世界中から人気を集める、日本の思想や美意識を内包する「日本庭園」。京都には、美しい日本庭園を見ることができる寺院がたくさんあります。その中でも今回取り上げたいのは、昭和を代表する庭師・重森三玲(しげもりみれい)が造り上げた、禅の思想が反映された禅寺庭園。近年、スティーブ・ジョブズやイチローなど、世界中の成功者がこぞって愛する日本の「禅=ZEN」の思想。日本古来の文化が改めて世界から見直されている今、『一度は行ってみたい京都「絶景庭園」(光文社知恵の森文庫)』の著者であり、京都在住ガーデンデザイナーの烏賀陽百合(うがやゆり)さんと一緒に、庭園を巡りながらその魅力に迫ります。
<嵐山の庭園を巡る。一度は訪れたいオススメ庭園>
※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。
昭和を代表する庭師、重森三玲
禅宗の寺院では、水を用いずに、白砂と石を使って景色を表現する枯山水(かれさんすい)の庭が多く見られます。そんな枯山水の見れる庭園の作者として、なかでも近年、改めて評価が高まるのが昭和を代表する庭師・重森三玲(しげもりみれい)。彼のつくる石組の美しさや植栽、モダンなデザインは、今なお賞賛の声が後を絶ちません。今回は、そんな彼が手がけた庭を半日で巡れるコースを紹介します。
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©重森三玲庭園美術館
東福寺
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京都市東山区の「東福寺駅」から徒歩10分にある大寺院が『東福寺』。ここは、中世から近世を通じて禅寺として栄えてきました。なかでも「東福寺本坊」をぐるりと囲んだ東西南北の四つの庭園は、ダイナミックな石組みが見どころです。
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「南庭」に広がる白砂は海、突き出ている石は不老不死の仙人が住んでいると言われる島を表し、禅寺庭園で扱われることが多い、「神仙思想」がテーマになっている庭です。不老長寿を信じ、修行を積むことによって仙人になりたいと願った「神仙思想」。この庭を作庭した時、重森三玲は43歳。自邸以外で作り出した初作品といわれています。
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烏賀陽:重森三玲が面白いのは、もともと庭師出身ではないところ。彼は、若い頃に美術大学で日本画を学び、生け花の先生もしていました。しかし、昭和9年に起きた台風によって、多くの京都の庭園がダメージを受け、その修復のために、自ら庭園の実測調査を始め、それを26冊の本にまとめたんです。これがきっかけとなり、各地のお坊さんと繋がりができ、そしてこの東福寺の住職に作庭を頼まれることになったそうです。
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「東庭」の柄杓(ひしゃく)の形に配置された7個の石の円柱は、北斗七星を表し、背景の高低差を付けた2つの生垣は、天の川を表しているといわれています。なんともロマンチックな表現! ともいえますが、この石の円柱は、もともと“東司(お手洗い)”に使われていた石を再利用したのだそう。
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烏賀陽:かつて禅寺のお手洗いでは、柄杓で汲んだ水ですべてを洗って清めていました。お手洗いに使われていた石で、柄杓=北斗七星を表すという、遊び心が重森三玲のデザインを面白くさせているのかもしれませんね。
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続いて、正方形や長方形に切リ出された切石と苔の緑のコントラストが美しい、“市松模様の庭園”として有名な「北庭」。手前から遠くへ離れる程、だんだん切石がフェードアウトしていくという絶妙なバランス。キュビズムの影響を辿る、ピエト・モンドリアンの絵画を彷彿とさせます。もともと絵画を学んでいた重森三玲の経験や感性が、十分に生かされた作品ともいえます。
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烏賀陽:以前、私が案内をしたデンマークとイギリスの女性2人がこの庭を見て号泣したんです。今まで苦労してきたことが全て報われた気がする、と。この事がきっかけで、庭には感動させる力があるんだと実感するようになりました。
光明院
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次に訪れたのは、『東福寺』から徒歩圏内にある『光明院』。あまり知られていない、隠れ家的な寺院で、ここでは、「石」の美しさが見所です。
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『光明院』は、明るく輝く光(=光明)を石で表現した庭です。三尊仏を表す、中央の大きな石と左右の小ぶりな石とで組まれた「三尊石組」は、日本庭園でよく使われるモチーフ。この庭には、この三尊石組が3つも置かれ、それぞれから光明がさす様子を表しています。
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烏賀陽:重森三玲は、500ヶ所以上の庭を実測した経験から、美しく見える石と石の距離感をデータとして知っていました。白い砂は海、苔は陸を表し、陸に置かれた小石は、波しぶきを表しています。なんともオシャレで面白い表現ですね。彼がつくりあげた曲線はとてもきれいなんですよ。グーグルマップで上から見ると、その曲線の美しさがよく分かります。
