世界的にも勢いのある韓国ドラマ業界。Netflixのランキングに作品が並び、K-POPと並んで韓国コンテンツはグローバルな産業になった。そんななかで韓国のドラマ制作会社が「日本と組みたい」と語っている。
『赤い袖先』『チェックイン漢陽』などを手がけてきた韓国のドラマ制作会社、WEMAD(ウィマッド)がいま力を入れるのが、日本との共同制作だ。『チェックイン漢陽』ではポニーキャニオンが出資者として参加。さらに2025年には、フジテレビの長寿シリーズ『世にも奇妙な物語』35周年スペシャルで、共同テレビジョンと共同制作を行い、韓国の作家とプロデューサーが企画・脚本に加わった。
制作から版権販売・流通、IP確保まで一貫した事業構造を築き、創業以来手がけたドラマがすべて黒字を達成しているというWEMAD。ロングフォームだけでなくショートフォームやAIドラマにも取り組む同社が、あえて日本という市場・文化を選ぶ理由とは? なぜ、いま「日韓協業」なのか? WEMAD代表取締役のキム・ヒョンソンと、日本支社長のジャン・ヒョクジンに聞いた。
なぜ、いま「日韓協業」なのか——日本作品のポテンシャルと課題とは?
―WEMADはいま、積極的に日本との共同制作を進めています。なぜ「日本」なのでしょうか。
キム・ヒョンソン(以下、キム):日本のコンテンツ、日本のドラマが持つ大きな長所のひとつは、人間の感情をとても丁寧に描くことだと思っています。日本のドラマは、ときに「展開がゆっくりしている」「ロングテイクが多い」と言われます。でも、人間の感性や本性について深く語るためには、そのスタイルが合っていることもあります。
一方、韓国には、短い時間のなかで作品をかたちにしていく制作力があります。シーンの構成でも、長くなりそうな物語を短いテイクでつなぎ、テンポよく見せるのが得意です。
「日本が持っている感性」と「韓国が持っている制作力」。これが合わされば、グローバル市場でも強い作品をつくれるのではないか。私はずっとそう考えてきました。
キム・ヒョンソン
株式会社WEMAD代表取締役社長。ドラマ制作会社来夢来人マーケティング本部長、ドラマ制作会社HBエンタテインメントマーケティング取締役を経て現職。ドラマ『シンデレラと4人の騎士』の海外販売及び投資業務統括。ドラマ『トキメキ☆成均館スキャンダル』、ドラマ『星から来たあなた』、ドラマ『トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜』、ドラマ『ラブレイン』の海外販売及び付加事業を統括。
―その発想は、いつ頃からあったのですか?
キム:本格的に考え始めたのは2015年頃です。私はプロデューサーとして約20年間仕事をしてきて、『トキメキ☆成均館スキャンダル』や『星から来たあなた』などに携わっていた頃から、日本、中国をはじめ海外に頻繁に行っていました。そこでよく言われたのが、「韓国と一緒に作品をつくりたい。でも韓国は制作費が高すぎる」ということでした。
当時の韓国側には、「制作費を出せないなら一緒にはできない」という意識がかなり強かった。でも私は、それぞれが自分の役割を持つことができるから、金額の大小だけが問題ではないはずだ、と思ったんです。日本には製作委員会のような仕組みがありますから、そういった方法を模索し、一緒に作品をつくり、世界市場を目指す。2019年にWEMADを設立したことで、それを自分の会社で実践できるようになりました。
―今年1月に日本支社を設立しました。支社長に就任したジャンさんは、『PRODUCE 101 JAPAN』の立ち上げに携わるなど、K-POPを中心に日本のエンターテインメント業界で活動してきました。日本のドラマにどのような可能性を感じ、WEMADに参加したのでしょうか。
ジャン・ヒョクジン(以下、ジャン):私は、韓国コンテンツの次にグローバルで大きな可能性を持つのは、日本のコンテンツではないかと思っています。
ジャン・ヒョクジン
