯して終わりくらいの感じだったのが、コロナ禍で配信が当たり前になったことで何百万円、何千万円売り上げましたみたいなことがでてきた。

2021年1月1日に開催された無観客配信ライブ『マヂカルラブリーno寄席』は、FANYオンラインチケットで1万7555枚を売り上げ、大きな話題になった。

鈴木:YouTubeでもそうだけど、つくる能力が高い人が稼げる時代になった。人によっては売れるまではテレビは大事かもしれないけど、ある程度売れたら割り切りながら付き合うことも可能かもしれない。一番大事な場所がテレビでなくなってくるから、テレビと余裕を持って付き合っていけるから、ずっとカッコいい芸人でいられる。

大森:ファンの方も芸人が一番体重を乗せる場所を見ているから、その芸人さんの文脈とかをちゃんと抑えて起用しないと、うっかりするとすごくダサいお笑い番組をつくってしまうことになる。ぼくなんかはお笑いに詳しいタイプではないので、いまお笑い番組をつくろうとすると結構勇気がいるなって思いますね。タレントさんの良さをちゃんと引き出せるテレビマンが求められていくんじゃないかと。

鈴木:わかる。いまお笑い番組ってすごくつくりにくくなるんじゃないかって思う。だからやっぱりトーク番組が増えてますよね。なんとなくMCに据えるみたいなことが段々終わっていくかもしれないね。

最近、マユリカってコンビが人気なんだよね。元々はラジオが人気で。オードリーみたいに2人の関係性のエモい感じが、わざわざお金を払ってでも見たいファンを増やしている。

マユリカの漫才。『よしもと漫才劇場 7周年記念SPネタ』より。

大森:なんか人生に相乗りするみたいな雰囲気がありますね。『たりないふたり』『だが、情熱はある』(ともに日本テレビ)にも通じるかもしれないですけど。

鈴木:この空気感って20年、30年前とは真逆だなって。たとえばSMAPと嵐を比べても違う。SMAPの場合は5人に緊張感があって、いざというときには協力し合う。嵐の場合はつねにわちゃわちゃ楽しそう。これって彼らがその時々の時代をとらえているってことだと思うんです。

それで、ダウンタウンさんがすごいなって思うのは、前はあんなに緊張感を醸し出す2人だったのが、いまはめちゃくちゃ仲の良さが前面に出てる。それを意識してやっているのかはわからないですけどね。

大森:いまは仲が悪いと本当に笑えない空気になってますよね。

容姿いじりはウケないから消えていった? コンプライアンスのこれから

―コンプライアンスに対する意識の高まりで、テレビの表現に規制がかかり、一部からは「つまらなくなった」という声も聞かれるようになりました。

鈴木:ぼくは明治学院大学で講師をやっているんだけど、BPOの「痛みを伴う笑い」に対する提言が出たときにどう思うかアンケートを取ってみたの。ぼくは過敏になりすぎなんじゃないかなって思ってたんだけど、学生の多くが「笑えない」って回答したんです。

それで気づいたのは、やっぱり小さい頃からの教育がもうぼくらとは全然違うってこと。ぼくらは先生に殴られながら根性の教育を受けてきたじゃないですか。それを小学低学年の息子に話したんですよ。そしたら「校長先生に怒られないの?」って言うんです。

大森:もうダメなことは上の人にちゃんと言うっていうフローになっているんですね。

鈴木:ぼくらが子どもの頃には絶対なかったカルチャーが、いまの小学低学年にはあるんですよ。それが大学生のアンケートとつながってハッとしましたね。デブとかブスとか見た目をいじるってことはもちろん、頭を叩くような芸人さんも気づくとほとんどいなくなったもんね。

大森:単純にあんまりウケないから、芸人さんはやめていってますよね。

鈴木:そうそう。男性ブランコの平井(まさあき)くんが女装でコントをやったとき、最初は「ヤバいやつが出てきた」って感じで演出してたけど、全然ウケなかったからやめたって言ってた。

