デジタルコミュニケーションが社会を変える

『デジタルコミュニケーションが社会を変える』 Vol.10 学生とともに学ぶ、的確なビジュアルセンスの磨き方

デジタルコミュニケーションが社会を変える Vol.10 学生とともに学ぶ、的確なビジュアルセンスの磨き方

初めての課題発表で学んだ「グラフィックデザインの本質

さて、小西さんが仕事の帰り道、教室に通いながら仕上げていったという制作課題たち。実際はどういった作品だったのかも、ここでご紹介しましょう。ちなみに、小西さんにお話を聞かせていただいたこの日はまさに「専科グラフィックデザイナー専攻」をはじめ、この連載ではおなじみの「DCA専攻」の面々など、学生のみなさんが自分の作品を全員の前でプレゼンする、中間課題発表会当日でした。

お茶の水校内のホールで行なわれた「専科グラフィックデザイナー専攻」と「DCA専攻」の合同中間発表会に集まった学生たちは、数十人ほど。会場にはそれぞれのポスター作品が並べられ、学生たちはひとりずつ、作品の内容を紹介する資料をスクリーンに投影しながら、解説していきます。

小西祥子さん

さて、小西さんの順番が来ました。今回の「専科グラフィックデザイナー専攻」コース中間課題は、先ほども小西さんが語っていたように、世界が抱える問題をテーマにした「インフォグラフィックス」のポスター制作でした。インフォグラフィックスとは、大量の数値や概念的情報、科学的内容など、文字で扱いにくい情報をビジュアライズ(=可視化)して、分かりやすく表現する手法のこと。身近な例で言えば地図や標識、地下鉄の路線図も、インフォグラフィックスのひとつですが、とくに最近ではグラフやチャート、ダイヤグラム加え、時系列などのより複雑な内容をモーションで表現するものまで出てきていて、大量の情報が行き交うデジタルコミュニケーション分野で、とくにこの手法が注目されています。

今回、小西さんがインフォグラフィックスの表現に選んだ題材はエネルギー問題。「エネルギーを太陽光発電にシフトしよう」を合い言葉に、今世界中でエネルギーが何%使用され、何%が再生可能なのかなどの現状と、太陽光発電の実例など、大量のデータをポップなカラーのCGイラストで1枚のポスターに集約しています。壇上で小西さんは、次のように自分の作品の意図を紹介していました。

小西:こだわったのは、明るい雰囲気です。今この問題は、たくさんの人が考えている少し重苦しいテーマですが、あえて目立つ色を使い、太陽光発電とエネルギー問題をポップに見せました。「太陽の光に乗せて、(想いが)みんなに届くように」という意図で作りました。

小西さんの発表には会場からはあたたかな拍手が送られました。そして、中間発表会の最後には、「専科グラフィックデザイナー専攻」の講師を務められている米倉明男先生から、今回のインフォグラフィックスポスター制作に関する総評が語られました。

「インフォグラフィックス」のポスター

米倉:世界的問題を題材にしたことで、みんな情報を探したり、整理分類することもそうですが、ポスターとしてどう人の目を引きつけるかに非常に苦労していました。デザインを始めて間もない人も多いので必ずしも完成後の高いものばかりではなかったですが、学べることはとても多かったと思います。みなさんがこれらのポスターを見てどう感じるのか=デザインがどう機能するかを、実際のポスターを見て、考えてもらいたいと思います。

ヘルベチカのポスター

グラフィックデザインとは何か? の本質にも迫る中間発表会の会場のほか、デジタルハリウッド東京本校の玄関を入ってすぐの壁には、こちらも先ほどの話にあった、小西さんも課題ラッシュで作られた作品のひとつ、映画『ヘルベチカ』のイメージポスターが飾られていました。有名な書体「ヘルベチカ」の生い立ちなどをドキュメントで追った映画だけに、ポスターもタイポグラフィーで表現されているのが特徴です。インパクトのあるポスターの並びは圧巻。イラストや絵ではなく、ごまかしのきかない文字のみのポスターは、より高度なデザインセンスを問われるように思えます。どれもスマートなデザインの作品ばかりで、通りすがる人の目を惹きました。