株式会社WEMAD日本支社長。前LAPONE ENTERTAINMENT COO、CJ ENM JAPAN COO、CJ ENM 音楽事業部門戦略チーム長、Ticketlink 戦略本部長、劇団四季「ライオンキング」韓国公演本部長を経て現職。音楽オーディション番組「PRODUCE 101 JAPAN SEASON2」統括プロデューサー、音楽サバイバル番組「Re:Born」統括プロデューサー、音楽サバイバル番組「現役歌王 JAPAN」プロデューサー、J-POP ボーイズグループ「JO1」、「INI」のシングル&アルバムプロデュース。
ジャン:実は現在、韓国エンタメの第一線で活躍する40代、50代のクリエイターには、日本文化から大きな影響を受けた人が多いんです。私自身も、『101回目のプロポーズ』や『ロングバケーション』など、黄金時代のラブストーリーを見ながら育った世代です。日本のドラマはその後、2000年代頃からジャンルが細分化し、勢いを失っていったように感じます。韓国ドラマもさまざまなテーマを扱うようになりましたが、大きく違うのは、韓国ドラマが国内にとどまらずグローバルへ出ていったことです。世界に視聴者がいることで、ジャンルが細分化しても市場を保つことができた。
いま韓国では、J-POPや日本の映像作品への関心が若い世代を中心に高まっています。さらに韓国には、この10年、20年でK-POPや韓国ドラマが築いたグローバルな流通ネットワークがある。今後は、日本のコンテンツがそのネットワークに乗って世界へ広がる可能性もあると思っています。
日本には人間の感情を描く力や、漫画、小説など魅力的な素材がたくさんあります。そこに韓国が培ってきた制作技術や「世界に届く見せ方」を掛け合わせれば、より強いコンテンツが生まれるのではないでしょうか。
『チェックイン漢陽』はIP共同保有、『世にも奇妙な物語』では脚本も。日韓協業の「メリット」
―日韓共同制作した『チェックイン漢陽』では、ポニーキャニオンと組んでいます。出資だけでなく、IPも共同で保有するかたちでタッグを組んだそうですね。
キム:そうです。日本の放送局の方々と話をしていると、「韓国ドラマを買って日本で放送したいけれど、買いたい作品がない」という声をよく聞くようになりました。NetflixやDisney+などのグローバルOTTが作品を押さえてしまうからです。だったら完成したドラマを「いくらで買いますか」と日本側に売るのではなく、最初から投資家として入ってもらい、一緒にIPホルダーになればいいのではないか、と考えました。
『チェックイン漢陽』では、ポニーキャニオンが出資して制作に参加し、IPも共同で持っています。重要なのは、一度作品を買って終わりではなく、IPホルダーとして、その作品から生まれる利益を長期的に一緒にシェアできることです。
『チェックイン漢陽』
―両方にとって、ウィンウィンな関係ですね。
キム:そうですね。それぞれの役割も明確でした。日本の製作委員会のように、「誰が何を担当するか」が最初からきちんと分けられていた。それぞれが自分の得意分野に集中できました。日本企業と仕事をすると、傾向として非常に慎重な企業が多く、最初に関係をつくるまでには時間がかかります。
でも、一度信頼関係ができると、その関係が長く続く。成功することも失敗することもあるけれど、それでも一緒にやっていける。その点は私たちWEMADにとても合っていると思います。
―『世にも奇妙な物語』35周年スペシャル(2025年)では、さらに踏み込んで、韓国の脚本家やプロデューサーが企画・脚本に参加しました。
キム:もともと共同テレビジョンと別の企画を進めていて、その過程でフジテレビのチーフプロデューサーの方から「『世にも奇妙な物語』が35周年なので、何か特別なことをやりたい。WEMADも共同制作に入ってみないか」と提案していただきました。「韓国の作家とプロデューサーが企画して、脚本を書いてほしい」と。そこで私たちの脚本家とプロデューサーが参加しました。
単にお金を出し合うとか、日本のフォーマットを韓国でリメイクするとか、そういう共同制作から一歩進んだかたちになりました。
『世にも奇妙な物語』35周年
―韓国の脚本家が日本の長寿シリーズを書くうえで、意識したことは?
