北野武が語る「暴力の時代」

北野武監督の最新作『アウトレイジ ビヨンド』が、10月6日(土)に全国公開される。とても衝撃的な、そして非常に重みのある一作だ。ベネチア国際映画祭でも、受賞こそ逃したものの、現地のイタリア人からは「最高傑作」という声もあったという。以下のインタビューで北野武監督自身が語る通り、バイオレンスエンターテイメント映画の文法自体を更新し、新しい時代の表現方法を開拓するような一作。そして明らかに、震災以降の日本の社会のムード、そして世界各地で様々な社会の綻びが明らかになっている今の時代の空気と呼応しあうような作品になっている。

「巨大暴力団同士の熾烈な抗争を舞台に、悪人同士の壮絶な権力争いを描いたバイオレンスエンターテイメント映画」という本作。映画を観終わった後に強く印象に残るのは、ひたすら繰り返される暴力と死のあり様だ。前作ではオリジナリティーのある「痛み」の描写が評判を集めたが、それとも違う、ピュアな暴力だけが切り取られたような2時間弱になっている。

東日本大震災の直前に構想が発表され、その後震災の影響で制作開始が1年延期となった本作。ベネチア国際映画祭の記者会見で、北野武監督は「震災後の1年間は、逆に自分は憤りを感じている部分があった。世間では、『絆』『愛』『支え』とか、表面的なものばっかりでイライラした。こういうときこそヤクザ映画を撮ってやろうとやる気が起きた」と語っていた。その言葉の真意はどこにあるのか? そして監督は今の時代をどう見ているのか? こちらの質問に対して、とても深く、鋭い考えを語ってくれた。

背中でものを言うなんて時代じゃねえんだ

―『アウトレイジ ビヨンド』、約2時間の本編中で一体何人の方が亡くなっているのかを数えたんです。そしたら40人以上、平均して約3分に1人死ぬ計算でした。

北野:(笑)。へえ、そうか。

―非常にスピード感があり、そしてあっけなく沢山の人が亡くなる映画でもあるという印象でした。余韻とか間のようなものがバッサリと切り落とされているように思ったんですけれども。

北野:前作の『アウトレイジ』は暴力シーンのことばっかりが話題になって、ちょっと考えさせられたんだよね。「あの殺し方がすごかった」とかが多くて、ストーリーの話をあんまりされなかった。だから、今回はストーリー重視で、ジェットコースターに乗ってるように、観てる人が「うわ! うわ!」って言ってるうちに終わるようなものに仕上げた。裏切りもあるし、編集でも意図的に間を詰めて言葉数を増やしたり、いろんな意味でエンターテイメントに徹してると思うよ。

©2012「アウトレイジ ビヨンド」製作委員会
©2012「アウトレイジ ビヨンド」製作委員会

―台詞も多いし、ストーリーの密度も濃いものになっている。

北野:そう。言葉数が増えると、今度は引きの画がなくなってくるんだよね。役者が普通にただ立ってるだけっていうシーンもなくなって。引きの画は唯一車が走ってるところぐらいで、あとは全部切り返しの画になる。1年間の撮影延期中、台本をいじってるうちに、じゃんじゃん台詞や登場人物も増えて。撮影時は役者さんたちにはかなり早く喋ってもらうようにしたね。

北野武
北野武

―今回の作品は、編集に強い意図があったように感じました。作家の樋口毅宏さんが今作について「アダルトビデオに喩えるならセックスシーンだけを編集して次々と見せているような感じ」と仰っていて。

北野:うんうん。

―その感想には僕もなるほどと思わされたんですが、そういった編集の意図には、どういうものがあったんでしょうか?