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また『光明院』には、部屋から眺める景色を窓などによって切り取る「額縁効果」が上手く取り入れられています。窓から見える景色を楽しむだけでなく、その先の見えない景色がどうなっているのか。そうやって見る者の想像力をかき立たせます。見る側に想像力を必要とさせる庭の見方は日本ならではの手法でしょう。
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烏賀陽:石を仏に見立てたり、石組みだけで滝が流れているように見せたり、日本人は、もともとイマジネーションが豊か。最近は、見たままの美しさのみが美しいかどうかばかり問われているように思いますが、昔の日本人が想像力を掻き立てながら見ていた景色をぜひ体験して欲しい。そういう意味でも、庭を見る事は、とても良い機会になると思います。
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光明院
住所:京都府京都市東山区本町15−809
拝観時間:8:30~日没
瑞峯院
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次に訪れたのは、北区紫野にある『大徳寺』内にある塔頭寺院『瑞峯院』。ここの庭は、1961年頃に完成したといわれ、「神仙思想」のテーマをもとに作られています。
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『瑞峯院』の庭園は、白砂に描かれた力強い砂紋によって、海の荒波の様子が表現されています。ここは冬の季節になると、雪が積もった時の景色が絶景! 雪が白砂に積もって、なんともきれいにな波状の模様を浮かび上がらせます。重森三玲は、雪が降った時の情景も計算して庭を設計していたに違いありません。
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烏賀陽:島を表現した石が伸びる先に、ポツンとひとつの石が置かれています。彼らしい、絶妙なデザインです。この石がある事で、庭全体のバランスが引き締められています。
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また『瑞峯院』には、「織部燈籠」も置かれています。燈籠の竿の部分は十字架の様な形をし、聖人の様なものが彫られたものもあるので、別名「キリシタン灯籠」とも呼ばれます。キリスト教が禁止されていた時代には、その十字架の部分を見えないように深く埋めていたこともあったそうです。
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ちなみに、『瑞峯院』のある『大徳寺』は、テレビアニメでも有名な「一休さん」の舞台でもあります。この『大徳寺』には、豊臣秀吉、細川忠興や石田三成などの有名な戦国武将が建てた塔頭寺院が、20以上あり、その中の1つが『瑞峯院』です。
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烏賀陽:当時大徳寺に塔頭を建てることはステータスの様なものでした。今で言うと、六本木ヒルズに事務所を構える、みたいな感じでしょうか(笑)。そんな風に日本庭園を知ると、日本の歴史や価値観、そして素晴らしい文化がよく見えてきます。庭をつくった人にまつわるエピソードやその人柄を知ると、より一層、庭を見る事が楽しくなってくる。庭を通して、何百年も前に存在した人と対話することができるんです。
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瑞峯院
住所:京都府京都市 北区紫野大徳寺町81
拝観時間:9:00~17:00
かざりや
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庭巡りのお楽しみとして最後に訪れたいのは、『瑞峯院』から徒歩圏内の今宮神社の参道にある『かざりや』。お餅にきな粉をまぶして炭火であぶり、甘い白みそのタレを絡めながらいただく、「あぶり餅」が有名なお店です。
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烏賀陽さんは、子どものときからこのあぶり餅を食べていて、思い出思い入れも深いのだそう。京都の人には、それぞれ立ち寄る和菓子屋があるそうで、この周辺にもいくつかのお店があります。庭園巡りの後には、優しい甘さが絶品の「あぶり餅」で疲れを癒してみてはいかがでしょう。
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あぶり餅かざりや(和菓子、甘味処)
住所:京都府京都市北区紫野今宮町96
電話番号:075-491-9402
営業時間:10:00~17:30
定休日:水曜日
- プロフィール
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- 烏賀陽百合 (うがや ゆり)
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京都市生まれ。ガーデンデザイナー。同志社大学文学部文学史学科卒業。兵庫県立淡路景観園芸学校景観園芸専門課程卒業。カナダ・ナイヤガラ園芸学校で3年間園芸、デザインなどを学ぶ。イギリス・キューガーデン付属のウェークハースト庭園にてインターンシップを経験。これまで25ヵ国を旅し、世界中の庭を見て回った。現在、京都を拠点に庭のデザインやガーデニングを指導。気軽に植物を楽しめるガーデニングを提案し、東京など各地で講師をしている。また京都の庭園巡りツアーも主催し、日本人や海外の観光客にも、その魅力を伝え続けている。 著書に『一度は行ってみたい京都「絶景庭園」(光文社知恵の森文庫)』がある。
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