キム:いちばん重要視したのは、『世にも奇妙な物語』が長い年月をかけて培ってきた「文法」を守ることでした。これは韓国的に解釈すればいい作品ではありません。日本の視聴者が長年見てきた番組ですから、その語り口や作品の色を理解しなければいけない。
そのため、作家やプロデューサーが過去数年分のシリーズをかなり見て研究しました。「日本の視聴者はこういうものを好むんだ」と分析したうえで、基本的な文法は守り、そこに韓国的な特徴をほんの少し加える。それが私たちの戦略でした。
ジャン:共同テレビジョンのプロデューサーからも、「韓国の脚本家だからこそ出てきたアイデアがあった」と評価していただいたと聞いています。韓国ドラマの特徴のひとつはテンポです。登場人物同士が言葉を投げたら、すぐに返す。キャラクターの関係性を早く見せ、ストーリーを動かしていく。伝統ある『世にも奇妙な物語』の枠そのものは壊さず、そこに少しだけ韓国的なテンポを加えた。それが共同制作の面白さだったと思います。
ドラマはすべて黒字化。WEMADの強みと視聴者に届けるための戦略
―WEMADは創業以来、制作したドラマがすべて黒字です。秘訣は何でしょう?
キム:企業秘密なのですべては明かせません(笑)。でも、一つ明確なのは、「まず視聴者を考える」ということです。ドラマ制作は事業としてはBtoBですが、最終的に作品を見るのは世界中の視聴者です。だから企画の段階から、「この作品は誰が見るのか」「その人たちは何を見たいのか」を考えます。
もうひとつ、私自身が海外で版権販売を長くやってきたことも大きいと思います。たとえば、あるドラマをつくったときに、それが海外市場で「100」の価値で売れるのか、「90」なのか、「110」なのか。私は各国の市場を見てきたので、おおよその相場がわかります。どうやっても「90」でしか売れない作品なら、「100」のコストはかけません。「80」で成立させる方法を考えます。
―それではクオリティが下がりませんか?
キム:下げません。作品の根幹にあるクオリティは守りながら、どこで調整できるのかを考える。回収できる金額から逆算して制作費を設計するのです。
ジャン:キム代表は、制作だけをやってきたプロデューサーではなく、完成したコンテンツを「どう見せ、どう売るか」も経験しているのが強みです。
制作部門と海外販売部門が分かれている大手企業では、作品を決定する人が海外でいくらで売れるかを把握していない可能性もあります。WEMADの場合は、企画・制作とグローバル流通が最初からつながっている。それが黒字化できている大きな理由だと思います。
―IPを自分たちで持つことにも強くこだわっていますね。
ジャン:はい。いま韓国の制作会社にとって大きな問題のひとつが、グローバルOTTの存在だと思っています。
もちろん、NetflixをはじめとするOTTによって韓国コンテンツが世界へ広がったことは大きな成果です。一方、制作費を出してもらう代わりにIPをプラットフォーム側が持つ契約では、制作会社は企画して、制作しても、自分の作品としてその後のビジネスを展開できません。DVDを出す、グッズをつくる、イベントをする。そうしたことも、自分たちの判断ではできない。つまり、自分たちのコンテンツではなくなってしまうのです。
制作会社が自らIPを育てるのではなく、巨大なプラットフォームの下請けのようになってしまうと、長期的にはクリエイティブにも影響してくると思います。
―日本との共同制作には、自社IPで勝つための戦略という側面もあるのですね。
ジャン:おっしゃる通りです。日本はいま、特定の一つのプラットフォームが市場を圧倒的に支配している状況ではありません。テレビの地上波も強いし、OTTの力も拮抗している。ある意味「戦国時代」です。だからこそ、いいコンテンツとIPを持っていれば、いろいろなかたちで展開できる可能性があると思っています。
―一方で、WEMADはショートフォームやAIを使った映像制作にも取り組んでいます。ドラマのあり方そのものも変わってきていますね。
ジャン:私には大学生と高校生の子どもがいますが、彼らを見ていると、10分のコンテンツをじっと見ることさえ難しくなっている。ショート、ショート、ショートなんですよね。彼らがこれからメディア消費の中心になると考えれば、ロングフォームだけでなく、ショートフォームやミドルフォームもやらなければいけません。
現在、日本とも複数のショートフォームドラマを共同制作していますし、AIも積極的に使っています。たとえば爆発のシーンなどは、現実でセットを組む場合には大きな制作費が必要ですが、AIを使うことで、限られた予算でも一定のクオリティを実現することが可能です。
―クリエイティブの世界では、AIを使うことに対する抵抗を感じている人もいます。
ジャン:私自身はAIの可能性をかなり信じています。