デザインで重要なのは、独りよがりでなく見た人にどう機能するか

ここで、先ほど発表会でもコメントを寄せていらっしゃった講師の米倉先生のお話を。米倉先生は、印刷会社やウェブ制作会社などを経て、現在はフリーとして活躍している現役のデザイナー、ディレクター。MTV Japanやイーモバイル、日産など大手企業のウェブ制作や、原稿執筆まで手がけてらっしゃいます。実は、小西さんのお話にもあった、タイポグラフィーを重視したカリキュラム編成は米倉先生のアイデアだとか。

米倉先生

米倉:僕がもともと、タイポグラフィー中心にデザインを学んできたという背景もあるのですが、良いデザインというのはやはり、メッセージ性がないと成り立たないんです。メッセージ=言葉であり文字。デザインの中心となるべき部分には、タイポグラフィーがあります。なので、グラフィックデザインの重要な要素として、タイポグラフィーに関する授業を最初に行っています。

まずはタイポグラフィー、レイアウト、配色というデザインの基礎を学んでもらうところから、「専科グラフィックデザイナー専攻」がスタート。そこから、名刺→リーフレット→チラシ→ポスターと課題を大きくしていって、印刷物を作れるようになるのが、本コース前期の目標。後期からはウェブグラフィックを中心に授業を行なわれるカリキュラムになっています。理論から実践へ、現場で必要な知識と技術を、週1回の授業と課題提出により効率よく進めていけるのも「専科グラフィックデザイナー専攻」の魅力でしょう。

米倉:また今のクラスは、どんなデザインにおいてもひとりで考えるのではなく、複数人でブレストして作品に落とし込むというやり方をさせています。ただ可愛いデザインをする人は多いですが、それでは、見る人に本質がうまく伝わらず、どうしても独りよがりになってしまう。デザインで重要なのは、見た人にどう機能するかなんです。

ブレストの様子

個人の作品を作る場合でも、まずチーム作業からスタート。それは、グラフィックデザインが必要とされるプロの仕事現場も、実際にチーム制で動いているからなのでしょうか?

米倉:そうですね。今はウェブでも紙でも、いきなり現物を作るのではなく、コンセプトのまとめに時間をかけることが多い。そういう実際の仕事にも、学生をマッチさせたいと思っています。

米倉先生

小西さんも最初は、何のために話し合いをするのかが分らず戸惑っていたようですが、今は何のために作品があるのかという意義を明確にしてから作り始めたほうが、自分たちもすんなり作れるということを実感してくれているように見えます。その点では、ブレスト中心の授業の成果が出ているのではないでしょうか。そして米倉先生は、「専科グラフィックデザイナー専攻」の受講生の構成も、そのチーム作業にいい影響を与えているとおっしゃいます。

米倉:うちのコースは今現在、4クラスがありますが、受講生は社会人が9割です。異業種同士が集まる場なので、お互いにとても刺激を受けています。作品コンセプトについてのブレストをやるにしても、各自のバックグラウンドが違えば、自分のテリトリーではない分野からの新しい発想がポンと入り込んでくるんですね。また、今の仕事からの転職を目指して通っている人達も多いので、モチベーションも非常に高い。さまざまな受講生さんが集まる日曜日クラスだからこそのメリットも多々あると思います。

米倉先生と小西祥子さん

そんなみなさんの中にあって、小西さんはどういう受講生さんなのでしょう?

米倉:小西さんは、カルチャー的なものを好んでいるので、それが制作にも反映されているんじゃないでしょうか。彼女の作品は、先ほどの中間発表会に提出されたインフォグラフィックスの課題ポスターでも分るように、重たいテーマも明るく前向きなデザインに転換し、ポジティブなものを作れるのが魅力。自分でイラストも描きますし、色使いがカラフルなのも特徴的だと思います。

PAGE 1 > 2 > 3

「デジタルコミュニケーションが社会を変える」連載もくじへ



フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Article
  • 『デジタルコミュニケーションが社会を変える』 Vol.10 学生とともに学ぶ、的確なビジュアルセンスの磨き方

Special Feature

coe──未来世代のちいさな声から兆しをつくる

ダイバーシティーやインクルージョンという言葉が浸透し、SDGsなど社会課題の解決を目指す取り組みが進む。しかし、個人のちいさな声はどうしても取りこぼされてしまいがちだ。いまこの瞬間も、たくさんの子どもや若者たちが真剣な悩みやコンプレックス、生きづらさを抱えながら、毎日を生きている。

記事一覧へ

JOB