北野:基本的に、役者さんは自分の間があるんで、なかなか台詞をかぶせてくれない。関西弁と関東弁の罵り合いのシーンで、最後にうわーっと盛り上げようと思ってたんだけど、やっぱり間ができてしまう。だから、現場では台詞のスピードを上げてもらいつつ、編集で間を詰めた。想像していた罵り合いにするには、相当苦労したね。だから実際の間じゃないんだよ、あれ。1人が台詞を喋ってるうちに、もう1人の台詞を重ねてるんだよね。すごく手間がかかった。

―ほんとに細かく間を詰めてるんですね。

北野:うん、詰めてる。ただ、そうすると、動きが合わないときがあるのね。そういうときは撮影後に録音し直してる。つまり、実際には現場で発声されていない声も入ってる。だから、ほんとに編集が大変だった。面白かったけどね。

©2012「アウトレイジ ビヨンド」製作委員会
©2012「アウトレイジ ビヨンド」製作委員会

―監督は先ほど「エンターテイメントに徹している」と仰いましたよね。今言われたような編集で間を詰めるということと、エンターテイメント性というものは、監督の中では繋がっているものなんでしょうか?

北野:うん。結局今の時代ってさ、テレビを観てても、お笑いの奴が喋ってる言葉がわざわざ吹き出しテロップで出てくるじゃない? 耳の不自由な方は別だけどさ、「え? そこまで丁寧なの?」っていう感じがあるんだよね。そういう時代だから、後姿や背中でものを言うなんて時代じゃないのかな、って思うよね。

―なるほど。

北野:登場人物が相手をじっと睨んでて、映画を観てる人に「あ、こいつ絶対復讐を考えてんだな」なんて思わせるような間を作ることができなくなってきてる。「てめえ、殺すぞ」って言った方がいい。特に『アウトレイジ ビヨンド』では登場人物も多いし、ストーリーも入れ込んでるから、喋らせないと映画が長くなって収まり切らないし。これまでのような間を作ってると、前編・後編にしないとちょっと収まらないかなっていう。

ただ本能だけでやり合うみたいな、ピュアな暴力にしたんだよね。

―ベネチア国際映画祭の記者会見では、監督は「震災後の1年間、怒りを感じていた」と仰っていました。実際、映画を拝見しても、連帯や団結などのような価値観への非常に強烈なアンチテーゼを感じました。監督が震災後の1年間に感じた怒りというもの、そしてそれが作品にどう作用したかを教えていただいてよろしいでしょうか?

北野:これは世界的な傾向なんだけど、映画の方向として、絆とか愛とか、そういうのばっかりが出てきていて。暴力映画なんかほとんどないんだよ。もう、友情だ、親子の愛だなんだって、そればっかりなんだ。で、その嘘くささにイライラして前作の『アウトレイジ』を撮った。確かにカンヌでは「暴力映画だ」って言う人もいて、賛否両論だったけど、会場は喜んじゃって、相当盛り上がったからね。結局、イラついてることは間違いないと思うんだよね。今の日本も、世界も共通だけど、どこも不況で。不況なときに愛とか言いたくなるのはわかるけど、みんなほんとは納得していないと思うよ。愛とか絆じゃ済まなくなってる。日本なんか、今それがピークなんじゃないかと思うときがあって。外交ではあんなにやられて、総理はヘロヘロだし、政党もヘロヘロだし。震災後、原発問題があって、あらゆることができなくて。だから、そんな中で絆だ愛だなんて言ったって、具体的に何もできねえんじゃねえかってイラつきがあった。

北野武

―はい。

北野:それで『アウトレイジ』を撮ったんだけど。これまでのヤクザ映画には流れというのがあって。(高倉)健さん、鶴田(浩二)さんの時代があって、そのあと深作(欣二)さんの時代が来て、そのあとがない。Vシネに行っちゃうんだよね。だから今風になるようにしたかった。警察が悪を取り締まるだけじゃなくて、警察も悪だっていうこともちゃんと描いて、ヤクザも今は経済界にも進出して国関係のことも裏ではやってることとか。ヤクザ映画のジャンルとして『アウトレイジ ビヨンド』が最先端になったと思うな。たぶん、これからのアウトロー映画はこの流れで出てくるかもしれないと思うな。もはや警察が良い役で出てくるとは思わないね。

©2012「アウトレイジ ビヨンド」製作委員会
©2012「アウトレイジ ビヨンド」製作委員会

―僕もまさに映画を拝見してそういうことを感じました。今の時代を鋭く象徴している作品だという。たとえばハリウッドも含めて暴力を描く映画は沢山あると思うんですけど、そのほとんどは、「愛するものを守る」とか「悪い奴らを成敗する」とか、理由ある暴力だと思うんです。でもその一方で、『アウトレイジ ビヨンド』では理由のない暴力が描かれています。特に後半は、ただただ、純度が高い暴力がある。その辺りはどうでしょう?