男性ブランコのコント『ペットショップ』

大森:逆にその子を好きになるっていう方向にシフトしてましたよね。今後はますますテレビのコンプラは厳しくなると思うし、表現にブレーキがかかる面もあるとは思うんです。だけど笑えなくなったものが単純に弾かれているっていう流れがあるので、コンプライアンスがあるゆえの面白さっていうのが、テレビ独自のものになりそうな気もします。

だからポジティブにとらえてやっていきたいなって。テレビの内部でも、コンプライアンスが厳しくて面白いことができないないって言っている人は、ぼくも懐疑的な目で見ちゃいますから。

鈴木:それは間違いないね。あとコンプライアンスとは真逆の部分でいままでテレビではなんとなくダメとされてきたけど、本当にダメなのかってところを掘り下げると、もしかするとものすごい鉱脈があるんじゃないかと思うね。

リアルタイム性×偶然性。テレビだからこそ生み出せる熱がある

―鈴木さんはネット番組も数多く手がけていらっしゃいますが、大事にしていることはありますか?

鈴木:それは答えがもう出てるんですよね。見たことないものが見たいって。『サンクチュアリ -聖域-』(Netflix)とかもそうじゃないですか。

大森:『サンクチュアリ -聖域-』ですごいなと思ったのが、失礼な話、スターを揃えてますという感じじゃないじゃないですか。その布陣で行こうと英断したプロデューサーがめちゃくちゃ優秀だと思いました。

『サンクチュアリ -聖域-』予告

鈴木:ぼくもいま、Netflixでダンプ松本さんを主人公にしたドラマ(『極悪女王』)をつくってるんだけど、女子プロレスラー役のオーディションしたんですよ。そのとき、かなり有名な女優さんも、売れてない芸人さんも、新人さんも並列でやる。有名な女優さんが落とされていくとき、こっちがドキドキしちゃって(笑)。確かに選ばれた人のほうが役柄にぴったり合ってる。これは面白くなるなって思った。やっぱりそれがプロデューサーの覚悟だよね。

大森:テレビより圧倒的に失敗のリスクを背負っているのがすごいですね。失敗したら、周りから「やめておけって言ったじゃん」って言われそうですもん。

鈴木:このあいだ、映画に詳しい人と映画と配信の違いについて話したんですよ。そしたら映画って公開期間が限定されているから熱量が生まれやすいって。『サンクチュアリ -聖域-』まで行くと別だけど、いつでも見られる配信でそこまでの熱をつくるのは難しいんじゃないかって。そう考えるとテレビドラマも映画と近くて、その瞬間だからこそ生まれる熱があるんじゃないかと思いますね。

大森:やっぱりテレビは同時に色々な人がそれを見る瞬間があるっていうリアルタイム性っていうのが圧倒的に面白さをつくれる可能性がある。かつ、たまたま見る人がいるっていう偶然性も、ネットでは絶対に起こり得ないこと。その2つのポイントをうまく生かしたものをつくると、何かしらの爆発を起こすことができるんじゃないかって思います。

あと逆に、あまり派手ではないこと。たとえば『タモリ倶楽部』(テレビ朝日)がやっていたような地味で小さな面白さがあるものは再生回数を稼ぐとかは難しいですけど、社会的価値があるとか後世に残したほうがいいものをフックアップできるのって、逆にいまはテレビならではなんじゃないかと思います。

鈴木:この間、男闘呼組のライブを観に行ったら「去年『音楽の日』(フジテレビ)に出て、1年経ってこんなことになって。テレビの力ってすごいよね」って言ってて。まさにテレビって使い方によっては、とてつもない爆発力をまだまだ持っていると思います。

プロフィール
鈴木おさむ (すずき おさむ)

放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。

大森時生 (おおもり ときお)

1995年生まれ、東京都出身。一橋大学卒業。2019年にテレビ東京へ入社。2021年放送の『Aマッソのがんばれ奥様ッソ』でプロデューサーを担当。その後『Raiken Nippon Hair』『島崎和歌子の悩みにカンパイ』『このテープもってないですか?』を担当。Aマッソの単独公演『滑稽』でも企画・演出を務め、直近では『SIX HACK』を手がけた。



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