でも撮影現場へ行って、一生懸命演技をする俳優、カメラをのぞく撮影監督、演出を考える監督を見ていると、人間が好きなものに注ぐ情熱や献身は、AIには代替できないとも思います。AIによってエンターテインメント業界は大きく変わるでしょう。でも、人間がいなくなることはない。AIの技術は使いながら、人を感動させたり、感情を伝えたりする部分では人間の力を最大限に生かす。「二刀流」でやっていきたいですね。
日本作品のポテンシャルと掛け合わせて、グローバルに愛されるドラマを
―日韓共同制作でこれから実現したいことを教えてください。
キム:私には、日本と絶対にやりたい構想が一つあります。
アメリカを除けば、日本は世界でも非常に強いアニメーションの国です。そして韓国は、ドラマという分野で世界的な競争力を持っています。だったら、一つのIPを使って、日本はアニメーション、韓国はドラマをつくったらどうだろう、と。
ただし、同じ物語をアニメと実写で繰り返すのではありません。たとえば『白雪姫』という世界があるとします。韓国のドラマでは、白雪姫と王子が出会う物語を描く。日本のアニメでは、白雪姫がなぜ王子を探してそこへたどり着いたのか、別の物語を描く。つまり、一つの世界観から二つのストーリーを生み出すんです。日本が得意なアニメーションと、韓国が得意なドラマ——それぞれが自分たちの得意分野を担当して、一つのユニバースをつくり、IPを一緒に持つ。それは、世界でも通用すると思っています。
さらに、自分たちでIPを持ち、制作費も調達できれば、大手プラットフォームに対しても、「制作費をください。その代わりIPをすべて渡します」ではなく、「この地域で配信したいなら、いくら払いますか?」という立場で交渉できます。IPは、一度持てば長く利益を生み出すことが可能です。一度だけ制作費を受け取って終わるのではなく、一緒につくった作品の価値を、日本と韓国で長く分かち合う。そのモデルをつくりたい。それが、WEMADが日本と実現したいことです。
―どんな日本のコンテンツを世界に届けたいと思っていますか。
キム:私は日本の小説もよく読みます。東野圭吾さんが特に好きです。日本の作品には、人の生や死、欲望のようなものを、とても深く描く作品が多いですよね。それを読むと、「どうすればこういう感情をドラマで表現できるだろう」と考えます。
もちろんドラマがヒットして、視聴率が高くなればうれしいです。でも世界のどこかで、希望を失っていた一人の人が私たちのドラマを見て、もう少し生きてみようと思ってくれるかもしれない。笑顔を失っていた人が笑ってくれるかもしれない。たとえ大ヒット作ではなくても、一人の人の心を動かすことができたなら、私たちはいい仕事をしたと言えるのではないでしょうか。
コンテンツがどんどん商業的になっている時代だからこそ、そのことだけは忘れたくない。いつも自分自身に言い聞かせていますし、一緒に仕事をするプロデューサーや脚本家にもつねにそう話しています。
- 株式会社WEMAD
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Ceo Lee Hyun-wook / Anthony Kim
住所:419, Seongam-ro 330 (1580 Sangam-dong), Mapo-gu, Seoul
▼お問い合わせはこちらから
TEL:8210-3025-0987
Email bangnim2000@naver.com
- プロフィール
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- キム・ヒョンソン
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株式会社WEMAD代表取締役社長。ドラマ制作会社来夢来人マーケティング本部長、ドラマ制作会社HBエンタテインメントマーケティング取締役を経て現職。ドラマ『シンデレラと4人の騎士』の海外販売及び投資業務統括。ドラマ『トキメキ☆成均館スキャンダル』、ドラマ『星から来たあなた』、ドラマ『トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜』、ドラマ『ラブレイン』の海外販売及び付加事業を統括。
- ジャン・ヒョクジン
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株式会社WEMAD日本支社長。前LAPONE ENTERTAINMENT COO、CJ ENM JAPAN COO、CJ ENM 音楽事業部門戦略チーム長、Ticketlink 戦略本部長、劇団四季「ライオンキング」韓国公演本部長を経て現職。音楽オーディション番組「PRODUCE 101 JAPAN SEASON2」統括プロデューサー、音楽サバイバル番組「Re:Born」統括プロデューサー、音楽サバイバル番組「現役歌王 JAPAN」プロデューサー、J-POP ボーイズグループ「JO1」、「INI」のシングル&アルバムプロデュース。
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