北野:この『アウトレイジ ビヨンド』という映画を動物界に置き換えると、実にみんないい人なんだよ(笑)。映画は「全員悪人」と言ってるけど、動物たちにとっては当たり前のことをして当たり前に生きているだけで。たとえばライオンが草食動物を食って、ハイエナを蹴散らして、逆に弱ったライオンがハイエナに殺されてっていうのをドキュメンタリーでよく観るけど、それを人間でやったらどうなの? って。生きてくってそういうことなんだよっていう。みんなが都合よく生きるために、愛とか社会とか民主主義とか使って生きてるけど、もし天変地異でみんなの目の前に食う物がなくなったら、そういうのはみんなダメになっていくと思う。人間を食う奴だって出てくるだろうし。そういう危うさがあるんだよね。表面的なことじゃなくて、本質的に人間は生き物なんだっていう。そういうことをカモフラージュしないと国とかはありえないんだけど、今、世界がちょっとイライラしてると思うんだよね。そんなことじゃ済まなくなってんだっていうかね。

©2012「アウトレイジ ビヨンド」製作委員会
©2012「アウトレイジ ビヨンド」製作委員会

―日本は震災があったせいで特殊な環境だったと思うんですが、ここ数年、世界各地で暴動が頻発している状況があると思うんです。たとえばリビアやチュニジアなどの中東諸国、去年のロンドン、それから今の中国。至るところで暴力が立ち現れている。そういう時代の状況と完全にリンクする作品なんじゃないかと感じました。

北野:うん。これまでのヤクザ映画とか任侠ものってすごい理屈をつけてたんだよね。義理だ人情だ敵討ちだって。だけど、今は自分が社会でどう這い上がっていくかだけの理由であったり、裏切るのも当たり前のことになってる。だから、仁侠映画の音楽は一切使わなかった。「♪チャララ〜」ってのはなくて(笑)。音楽も機械的なのをつけてもらった。ストーリーには女、子供は一切出さないようにして。感情よりは、ただ本能だけでやり合うみたいな、かなりピュアな暴力にしたんだよね。

20年か30年後に、世界中の人が「このときから人間の破滅は始まってた」って言うんじゃないかな

―試写会では、「すっきりした」「爽快だった」というような感想を持つ人がかなり多かったようです。そういった反響についてはどうでしょうか?

北野:うーん、すっきりしたのはエンディングのおかげだと思うけどね。

―なるほど。

北野:深作さんの時代からずっと止まってたヤクザ映画のエンターテイメント性が、『アウトレイジ ビヨンド』である程度進んだと思うんで、それを観ることの快感はあると思うけどね。つまりヤクザ映画と言われてるものがある程度進化した。映画自体も最後は理屈をつけたエンディングになってるからすっきりしたんじゃないかな。イタリアでは大拍手が起こったからね(笑)。

©2012「アウトレイジ ビヨンド」製作委員会
©2012「アウトレイジ ビヨンド」製作委員会

―エンディングのシーンは非常に印象的でした。あのシーンに繋がるいくつかの場面では、僅かではありますがそれまでとは全く違い、死というものが特別な描かれ方をしているように感じました。その意図はありましたでしょうか?

北野:外す部分はたくさんあるんだよ。誰かが殺されたら、本当は警察が来て取調べられなきゃいけない。だけど、誰の死体が上がろうが、いちいち画面に見せてはいない。本当に肝心なとこだけを映している。やっぱり映画が大変なのは、2時間で人の人生を全部描かなきゃならないところ。2時間で50年の人生の映画が撮れるかよ! って思うときはあるよね(笑)。だから、必要じゃない部分は外したし、最小限の時間で感情をどう出すかをやらなきゃならない。それは漫才でも同じなんだよ。今は3分くらいでお笑いをやるでしょ? そうすると今の漫才は省き放題だよね。

―そうですね。

北野:うちの若い衆にもよく言うんだけど、物事を説明するとき、たとえば「田舎に行ってさ」「どんな田舎?」って言うときに、いかに短縮して表現できるかってのが勝負なんだよ。「電車から見て、仁丹の看板とか松山容子のボンカレーの看板とか、水原弘のハイアースの錆びた看板があるような駅」っていう言い方を、いかに短縮できるか。それが、お笑いの人にとっての勝負。映画も同じ。ワンカットで設定を説明できないと延々ぐだぐだやることになって収まんなくなっちゃう。『アウトレイジ ビヨンド』はこれだけ大勢出てて、ストーリーから、撮り方から、2時間以内に収めるの大変だったんだから(笑)。

©2012「アウトレイジ ビヨンド」製作委員会
©2012「アウトレイジ ビヨンド」製作委員会

―いろいろな登場人物がいる中で、警察もヤクザも、既存のシステムの中で上手くのし上がっていったり、出世していくことを目指す人間が多く登場しているように思います。その中で、大友(ビートたけし)は、そうじゃないキャラクターとして描かれているように感じました。そこに意図はありましたでしょうか?

北野:基本的に、大友っていうのは義理や人情をかなり意識する男として描いてるね。あとは、引退することを考えているような雰囲気にしている。人物設定としては大友は、バカとは言わないけど、古いタイプのヤクザになってる。親分・子分、義理・人情っていうのと、そうでない今風の経済ヤクザを登場させて、そういうやつにしとかないと新旧の対決みたいのが描けないからね。

©2012「アウトレイジ ビヨンド」製作委員会
©2012「アウトレイジ ビヨンド」製作委員会

―わかりました。最後にもう1つだけお伺いしたいと思います。先ほど、世界的に経済が失速していて各国で暴力の衝動が湧き上がっている今の時代の状況と『アウトレイジ ビヨンド』がリンクしているという話もしましたけれども。

北野:うん。

―そういったことを踏まえて、監督は今の時代というものをどう捉えてらっしゃいますでしょうか。

北野:もう、末期かも知れないと思うけどね。何百万年という人類の歴史において、文明とかあらゆるものは、絶滅する時代が必ずあって。無くなることで、新しいものが出てくる。そういう風に考えると、人間はもう行き詰まったなっていう感じはあるよね。人間が生き物として頂点に君臨している時代がついに終わりを迎えられるような気がするよね。

―なるほど。

北野:もしかしたら、あと20年か30年後に世界中の人が「このときから人間の破滅は始まってた」って言うんじゃないかな。それが今日のことを指すのかもしれないし。我々が幕末の話をするときに「このときにはもう江戸幕府は終わってたね」って言うのと同じように、世界のあらゆるものが崩壊しだしている。この状況にみんなイライラしていると思うんだけど、『アウトレイジ ビヨンド』を観たら楽しんでもらえると思うよ。

イベント情報
『アウトレイジ ビヨンド』

2012年10月6日(土)より新宿バルト9、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
監督・脚本・編集:北野武
出演:
ビートたけし
西田敏行
三浦友和
加瀬亮
中野英雄
松重豊
小日向文世
高橋克典
桐谷健太
新井浩文
塩見三省
中尾彬
神山繁
配給:ワーナー・ブラザース映画、オフィス北野

プロフィール
北野武

初監督作は、主演も務めた『その男、凶暴につき』(89)。以降『3-4×10月』(90)、『あの夏、いちばん静かな海。』(91)、『ソナチネ』(93)、『みんな〜やってるか!』(95)、『キッズ・リターン』(96)と続けて作品を世に送り出し、『HANA-BI』(97)は第54回ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した他、国内外で多くの映画賞を受賞、評価を不動のものにした。その後、『菊次郎の夏』(99)、日英合作の『BROTHER』(01)、『Dolls(ドールズ)』(02)に続き、『座頭市』(03)では自身初の時代劇に挑戦し、第60回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞。その後、芸術家としての自己を投影した三部作『TAKESHIS'』(05)、『監督・ばんざい』(07)、『アキレスと亀』(08)を監督。前作『アウトレイジ』(10)は、キャストを一新して臨んだ「全員悪人」のバイオレンス・エンターテイメントとして大ヒットを記録。本作『アウトレイジ ビヨンド』は、その続編となるが、続編製作は監督自身初めての試みでもある。



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